十分程度の休憩を挟み、その後ゲーム再開となり、現在─────────
「ザコ艦隊の相手も飽きてきたし今回はこの辺で止めとくか」
オンライン対戦でひたすらザコ艦隊を撃退し、ちょうどいい頃合いなのでゲーム終了を提案していた
「そうだね。手ごたえのない人達を相手にするのも飽きてきたからいいんじゃない?」
俺の言葉に同意したのはheightこと高多茜。俺と茜だって最初は初心者のザコからスタートし、コツコツとレベルを上げてきた。それを考えると相手をザコとか手ごたえがないと言うのは失礼にあたり、決して当人達には聞かせられない。まぁ、相手は初心者じゃなくてそれなりの手練れだったんだけど
「私もさすがに疲れたからそれでいいよ」
飛鳥も同じだったらしく、軽く体を伸ばしながら答える。
「んじゃ、満場一致でゲームは止めるという事でいいな?」
「「うん!」」
俺達はログアウトし、各自パソコンで自由にネットサーフィンとしゃれ込もうとしたその時────
「あ、そうそう、恭クンに伝える事があったの忘れてた」
唐突に飛鳥が何かを思い出した。それが何なのか俺には分からず、茜と二人で疑問符を頭に浮かべた
「何だよ、伝える事って」
飛鳥に限らず俺が知らされる事というのは碌な事じゃないのはここ最近の経験で分かり、聞く前から憂鬱になる。特にこの旅行中のどこかでドッキリを仕掛けられると分かっている今なら尚更だ
「零ちゃん達がドッキリを仕掛ける日取りなんだけど────────」
じりりりりん! じりりりりん!
飛鳥の言葉を遮り、俺のスマホが鳴った。それとほぼ同タイミングで二人のスマホも鳴る
「ったく、取り込み中だっつーのに……誰だよ?」
タイミングよくなったスマホを恨めしく思いながら俺は恨みの元をポケットから取り出し通話ボタンを押そうとした
「出ちゃダメ!」
押そうとしたところで慌てた様子の飛鳥にスマホを奪われる。ドッキリの日取りに関する話が挙がったこのタイミングで誰からかは知らないけど電話が鳴る……。俺達の中の一人だけのスマホが鳴ったなら友達の用事か仕事の用事だと気にも留めなかったけど、三人のスマホがほぼ同じタイミングで鳴る。怪しむなという方が無理だ
「な、何だよ……」
いつもの飛鳥なら鳴っているスマホを奪うだなんてせず、むしろ鳴ってる事を教えてくれさえするのに今回に限ってはそうじゃなかった
「グレー、ドッキリが始まったんだよ」
今まで黙っていた茜が口を開いたと思ったら意味不明な事を言い出した。彼女の口調からドッキリをするという事は知らされていたらしい。飛鳥の話じゃ零達が企画を提案したらしいってのとこの旅行中に何かしらのアクションがあるという事も聞いていた。中身はともかく、何で茜がドッキリの存在を知っているんだ?
「ドッキリが始まったって、電話鳴っただけだろ?それのどこがドッキリ開始なんだよ?確かに三人のスマホが同時に鳴るってのは変だけどよ」
テレビ番組なんかのドッキリは仕掛けられた側からすると始まりも終わりも突然だ。突然ドッキリを仕掛けられ、突然プラカードを持った仕掛け人ないしスタッフが登場して終了。それが王道だと思っていたし、実際どの番組もこれが基本スタンスになりつつある
「グレーは旅行中のドッキリイベントについてどれくらい知ってるの?」
今度は突然茜から今回のドッキリイベントについて把握しているか聞かれ、ただでさえ分からない事が多いのにさらにそれが増える。
「茜が何でドッキリの事をしているのかは後で聞くとして、俺が知っているのは内容が特撮ドラマの丸パクリ、今の二十代後半の特撮好きに聞いたら大半の人がトラウマになったと答えるのは間違いないらしい事くらいだ」
今の二十代後半の特撮好きに聞いたら大半の人がトラウマになったと答えるのは間違いないという事はその特撮がリアルタイムで放送していた当時は手紙にあった二十代後半とされる人達は子供で幼いながらに恐怖心を植え付けられたという事だ。当たり前だけど俺はそんなの知らない
「そっか、じゃあ具体的にどんな事をするのかは知らないんだ……」
「ああ。っつっても最初この部屋でコーラ飲もうと冷蔵庫を開けた時に手紙を見て知ったからほとんど何も知らない状態だ」
手紙にはドッキリを未然に防ぎたい旨しか書いておらず、具体的な内容までは書いてなかった。当然、何がドッキリ開始の合図なのかも。まぁ、ドッキリ開始時にターゲットに合図なんて送るバカはいないけどな
「グレー、私がドッキリの存在を知っている理由は後で話すからとりあえずモニター見てくれないかな?」
俺は言われた通りモニターを見る。このモニターはホテルの至るところに仕掛けられた監視カメラの映像を見る事が可能だから当然、ホテル全体の様子を見られるわけなのだが、今回に限って言えばホテル全体が異様な空気になっている。
