瀧口を連れ、駐車場へやって来た俺はこれからある意味で残酷な事実を突きつけなきゃならない。そう思うと気分が沈む……事はないか。別に俺にとっては残酷でも何でもねぇし
「灰賀君、僕をこんなところに連れて来て一体何なんだい?」
学校にいる時と変わらず爽やかスマイルの瀧口。彼の顔を見てるとあの事をどう伝えたらいいかを考えさせられる
「あー……今からお前にある意味で残酷な事実を伝えようと思ってな」
頭を掻きながら俺は言葉を探す。さっきから俺が言っているある意味で残酷な事実とはお前はもう人じゃないとかそんなぶっ飛んだものじゃなく、シンプルなものだ
「残酷な事実?」
「ああ。遠まわしに言うのは面倒だから率直に言うが、お前はもう求道と北郷の二人から逃げられなくなった」
俺が瀧口に言わなきゃいけないある意味で残酷な事実。それは弓香と麗奈の二人から逃れられなくなってしまったという事だ。お袋が入れ知恵してなきゃまだチャンスはあるだろう。しかしだ、あのお袋の事だからしょうもない話から華が咲き、最終的には霊圧の探り方まだ教えるのは火を見るよりも明らか。瀧口もめでたく俺と同じ束縛の強い女達に囲まれたというわけだ
「は?何を言っているんだい?僕が弓香と麗奈の二人から逃げられなくなった?冗談は止してくれ」
平静を装っているが手が震え汗ばむ瀧口の顔にはハッキリと『嘘だろ?』と書かれている。嘘だったらどれ程幸せだった事か……
「冗談……冗談だったらどれだけよかった事か……」
俺は女性陣が話に華を咲かせている姿を思い出し、天を仰ぐ。闇華がいないからまだマシだった。だが、俺は闇華よりもヤバいヤンデレを知っている。その人物は今もあの場で多分、楽しく女子会の真っ最中だ
「ど、どういう事だい?分かるように説明してくれ」
「分かるようにってお前は俺と同じ────つまり、幽霊が見え、霊圧を扱えるようになったわけだが……俺が神矢想子の一件でした事って知ってるか?」
俺の通う星野川高校は何回か言ってる通り一クラスの人数が少ない。とは言っても三クラスあるから例年の入学数と比べると多い方なんだと思う。それは置いとくとして、一年生三クラス、二年生二クラス、三年生二クラスと俺達一年が学年の人数で言えば一番多い。しかし、クラスを分けたところで一クラスにいる生徒の人数なんて普通高校に比べると圧倒的に少ない。何が言いたいかと言うとだ、人数が少ない学校だから噂話が広まるスピードが普通の学校よりも圧倒的に早い。瀧口みたいなリア充が神矢想子の一件で俺がやった事を知らないわけがないという事だ
「あの灰賀君が先生方に激怒した瞬間に怪現象が起こったって噂かい?」
「ああ。お前がどう聞いてるか、どう思ってるかは別として、その噂は事実だ。俺は生徒と向き合えない教師にキレた。挙句、怪現象を起した」
あの時、教師の誰かに化け物呼ばわりされたが、客観的に見れば化け物と言われても仕方ない。怒っただけでいきなり揺れが起こり、物が浮くだなんて化け物以外の何者でもない
「そうだったのか……。僕はその怪現象の元となる力を得たってわけだね!?」
そう言うと瀧口は目を輝かせながら距離を詰めてきた。
「あ、ああ、そういう事になる。つか、近い。離れろ」
「ご、ごめんよ。興奮してつい……」
今の話のどこに興奮する要素があったか俺には理解不能だ。離れてくれたからいいんだけど
「今の話のどこに興奮する要素があったんだよ?一般人から見たら今のお前は化け物なんだぞ?」
「僕にとってはそんなのどうでもいいね! 灰賀君のおかげで昔からの夢が叶ったんだ、それに比べれば化け物呼ばわりされるのなんて安いものさ!」
いや、安いものって……人から蔑まれるんですよ?瀧口さん?その辺りの事解ってます?
