高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

何もかも面倒になった俺はかくれんぼを終わらせた(前編)

公開日時: 2021年3月6日(土) 23:17
文字数:4,550

「お前ら、覚悟しろよ……」


 俺の怒気を含んだ声が響き渡り、ある者はビクッと跳ねさせ、ある者は下を向いたまま顔を上げようとしない。ここは食堂で目の前には気まずそうに正座する教師五人と琴音。背後には怯え切っている瀧口を始めとする二校の生徒達。仁王立ちで正座する大人六人を見下ろしてるのは本日の司会進行お仕置きを務める自称・世界一優しい男の灰賀恭。


『きょ、きょう?さっきも言ったけど、マジギレはダメだよ?』

『そ、そうよ、恭様。貴方の霊圧はここ最近不安定なのを忘れちゃダメよ?』


 ゲストには俺を宥めようとしている我が母親の灰賀早織と神矢想花を迎えております。千才さん達?いつの間にかいなくなってた。それより、ここに至るまでの経緯を軽く説明しておこう。




 遡る事一時間前────。律儀な幽霊二人に霊圧を使うのは間違っていると咎められた後俺は……


「え?何?止めちゃうの?探すの超めんどいんだけど?」


 めんどくささが高ぶっていたせいもあり、二人の対応が雑なってた。だって、めんどいモンはめんどいんだもん。


『で、でも、ほら、神矢想子ちゃんの一件以来きょうの霊圧安定してないから……ね?脅しとか嫌がらせで使う分には心配ないけど……マジギレして使うと建物壊しちゃう可能性あるからお母さんとしてはあまり賛成できないな~』

『い、一時の感情に任せてるといつか身を滅ぼす事になりかねないわ。ここは藍さん達教師の期待に沿えるように頑張りましょう?ね?』


 霊圧が不安定だと言われても分からんし、嫌がらせや脅しに使う分には心配ないって母親の言葉じゃねぇだろ。一時の感情に任せているといつか身を滅ぼす事になるってのは理解できんでもないけどな。だが、今更になって瀧口達の説得、教師の捜索は面倒だ。特に説得。で、登場するのが最後の手段。


「はいはい、分かりましたよ。ったく、瀧口達の説得に教師の捜索。全部俺一人でやれってか?あーあ、もういっそ建物ごとぶっ壊しちまおっかなぁ……」

『きょう!?』

『恭様!?』


 俺の脅しに驚嘆の声を上げる早織と神矢想花。二校五クラス分の生徒の説得と教師の捜索。説得に成功すりゃ捜索の手が増え、動きやすいが、説得に失敗した場合、俺一人でいなくなった教師全員を見つけ出さなきゃならなくなる。成功した時はいい。だが、失敗した時の事は正直考えたくない。だから俺は二人を脅した。瀧口との相部屋に琴音から突き付けられた制約。ストレスが溜まらないわけがない


「んだよ?俺はな、仮にも中学時代に害を成してきた人間と相部屋にされ、知ってる事が多すぎるというしょうもない理由で行動を制限されてストレスがマッハなんだ。二校五クラス分、百人を超える生徒の説得なんかしたかねぇ。俺一人で教師を探す?ンなめんどくさい事ごめん被る。隠れてる連中全員を見つけ出したら賞金出るっつーなら喜んで引き受けるが、それもない。もう放置か建物ぶっ壊すしかないだろ」


 ただでさえ学校行事は面倒が多い。やりたい奴だけやればいいってわけにはいかず、やりたくなくても半強制。教師は自分達が考案したレクや行事に生徒が参加するのは当たり前ってか?バカじゃねぇの?


