飛鳥と共に東城先生に連行された俺、灰賀恭は現在、説教を受けている真っ最中だったりする。
「─────という事で恭。女の子に興味を持つなとは言わないけど、持つならもっと身近な女の子にして。例えば幼い頃一緒に遊んでいた女の子とか」
東城先生の説教は最初『学校の密室で女の子にあられもない恰好をさせないの』から始まり、家では闇華と一緒になって暴走してても学校ではちゃんと先生してんだなと感心した。それも雲行きが怪しくなり────
「す、すみませんでした……」
完全に私情と化していた。面倒事に巻き込まれたくないから謝るけど
「分かればいい。次からは気を付けてね」
「はい……」
俺の説教は一先ず終わったようで助かった……
「次は飛鳥だけど、年頃の女の子なんだから簡単に肌を晒さない。そういうのは好きな人だけにしておいて。後、いろいろと支障をきたすからあんまり恭を誘惑しないで」
「す、すんませんでした……」
飛鳥への説教は教師の言葉としてはどうかと思うのは俺だけ?主に最後。飛鳥が俺を誘惑してどこに支障が出るんですかねぇ
「飛鳥には恭なんてダメ人間よりも他に相応しい男の子がいると思うよ?恭なんてダメ人間よりもね」
東城先生?何でダメ人間って二回言ったんですか?飛鳥を指導する上で俺まで傷つける必要ありましたか?
「きょ、恭クンはダメ人間じゃないっす! 俺にとってはこの学校で始めて信じられると思った人っす!」
飛鳥……理由は分らんけどそこまで俺の事を……
「恭がダメじゃない事なんて私が一番よく知っている」
「だったらッ……!」
「ダメ人間というのは言い過ぎた。それについては謝る」
「ならいいっす」
飛鳥さん?何もよくありませんよ?俺はただイタズラに傷つけられただけなんですけど?
「さて、恭と飛鳥のお説教はこれくらいにして、千才達が待ちくたびれてるから恭には朝のニュースでやってた爆破予告が読めた理由の説明と他の予告状も解読してもらおっか」
今日一番の山場というか、面倒な作業だ。登校前に怪文書の空欄の謎がまだ解明出来てない事を知らずに読んだ俺のミスだ
「え? 恭クン、あの怪文書読めたん? 警察の人もまだ解読出来ないってニュースでやってたのに?」
目を丸くして俺を見る飛鳥。家にいる連中と違って爆破予告を送り付けたのは俺だって騒がない分、零達よりも可愛げがある
「読めたっつーか……モンスターファイターをやってる奴だったら多分、読めて当たり前っつーか……」
ニュースの怪文書が読めた理由に関して説明するなら俺にとっては非常にやりづらい
「灰賀君、それはどういう事かな? 私達警察が調べても解読出来なかったんだよ?」
東城先生のお友達である千才さんが訝し気な視線を向けてくる
「調べたって事は当然ですが、韓国語を日本語に訳したり、そのカードの名前や効果まで調べたと捉えてよろしいですか?」
「もちろん。韓国語に詳しい人へ協力を要請し、モンスターファイターを作っている会社に問い合わせたりしたわ。それがどうかしたの?」
警察官の言う調べるがどの程度なのか俺は知らない。さっきの口ぶりからして会社に問い合わせたりしたって事はおそらくホームページも見たんだろうな
「いや、それ自体はいいんですけど、そのカードの効果ってエラッタされたんですよ」
「「「「え、エラッタ……?」」」」
千才さん達にとってはエラッタ自体は聞いた事あるだろうけど、カードゲームにおけるエラッタは馴染みがない。その証拠に目が点になっている
「一般的な意味で言うなら誤字とか誤写って意味の英単語。カードゲームにおけるエラッタってのは強すぎるカードを弱くしたり、使いやすくしたり、分かりやすくしたり。とまぁ、ゲームを遊びやすくするためのものです」
この雑な説明で分かってくれるかな……何しろ俺は説明が上手な方ではないからなぁ……
「要するにその時のルールに対応してカードの効果を変えるって認識でいいの?恭」
「今はその認識で構いませんよ。東城先生。それに他のみんなも」
俺の雑な説明で伝わって何より。次が本題だ
「で、次が本題なんですけど、俺が読んだ怪文書に付いてたカード。千才さん達警察はモンスターファイターを作ってる会社に問い合わせたり公式ホームページを見たりして調べたんですよね?他にどんなものを使ったり見たりしました?」
モンスターファイター事務局や公式ホームページだとカード効果は現在のものしかない。が、“モンスターファイター大百科”というサイトにはエラッタ後とエラッタ前のテキストが公開されている。千歳さん達がそれを知ってるか否かだな
「事務局に聞いたり公式ホームページ以外は見てないわ。後は韓国語だったからそれを日本語に訳したりとか、それこそ事務局にイラストの意味を問い合わせた。カードに関してはそれだけよ。後はカードに付いた指紋や出どころを調べる方を重点的にしたから」
今までのやり取りで千才さん達の調べた結果が不十分だという事は分かった
「そうですか……。一旦エラッタとかの事は置いといて俺が怪文書を解読出来た理由を説明しましょうか」
「ええ、お願い」
千才さんと男性刑事も東城先生と飛鳥も真剣な表情で俺を見る
「まず爆破予告に付いていたカードですが、このカードの名前は“身代わり玉ー火ー”という名前で効果は“HPが5以下で相手からダメージを受けた時、このカードを墓場に置く事で自分は全てのダメージを受けない”という効果ですが、これはあくまでも現在のテキストです」
俺は千才さん達の方を確認し、間違いでない事を確認する。二人とも頷いてるという事は自分達が調べたものと相違ないらしい。一呼吸し、話を続ける
「でも、これでは俺が怪文書を解読出来た理由にはなりません。ここで出てくるのがこれまでのテキストなんですけど、それは“HPが5以下で相手からダメージを受けた時、このカードを捨てる事で自分は全てのダメージを受けない”という効果でした。それを考慮してニュースの怪文書を読むとどうなりますか?」
エラッタ前の効果だとこのカードをどこにどうするかが書かれていなかった。きっとこれがエラッタの理由だろう
「どうなるん? 恭クン?」
「『俺を捨てた企業を許さない。明後日爆破してやる』ってなるんだよ。俺の中ではな」
「え? 何で?」
飛鳥は未だに理解出来ないと言った顔をしている。コイツにとって今の解釈じゃ強引過ぎたか?
