高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

俺は幽霊になった

公開日時: 2021年2月5日(金) 23:34
文字数:4,637

『お袋、さすがにこの格好は恥ずかしい』

『え~! お母さんは恥ずかしくないよ~』


 現在自室にて俺はお袋に膝枕されている。え?何で幽霊のお袋に膝枕されているかって?そりゃ俺も幽霊になったからに決まってるだろ


『いや、誰もいないならまぁ……いいとしてだ。ここには零達がいるだろ?そんな環境で自分の母親に膝枕とか恥ずかしすぎるだろ』

『むぅ~! お母さんはちっとも恥ずかしくないのにぃ~』

『お・れ・が! 恥ずかしいんだよ!』


 高校生にもなって母親に手放しで甘えられるか?答えは否だ


「諦めなさい。早織さんは意地でもアンタを離さないつもりよ。それに、恭が膝枕されてる姿は見ていて面白いわ」


 雑誌から目を離さず零はポテチを食べながら平然と言う。


『面白くないっつーの! 高校生にもなって母親に膝枕とか恥ずかしいだろ!』

「そう?幽霊とはいえお母さんが側にいるだけマシでしょ。っていうか! 早く身体に戻りなさいよね! いつまでその状態を続けてるのよ! アタシが寂しいじゃない!」


 喧しいわ! 俺だって戻れるものなら戻りたいわ!


『俺だってそれが可能ならとっくの昔にそうしてる! それが不可能だからこんな状態なんだよ!』


 俺が今の状態になった原因は体育の授業があった次の日、登校中にひき逃げ事故に遭ったからだ。それは些細な事で片付けてはいけないのだが、今は些細な事として、問題は思った以上に身体の損傷が激しく、回復に時間が掛かる。病院に駆け付けた東城先生に医者がそう説明した。


「それは知ってるわよ。アンタの病室に行った時に見たもの」


 零達が俺の病室を訪れた時、てっきり泣き崩れるのかと思っていた。事実、入って来た時の零達は涙で顔がグチャグチャだったしな。俺だって『あっ、こりゃ死んだな』って思ったくらいだ。実際は泣きながら入って来た零達に声を掛けたら涙を流しながら説教を始めたってんだからシリアスもクソもない


『だったら言うなよ。つか、いつになったら俺の身体は回復するのやら……』


 お袋曰く魂だけ離れても平気らしい。それを聞いた俺は病院なんて退屈な場所よりも家にいた方がまだマシだと思い、帰って来た


「まぁまぁ、灰賀君。先生もお見舞いに行ったけど、頭と腕に包帯してたし、藍ちゃんの話じゃ全治一週間だけど、意識はいつ戻るか分からないらしいよ~?」


 お袋同様、能天気な武田センター長。彼女に俺が見える理由は単純明快。同居が決まった日に怪現象の原因を全て話し、零達同様、霊圧を分けたからだ


『い、一週間っすか……』

「うん~。その間は出席停止扱いだから心配しなくてだいじょ~ぶ!遅れている分の授業は先生と藍ちゃんで補講するから~」


 出席停止ってインフルとかの感染症になった場合とかになるんじゃ……センター長が出席停止って言ってる以上深くは突っ込むのは止しとくか


『あ、ありがとうございます……』


 本当は違うのではないか?と思いつつ俺はセンター長のご好意に甘える。学校のトップがそう言うのであれば東城先生はともかく、一般のモブ教師ごときが逆らえない。どんな組織でもトップの力というのは偉大だと身をもって体感した


「いいのいいの~、灰賀君には新しい校舎を提供してもらったっていう恩があるから」


 爺さんから押し付けられそうになったスーパーマーケットの空き店舗を提供しただけなのだが、人の好意は素直に受け取るのが俺。貰えるものは貰っとく


『まぁ、あんなもので満足して頂けてるのであれば俺も嬉しいです』


 身体は今も病院で昏睡状態なのに魂だけは自分の家にいて同居人達と何ら変わらない日常を過ごしている。違和感しかない


「灰賀君からしてみればあんなものかもしれないけど、星野川高校からすると大助かりなんだよ?」

『そう言われればそうかもしれませんね』


 捨てる神あれば拾う神あり。それはそれとしてだ。俺はいつ自分の身体に戻れるんだ?


