高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

俺は聞く順番を間違えたようだ

公開日時: 2021年2月7日(日) 23:21
文字数:4,461

 旅行三日目。俺の朝は正座から始まる。語弊がないように言っておくと正座しているのは俺ではなく─────


「お前ら、昨日の事全て話してもらおうか?」

「「「「「「「はい……」」」」」」


 零達である。彼女達を床に正座させている理由はもちろん、昨日の一件についてでドッキリの理由と忽然と姿を消した理由を聞く事に他ならない。おっと、その前に零達に正座までの流れを話すとしよう




 早朝─────。


「なんて清々しい朝なんだ……」


 昨日零達がゲッソリして戻って来た後、俺は彼女達どころかホテルの従業員、爺さん達と一切会話せず、ガン無視を決め込んだ。その状態で眠りに就いたおかげで俺は清々しい朝を迎える事ができ、今日一日は何かいい事がありそうな予感が。しかし、気分のいい一日を迎える前にやる事が一つ残っている。もちろん、零達を締め上げる事だ


「どうやって起こしたものかな」


 辺りを見ると幸せそうな顔で眠る零達。さすがにベッドには入りきらなかったのか何人か床で寝ているのもいる。そんな事を気にする俺ではなく、この連中をどうやって起こすかを模索していた


「一番はホラー系かクラッカーでも鳴らすのが効果的なんだろうけど、都合よくそんなグッズがあるわけないんだよなぁ……」


 ドッキリ番組でありがちなのはホラー系の仮面を被っていきなり飛び出すか大きさはともかく、クラッカーを鳴らす。後はゆっくりと掛布団を剥ぎ、耳元で囁くがオーソドックスなんだけど、寝床はちゃんとし、掛布団はあるものの、寝相が悪いのもいて掛布団を蹴とばしているのもいる。不用意に近づいたら何をされるか……


『昨日みたいに霊圧当てちゃえば?』


 困った時の霊圧! お袋の案はここに茜と盃屋さんがいなければ即採用していたところで昨日はそうした。今と昨日じゃ状況が違うから却下なんだけどな!


「却下だ。昨日は零達が別の場所にいたからそうしたけどよ、今は同じ場所にいるんだ、有名人が二人も同じ部屋にいる状況でンな事出来っかよ」


 声優に限らず不特定多数の前に顔を出す仕事というのは非情に厄介で買い物一つするのも大変で彼氏なんて作ろうものなら買い物よりも配慮をしなければならない。特に週刊誌に対して。そんな生活を強いられる二人がいる中で霊圧なんて使ってみろ、どこでウッカリ漏らし、炎上するか分かったものじゃない


『有名人二人がいなかったらするんだ……』

「当たり前だ。零達を起こすのに余計な体力は使いたくねーからな」


 茜と盃屋さんがいなかったら怠けものの俺は即座に霊圧を死なない程度に当てて彼女達を叩き起こす。夏で気温が上昇し、天候によっては湿度も高くなる。体力は温存しておかないとな


『それはお母さんも同意~。お母さんとの熱い夜が待っているのに余計な体力は使えないよね~』


 実の母親と熱い夜を過ごす予定など俺にはない


「俺に実の母親と熱い夜を過ごす予定は未来永劫なんだがなぁ……」


 義理の母親が相手でもこの人は母親だという認識から恋仲になるのはNGだというのに実の母親になど恋愛感情など抱くかって話だ。お袋が俺をどういう意味で好きかは……考えないようにしよう。


