「恭クン、平等に好きとかいらないから」
「そう。私達は恭ちゃんに異性として好かれたいから平等とかいらない」
えーと……ごめん、何て返せばいいか分からない。とりあえず説明を求めるとするか
「お前達が俺を異性として好きだって言うのは解かった! それだって零達に関しては鬼のようにメッセを送ってくるし、藍ちゃんと飛鳥はこんな監禁紛いの事してやり過ぎだ!」
今ここにいない零達は後回しにするとして、目の前にいる飛鳥と東城先生だけは正気に戻そう
「やり過ぎ……恭ちゃんからするとそうかもしれない……でも、私には……私達にとってはまだ足りないんだよ……」
「東城先生の言う通り。恭クンにとってはやり過ぎ、行き過ぎた行動かもしれないけど、私達にとってはまだ足りない……」
光のない目でまだ足りないと言う東城先生と飛鳥。足りないって何が足りないんだ?
「足りないって何がだよ?」
飛鳥と東城先生の言う足りないものが思い出とかなら足りなくて当然だ。まだ六月で高校入学してから二か月目。生活は濃いものかもしれないが、過ごした時間はまだ短い
「恭ちゃんからの温もり……」
「恭クンからの愛……」
「「全然足りない……」」
温もりが足りないという東城先生、愛が足りないという飛鳥。どちらも求められたところでどうしようもないものだ
「いや、どっちも足りないとか言われても困るんだけど?アレか?毎日一緒に寝て、毎日愛してるって言えばいいのか?」
大体、零達からも東城先生と飛鳥からもまだ狂気染みた行動に出た理由を聞いてない
「恭ちゃん、愛してるって言われると嬉しいけど、言われ続けているうちにそれ以上も求めてしまうんだよ?知ってた?」
東城先生?それはどこの情報でしょうか?
「いや、知らん」
「そう……じゃあ、今知ったね」
いい大人が子供みたいな事を言うな。それよりもこんな狂気染みた行動に出た理由だ
「毎日愛してると言うのは例え話として、飛鳥も藍ちゃんもこんな狂気染みた行動に出た理由は何だ?」
付き合ってもない女に毎日愛していると言えるほど俺のメンタルは強くない。
「夢だよ。恭クン」
「夢?夢がどうかしたのか?」
夢と言われてもどう反応していいのか分からない。
「夢を見たんだよ。私達みんなさ、恭クンがいなくなっちゃう夢」
夢とは本人が本能の内に臨んでいるものが具現化したものとかって話を聞いた事がある。だが、夢とは何かが起こる前触れという説もあったような気がする。この場合はどっちに分類されんだ?
「飛鳥達は俺にいなくなってほしいのか?」
我ながらデリカシーに欠ける質問だ。
「恭ちゃん、それ本気で言ってる?」
「恭クン、本気で言ってるなら私達はキミを管理しなきゃならなくなるよ?」
光のない目で見つめられるってのは恐怖を感じる。東城先生はともかく、飛鳥は目に連動して言ってる事が危な気だ
「ごめん、俺が悪かった」
「「よろしい」」
理由は大体解かった。俺がいなくなる夢を見たから零や闇華、琴音に飛鳥、東城先生は常軌を逸した行動に出た。本人からするとそんな予定は皆無だから何も心配するような事なんてないんだけどなぁ……
「俺は飛鳥達に黙ってどこかに行く予定もないから本人の立場としては何とも言えないんだが……その夢って最近も見るのか?」
そんな夢を見るって事はだ。多分、疲れてるんだと思う
「私は最近の方が酷くなったよ。飛鳥は?」
「私もそうです。最近の方が酷くなりました」
二人揃って最近の夢の方が酷くなった。一重にこれはタダ事ではないと言える
「そうか。でもなぁ……俺はどこかに行くつもりも予定もねーからなぁ……」
俺は今の生活が気に入ってるんだ。手放すつもりなど毛頭ない
「そう。でも、私達は不安で不安で仕方ない……恭ちゃんを失うくらいなら……」
「ですね、恭クンを失うくらいならいっそ……」
言葉を発する間もなく、俺は飛鳥と背後に回った東城先生に押さえつけられた。マンガとかであるような手刀で気絶させられるというのではなくて助かりはしたが、押さえつけられたところで?ってのはある
「俺を押さえつけて何をするつもりだ?」
手にスタンガンとかヤバいものを持っていたなら冷静でいられなかった。しかし、彼女達の手には何もない。押さえつけた後、何をするつもりだ?
「決まってるよ。恭ちゃんをそのまま連れて帰るんだよ」
連れて帰ると言われても授業が残ってるから帰る気は全くない
「授業が残ってる。それに体調だって万全だ。早退する理由はないぞ?」
俺に早退する理由がない。二人はどうするつもりだ?
