女性というのはどうしてこうも柔らかくていい匂いがするんだ……?
「琴音、満足したか?」
未だ俺の上で首筋に顔を埋め頬擦りを続ける琴音に尋ねた。男として女性────特に年上に甘えられるのは悪い気はせず、むしろいい気分だ。人によっては常に近寄りがたいオーラ全開で高嶺の花という言葉がピッタリでも二人きりになり、ふとした瞬間に猫のごとく甘えてくる。それを自分一人しか知らないという優越感に浸れるからだ。まぁ、琴音は高嶺の花なんてガラじゃないんだけどな
「もうちょっと……」
この部屋に来てどれくらいの時間が経っただろうか?時計どころかスマホすら見てないから何分経ったのか、今が何時なのか全く分からない。分かるのは琴音の胸の感触と首筋に彼女の吐息が当たってる事のみ
「もうちょっとって……もう充分堪能しただろ?」
俺の体内時計だと琴音に抱き着かれてから五分は経過している。こう言うのは好きじゃないけど、異性に抱き着く時間なんて五分あれば十分。それだって長い方だ。なのに彼女は一体何分抱き着いてるつもりなんだ?
「足りない……」
そう言うと琴音はさらに深く俺を抱きしめた
「足りないって……まぁ、いいか」
これ以上の論争は水掛け論にしかならないと判断した俺はそれ以上言うのを止め、黙って琴音に抱かれ続ける事に。人間生きてると争いからは逃れられないのは歴史が証明している。だからと言って自分から争いを生むだなんて愚かな真似を俺はしない
それから少しして、俺は琴音の抱き枕状態を脱する事に成功した。あの後、彼女が満足いくまで抱き着かれ続けようしたのだが、人間生理現象には勝てず……。ぶっちゃけた話、俺がトイレに行きたくなり、最初は嘘だと頑なに琴音は俺を離そうとしなかった。そこで言った一言が究極の脅し文句である『トイレに行かせてくれなかったら今ここで漏らす』だ。何が究極かっていくら好きな相手、特別な相手だったとしても自分の部屋で排泄物をぶちまけられるのは嫌だろ?
「さて、これからどうする?」
琴音からの抱き着き攻撃が続く前提でトイレから出た俺はベッドに戻ると意外や意外。そうはならず、満足気な顔でテーブルに就く彼女を見て呆気に取られる羽目となった。これじゃまるで俺が琴音に抱き着いてほしいと思っているみたいじゃないか……
「どうしよっか?」
デジャヴ……。こんな返しが飛鳥を部屋に連れ込んだ時にもあったな
「どうしよっかって……したい事ないのか?」
「うーん……したい事はあるけど公序良俗に反するから言わない」
琴音さん、高校生の俺と公序良俗に反する事したいんですね……
「高校生のクソガキに何を求めてるんだよ……」
「だって、したいものはしたいんだもん……」
だもんじゃねーからな?
「あのなぁ……」
俺だって男なんだぞ……。理性が吹っ飛んで琴音に手を出し、万が一の事があったらどうするんだよ……?責任なんて取れないぞ?
「恭くんになら何されてもいいもん……」
全く、コイツはどうしてこうも人の理性を削る発言しか出来ないかねぇ……
「琴音、そうは言っても俺はまだ高校生だ。責任も取れないのに軽はずみな行動は出来ない」
いっその事全てを投げ捨て、本能の赴くまま琴音に手を出せたら、女を道具としてしか見れない外道だったらどんなに楽かと考えてしまう。あ、外道だったら零を拾った時点で見返りとして身体か金を求めるか
「恭くんガード固すぎだよ……、これじゃ私が女としての魅力ないみたいじゃん……」
俺のガードはちっとも固くない。むしろ豆腐並みに柔らかい
「琴音は女性として魅力的だし俺のガードなんて豆腐並みに柔い。そうしないのは生まれてくる子供を不幸にしない為だ」
俺達が本能に従うのなんて簡単だ。それでもしもの事があり、新たな命が琴音に宿ったらって考えると責任を取るのが怖くなってしまう。
「優しいんだね、恭くん」
微笑みながら俺を見つめる琴音にお袋を重ねてしまうのはきっと彼女の中にお袋と似た何かがあるからなんだろうな
『そうだよ~、きょうは優しいんだよ~』
「「────!?」」
今までアクションの一つも起こさなかったお袋がここにきて口を開き、俺達は驚いて声のした方を見ると顔は笑顔なのに目は全く笑ってないお袋がいた。琴音とそれっぽい雰囲気だったから忘れてたけど、お袋もいたんだよなぁ……。
『な~に~?もしかしてお母さんの事を忘れてたわけじゃないよね~?』
アニメとかでしか見た事なかったけど、こうして現実で顔は笑顔なのに目は全く笑ってない人を見ると恐怖しかない
「も、もちろん! わ、忘れてないぞ?な?琴音?」
「う、うん! ちゃ、ちゃんと早織さんもいるってわ、分かってたよ?」
俺と琴音は怒り心頭だろうお袋に弁明を図るのだが……
『へぇ~、二人共お母さんがいるって知っててあんな事してたんだ~、ふ~ん……』
あんな事とは琴音が俺を押し倒したのから始まり、抱き着いてた事だ。むしろそれしか心当たりがない
「あ、いや、あ、あれは……そ、その……な、流れと言いますか……、た、耐え切れなくなったと言いますか……」
琴音がどもりながらも何とか弁明をするも────────
『ふ~ん、琴音ちゃんは耐え切れなくなったらきょうを襲ったり、抱き着いたりするんだぁ……』
ご立腹なお袋には通用せず。
「そ、それは……その……恭くんが魅力的だったと言いますか……」
魅力的と言ってくれるのは嬉しいけどよ、言い訳にすらなってない上にダメ人間の俺に魅力なんて皆無だぞ、琴音
『確かにきょうは魅力的だよ?見ず知らずの人を助ける理由なんてないのに部屋が余ってるからって理由だけで琴音ちゃん達を拾っちゃうし、人の為に怒って怪現象まで引き起こしちゃう!琴音ちゃんが襲いたくなる気持ちはよーく解かるよ?』
お袋本人は褒めてるつもりなんだろうけど、当人としては本当に部屋が余ってたし広すぎたから琴音達を住まわせたし、人の為に怒ったって言うけど、霊圧の事しってからは単なる実験だったんだよなぁ……
「はい……」
って! 琴音も琴音で納得すんなよ!