『ぶ~! ケチ!』


 ケチとかの問題じゃない。幽霊だからまだしも、生者だったら完全にヤバい母親だ


「ケチじゃないから。それに、今は零達をどう起こすかだ」


 お袋のせいで話が逸れてしまったが、零達をどう起こすか?それが現状の議題だ


『どう起こすって、普通に起こせば~?きょうが起きてって頼めば零ちゃん達だって起きてくれるでしょ』


 普通に起こして起きなかったら困るからその方法を考えてるんだ


「普通に起こして起きなかったら面倒だから一気に起こす方法を考えてるんだよ」


 起きている時はクセの強い連中だ。寝ている時だってクセが強いのは変わらないと仮定するとだ、起こすのにもそれなりに苦労するに決まっている


『ふ~ん。ところできょう~』

「何だよ?」

『今の今まで言わなかったけどさ~、きょうって実は婚約者いるって知ってた~?』

「はい?」


 満面の笑みを浮かべ、お袋はとんでもない爆弾を投下した。幸い零達は寝ているけど、俺は何が何だかサッパリ分からない


『だ~か~ら~! きょうには婚約者がいるんだってば~!』

「いや、それは聞いた。じゃなくて、俺に婚約者がいるだなんて話聞いた事ないんだけど?」


 俺に婚約者がいるだなんて話は親父からも爺さんからも聞いた事がない。灰賀家、四十九院家と俺の関係は良好だけど、婚約者が~って話は出てきた記憶などない


『うん、今言った~』

「さいですか。んで?俺の婚約者ってのはどんな人なんだ?年下か?年上か?タメか?」


 お袋の今言ったスタイルに今更驚きはしない。そもそもが俺に婚約者がいるだなんて話自体本当かどうか分かったものじゃない


『年上だよ~、きょうとは十歳差だから今二十五歳だね~』


 俺が十五だから十歳差だと二十五歳……、架空の人物だとしても年齢差が具体的過ぎませんかねぇ


「職業は?」

『社長令嬢!』


 二十五歳の社長令嬢が俺の婚約者……う、嘘くせぇ……。だが、これは零達を起こすのに使えるな。そう考えた俺は深く深呼吸し─────────


「いっやほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 俺に年上の金持ち婚約者キター!!」


 と思い切り叫んだ。すると────────


「恭、アタシ達を差し置いて婚約するの……?」

「恭君、私達を捨てるんですか……?」

「捨てないで恭ちゃん……」

「グレー、私と結婚の約束したじゃん……」

「は、灰賀殿、さ、さすがに、わ、笑えないで、ご、ござる……」

「恭クン、ずっと一緒にいてくれるって言ったのに……」

「恭、お義姉ちゃんなんかどうでもいいんだ……」

「恭くんは私よりも見ず知らずの女がいいの……?」


 零達は勢いよく起き上がり、瞳に涙を貯めてこちらを見つめてきた。その間、僅か十秒!


「おはよう。いい夢見れたか?俺に婚約者なんているわけねーだろ?」

「「「「「「騙された!?」」」」」」


 馬鹿め! 騙される方が悪いんだよ! 俺に婚約者なんているわけないだろ?いないよな?な?お袋?


『うん、いない~』


 よ、よかった……


「騙されるお前らが悪いんだよ。つかさ、起き掛けで悪いが、零達に頼みがある。もちろん、聞いてくれなくてもいいけど、聞いてくれなかった奴はもれなく今日一日無視するからそのつもりで」

「「「「「「仰せの通りに!」」」」」」


 寝癖が付いたままでこうべを垂れる零達はそれはもうシュールとしか言いようがなかった




 現在────。俺が零達に床へ正座を命じた事により今に至る


「で?ドッキリを仕掛けようと思った理由は俺がビビる姿を見たいからだってのは昨日聞いて知ってっけど、忽然と姿を消した挙句、俺が幼少期のアルバムをこのホテルにいる俺以外の連中でコッソリ見てた理由は何だ?」


 誤解のないように言っておく。俺は怒っても悲しんでもいない。単にこんな手の込んだ事をしてまで俺がガキの頃のアルバムを見た理由を尋ねているだけで正座は何となくそれっぽいからさせてるだけ


「「「「「「……………」」」」」」


 ドッキリの理由は言えてもアルバムを見ていた理由は言えないらしく、零達は無言になる。俺としては手荒な真似や誤解を招くような行動は慎みたい


「もう一度聞くぞ?コッソリ俺がガキの頃のアルバムを見ていた理由は何だ?」

「「「「「「……………」」」」」」」


 二度目の沈黙。そこまでして隠したい理由なのか?ん?


