高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

俺は初恋を思い出す

公開日時: 2021年3月19日(金) 23:31
文字数:4,136

「ここは……」


 高校一年生にして人生の過酷さを知った俺は零達を無視し、ベッドに顔を埋めていた……まではよかったんだが、気が付くと夏休みの旅行で見た夢と同じ空間にいた。どうやらベッドに顔を埋めたまま寝てしまったらしい


『よぉ、俺』


 ほら、出た。窓も何もない空間でコイツ────もう一人の俺が出てこないわけがない


「やっぱり……」


 一度目は多少なりとも驚きはしたが、二度目ともなると何も感じない。コイツが出てきて当たり前みたいなところがあるからな。見た目は俺だが今回は悪役みたいな笑みを浮かべていた


『さすがに二回目ともなると驚かねぇんだな?』

「当たり前だ。それより、何の用だよ?」

『何、どこでも厄介事に巻き込まれ、零達の中からたった一人を選ばなきゃいけない年齢になったお前へのアドバイスと初恋を思い出してもらおうと思ってな。ついでに警告だ』


 警告がついでなのはどうかと思う。だが、コイツは姿形や性格は俺。アドバイスと初恋を思い出させるのが本命なのは何となく解かる。とは言ってもなぁ……


「何で警告がついでなんだよ……」


 突っ込まずにはいられない


『そりゃ恋愛のアドバイスと初恋を思い出した上での警告だからだよ。先に警告からしたら話がややこしくなる。だったら先に恋のアドバイスと初恋を思い出させた方がいいと思ってな』

「さいですか」


 自分自身にディスられるのは複雑だ。同じ俺なのにお前はバカだと言われてるようでならない


『んじゃ、早速だが、まずは恋愛についてのアドバイスからしていいか?』

「ああ」

『なら遠慮なく言うが、これ以上異性を好きにならねぇとか、面倒だとか言って逃げんのは止めろ。お前にだって誰かを好きになる資格があるんだ。寄せられた好意を素直に受け取れ。以上だ』


 俺のクセして至極真っ当な事を言うんだな。てっきり零達に求められたら胸の一つでも触ってやれとか卑猥な事を言うと思ってたんだが……。認識を改めるか


「お前にしちゃ真っ当な事言うんだな。卑猥系で来ると思ってたのに」

『茶化し路線だったらそうそっち系で攻めたが、今回ばかりはそうも言ってられねぇんだよ。神矢想子の同居が決まっちまったしな。由香だけならまだしもあの女も一緒ってなると俺も色々と面倒なんだ』

「面倒?」

『ああ。非常に面倒だ』


 何が面倒なのか全く分からない。神矢想子の家にある家具の搬入をしなきゃならないという意味じゃ面倒なのかもしれんが、それは爺さんが部下にさせるだろう事。俺は何も関与していない。だと言うのにもう一人の俺は深い溜息を吐き方を竦めている。


「家具の搬入と配置は爺さんが部下にさせるだろ。俺は何も関与してねぇんだから面倒な事なんて何一つねぇと思うぞ?」

『引っ越しの事じゃねぇよ』

「じゃあ、何だよ?」

『俺が言ってんのは精神的な事だ』

「精神的な事?」

『ああ。あんま終わった話をネチネチしたかねぇが、ゴールデンウィークの一件をお前は曖昧な返事をする事で解決……いや、解消したよな?』

「ああ。どっちでもよかったからな。ただ、許すって言っちまえばあの連中は自分の犯した過ちを忘れちまう。許さないって言えば同じ過ちを繰り返さねぇだろうが、いずれ諦めちまう可能性があった。答えは異なるが、どちらとも最終的にあの三人にとって楽な道になり得るだろうと思ったから敢えて曖昧な答えにしたんだが……何かマズい事でもあったか?」


 由香達に限定して言えば同じ事を繰り返させないという意味も込め、曖昧な感じにしてみたんだが……何かマズい事でもあったか?


『んにゃ、マズい事はねぇよ。お前が決めた答えで納得してるなら俺から言う事は何もねぇ。神矢想子の事だって被害を受けたのはお前じゃなくて飛鳥だ。アイツが納得してるなら俺も大人しく下がるさ』

「当たり前だ。神矢想子の事は第三者が口を出すべき問題じゃねぇ。当事者同士で話し合って解決すべき問題だ」

『ああ。だが、お前の初恋は別だ。とは言っても覚えちゃいねぇだろうがな』


 初恋がいつだったか覚えてるかと聞かれれば俺は覚えてないと答える。そもそも自分の初恋がいつ、どこで、誰だったかなんて明確に覚えている奴っていんのか?


「初恋なんて大抵の奴が覚えてないだろ。そもそもが初恋まだだって奴もいるくらいだしな」

『大抵の奴……ねぇ……。お前ならそう言うだろっていうのは分かってたし、俺がその記憶だけ抜き取っちまったから強く言えねぇが……自分の事だとは言わねぇのな』


 もう一人の俺が何を言っているのか分からない。記憶だけ抜き取ったって中二病かよ


「どっから突っ込めばいいんだよ……」


 もう一人の俺が登場してから今まで突っ込みどころ満載過ぎて思考が追い付かない。現状分かんねぇのはコイツは何者なんだって事だ。記憶を刈り取ったとか早織や曾婆さんみたいな事を言われてわけ分かんねぇよ……


『突っ込む必要はねぇよ。これから俺が何者か、この先どうするべきかを教えていくんだからな。それよりも今は初恋の話が先だ。正確には初恋を知る前の話なんだけどな。思い出してもらわねぇと話が先に進まねぇ』

「わ、分かった」


 どうやら話のキーは初恋らしい。言いたい事はたくさんあるが、コイツの言う通りにしよう


『分かってもらえて何よりだ。そんじゃ、今からお前が初恋を知った時の記憶を戻す。いいな?』

「あ、ああ……」

『それじゃあ、始めるが、お前が特別何かする必要はない。ただジッとしていればそれでいい』


 そう言ってもう一人の俺が俺の顔に手をかざしてきた。こんなんで記憶が戻るなら誰も苦労はしないぞ?


