高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

今回ばかりはお手上げだ

公開日時: 2021年2月9日(火) 23:28
文字数:4,142

「あ、貴方は私のどこを見て人から信頼されてないと思ったの?」


 努めて冷静であろうとする神矢想花は余裕の笑みが引きつっている。特に口元なんてヒクついており、今の言葉は彼女にとって図星だったらしい。


「聞くまでもないだろ?お前のものの言い方だよ。男と見りゃ相手が目上であろうと年下であろうと罵倒してりゃ異性はもちろん、同性だってコイツはヤバい奴だって察して逃げてくぞ」


 同性に限定すると男に襲われてるあるいは理不尽な事で怒られている場面で神矢想花と初体面を果たしたのなら慕われていたケースもあると思う。その信頼も男なら立場とか関係なしに罵倒していたらいずれは失う。学校でも職場でもトラブルメーカーと好き好んで一緒にいたい奴なんてまずいないからな


「そうかしら?低俗な男はともかく、か弱い女性は私を慕い、頼ってくれると思うのだけど?」

「それは最初だけだ。結局アンタは男なら立場とか関係なしに罵倒し、低俗、低能と決めつけるだろ。確かにか弱い女性は慕ってくれたり頼ってくれたりするだろうよ。だが、それだって所詮は最初のうちだけ。トラブルメーカーだって分かったらすぐに離れて行くさ」


 なんて偉そうに言ってはいるものの、俺は人生経験豊富な方ではない。長引けばこちらが不利になり、最悪の場合、真央は神矢想花に乗っ取られたままになってしまう。そうなってしまったら俺に残された手段は強引に追い出す以外にない


「まるで自分は人生経験豊富ですと言わんばかりの言い草ね。この私に意見するだなんて」

「いやいや、俺は人生経験豊富な方ではないぞ?ただ、お前みたいな奴に決めつけだけでものを言って消息不明になったバカな女を一人知ってるってだけだ」


 そのバカな女は言わずもがな、神矢想子。かつて自分の価値観を押し付け、その結果、消息不明になった。いや、消息不明は言いすぎか……正確には灰賀女学院に連行され婆さん指揮の元、再教育されてる……で合ってるよな?いかんせん、あの女に関しては情報がないからその後どうなったか全く分からない


「その人とは気が合いそうね。是非ともお話してみたいものだわ」


 気だけじゃなくて苗字も合うと思うぞ?同じ神矢だし


「それはアンタが無事に真央の身体から出れたらな」


 神矢想子を見ていると真央の身体から出る気が感じられず、同時に真央の身体に留まってやろうという気も感じられない


「それは無理ね。別に身体なんて女性のものであれば誰でもよかったのだけど、今乗っ取っているこの身体は居心地がいいわ。まぁ、頂上で見つけた時から女として同じ匂いがしたから波長は合うとは思っていたけれどここまでとは思わなかったわ」


 彼女が何を言っているか分からない……。女として同じ匂いがした?波長が合う?神矢想子と灰屋真央─────。この二人の共通点を見つけられない俺にとって何をどう解釈すれば彼女達が同類になるか理解できない


『それって真央ちゃんと想花ちゃんは心に同じ傷を負っているって言いたのかな~?』


 今まで黙っていたお袋が口を開く。真央と想花が心に同じ傷を負っている?


「あら、そちらの人は私達の事を理解してるのね」

『まぁね~』


 何から突っ込めばいいのやら……。いきなり出てきたお袋にビビらないところか?お袋の姿が見えて会話出来ているところか?それとも、真央と想花の共通点を理解しているところか?


「どこから突っ込めばいいんだよ……」

『どこからって何が?』

「この状況だよ! 真央はお袋の姿にビビるどころか見えてて普通に会話をしている。おかしいだろ!」


 俺の記憶違いじゃなきゃ真央はお袋の姿は見えないし会話も出来ない。俺は状況が状況だったし零達には前もって説明してあったから特にビビる事はなく、親父と夏希さん、由香も同様。だけど、普通の人ならビビるのが当たり前のはずなんだがなぁ……


『別におかしくないよ~。真央ちゃんはそうかもだけど、今は想花ちゃんで幽霊が身体に入ってるんだから同じ幽霊のお母さんが見えるのは当然でしょ~?』


 当然でしょ~?と言われてもこの手の話に疎い俺はどう返していいのか分からない。まぁ、専門家であるお袋が言うならそうなんだろう


「そうだったのか……。それはいい。んで?真央と想花のどこに共通点があるってんだよ?」

『きょうは真央ちゃんと山へ散策しに行った時に本人から昔虐められてた~って話聞いたでしょ?』


 お袋の言うように俺は送迎バスの中で真央が昔虐められていた話は聞いた。しかし、聞いたのは小学生時代のものであり、それ以降の話は聞いてないし、別に聞こうとも思わない


「ああ、そんな話されたな。俺が聞いたのは小学生時代の話でそれ以降の話は聞いてねーけど」


 盃屋真央という人間に興味がないわけじゃない。小学校時代から先の話を聞かないのは無理して嫌な話をさせる必要がないのと調べれば出てくるからだ


「なら話は早いわ。私も昔虐められてたの。ほら、私って美人でしょ?」


 ある意味で驚きの真実。だけどな、元を知らない俺に美人でしょ?だなんて言われてもどう返せばいいんだ?