「あのなぁ……、黙ってちゃ話が前に進まないだろ」


 俺は警察官じゃないから知られたくない事を強引に聞き出そうだなんて事はしない。


「だ、だって、言ったら恭は怒るでしょ?」


 沈黙を貫いてた女性陣だったけど、零がそれを破る


「怒んねぇよ。素直に言ってくれればな」

「本当ですか?恭君」

「本当だよ。え?もしかして俺って闇華の中で信用ない方なのか?」


 零、闇華と出会って早いもので三か月。それなりに人となりが分かってきて俺が素直に言ってくれば怒らない人間だと知っていると思っていたんだけどなぁ……


「い、いえ、恭君を信用してないわけじゃありません……、た、ただ……」

「ただ?ただ何だ?」

「わ、私達が見ていたのは恭君の過去なわけですから……その……」


 闇華はその後を言う事はしなかった。闇華達がコッソリ見ていたのは俺の過去。人間誰しも知られたくない過去というのは持っているもので、ひょっとすると闇華は俺が知られたくないと思っている過去も勝手に見てしまい、口では怒らないと言っていても本当は怒られるのではないか?と不安がっている。こんなところか


「俺が口では怒らないと言ってても本当は怒るんじゃないか?って思ってんのか?」

「は、はぃ……」


 返事が尻すぼみになり、俯く闇華。同意とばかりに頷いた零達も闇華同様に俯いてしまう。確かに幼少期のアルバムというのは知られたくない事も収められている。例えば、オネショした布団の側でベソ掻いてる写真とか。知られたくない事なんてそれくらいだから怒る気なんて微塵もしない。とはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしい


「闇華達が幼少期だった俺のどんな写真を見たかは知らねーし、出どころがどこかだなんて決まり切ってるだろうから言わせてもらうけどよ、知られたくない過去っつったってガキの頃にオネショしたとかそんな些細なモンだ。それって人間誰しも経験するであろう事だから恥ずかしくはあっても怒る気はしねーから」


 ガキの頃なんて言わば黒歴史の宝庫とも言える時期だ。どんなに歪んだ人間でも昔は純真無垢な子供だったわけで、父や母と将来結婚するって言ったり、姉や兄に対して大好きって言ったりした事のある奴だっているだろう。当然、毎日のようにオネショしてた奴もな。それが本人にとってどんな過去かは人それぞれだから何とも言えんけど


「ほ、本当?恭ちゃん、本当に怒ってないの?」

「藍ちゃんからも信用ないのかよ……、怒ってねーから安心しろよ。それよりもコッソリ俺がガキの頃のアルバムを見ていた理由の方が気になるんだけど?」


 怒ってないとは言ったものの、恥ずかしいものは恥ずかしい。オネショ写真抜きにしても幼少期の写真を見られるというのは気恥ずかしさがある


「恭クンが小さかった頃、どんなだったか気になったんだもん……」

「何だって?」


 蚊の鳴くような声で言う飛鳥。おそらくコッソリと俺がガキの頃のアルバムを見ていた理由を言ったとは思うんだけど、上手く聞き取れず聞き返す


「恭クンの小さかった頃の様子が気になったの!! 仕方ないじゃん! 恭クンあんまり自分の過去話さないし! 聞いたとしてもはぐらかされそうだしさ!」


 逆ギレ……いや、開き直りか?


「過去の話はする必要がないからしないだけで俺だって昔どんなだったかって聞かれたらちゃんと答えるぞ?」

「「「「「「えっ?」」」」」」

「えっ?俺だって昔どんなだった?って聞かれれば普通に答えるんだけど?何?」


 零達から見た俺って隠し事が多い奴なのか?という疑問だけが俺の頭に深く刻み込まれた。どうやらコッソリアルバムを見ていた理由よりも先に聞くべき事があったようだ


今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!

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