「こんなので本当に────」


 記憶が戻るのかと聞こうとした瞬間、幼き頃の記憶が流れ込んできた。紅葉が綺麗な秋の夕暮れ。ランドセルを背負った少年が一人ポツンとどこかのベンチに座っていた。俺が小学生の時の記憶だ。しかし、小学校何年の頃だったか正確に思い出せない。いつだ?


『思い出せただろ?』

「あ、ああ……。思い出した。だが、これが小学校何年の頃かは思い出せねぇ」

『小二の頃だ。ちょうどお前が担任に取り返しのつかない事した後だな』

「それって……」

『お前が初めて暴走した時だ』


 早織から暴走した話は聞いてた。俺だって忘れもしない。小学校で化け物と呼ばれるようになったきっかけでもあるんだからな


「あの時か……」

『そうだ。もっと言うならあの事件の後だな。担任の事は別にどうでもいい。問題はその後だ。お前は化け物と同級生に揶揄われ、一人で家路に就いていた。だが、ネガティブのまま家には帰れず、気分を変えようと公園に立ち寄った。お前が見たのはちょうどその時のものだ。続きは……覚えてるだろ?』

「ああ。作家志望の姉ちゃんに声掛けられた」

『そうだ。それがお前の初恋だ。思い出したか?』

「あ、ああ、思い出した。俺は不覚にもあの時、ときめいた。この女性ひとを守り続けていきたいと思った。だが……」

『あの人は死んだ。理由は……言う必要ないよな?』

「ああ。口に出されると俺自身、何をしでかすか分からねぇ」


 俺が当時小二で七~八歳。姉ちゃんは何歳だったか覚えていない。歳を聞いたら秘密だってはぐらかされた。言われたのは自分は作家志望だって事と作品によって書き方を変えてる事だけだった。名前とかは教えられた記憶がない。姉ちゃんと呼べって言われてそうしてたし。しかし、生まれて初めて他人を愛しいと思ったのは覚えてる


『だろうな。でだ、お前は何で姉ちゃんが死んだか覚えてるか?』

「姉ちゃんが死んだ理由……確か……」


 俺は姉ちゃんが死んだ────いや、自ら命を絶った理由を思い出していた。あれは確か……





 小二の秋────。俺が自らの担任に取り返しのつかない事をしてから数日が経ったある日の夕暮れ。学校からの帰路に就く少年。それが俺だった


「僕は化け物なんかじゃないのに……」


 小二の頃は自分を僕と言っていた。俺に変わったのは小学校三年生の夏だったか、秋だったか……。詳しくは覚えていない。気が付けば僕を止め、俺になってた。


 担任に何をされたか今は語るまい。機会があれば話そうと思う。小学生の頃、俺は一人で帰るのが当たり前で、化け物って揶揄われるよりも前に廃墟って揶揄われてた。悪口を言われるのは今に始まった事じゃなく、揶揄われる事自体は慣れていた。俺が揶揄われてた話はすっ飛ばして公園のベンチで一人座ってた時のところまで飛ばそうと思う


「どうして僕はみんなに虐められるんだろう……」


 自分が同級生に名前を弄られ、化け物呼ばわりされる意味が分からず、ベンチに座って返って来ない問答を繰り返す。同級生に聞いたところで返ってくる答えは『廃墟に廃墟と言って何が悪い?』という答えになってない答え。小学校二年生に明確な理由の説明を求めたところで無駄。子供って残酷で人が気にしてる事を平気で言う。人の氏名を平気で弄る。成長過程において必要な事なんだろうけど、言われる方としてはキツイものがある


「はぁ……」


 自分が揶揄われる意味が分からず、溜息と同時に涙が零れた。必死に涙を拭うも止まらなかった。廃墟と言われた次は化け物。自分を人間として見てくれる人はいるんだろうか、自分は一生独りぼっちだと思うと涙が溢れてきた。絶望と孤独でどうにかなってしまいそうな時だった────


「キミ、どうして泣いてるの?」

「え……?」


 俺が初めて恋をした姉ちゃんが声を掛けてきた。顔を上げると当時女子大生くらいの姉ちゃんが柔和な笑みを浮かべながら立っていた。白のワンピースと手ごろな手提げバッグ。髪は黒と清楚系のお嬢様を絵に描いたような感じの人で生きていたら清楚なマダムになっていたんだろうな……


「ジッとしてて」


 そう言って姉ちゃんはバッグからハンカチを取り出し、俺の涙を拭ってくれた。多分、この行動で彼女に恋をしたんだと思う。我ながら単純なものだ。


「よしっ、終わり」


 姉ちゃんは俺の涙を一通り拭うと満面の笑みを浮かべ、ハンカチを自分のバッグへ戻した。俺はというと……


「あ、ありがとう……」


 涙は止まったが、恥ずかしさで彼女の顔がまともに見れなかった


「どういたしまして。それより、どうして泣いてたの?」


 これが俺と姉ちゃんのファーストコンタクト。同時に初めて家族以外の大切な人ができた瞬間だった

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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