高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

今日の想子はどこかおかしい

公開日時: 2021年8月9日(月) 00:09
文字数:3,418

 琴音の日が終わり、今日は想子の日。自由を重んじてはいないが、こうも日によって共に過ごす人間を決められるとラノベなんかでよくある好意を寄せてくれる人と一日を過ごし、一緒にいて楽しかった人を最終日に決めるなんてベタな展開を嫌でも思い浮かべてしまう俺がいる


「で? 何で俺は手錠を掛けられているんだ?」

「そんなのご主人様が逃げ出さないようにするために決まってるじゃないですか!」


 早朝。俺は柔らかな感触とふんわりとしたシャンプーの香りで目を覚ました。両手に違和感を覚え、確認して見ると手錠が。で、普段の俺なら同居人全員を疑うのだが、今日は想子の日。こんな事をする奴は一人しかいないわけで、現在その犯人を絶賛尋問中だ。両手が使えない状態だからどっちが尋問してる側か分かったものじゃないけどな。ちなみに零達は余計な気を使ったのか手錠されてる俺をガン無視。朝飯を食うと早々に各々が出て行った。学生組は学校へ、社会人組は仕事へ、幽霊組は……分からん。俺を見捨てて逃げてったのだ


「逃げ出さないんだが……過去が過去なだけに疑う気持ちも理解できんわけじゃねぇけどよ」


 零達同様、想子も人に見捨てられたり、離れて行くという事に関して臆病になっている節がある。蒼と碧の双子、センター長や幽霊組、母娘や加賀達は知らんが、零達は孤独を極端に恐れている。だから監禁や拘束が当たり前なのだが、何もしてないのに手錠される意味は全く理解できん


「ご主人様は想子の事をよく思ってらっしゃらないじゃないですか? ですから、今日はそんなご主人様に想子の事をよく知ってもらうために手錠で拘束させてもらいました!」


 何を言ってるのか全く理解できん。俺のバカさ加減はとうとうハザードレベルマックスになってしまったらしい


「よく知るのと手錠と何の因果関係があるんだよ……」


 手錠をされてるのは両手だけ。両足の自由は利く。つまり、俺は逃げ出そうと思えばいつでも逃げ出せるのだ。右か左、どちらかの手が想子の手と繋がれてるわけじゃねぇしな


「あります! 手錠で両手が不自由なご主人様に想子が献身的にお世話を焼く……そうしたら少しは想子への印象が変わるでしょ?」


 頬を赤らめる想子はさながら恋する乙女。言ってる事がアレだけど。つか、世話なんか焼かれなくてもスクーリングで再会した時に印象は変わってるんだがなぁ


「印象ならスクーリングで再会した時に変わっている。つか、今日平日だよな? 仕事はどうしたんだよ?」


 何時は分かんねぇけど、今日は平日。時間によっては出勤してないとそろそろ家を出なきゃマズい。零達が出て行ったという事は多分、家を出ないといけない時間は当の昔に過ぎている。時間見てないから分からんけどな


「行きますよ?」

「だったらこんな事してる場合じゃねぇだろ。俺なんて着替えてすらいないんだぞ?」


 今の俺はスエットにTシャツ。ちょっとコンビニまで行くのならこの恰好で問題ないが、想子の職場────灰賀女学院に行くってなると着替える必要がある。みんなちゃんとした恰好なのに俺だけラフ過ぎる恰好ってわけにもいかないしな。まぁ、ちゃんとした恰好と言ってもスーツなんだけどな


「そうですね」

「だったら一度手錠を外してくれ。このままじゃ着替えられん」

「逃げませんか?

「逃げねぇよ。こんな格好でどこに逃げるってんだよ。それより、さっさと手錠外せ」

「本当ですか?」

「本当だ。逃げる意味がないからな」

「信用できません……」


 足は自由だからいつでも逃げ出せるんだが……これで逃げられたらどうしようって不安がってるのかよ……コイツはバカなのか?