「安いものって……求道と北郷はいいが、お前の取り巻き連中と両親、一部を除く教師陣にバレたら化け物扱いされた挙句、今までの関係全てがぶっ壊れる可能性があるんだぞ?それでもいいのか?瀧口の夢が何なのかは知らんけどその辺はどうなんだよ?」
瀧口と俺は昔からの夢を語り合うような親しい間柄じゃない。だから俺は彼の夢なんて知らないし知ろうとも思わない。ただ化け物呼ばわりされる事を安いものって言うくらいだから彼の夢はかなり壮大なんだと思う
「別にいいさ。学校の友達も両親も先生方も僕が化け物になって離れていったなら所詮はその程度の関係でしかなかった。ただそれだけの事なんだから」
瀧口の目はこれまで見た事がないくらい冷たかった。恋愛が絡んだ異性関係には優柔不断だったのに人間関係には意外と冷めてる感じなのか
「異性関係もそれくらいスパッと決めてほしかった」
人間関係に対して冷めてるのに異性関係に優柔不断とか意味が分からない
「それはそれ、これはこれさ」
「さいですか」
「そんな事よりも僕が弓香と麗奈から逃げられなくなった理由を教えてくれないかい?」
瀧口の重要とする基準が分からない。今はそれよりも求道と北郷から逃げられなくなった理由の説明をするか
「俺も詳しい原理とかは分かんねぇけどそれでもいいか?」
「ああ。僕は弓香と麗奈から逃げられなくなった理由を知れればそれでいいよ」
瀧口ってもしかして意外と雑な性格?と思いながら俺は深呼吸し、口を開いた
「俺も詳しくは分からんしやり方も知らねぇが、お袋曰く霊圧は探知可能らしい」
「えーっと……、それはつまりどういう事なんだい?」
「詳しくは知らん。だが、俺流で説明させてもらうと霊圧はGPSみたいなもんで探ろうと思えば探れる。瀧口がどこへ逃げようと霊圧を探られれば簡単に捕まるって事だ」
実際に俺は二度お袋に見つかっている。一回目は幽体で実家に単身乗り込んだ時、二回目はネカフェで一人の時間を満喫していた時だ
「よく解らないけど、僕は決して切る事が出来ないGPSを埋め込まれたという解釈でいいのかな?」
「そんな感じだ。詳しくはお袋に聞いてくれ」
「分かったよ」
オカルト関係に関しては俺よりもお袋の方が詳しい。俺なんかよりずっと
「話は以上だ。戻るぞ」
「そうだね」
話が終わったところで俺と瀧口は部屋に戻る。結局瀧口に何も伝えられなかったが、恋愛は第三者が口を挟むべきじゃない。そりゃ相手の金遣いが荒いとか異性関係にだらしないとかなら止めとけと警告くらいはする。それだって親しい仲だったらの話で瀧口と親しくなく、求道と北郷をよく知らない俺からは何も言えない。最終的に決めるのは瀧口だからだ
部屋に戻ると女性陣はテーブルを占領して未だに談笑中で俺達が抜け出したのなんて気にも留めてないご様子。こればかりは運がよかったと思い、俺と瀧口は適当な場所に座り────
「灰賀君、君は女性の胸に魅力を感じたことはないかい?」
「いきなりだな。まぁ俺だって男だ。魅力的だと思った事はある」
猥談を始めようとしていた。女の胸について話し合うのが猥談に当たるのかは知らん
「君も男だったんだね」
「見れば分かんだろ?つか、いきなり何だよ?」
本当にいきなりだ。俺と瀧口は猥談をするような仲じゃねぇぞ?
