「こうなるよなぁ……」
零と闇華をサボり側に引きずり込んでから一夜が明けた朝。今日は茜と真央が一日オフらしく、俺は部屋でのんべんだらりと過ごそうと決めていたのだが……
「何? アタシ達が甘えちゃダメだっての?」
「お義兄ちゃんがいなかった間寂しかったんですから甘えたっていいじゃないですか……」
義妹二人組に甘えられてる。もう何も言うまいて。女性に甘えられて悪い気はしねぇ。甘えられっぱなしは困りモンだが、同居人連中は揃いも揃って依存体質。オマケにヤンデレ闇華に影響を受けたせいか全員ヤンデレになりつつある。いや、違うか。零、闇華、琴音は元からヤンデレになる素質があったのだと思う。三人共理不尽な目に遭ってきたらしいしな
「ダメだとは言ってねぇだろ。零と闇華だけじゃなく、茜と真央、早織達も甘えたきゃ好きにしろ。拒否なんてしねぇからよ」
ここ数日で女性にかなり甘くなったと思う。今までと変わらん気もしなくはないが……気の持ちようかなぁ……零達と出会ってから今までを思い出すと最初から甘かったような気がするし、最近になって甘くなったような気もする。俺からすると零達が同居するキッカケは大半が成り行きだ。広すぎる家を持て余していたところに零達を拾ったからなぁ……俺の対応が甘すぎるのか普通なのかよく分からんくなってきた
「もちろん! 好きにするわよ!」
「私達は義兄さんと同じく好きに生きてますから!」
「今更グレーに拒否されて離れる気なんてないから覚悟してね!」
「恭殿! 拙者達をこんなにした責任は取ってもらうでござる!」
零と闇華はいいが、茜と真央はちょっと待て。本気の拒否はしねぇが、断られたら大人しく引け。んで、真央。人が聞いたら誤解されるような言い方は止めろ
「勝手にしてくれ……」
人間時として諦めが肝心だ。こうなった零達は簡単に引きはしない。長くもなく、短くもない付き合いの俺は彼女達が甘えモードになったらどうなるか知ってる。諦める他ないのだ
『お母さん達も甘えるからね!!』
『覚悟しておく事ね。恭様』
「はいはい」
零達もだが、早織と神矢想花も甘えモードになったら止められない。諦めた俺は何も間違ってない
零達を甘えさせてから一時間が経過。疲れはしないが、二次創作のキャラ崩壊を目の当たりにしたと言っておこう。という事で俺達は昨日と同じく部屋で飯が届くのを待っている。何があって何をされたか……説明するのすらめんどくせぇ。
「さぁ! ご飯の時間よ!」
「義兄さん! 私があ~んで食べさせてあげますからね!」
「その後は私達人気声優二人と一緒にお風呂だよ!」
「た~くさん癒してあげるでござる!」
『その後はお母さん達と幽体デートするよ!』
『今日一日で私達の虜にさせてあげるから覚悟なさい』
「何で俺のスケジュール決まってるんだよ……」
ゲッソリする俺と無駄に元気な女性陣。温度差がヒデェのは置いとくとしてだ、どうして俺の一日のスケジュールが決まってるのか非常に気になるところではある。マジでさぁ……少しは休ませてくれ……にしても、まだ飯来てないのに元気だねぇ……
「義兄ちゃんに決めさせたら一日ダラダラして過ごすって言うからに決まってるじゃない!」
「そうです! お部屋デートも大変魅力的ですし、私達だけに愛が向くのは大歓迎ですが、たまにはお外でイチャイチャしたいんです!」
「グレー、女の子は好きな人を周りに見せつけたい生き物なんだよ?」