『でもね?私だってきょうに抱き着いた事ないのに琴音ちゃんだけズルいよ!』
「はい?」
お袋の意味不明な怒りにポカンとする琴音。嘘を吐くな、アンタは生前隙あらば人のベッドに潜り込んできてただろうが! それも! 下着姿で! なぁにが『きょう、お母さんの下着どう?魅力的でしょ?』だよ! どこの世界に母親の下着姿に興奮する奴がいるんだよ! アホか!
「琴音、分かってると思うが、お袋の言ってる事は嘘だからな?あの人は毎日隙を見ては俺のベッドに潜り込んできたし、実の息子に下着の感想を求めるような人だぞ」
琴音とお袋で抱き着かれた回数を比較し、どっちが上かなど議論の余地なくお袋の方が圧倒的に多い。いつからだっけなぁ……お袋に下着の感想を求められるようになったのは……。少なくとも俺が物心ついた時には下着姿のお袋が隣で寝てるのが当たり前だったからなぁ……
「え!? そうなの!?」
何でそこで驚く?
「ああ。抱き着かれた回数で言うなら圧倒的にお袋の方が多いぞ」
『そりゃあ、お母さんはきょうが生まれた時から一緒に寝る時は下着姿でって決めてたしね~、それを破った事なんて一度もないよ~』
親父の浮気騒動があった小三の頃辺りに俺も大人の男だから一人で寝るって言ってから一人部屋になり、寝る時も一人だった。それでも朝になると下着姿のお袋が隣で寝ているって事があった
「きょ、恭くん……」
「引くな! 琴音! 俺が頼んだわけじゃない! 気が付いたらいたってだけだ!」
大人と子供じゃ体力に差があるのは当たり前で寝る時間だって子供の方が遅く、俺よりも遅く寝る人の行動に対して対策のしようなんてない
「そ、そっか……じゃ、じゃあ、恭くんが望んだわけじゃないんだね?」
「当たり前だ!」
幼いから母親に一緒に寝てと頼むのは誰しも一度は経験する。下着姿で一緒に寝ろと実の母親に頼む子供がどこにいる?いないだろ?
「よ、よかったぁ……」
琴音はその場で脱力し、安堵の表情を浮かべるが、俺としては何がよかったのか全く理解できない
『別に望んでくれて全然構わなかったのにぃ~』
プク~と頬を膨らませ不満の表情を露わにするお袋だけど俺が実母の下着姿を望んだら単なる変態か度の越したマザコンでヤバい奴だとは考え────なかったんだろうなぁ……
「それをすると俺は変態でマザコンのヤバい奴だからな?」
この母親は何で俺をヤバい奴にしようとするかねぇ……
『ぶーぶー、お母さんはそうなる事を期待しているのに……』
息子に何を期待してんだ……
「あのなぁ……」
俺はお袋が分からない……
「恭くん」
お袋の理解不能な言動に頭を抱えていると復活した琴音が声を掛けてきた
「何だ?」
「まだ時間あるからプールへ行かない?」
そう言って琴音の指さす時計を見ると午後九時と表示されていた
「いいけど、この時間だと一時間もいられないんじゃないのか?」
家での生活を基準に考えると時間的には十分すぎるほど余裕がある。だけど、ここは家じゃなく、ホテルだ。各施設に開放時間、開店時間が存在する
「このホテルはどの施設も二十四時間やってるから大丈夫だよ。あるとしたら清掃とか点検の時間だけだから」
それは労働法や電気代的にどうなんだ?
「なら大丈夫か。んじゃ、行くか! って言いたいけど俺は水着持ってきてないぞ」
荷物は必要な衣類と貴重品以外は何も持って来ておらず、プールに行こうにも行けない
「それは大丈夫だよ。ちゃんとレンタルがあるから」
ですよねー、リゾートホテルが水着のレンタルすらしてないとかないですもんねー
「なら安心だな」
「じゃ、じゃあ……」
「ああ、プールに行くか」
「うん!」
俺達は貴重品を持ち、部屋を出てプールへ向かった
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