「はぁ、信じられねぇなら想子が着替えさせてくれ」


 信じろ信じられないの押し問答をするつもりは毛頭ない。想子が疑ってかかっているというなら全力で世話をしてもらおうじゃないか


「えっ?」


 目を丸くし、意外そうな顔をする想子。その顔には予想外だったとハッキリ書かれている


「逃げるんじゃないかって疑ってるんだろ? だったら着替えさせてくれよ。そうすれば常に見張ってられるだろ?」

「そ、そうですけど……ご主人様は着替えを見られるの恥ずかしくはないのですか?」

「恥ずかしいに決まってるだろ。だが、疑われたままよりかはマシだ」


 口では恥ずかしいと言ってみたが、実はそんなに恥ずかしくはない。理由は簡単だ。想子が同居してから彼女もなのだが、日頃彼女達と共に入浴してるからだ。彼女達は俺の下着姿を見てるし、俺は彼女達の下着姿を見ている。要するに慣れてしまったから今更羞恥心など感じないのだ


「ご主人様……」

「はぁ……早いとこ手錠外して着替えさせてくれ」


 俺は想子の手を借りて着替える事になった。ちょっと夫婦みたいだなと思ったのは内緒にしておこう





 着替えが終わったところで時間を確認すると時刻は午前十時。完全に遅刻だった






「……何でだよ」


 灰賀女学院に着いて真っ先に向かった先は職員室。他の教師から向けられる暖かな視線が痛い。女学院の外観が洋風なのは婆さんの趣味なんだろう。それよりも今は遅刻しても怒られなかった理由だ


「何でって理事長にご主人様の相手が当番制なのはお伝えしてありましたから」

「マジでか」

「マジでです」


 言い忘れていたが、俺達が到着した頃にはちょうど三時間目が始まっていた。普通なら遅刻した事をドヤされたりするのだが、何のこっちゃない。ドヤされるどころか普通に対応されてしまった。解せぬ。で、今事情を聞いているところなのだ


「伝えてあったとしても遅刻した事は咎めようぜ」

「咎めませんよ。ここの職員全員ご主人様の素行知ってますから」

「初耳なんだが……」

「初めて言いました」


 同居人達だけならいざ知らず、女学院の教師陣にまで俺の行動パターンが把握されてるとは思わなかった。納得いかねぇ……


「納得いかないんだが……」

「納得いかなくても納得してください」

「無茶を仰る」


 周囲に視線を移すと教師陣全員が無言で頷いている。どうやら彼女達も想子と同じ意見らしい


「無茶でも納得してください」

「無茶を言うな」


 自分の知らないところで行動パターンを把握されてます。納得してくださいと言われてはいそうですかとはならない。納得しろって言う方が無理だ。灰賀女学院教師一同が俺の行動パターンを把握してる理由は知りたくない。理由聞いたら俺の精神的疲労が増す。俺の行動はどう足掻いても把握される。自分にそう言い聞かせた





「どこに行くんだよ?」


 想子に手を引かれる形で職員室を後にした俺。出てからというもの、先程から無言で手を引かれるばかりでどこへ連れて行かれるのか皆目見当もつかない。一体どこへ連れて行こうというんだ?


「…………」


 さっきからずっとこの調子。勘弁してくれよ……


「な、なぁ……」

「……もうすぐ着きますよ」

「もうすぐ着くってどこにだよ?」

「着けば分かります」


 それ以降彼女は再び口を閉ざした。着けば分かると言われてもなぁ……分からないから聞いたんだが……本人が分かるって言うなら大人しく付いてくか





 着けば……分かった。あくまでもここがどこだか分かっただけで連れてこられた意味は全く分からん。薬品の匂いにベッド。棚には所狭しと並んでいる薬品。紛う事なき保健室。どうして俺は保健室なんかに連れ込まれてるんだ?


「俺は至って健康だし、眠くもないんだが……」


 特に体調が悪いわけでも眠たいわけでもないのに保健室に連れ込まれた意味が理解できない


「知ってますよ。ここへ連れて来たのはご主人様にある事をしてほしいからです」

「ある事?」

「キスです」


 前言撤回。俺は体調不良だ。耳が悪くなった


「悪い、もう一回言ってくれ」

「ですから、私にキスしてください」

「ここがどこだか解かってて言ってるのか?」

「もちろんです。以前の私なら学校で……それも生徒とキスするだなんて絶対に許しませんでしたし、許せませんでした。ですが、あの頃の私はもういません。今の私はご主人様とキスがしたいだけなんです」


 切なげな顔をしているが、今の想子は己が願望に突き動かされているだけで理性もへったくれもない


「したいだけって言われてもなぁ……誰かに見つかったら色々ヤバいだろ」


 俺は灰賀女学院の生徒ではない。しかし、教師が生徒とキスをするのがマズいのは察しが付く。実際問題、キスを迫って捕まった教師がいるって話を小耳に挟んだ事あるしな


「それは問題ありません。生徒達には前もって告知してますから」


 俺は彼女のこの一言に言葉を失った


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