「恭……アンタ何言ってるの?」
「そうですよ、恭君!」
「恭クンは私達を助けたいと思ったから何も言わずここに置いてくれてるんだよね? そうだよね?」
何を言ってるのか分からないといった感じの零、強がって見せても裏切られるのではないか?と不安気な闇華、俺の好意を信じたいと願っている様子の飛鳥。マジで面白い事になりそうだ
「バカじゃねーの? 俺が心からお前らを助けたいと思ってここに置くわけないだろ? 自分達が置かれていた状況を考えてみろよ」
俺の言葉に零達が膝から崩れ落ちる。彼女達からすると信じていた人に裏切られた。そう思っても無理はない。言う方としては聞かない奴が悪いとしか言いようがない
「恭くん……」
「恭ちゃん……」
「最っ低!」
「…………」
零達と対照的に琴音、東城先生の成人組は悲痛な面持ちで俺を見つめ、碧は汚物を見るような目で、蒼は無言で見つめてきた
「何だよ? これじゃまるで俺が嘘吐いてたみたいじゃねーかよ」
俺は嘘を吐いてたわけじゃない。彼女達が考えなかった、あるいは聞かなかっただけだ。自分達を何故ここに置いてるかをな
「吐いてたじゃない!! 今までアタシ達を騙してたじゃない!!」
悲痛な叫び声を上げる零。何で騙したと彼女は言い切れるんだ?
「騙してたとは人聞きの悪い。言わなかっただけだ。まぁ、家が広すぎて部屋が余ってたから拾ったってのも間違いじゃないけどな」
ここは元々デパートで俺が今いる部屋は元は映画を観る為のもの。営業当時で一つのスクリーンに百人程度は入った。そんな場所が一人暮らしをするには適切な広さか? と聞かれれば答えは否だ
「恭くん、貴方は私達の事をどう思っているの?って前に聞いたのを覚えているかな?」
今まで黙っていた琴音が口を開く。何かと思えばそんな事か
「ああ、覚えてる」
「その時に何て答えたか覚えてる?」
「ああ、同居人って答えたな」
「その質問を今改めてするね。恭くん、貴方は私達の事をどう思ってる?」
琴音達の事をどう思っているか?考えるまでもない
「いてもいなくてもどうでもいい存在。お前達の代わりなんていくらでもいるし、人数が必要になればその時に集めりゃいい。俺が今までお前達に見返りを求めなかった理由にもなるが、俺はお前達に最初から何の期待もしてない。ぶっちゃけ叩き出してもいいと思っている」
いてもいなくてもいいと思っているのは琴音達だけじゃない。親父達だってそうだ
「そう……そんな風に思ってたの……」
琴音の目から大粒の涙が零れる。他の連中を見ると女性陣は碧以外涙を流している。親父と蒼は苦々しい表情だ
「ああ。お前達なんてオタクの部屋にあるフィギュアと同じでいくらでも替えが利く。邪魔になったら捨てりゃいい」
彼女達が仮に全員男だったとしても俺は同じ事をした。広すぎる家を何とかしようとしてな
「恭!! アンタ!!」
涙を流しながら俺を怒鳴る零。声が涙声だから迫力はない
「何だよ? 文句でもあんのか? お前が俺を知らなさ過ぎただけだろ?」
零達を拾った時はいつもそうだ。勝手に人ん家の前に我が物顔で居座ったり、勝手に勘違いして絡んだり、一時的にとはいえ勝手に住処を作ったり……俺の知らないところで勝手に決めてたり。で、極めつけは勝手に俺が好意でここに住まわせてると思い込んでる
「恭……アンタには人の心ってものがないの!?」
灰賀恭という人間の黒い部分を見せただけでこれだ。零だけじゃなくここにいる全員とはまともな喧嘩が出来ないだろう。そう思わされる
「人の心がないとは心外だな。お前達が灰賀恭という人間の黒い部分を知らなかっただけだろ?」
「なによ……それ……」
「何よって言った通りだ。零、お前を拾った日に俺は住む場所なら提供してやるとは言ったが、家に住むか? とは一言も言ってないぞ? とどのつまり、あの時お前は俺の提案を蹴るだって出来たんだ。それをしなかったのは何故だ?」
闇華にしたって駅で絡まれたからとりあえず家に連れてきたし、琴音は倒れてたからとりあえず家に運んだ。東城先生は俺が知らないうちに決まっていたから何も言えない。で、飛鳥や双子達は爺さんが勝手に決めていた。俺が自分で決めた事なんて何一つない
「そ、それは……住める場所がなかったし……何より寒かったし……」
俺の質問に震えた声で答える零。コイツにはそろそろトドメを刺すとするか
「んじゃ、もう季節的に寒くなくなるから出てけ。零だけじゃなく全員な。まぁ、そこにいる娘命のバカが拾ってくれるだろうし、中には働いてるのもいる。働いてない組はバイトでもして頑張れや」
俺は用件だけ伝え、部屋から出る。俺が部屋を出るのを止めた者は誰一人としておらず、その場にいた全員魂が抜けたような顔をしていた
「東城先生が余計な事してくれたお陰でストレスが溜まりっぱなしだ」
部屋から出た俺は東城先生が親父達を連れてくるとは思っておらず、同じ空間に閉じ込められた為、ストレスが限界値に到達しそうだった
「ったく、要らない人間の相手をするのも疲れるな」
アイツ等からすると俺に裏切られたと思っているだろう。だが、考えてほしい。今まで俺が一度でも『家に住むか?』『俺の側にいろ!』と言ったか?言ってないだろ?何でだと思う?答えは簡単だ。別にいてもいなくてもどうでもいいからだ
「人の黒い部分を見ただけで泣くなんて間抜けな連中だ」
どんな人間だって黒い部分がある。好きな物を独占したいという気持ちだったり、他人を蹴落としてでも意中の相手と結ばれたいという感情だったりといろいろだ。そんな黒い部分は俺にだってある。零達にはそれを見せなかっただけ……いや、彼女達が見ようとしなかっただけなのかもな
「はぁ……今日中に出てってくれるのを願うか」
零達が今日中に出て行ってくれる事を願いながら俺はゲームコーナーへと向かった
恭さんがここから出て行ってからというもの、室内の空気は最悪なものだった。その理由は簡単で姉ちゃんを除く女性陣が身体を震わせながら嗚咽を漏らしているから。姉ちゃんと恭さんのお父さんは泣くのを堪えてるって感じかな?