「知るか。元を知らない俺が美人でしょ?って言われても答えに困る」


 もっとも、俺は人の容姿に興味なんて全くないから元の神矢想花が美人だろうとどうでもいい


「それもそうね、まぁいいわ。話を元に戻しましょう。貴方、私をトラブルメーカーと言ったわよね?」

「ああ」

「私が過去に虐めを受けてきたと聞いた今でもトラブルメーカーと言い切れるのかしら?」


 神矢想花が虐めを受けてきた事実を聞いた今、彼女をトラブルメーカーと言い切れるかと聞かれると自信はない。虐めの原因なんて多種多様で虐めている方に原因があるかもしれないし虐められてきた方に原因がかもしれない。だから俺は現在の彼女を見て判断を下さなきゃならず、断言するのは非常に難しい


「言い切れるかと聞かれれば絶対にそうだとは言えない。その過去が本当か嘘かを始め、アンタの過去や本当の姿に興味なんてねーからな」


 結局俺が出せた結論は興味がないという可もなく不可もない答え。零達も同じだけど大切なのは現在とは言わない。俺は心や身体にどんな傷があろうと関係なしに一緒にいる事しか出来ない無力な人間だ


「貴方ッ! 心に傷を負った人間を慰めよう、癒そうっていう気はないのかしら!?」


 今まで冷静だった神矢想花が急に声を荒げる。まるで自分は悲劇のヒロインだとでも言うように


「ねーな。俺は心の傷関係なしにソイツと一緒にいる事くらいしか出来ない無力な奴だ。だからってわけじゃないが、ソイツが復讐したいっつーなら止めねぇ。アンタが男に復讐したい、注目を集めてる人間に復讐したいって言っても止めやしねぇよ」


 復讐の後に何が残るかなんて俺には分からない。復讐する事で救われる人間も世の中にはいて俺がそうだった。由香や夏希さん、親父を思い切りぶん殴った時は心がスッとしたし、楽しかった


「綺麗事なんてどうでもいいわ!! 結局貴方も私を見捨てた人と同じよ!! 口では助ける、守るって言って何も出来ない偽善者じゃない!!」


 綺麗事だ、偽善者だと言われたら返す言葉もない。神矢想花は頭に血が上って正常な判断が出来ない状態だから忘れてると思うが、俺は助けるとも守るとも言ってない


「俺は助ける、守るって一言も言ってない。復讐を望むなら止めないとは言ったけどな」

「屁理屈言わないで!! 助ける、守るって言った男はみんな私を見捨てて離れて行ったわ!! 男なんて所詮口先だけの生き物よ! 貴方もそうなんでしょ!?」


 わーお、人の話聞いてねぇや。神矢って苗字の女は人の話聞かない奴が多いのか?何となく神矢想花が男嫌いになった理由は分かったからいいんだけど


「俺は別に助けてやるとも守ってやるとも言わねぇし虐められてる奴から離れて行くつもりもないんだがなぁ……」


 普段であれば相手の怒りに触発され、俺も熱くなっているこの場面。そうならなかったのはアッチが勝手に言ってもいない事をさも言ったかのように捏造というか、妄想してたからなんだろう


「嘘よ!嘘! 貴方もすぐに化けの皮が剥がれるわ!! 虐めとは無縁そうですものね! 虐められていた人の気持ちなんて解らないわよ!!」


 うん、俺の仮説は正しかった!神矢って苗字の女は人の話聞かねぇ奴しかいねぇ


「はぁ……」


 あまりにも神矢想花が人の話を聞かないせいか自然と溜息が漏れる。もうコイツの渾名はヒス神矢でいいんじゃね?


「何よ!! 何なのよ!! その呆れたような溜息は!!」


 そりゃ、いきなりキレるわ被害妄想激しいわだと溜息も出るだろ


「別に。人の話聞かねぇ女だと思っただけだ。断じて呆れてなんていない」


 嘘である。俺は扱いにくい女だなと内心じゃ呆れていた


「うるさいわね!! 仕方ないじゃない!! 誰も私の話を聞いてくれなかったんだから!!」

「はいはい。んじゃ、真央の身体から出て行った暁には俺がアンタの話をいくらでも聞いてやるよ」


 雑な対応かもしれんけど許せ。もう面倒なんだよ……。つか、神矢って苗字の女が起こしたヒステリーはこれで二度目だぜ?対応も雑になるってもんだろ?


「嘘吐かないで!! 貴方が私の話を聞くわけないでしょ!! 男なんだから!」


 えぇ……誰か助けてぇ……お袋ぉ……


『さすがに今回ばかりはきょうもお手上げだねぇ~』


 黙って成り行きを見守っていたお袋が楽しそうに言う。今回ばかりはっていうか、いつもお手上げなんですけど……


「楽しそうに言わないでくれませんかねぇ……」

『楽しくはないよ~。ただ、いつもと違うな~って思って声掛けただけだよ』


 いつもと何も変わってませんが……


「仕方ねぇだろ、今回はいつもと違って分からない事だらけなんだからよ」


 今回に至っては分からない事が多い。例えば灰屋真央って名乗った理由なんかがそうだ


『まぁ、今回は相手が悪かった思うよ』

「だろ?だから、お袋。後は任せていいか?」

『うん! 任された! こういうのは同じ女であるお母さんの方がいいだろうし~』

「んじゃ、後頼むわ」


 俺は神矢想花をお袋に任せ、ベッドへダイブ。彼女の元を離れる時に『やっぱり逃げるのね! これだから男は信用ならないのよ!!』と言っていたが、気にしない。そもそも男嫌いな神矢想花が男の俺から何を言われたところで聞き入れるわけがないのだから


今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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