「ねぇ、恭クン」
「何だよ?あす────」
飛鳥に呼ばれ、そちらに顔を向けると何かを口の中に押し込まれた。そして……
「あ、飛鳥……お、お……れ……に……な、な……に……を……」
急に意識が遠のき飛鳥にもたれ掛かる。最後に見たのは頬を染め、妖艶な笑みを浮かべる飛鳥の顔だった。
「ふふっ、おやすみ。恭クン」
恭クンを眠らせる事に成功した。やった! これで恭クンを独り占めできる!
「恭クンは私のモノ……誰にも渡さない……」
恭クンには私がこんな事した理由なんて想像もつかない。そりゃそうだ。だって私の過去なんてほとんど話してないんだからね
「飛鳥。恭ちゃんは飛鳥一人のモノじゃない。私達のモノだよ?」
一人喜びに浸っていると東城先生からの横やりが飛んできた。そうだったね、恭クンは私達のモノだった
「すみません、恭クンを私達の管理下に置けると思うと嬉しくなっちゃって♪」
「気持ちは解かるけど、恭ちゃんは飛鳥一人のモノじゃないから」
「解ってますよ♪」
「本当に解ってる?」
「もちろんです」
「それならいい。私は職員室に行って恭ちゃんと飛鳥、私が早退する旨を伝えてくるのと加賀さんに迎えに来るようにって電話してくるけど、ここ学校だから変な事しないでね」
「もちろん」
東城先生はドアの鍵を開け、出て行った。部屋に一人残された私は恭クンを膝枕し、寝顔を眺める
「ねぇ、恭クン。キミにはいなくなる夢を見たからって説明したけどさ、本当は違うんだよ?あの日、キミがあんな事言うから……私達全員我慢できなくなっちゃったんだよ?」
あの日というのは言うまでもなく恭クンが甘やかしてくれた日。あの日恭クンは『適当に甘やかさせてくれる奴探すわ』って言った。私達の落ち度だったとしても恭クンから他の人に目を向ける発言は聞きたくなかった
「あの日を境に私達の中で何か壊れちゃったんだ。恭クンのせいでね」
恭クンの顔をそっと撫でながら呟くも返事は当然、返ってこない。
「恭クン……恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン……他の人よりも私達を見てよ」
闇華ちゃんに触発されたわけじゃない。ただ、あの日、私達の中で何かが壊れた。それは恭クンが寝た後で零ちゃん達にも確認したけど全員同じ。ダレニモワタサナイ
「飛鳥、早退の許可出たから玄関行くよ」
声のした方を見ると私達のカバンと自分のカバンを持った東城先生がいた
「分かりました♪ところで加賀さんはすぐに来てくれるって言ってました?」
「うん。電話で恭ちゃんの体調が悪いみたいって言ったらすぐ来てくれるってさ」
「そうでしたか。じゃあ、待たせちゃ悪いですね」
「うん」
私は恭クンを背負う。東城先生には荷物を持ってもらってるからこれくらいしないとね
「ところで、零ちゃん達には連絡したんですか?」
玄関に向かう途中、私は東城先生に尋ねた
「したよ。加賀さんに電話した後でね。琴音にも眠った恭ちゃん連れて帰るから準備しておいてって連絡した。後は家に帰るだけだよ」
「なら安心ですね」
「うん」
玄関へ着くと既に加賀さんが来てくれていた。それからは流れ作業。東城先生が適当に言い訳をして、誤魔化した後、カバンをトランクに入れ、車の後部座席に私、恭クン、東城先生の順で乗り込む。そして、加賀さんが車を出す。
「東城先生」
「何?」
「いよいよですね」
「そうだね、いよいよだね」
家への道中、私達はこれからの事が楽しみで仕方なかった。
「ん……ここは……」
飛鳥に何かを飲まされ、俺は意識を失った。そこまでは覚えている。だが、その後何があったか全く覚えてない。気が付いたら自分の部屋で寝ていた。いや、違う。覚えてないんじゃない、分からないんだ
「飛鳥の奴……何飲ませやがった……まぁ、いい。とりあえず────!?」
起き上がろうと身体を動かそうとしても自由が利かない。飛鳥に飲まされた何かが原因ではなく、物理的に拘束されている
「な、何だよ!? コレ!?」
右手を動かすと聞こえてくるのはジャラジャラという鎖の音とカンカンという鉄がぶつかる音。試しに左手を動かすも右手と同じ。つまり……
「俺は両手の自由を奪われたって事か……」
言うまでもない。両手の自由が利かないという事は拘束された。そうなると────
「この分だと両足も……だよな……」
両手の自由が利かない。という事はだ、両足の自由も利かないと見てほぼ間違いない。試してみよう
「やっぱ利かねぇか……」
試しに両足も動かしてみたが、聞こえてくるのは両手の時と同じジャラジャラという鎖の音とカンカンという鉄がぶつかる音だった
「何で俺は拘束されてんだよ……」
広すぎる部屋の中に俺の呟きだけが木霊した
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