「何だよ……これ……」
俺の目に飛び込んできたのは零達を始めとする大勢の人達が映ろな目をしてホテル内を徘徊している様子。疑問なのは何で従業員までもがこんな事をしているのかだ。
「何だよって見ての通りだよ、恭クン」
「そうだよ、グレー。見ての通りだよ」
「見ての通りって……」
顔色一つ変えずに見ての通りだという飛鳥と茜。彼女達からすると見ての通りなんだろうけど、俺からすると異様な光景だ。これはドッキリじゃなくてかなりヤバいかくれんぼだ
「零ちゃん達が恭クンを驚かせようと考案し、キミのお爺さんが企画したドッキリだよ」
「飛鳥ちゃんの言う通りだよ。ちなみに、このドッキリはウチの事務所に所属している声優が芝居の幅を広げるための修行も兼ねてるから」
今ので茜がドッキリの存在を知っている理由に合点がいった。要するにだ、この旅行に株式会社CREATEの面々が参加しているのは芝居のレパートリーを増やすための強化合宿ってわけで前もって知らされてたからこのアホアホ企画の存在を知っていたってところか
「こ、こんなんで芝居の幅が広がると本気で信じているのなら頭が痛い……」
表に出て芝居をする方々なら虚ろな目をしなきゃいけなくなる時も出てくるだろうからこのドッキリも芝居の練習にはなると思う。しかし、茜や盃屋さんを始め、この合宿に参加している芝居を職業としている人達はメインがマイク前で表に出て芝居をする確率などゼロとは言わないが、多くはない
「わ、私はこんな事して本当に芝居の幅が広がるとは思ってないよ?」
手をワタワタさせ、必死に誤魔化そうとする茜だが、俺はまだ彼女に対しては何も言ってない
「はいはい、そうだね、こんな事しても芝居の幅は広がらない広がらない」
「むぅ~、私の事信じてないでしょ?」
茜は頬をリスみたいに膨らませ、こちらを睨んでくるが、信じてないとは一言も言ってない
「茜を信じてないとは一言も言ってない。このアホ連中をどうしようかとは思ったけどな」
零達を含むこのホテルを徘徊している連中をどうしてやろうか?こんなホラー見せられても俺は困るだけだぞ……
「恭クン、零ちゃん達どうするの?」
「どうするかなぁ……。捕まえて話を聞くのは確定だが、問題はその方法なんだよなぁ……」
零達の動きを封じるのは簡単だ。霊圧当てるだけだもん。動きを封じるだけならそれでよく、すぐにでも実行可能だから手間という手間は掛からない。しかし、このホテルは広く、零達はホテルの至る所を徘徊している。まるでゾンビのように
「だ、だよね……零ちゃん達、至る所を徘徊してるから捕まえるとなると難しいよね……」
飛鳥の言うように至る所を徘徊している人達を一網打尽にするのは無理ではないにしろ簡単ではない
「ああ。今のままじゃ捕まえるのは難しい。けど、一か所に集めてしまえばどうという事はない」
そう。今はホテルの至る所を徘徊しているから捕まえるのが難しいってだけで一か所に集めてしまえばどうという事はない
「簡単に言うけど何か策はあるの?グレー」
「策っつーか、徘徊してる連中をエサで釣って大ホールにおびき出すっていう短絡的な発想ならある」
幸いな事にここには飛鳥と茜がいる。これが何を意味するかなど考えるまでもなく、零達と爺さん達を捕まえるのには飛鳥に、株式会社CREATEの連中を捕まえるのには茜に協力してもらえばいいという事だ
「エサで釣るって言っても何か零ちゃん達が飛びつきそうなもの持ってるの?」
「零ちゃんって子達の事はよく知らないけど、ウチの事務所の人達も一か所に集めるだなんて本当に出来るの?」
ジト目で俺を見る飛鳥と茜に俺は────────
「飛鳥と茜が協力してくれればこのホテルを徘徊してる連中は一発で一か所に集まるだろ」
と宣言してやった
「「はい?私達?」」
「ああ。この作戦には飛鳥と茜の協力が必要不可欠だ。オマケに二人にはメリットしかないんだが……協力してくれるか?」
俺の考えた作戦は完璧だとは言わない。言えるのはこの作戦を実行するにあたり、飛鳥と茜にはメリットしかなく、デメリットなど存在しないという事だ
「私は恭クンが言うなら協力するけど先にキミが言うメリットを聞かせて」
「私も飛鳥ちゃんに同意。協力はするけど、メリットを先に聞きたい」
「メリットは────────」
俺は正直に飛鳥と茜がこの作戦に乗った時に得られるメリットについて話す。正直、考えておいてなんだが、今になって僅かながらに罪悪感が沸くものの、このドッキリを終わらせるためには仕方ない。結局ホテル側の未然にドッキリを防ぎたいという願いを叶えてやる事は出来ず、不甲斐なくはあるものの、零達を捕まえれば全てが明らかになる。ホテル側の主張の真意を含めて
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