「もうすぐ夏期スクーリングだろ?その前に一度灰賀君の理想とする女性のタイプとか諸々を聞いておきたくてね。スクーリングが始まってからはもちろん、学校じゃこんな話出来ないだろ?」
「ここでも出来ねぇだろ。同じ空間に女がいるって忘れてねぇか?」
学校はともかくとして、この手の話題は男子のみの空間で夜に話すべきだろ
「忘れてないさ。でも、ここでしか出来ないんだ。何しろ僕はみんなの前じゃ爽やかなキャラで通ってるからね」
そんな事知らん! 俺は飛鳥や由香、藍以外とはほとんど交流がないんだぞ?
「飛鳥達以外としか交流がない俺に爽やかなキャラで通ってるって言われても知らん。大体、男だけで遊ぶ事ねぇのかよ?」
「ないよ」
即答かよ……
「マジか……」
「マジだよ。僕が学校帰りどこかへ遊びに行こうとすると必ず女子も付いて来るからね」
と言って爽やかスマイルを浮かべる瀧口。女子も付いて来るってどうせ求道みたいなギャルが金魚のフンみたいに付きまとって来るんだろ?
「トップカーストも大変なんだな」
俺は瀧口に興味なんてない。なのにこんな事を言ってしまったのは何でだ?
「僕は王様じゃないのに……」
「そう思ってるのはお前だけだ。興味のない俺はともかく、他の連中はみんなお前が王様だと思ってる。学年の連中全員な」
「そう……なのかな?」
「俺が知るかよ。何回も言ってるだろ?俺はお前に興味ないって」
俺的に言えば友達なんて大勢いなくてもいい。本当に悩んだ時に相談出来る奴が数人いるくらいがちょうどいいと思っている人間だからな
「ハハハ……それは酷いな」
「酷くねぇよ。世の中の人間全員がお前に興味を持つと思うな」
全ての人間が自分に興味を持ってくれていると思う方が烏滸がましい
「それは……そうだけど、少しは同じクラスの……いや、同じ学年の人に興味を持ったら?」
「嫌だ。俺は一人が気楽なんだよ」
一人というのは気楽だ。どこへ行くにも何をするにも自分で決められる上に他人に干渉されない。一人ってマジ最高
「一人が気楽って言ってる割には内田さんや由香と仲がいいように見えるのは気のせいかい?」
「気のせいだ。由香は親父の再婚で仕方なく、飛鳥は絡まれて相手してるうちに今の形に落ち着いただけだ」
俺の性格上、親父が夏希さんと再婚してなきゃ由香との関係は中学で終わっていたし隣の席にならなきゃ飛鳥と関わる事なんてなかったって考えると人の縁は不思議だな
「それでも灰賀君は二人と関わって後悔はしてないんだろ?」
後悔か……どうなんだろうな?よく分かんねぇや
「分かんねぇよ。俺の事より瀧口はどうなんだ?幽霊が見えるようになった今だから聞くけどよ、求道と北郷、どっちを選ぶんだ?」
恋人になる人間を選択させるだなんて俺がしていい事じゃないのかも知れない。けど、聞かずにはいられない
「それは……決められない。弓香も麗奈も両方大切なんだ」
この期に及んでまだ優柔不断なのかよ……
「そうは言ってもいずれどっちかを選ばなきゃならない時が絶対に来るぞ?」
「分かってるさ。でも、仕方ないじゃないか……弓香は転入してきたばかりの頃、右も左も分からない僕に初めて優しくしてくれた女の子で麗奈は親同士が決めた婚約者とはいえ、困ってる時に親身になってくれたんだ……僕には彼女達を傷つける事なんて出来ないよ」
優しくしてくれた相手だから傷つけたくないか……こういう場合どうしたらいいんだろうな?
『なら両方と付き合えば~?』
俺と瀧口が頭を悩ませてるところに能天気なお袋の声がし、そちらを向くと……
「「祐介……」」
と目に涙を溜め、瀧口を見る求道と北郷の姿が
「弓香……麗奈……」
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