 早織と神矢想花はそこんところを理解してない。今みたいに一人の生徒だけに負担を強いる事を疑問にすら思ってない時点でこの二人も教師達や琴音と同じだ。などとやさぐれた事を言ってみたが、本音を言うと純粋に姿消した連中の捜索が面倒なだけだ


『か、考え直さない?藍ちゃん達を探すのならお母さん達も手伝うから……ね?』

『そ、そうよ、恭様。私達も協力するから考え直しましょう?』

「え?嫌ですけど?つか、現状、俺一人に負担が強いられてるの理解できません?もしかして二人共バカ?」

『『うぐっ……』』


 生徒一人に負担が偏ってたなんてちょっと考えれば分かるだろうに……。口に出してみて初めて気づいたから俺が強く言えた立場じゃないけど。


「二人共ご理解いただけました?俺は瀧口達の説得と教師の捜索が面倒なんスよ。だから、手っ取り早く霊圧ブチ当てて教師陣をいぶり出そうと思うんですが反対意見ございます?ございましたら今の内に出していただけると助かります。で?ご理解いただけました?おバカさん達?」

『『はい……』』


 幽霊二人組は次第に目に涙を溜めて行き、話が終わる頃にはポロポロと大粒の涙を零していた。涙を流す彼女達を見て俺はやり過ぎたと後悔したが、元凶は教師陣と琴音にある。二人を泣かせたのも隠れている連中が悪い


「それじゃあ、霊圧をブチ当てていいんですね?」

『ど、どうぞ……きょうのストレスを考えれば安いものです。はい』

『わ、私も賛成です……。恭様に嫌われたり憎まれるよりはマシです』


 蚊の泣くような声で同意の意を示す早織と神矢想花はまるで過去のイジメがバレたイジメっ子。二人を強引に納得させたところで俺はドアを開け、食堂へ入った



 食堂へ入ると話し合いを終えた同級生達が楽しそうに雑談をしていた。こっちの気も知らないでと恨み事が喉まで出かかる。だが、よく見ると雑談している生徒は星野川高校と灰賀女学院でくっきり分かれてた。星野川側には雑談すらせずに黙って座ったままの生徒が数名と寝てるのが数名。灰賀女学院側は同じ家に住んでるだけあってボッチ状態にある生徒は誰一人としていない。ただ、同じクラス内でしか交流してないように見えたけど。まぁ、唯一まともにクラスや学校の枠を超えて交流してるように見えたのは零達の同居人組だけ。教師が危機感を覚えるのも無理はないような気がするぞ……


「教師がバカな事を思いつくわけだ……」


 俺は雑談する同級生達を前に呆れ果てた。重要なところでは交流できるけど、世間話とかそういった部分じゃ交流できませんとか……言葉が出ません。コイツらは初めて行く土地に何も持たせずに放り込んだらいけないタイプの連中だ


「さて……やるか」


 俺はゆっくりと歩き出し、瀧口の方へ向かった。



「────でね」

「そうだったんですの、祐介も人が悪いですわ。それならそうと早く言ってくださればよかったのに……」

「ホントだよ。祐介」


 瀧口のところに辿り着いた俺は談笑する彼らを見て僅かばかり殺意が湧いた。頭では瀧口含め同級生達に非はなく、いきなり姿を消した教師連中が悪いと理解はしているつもりだ。だが、解かっていても気持ちが追い付かない。考えたら余計にイライラしてきた。八つ当たりしてしまう前に部屋に戻ろうと思い、踵を返そうとした時だった


「あれ?灰賀戻って来てたん?」


 そっと立ち去ろうとしたところで運悪く求道に見つかってしまった。これから俺は面倒な事をしなきゃならないとは毛ほどにも思ってない彼女は『戻ってきたんだったら声くらい掛けろし』なんてほざいたが、この時の俺に軽口を返せる余裕などなく、無言でその場を後にしようとした。だが……


「灰賀君、無視するなんて感じ悪いですわよ?」


 無視されたのが気に障った北郷に引き留められてしまう。俺もこれには参ったね。転入初日にも感じたが、上から目線での物言いや高圧的な態度。創作上のキャラならお嬢様=高飛車じゃないとキャラが立たないだろうから仕方ねぇなと妥協もする。だが、コイツは現実に存在する人間。イラっともする