「やっぱり恭さんは本性を隠していたか」
恭さんがここにいる全員を代用が利くものだと言った事に対して驚きはしなかった。自分で言うのもなんだけどボクは口が悪い。それが災いして殴り合いの喧嘩になった事もある。だけど、恭さんは違った。ボクがどれだけ暴言を吐いても怒りすらしなかった
「蒼、今のどういう事?」
「どういう事も何も言った通りだよ。姉ちゃん」
姉ちゃんはボクの言った事が理解出来ずに戸惑っている。姉ちゃんは口が悪いけど、人の感情には鈍感なところがあるから理解しろって言う方が無理か
「い、言った通りって……蒼は気づいてたのか?」
姉ちゃんの表情に怒りの色が浮かぶ。恭さんの本心を聞かされた零さんのように
「確証はなかったけど、この部屋にいる人達と恭さんの関係を見てたら何となくそうなんじゃないかとは思ってた。恭さんにはボク達を拾うデメリットこそあれどメリットはないからね」
ここへ住むに至った経緯はどうあれボク達は恭さんに拾われた身。家主の恭さんが何も言わない事を変だとは常々思っていた。デメリットこそあれどメリットは何一つないんだから
「き、気づいてたら教えてくれてもよかったんじゃ……」
姉ちゃん、ボクさっき言ったよね?確証はなかったって
「確証がない上に証拠がなかったからいくら姉ちゃんでも言えなかったんだよ。ゴメンね?それより、恭さんのお父さんは話す事があるんじゃないのかな?」
身体を震わせ泣くのを堪えている恭さんのお父さんに話を振る。藍さんと一緒に出迎えた時、この人やその側にいた女性二人の顔は所々に絆創膏が張られてたり包帯が巻かれていた。やったのは多分、恭さん
「…………」
恭さんのお父さんは一瞬身体をビクッと跳ねさせた。だけど口を開く事はしない
「このままじゃボク達はここから追い出されますし、恭さんが貴方の再婚を認めはするものの、本当の意味での家族にはなれませんよ?」
冗談抜きで恭さんのボク達を見る目からは何の感情も感じなかった。心底どうでもいいものを見る目と言った方が正しいのかな?
「…………」
本当の意味で家族になれないと言って尚、沈黙する恭さんのお父さん。何か言えない事でもあるのかな?
「だんまりですか……はぁ……」
ボクの言い方が優しすぎたのかな? それとも事の重大さを理解してないのかな?
ボクは恭さんのお父さんを立たせ、胸倉を掴んだ。そして─────
「アンタは恭さんと今までのような親子に戻りたくねぇのか!! あァ!! 恭さんがあんな風になったのは全てアンタのせいだとは言わねェよ! だがな! 恭さんが人を人としてすら見なくなった原因はアンタやアンタが再婚しようとしてるヤツの娘にあんだよ!! 分かったらとっとと話せや!!」
ドラマに出てくるヤクザのように脅しをかけた。
「わ、わかった……恭がああなった原因を話そう」
蚊の鳴くような声で恭さんのお父さんは全てを話すと言ってくれた。
「チッ、最初からそうしてりゃいいんだよ」
ボクは掴んでいた胸倉をパッと離す。それと同時に視線を感じ、そちらへ目を向けると……
「あ、蒼ってあんなキャラだったっけ?」
「ふ、普段怒らない人が怒ると怖いって聞いた事があります……」
「蒼クンも恭クンと同じタイプの人だったんだよ!」
零さん、闇華さん、飛鳥さん? ヒソヒソ話してるつもりでも全部聞こえてますからね? ボクを恭さんと一緒にしないでくれません?
「あ、蒼くんって女の子みたいな顔してるのに怒ると迫力あるんだ……」
「だね。私も蒼君だけは怒らせないように気を付けよう」
琴音さんと藍さんも零さん達と同じで何か言ってる。全部聞こえてるよ? っていうか、みんなさっきまで泣いてたよね? もしかしてボクの怒鳴り声で涙引っ込んじゃった?
「ヒソヒソ話をしている人達は無視して、恭さんのお父さん、恭さんがあんな風になった原因を話してください」
「あ、ああ……分かってる」
恭さんがああなった原因を聞けばボクのやる事が決まる。というか、アレが出来るのは今のところボクだけ。まぁ、ボクなりの恩返しと思えばそれも悪くないか
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