『きょう~、先生とばかりお話してないでお母さんも構って~』

『はいはい』


 犬のようにじゃれてくるお袋を見ると別に戻らなくてもいい。そんな気がしてきた。つか、このままでもよくね?幽体だったら暑さ寒さを感じる事ねーし


『きょう~、頭撫でて~』

『了解』


 差し出されたお袋の頭をそっと撫でる。この人は本当に俺の母親なんだろうか?もしかしたら親戚の姉ちゃんだったりしない?


「恭、アンタ随分と手慣れてるわね」


 お袋の頭を撫でてると冷めたような目で俺達を見る零が


『別に慣れてないっつーの!』


 人の頭を撫でるのに慣れてるんじゃなくて今のお袋が犬みたいで犬を撫でる感覚でやってるから手慣れているように見えるだけだ


「そうかしら?」

『そうだよ。俺が人の頭を撫でる事に慣れてるわけないだろ』


 自分で言ってて悲しくなってくるが、俺には頭を撫でるような相手はいない。同性でも異性でもな


「まぁ、恭の過去を聞いてる限りじゃそうよね。頭を撫でる相手なんていなさそうだし」


 口論にならなかっただけマシだが零、その言い方は傷つくぞ


『言い方に悪意が垣間見えるのは置いといてだ。零』

「何よ?」

『今日平日なのに何でお前ここにいるんだ?』


 言い忘れていたが今日は平日。普通に仕事や学校がある日だ。ちなみに曜日は水曜な


「何でって、今日は学校自体休みよ?知らなかったのかしら?」

『知らなかったですねぇ。俺が灰賀女学院の休校日とか知るわけないだろ』


 灰賀女学院が婆さんの作った学校だというのは知っている。むしろそれしか知らない。したがって休校日なんて以ての外だ


「アタシの事はともかく、アンタ、自分の学校のセンター長が普通に家にいる事に突っ込みなさいよ」


 全くその通り。零は学校が休みだからここにいる。それよりも何でセンター長が?零に言われるまで違和感を感じなかった俺も俺だけどよ


「私は午後から出勤するよ~?元々そういう予定だから~」

『だ、そうだ』

「そう。元々そういう予定ならアタシがとやかく言えた事じゃないわね」


 この後、俺はお袋の頭を撫で続け、零は雑誌を読みふけっていた。で、センター長は何やらパソコンで作業をする。それぞれが自由な時間を過ごしたのだ。そんな時、俺はふと零と同じ学校に通うもう一人がいない事に違和感を覚えた


『ところで闇華はどうした?』

「闇華ならアンタの身体を拭きに琴音と病院よ?知らなかったの?」

『ああ、知らなかった』

「そう言えばアンタ、今朝はグッスリだったわね」

『ああ。誰にも起こされなかったからな』


 普段なら寝苦しさで起きるか誰かしらに起こされるかで不本意ながら目を覚ます。この状態になってからは寝苦しさはもちろん、誰かしらに叩き起こされるなんてない。いや、本当は霊圧をぶつければ幽霊でも起こす事は可能らしいが、俺の霊圧が強すぎて零達が束になっても俺を起こすのは不可能らしい。お袋がそう言ってた


「はあ……」


 文句を言わずただ溜息を吐く零はやれやれと肩を竦める。あれか俺は今、手のかかる子供扱いされてないか?


『何も言わずに溜息は止めて?何か自分が手のかかる子供みたいに思えちゃうだろ?』

「そう思うなら自分で起きる努力をしなさい」

『はい……』


 正論を言う零に返す言葉なく撃沈する俺。自分で言うのもなんだが結婚したら尻に敷かれるビジョンしか見えない



 そんなある種絶望的な将来は置いといて、時は経ち、闇華と琴音が戻り、昼食の時間。とは言っても俺とお袋は食えないから見ているだけしか出来ない。ちなみに今日のメニューは肉野菜炒め定食のようだ


『腹が減らないからいいけどよ、何もしないってのはマジで退屈だよな』


 零、闇華、琴音、センター長が昼食を摂る中、俺は暇を持て余していた


『そうでもないよ?お母さんはきょう達がご飯食べてるところいつも見てるけど、面白いよ?』


 人の飯食ってる姿見る事の何が面白いんだよ?