「そうでござるよ、恭殿。拙者達は好きな人とデートがしたいだけなのでござる」
『そうそう。きょうはお母さん達の事嫌い?』
『正直に答えなさい』
零達は上目遣いで俺を見る。好きか嫌いかで言うと……嫌いではない。かと言って好きかと聞かれると……恋愛的な好きか友愛あるいは家族愛的な好きなのかが分からないから答えに困る
「嫌いじゃねぇよ。嫌いだったら甘えさせろって言われた時に拒否してる」
我ながらハッキリしない。好きだったら好き、嫌いだったら嫌いとハッキリ言えばいいものを……曖昧な答えでお茶を濁すとは……まぁいいか。肝心な場面ってわけでもねぇし
「グレー、私達は好きか嫌いかが知りたいの」
「恭殿、拙者達は一人の男性として貴方を好いておる。好きか嫌いかハッキリしてくだされ!」
「恭、アンタのそういうところは尊敬するわ。でもね、アタシ達が知りたいのはアンタがどう思っているかよ」
「恭君、好きか嫌いかどちらかで答えてください!」
『きょう、お母さん達はどんな返事でも受け入れる覚悟はできてる。だから、ハッキリ答えてほしいな……』
『恭様、男なら堂々と答えなさい』
真剣な眼差しを向けてくる女性陣だが、ちょっと待て。言いたかねぇけど、俺に好意を向けてきているのは零達だけじゃなく、琴音、飛鳥、藍、由香もだ。ここにいない奴らもいるのに重要な答えを軽々しく答えるのは違う。全員揃ったところで俺はコイツが好きだって答えるのならまだしも。つか、息遣いが荒く目がギラギラしてんのは気のせいか? いや、答えるけどよ
「好きか嫌いかで言えば俺はお前らの事が好きだ。けどな、それが恋愛的なものなのか、友愛あるいは家族愛なのかは分かんねぇ」
恥ずかしい話だが、俺は異性を恋愛的な意味で好きになった事がない。だが、零達に好かれて舞い上がりそうになっている自分がいる事も事実。表に出さないだけで内心かなり舞い上がっている。日本が一夫多妻制だったら俺は今すぐにでも彼女達に結婚を申し込んでいたと思う
「はぁ……分かってはいたけど、実際に聞くとスッキリしないわね」
「そうですね……恭君はみんなに優しいですから仕方ないと言えば仕方ないですけど」
「グレー、昔と何も変わってないんだね……」
「恭殿……知ってはいたが、酷いでござる……」
『もう監禁するしかないよね……』
『早織さんに賛成よ。恭様がハッキリしないのなら監禁して全員で愛情を注ぎ続けるしかないわね……』
言葉と顔が合ってねぇ……スッキリしない、酷いと言ってるのに何で妖艶な笑みを浮かべる? どうしてハイライトが消えてる? 早織と神矢想花が言ってるように監禁する気満々ですか? 監禁生活か……何それ? 理想の生活じゃん……心躍るんだけど
「監禁すならするで好きにしろ。別に拒否したりしねぇからよ」
全部が全部従うわけじゃないが、ヤンデレを満足させるにはある程度願いを叶えてやるに限る。普通の奴は知らんが怠け者の俺は監禁されたところで困る事なんて何一つない。むしろ監禁ウェルカムまである
「え!? いいの!?」
「本当に監禁しますよ!? いいんですか!? 恭君!」
「グレー、私達は本気だよ? いいの?」
「恭殿はこれから拙者達以外の事は考えられないようになるでござるが、本当にいいよいのか?」
ハイライトが消えてるのは相変わらず。だが、零達は満面の笑みを浮かべている。何ですか? 好きな人を監禁する趣味でもあったんですか?