「今のテキストじゃ『俺を』と『企業を絶対に許さない』の間に単語を入れても文章として成り立たないからだよ。試しに今のテキストの単語を『俺を』と『企業を絶対に許さない』の間に入れて考えてみ」
飛鳥達は一斉に頭の中で今のテキストを怪文書の空白に入れ始めたようで顎に手を当てながら考えている仕草を見せた
「恭、今のテキストだと文章として成り立たないよ……」
最初に音を挙げたのは東城先生。そりゃ今のテキストじゃ何を間に入れたってみょうちきりんな文章しか完成しないだろうよ
「そりゃそうでしょ。ですが、過去のテキストだったらどうです?」
今度は過去のテキストを怪文書の空欄に入れて考え始めた。すると……
「『俺を捨てる企業を許さない』ってなるっしょ! ん? あれ? おかしい……恭クンの言ったように『俺を捨てた企業を許さない』ってならない」
「飛鳥、そのまま空欄を埋めるんじゃなくて文章として成立するようにしてから読むんだよ」
「なるほど! だったら『俺を捨てた企業を許さない』ってなるっしょ!」
「だろ? ま、こんなのモンスターファイターってカードゲームを長い事やってない限りは多分無理だけどな」
犯人を推理する気はないが、強いて言うなら怪文書を送って来た奴はこのゲームを長い事やってたか現在進行形でやってる奴だ
「「「「なるほど!」」」」
俺の言葉に飛鳥達が納得してくれたようで何よりだ。ちょっと……いや、かなり強引のような気もしなくはない
「長ったらしく話しましたが、俺が怪文書の空欄を埋められたのはエラッタ前とエラッタ後のテキストを知っててそれを自分の読みやすいようにしただけって理由なんですけどね」
長ったらしく説明するよりもストレートに出た当初と現在のテキストを知ってたからって言ってもよかったんだけど、それもそれで説明が長くなりそうで面倒だ
「なるほど。恭の言う通りモンスターファイターを長くやっている人じゃなきゃ読めないね」
「ええ。警察の方々は会社や公式ホームページ、イラストの意味等を調べ、その後は指紋や出どころを調べはしますが、わざわざ過去のカードテキストなんて調べないでしょうしね」
俺個人の意見としては指紋は付いてないかとかどこで入手したとかを調べたところで無駄だと思う
「なるほどね……過去のテキストは調べてなかったわ」
悔しそうに爪を噛む千才さん。でもそれは仕方のない事なんだよなぁ……昔からやってなきゃ過去のテキストなんて知らないだろうし
「昔からやってなきゃ過去のテキストに着眼点を向ける事なんてないですから。それは仕方のない事ですよ」
怪文書一つでこの様。という事は他の怪文書はもっと酷い事になってるんだろうなぁ……
「そうね。昔からのユーザーじゃなきゃ過去のものに目を向ける事なんてしないわね」
「でしょ?」
「ええ。それはさておき灰賀君。残りの怪文書の解読もお願い」
“横田君、あれ出して”という指示で男性刑事がカバンから取り出したのは五枚のカード付怪文書。どれもニュースで見たのと同じで『俺を』から始まり、途中の単語は『企業に復讐してやる』『企業を許さない』で最後は『爆破する』で〆られていた。違うのは付いて来たカードが赤、青、黄色、黒で英語と中国語、韓国語と統一性がない。同じなのは最初に見たカードと場に出す条件とパワーが同じって事くらいだ
「マジでか……」
昼飯抜きの状態で怪文書を見せられると思っていなかった俺は頭が痛かった。昼飯抜きはキツイから頼み込んだらアッサリ許可された事を言っておく
怪文書の解読が終わり、時間を確認すると運がいい事にまだ昼休みだった。俺と飛鳥、東城先生は千才さん達を見送るため玄関へ来ていた
「灰賀君、協力感謝するわね」
「君のおかげで助かったよ! ありがとな! 灰賀君!」
警察の人から感謝されるのは悪い気分ではない
「いえ、こんなオタク知識が役に立って何よりです」
オタクの知識が役に立ってよかったとは思う。しかし、俺はここで調子に乗る男ではないので余計ない事は言わない。
「そう。また何かあれば協力をお願いしようかしら?」
イタズラっぽく微笑む千才さん。それは是非とも止めて頂きたい
「て、手が空いてたら協力しますよ」
さすがに本人を前に嫌だとは言えず俺は曖昧な返事で誤魔化す。
「そう。じゃあ、その時はお願いね?」
「りょ、了解しました……」
この後俺は残る授業と教室の掃除をし、飛鳥と連絡先を交換して下校した。
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