『悪いお袋。何が面白いのか理解不能だ』


 グルメ番組にも同じ事が言える。人が飯を食っているところを見ているだけというのは非常に退屈だ。リポーターが食レポしているとはいえアレだってただ見ているだけじゃ退屈な上に食レポが下手な芸能人がやるとマジで退屈。まぁ、こういう店があるんだという新たな発見にはなるけど


『え~、きょうもそうだけど、嫌いな食べ物を避けてる姿とか結構面白いのに~』

『それの何が面白いのか分からん』


 お袋は面白いの基準がどこかズレてね?


『じゃあ、実際に見てみよっか。まずは零ちゃんね』


 そう言ってお袋はそっと零の近くへ。俺もお袋に倣い、零の側へ。すると……


「ぴ、ピーマン入ってる……アタシピーマンだけは苦手なのよね……何でピーマンなんて存在するのかしら……」


 小声でピーマンへの不満を漏らしながらピーマンだけを丁寧に避ける零。お前、ピーマン苦手だったんだな


『零がピーマン苦手だって初めて知ったわ』

『でしょ~?零ちゃんの新しい一面を知れたんだから少しはお母さんに感謝しなさい!』


 ドヤ顔で胸を張るお袋。確かに零の新たな一面を知る事は出来たが、別に知らなくてもいい一面だ


『してるしてる。ちょー感謝してる』

『きょう棒読み~、本当に感謝してる~?』

『ああ、零と喧嘩になった時に弱みとして使えそうだなって思う程度には感謝してる』


 言ってる事は最低だが、実は零がピーマン嫌いだって事なんてマジで使いどころがない。握るならもうちょっと強烈な弱みの方がよかった。夜な夜な一人でおままごとしてます的な


『きょう、さいてい~』

『ピーマン嫌いなんて使いどころないんだよ。それに、俺は人の弱みに付け込む趣味はない。今のはものの例えだ。それはそうと次は闇華のとこ行こうぜ?』


 話を早々に切り上げ、次は闇華の側へ。すると……


「に、ニンジン……はぁ……」


 肉野菜炒めに入ってるニンジンを目の前にして深い溜息を吐く闇華がいた。もしかしなくても闇華って……


『なぁ、お袋』

『何~?』

『闇華ってもしかしなくても……』

『うん、ニンジン苦手みたいだよ~』


 反応を見て薄々はそうじゃないか?とは思っていた。聞いてみると案の定闇華はニンジンがダメみたいだ


「はぁ……ニンジンとか滅びないですかね……」


 ニンジンを目の前にして物騒な事を呟く闇華。零はまだピーマンの存在意義に疑問を持っていた程度だが、滅びろと言ってる時点で相当嫌いだというのは言われるまでもない


『零より物騒な事言ってるのは気のせいだよな?』

『気のせいじゃないよ~?滅びろとか言ってるよ~?』

『ニンジンに親でも殺されたんですかねぇ……』

『さぁ~?』


 ここに来て闇華の闇は相当深いという事を知ったところでお次は琴音の元へ


「自分で作っておいてなんだけど、どうしてピーマンとニンジン入れたんだろう……本当は超が付くほど嫌いなのに……」


 こちらはこちらでピーマンとニンジンのダブルパンチだったようだ。苦手なら何で入れたんだよ……


『琴音は零と闇華のハイブリッドだったか……』


 零、闇華同様目の前の皿にあるピーマンとニンジンを見て途方に暮れる琴音。思い返してみると夕飯にピーマンとニンジンってあんま出てこなかったような……


『琴音ちゃんはニンジンとピーマンの苦みがダメでこの世から消し去りたいと思うくらい嫌いだって前夜な夜なボヤいてたよ~』


 何それ怖い


『知りたくなかったよ。そんな事実』


 琴音が夜な夜なピーマンとニンジンに対して恨み言を言ってる事実を知った俺はセンター長の元へ向かうも彼女は好き嫌いせずに完食してたので特に面白味を感じなかった。結局は零、闇華、琴音の嫌いな物が子供の嫌いな物だったというしょうもない事実を知るだけの昼食だった事を言っておく


今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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