「好きにしろって。拒否したりしねぇし、逃げ出そうとも思わねぇからよ」
必要な時以外外出しない俺にとって監禁されようと日常生活に何ら支障はない。監禁されてようとされてなかろうと何も変わらないのだ
『きょう~、今の言葉本気で言ってるんだよね?』
『嘘だったら許さないわよ?』
そう言って疑いの眼差しを向けてくる早織と神矢想花。嘘吐く意味ねぇだろうが……
「嘘吐いてどうするんだよ……監禁されたところでこれまでと何も変わんねぇ。俺一人が監禁される事でお前らの不安が消えるのならいくらでも監禁されてやるよ」
俺が監禁される事で零達の不安が消えるならいくらでも監禁されてやる。この言葉に嘘はない。まぁ、監禁生活に心躍らせてますとは口が裂けても言えねぇけどな
「恭、言質取ったわよ?」
「本当に監禁しますから覚悟しておいてくださいね?」
「後から嫌だっていうのはナシだよ? グレー」
「拙者達が目を離している隙に逃げ出すのもナシでござるよ。恭殿」
『逃げ出そうとしたらお母さん全力出すよ?』
『早織さんだけじゃなく私もよ』
「嫌だなんて言わねぇし、隙見て逃げ出したりもしねぇよ。監禁してくれて構わない。買い物の時にお前らの誰かが付き添ってくれればそれでいい。以上だ」
この後、飯が来るまで零達は俺をどう監禁するか相談し、俺は二度寝。監禁する相手の前で作戦を練るのはどうかと思うのだが……ま、いっか。零達だって本気で監禁したいとは思ってなないだろう
「マジで監禁すんのかよ……」
飯が終わり、俺達は旅館の部屋でのんびり過ごして……いなかった。茜が俺のスマホで爺さんに連絡を取り、俺を監禁する旨と伝えると即迎えに来た。旅館のチェックアウトを済ませ、車に乗せられてやって来たのは俺の家。要約すると帰宅させられたのだが……
「当たり前でござる! 監禁されるの構わないのでござろう?」
「そうだけどよ……これはねぇだろ……」
帰宅して即座に両手両足に手錠をかけられるとは思ってなかった。この部屋にベッドがないから完全な拘束じゃないだけマシだが、逃げる意志がない奴にこの仕打ちは酷すぎるだろ。つーか、建前で監禁するって例え話じゃなかったのかよ……逃げる気はねぇけど、マジでやられると引くぞ……
「恭くん、二日も黙って家空けておいて文句言うの?」
何やら作業を終えたであろう琴音がキッチンの方からやって来た。零達同様、ハイライトは消えている
「仕方ねぇだろ。爺さんに言うなって言われてたし、色々あってスマホを見てる暇なかったから電話すらできなかったんだからよ」
本当はメール、電話共に履歴がカンストしてたのを見て引いたから折り返さなかったとは言えない。スマホを見てる暇がなかったってのは半分嘘だ
「ふ~ん……まぁ、無事に帰って来たのとこれから私達だけを愛してくれるなら許してあげるけど……藍ちゃん達にはちゃんと謝るんだよ?」
「分かってるよ。つか、謝るからこの手錠外してくんね? 逃げたりしねぇから」
「ダメだよ。外したら恭くんまた黙ってどっか行っちゃうでしょ?」
「行かねぇって」
「でもダメ」
「やっぱり?」
「うん」
琴音はハイライトの消えた目で満面の笑みを浮かべるとそっと俺に寄り添ってきた
「さぁ、恭君。今から私達に思い切り甘えていいんですよ?」
「アタシ達がアンタを癒してあげるわ」
「恭くんのお願いなら何でも聞いてあげる……」
「グレー……ずっと私達の側にいてね?」
「拙者達から離れるのは許されないんでござるよ」
『きょう~、これに懲りたら黙っていなくなろうとする悪いクセ治そうね』
『私達がずっと側にいるわ』
ハイライトの消えた零達に迫られた俺は……
「ああ、そうしてくれ」
抵抗する事なく零達を受け入れた。監禁生活が俺にとって理想の生活だからな。拒否する理由がない。ヤンデレの願いを叶えて満足させようとかじゃねぇ。マジで監禁生活が天国なんだ。解かってくれる奴は……いないよなぁ
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