「うっせぇよ。話したくない時だってあるだろ。少しは空気を読んだらどうなんだ?」


 余程苛立っていたんだろう。ついカッとなってぶっきらぼうに返してしまった


「何ですの?その態度。人がせっかく注意して差し上げたのに」


 俺の態度に腹を立てた北郷は怒鳴りこそしなかったが、その声には怒気が孕まれていた。これには瀧口も慌てて北郷の方を宥めた


「別に注意してくれとは頼んでねぇから。それより、教師を探すか否かの話し合いの結論はどうなったんだよ?」

「それなら探さない事になりましたわ。連絡手段もないのに薄暗い館を歩き回るのは危険ですもの」

「そうかよ。はぁ……」


 北郷の言う事は正しい。連絡手段も持たないのに薄暗い建物内を歩き回り、消えた人間を捜索する。一切の装備を持たないで山登りをするようなものだ。探さないと決断を下した彼女達は利口な方だと俺は思う。だからこそ俺はバカな大人達に溜息を吐いた。何が霊圧を使うのはどうかと思うだ、何が見つけてもらわなきゃ困るだ、何が外へ連絡されそうで困るだ。ふざけるな


「溜息を吐く前に悪態をついた事への謝罪が先なのではなくて?それから、貴方がスマホを持っている事への説明もしていただきますわよ」


 北郷のこの一言で俺の中の何かがプツンと音を立てて切れた。相当虫の居所が悪かったんだろう。普段なら弁解し、今後の動きをもう一度話し合おうと持ち掛けてた場面だ。しかし……


「うるせぇよ!!」


 ガラにもなく大声で怒鳴ってしまった。これには今まで雑談をしていた他の生徒も驚いたらしく、皆一様に目を丸くして俺を見る。んで、怒鳴られた北郷はというと……


「な、何ですの!? ど、怒鳴る事ないでしょ!!」


 涙目になってた


「ガタガタうるせぇよ!! 少しは黙ってるっつー事が出来ねぇのか!! アァ!! あー! もうめんどくせぇな!!」


 説得?捜索?知るかそんなモン。学校やクラスを超えた交流なんて俺は望んじゃいねぇ。かくれんぼを企画するのも忽然と姿を消すのも構わねぇ。だが、探させる気があるなら連絡手段を取り上げんなってんだ。本当にめんどくせぇ。


「ま、まぁまぁ、落ち着いてよ灰賀君。みんな怯えてるしさ?ね?」


 苦笑を顔に張り付け、どうにか俺を落ち着かせようと瀧口がこちらへ来た


「黙れ……」


 そう言って俺は瀧口────いや、この場にいる生徒全員に軽く霊圧をぶつけた。


『きょう! ダメ!』

『止めて恭様!!』


 幽霊二人が止めるも時すでに遅し。俺の霊圧に当てられた瀧口達は……


「は、灰賀君……、な、何を……」

「灰賀、アンタ……」

「こ、これは卑怯ですわよ……」


 全員その場に座り込んだ。事情を知らない者達は口々に身体が重いと訴える。当たり前だ。俺が当ててる霊圧の量は軽く見積もって10キロ。1.5リットルのペットボトル約七本分程度。そんだけの量を一気に当てたんだ。座り込むのも当然と言える


「黙れと言ったのが聞こえなかったのか?その耳は飾りか?あ?」

「「「ひっ!?」」」


 俺が睨みつけると瀧口達は短く悲鳴を上げる。ただ、10キロ分の重石が乗ってる状態だから身を寄せ合おうにも身体は動かせない状態だ。で、早織と神矢想花は……


『止めなさい!! きょう!!』

『今すぐ霊圧を抑えなさい!!』


 俺を止めるべくバカみたいに怒鳴ってた。まぁ、この二人も睨んで黙らせたけど。



 同級生達と幽霊二人組を黙らせたところで俺は当ててた霊圧を引っ込めたのだが……


「灰賀君って怒ると怖い……」

「こ、これからは灰賀を怒らせないようにしよう……」

「ご、ごめんなさい……これから言動には気を付けますわ……」


 瀧口、求道、北郷の三人は死んだ魚のような目で虚空を見つめ、零達は……俯いてブツブツ何か言ってた。その他同級生達は『灰賀君怖い』を連呼してるだけ。薄暗く不気味だった食堂は一気に地獄へと変わり果てた。俺はというと……


「さて、大人しくなったところで次は教師陣だ」


 標的を同級生達から教師陣へと変え、どうやっていぶり出してやろうかを考えていた

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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