「何で来たんだよ……」
今回の騒動はこう言っちゃなんだが、俺一人で内々に処理しようとしていた。理由は簡単で神矢想子や病院立てこもり犯達の時みたいに少人数じゃないからだ。というのもここは俺の家で一階部分は使ってないに等しくても自分の家を滅茶苦茶にされるというのは気分がいいものじゃない
「アンタが心配だったからに決まってるでしょ!」
零、正直なのはいい事だ。それを発揮するのは今じゃないと思うぞ?
「俺なら心配の心配はいらん! だから部屋に戻ってろ」
特に考えがあっての行動というわけじゃないのだが、ここに零達……強いては盃屋真央が現れるのを俺は良しとしてない。何しろオタク集団は彼女が目当てだからだ。
「そんな事言って! アンタ! 何も考えてないんでしょ!? 蒼から聞いたわよ!」
知ってた。俺がここにいるの知ってるのって蒼くらいだもん。っていうか、約束はどうした?ん?ここにいるのは黙ってろって言ったよな?恨みを籠め蒼を見ると……
「すみません、女の子達の涙には勝てませんでした」
苦笑いを浮かべ、謝罪の言葉を口に。正直に謝ってくれるのはいいけどな、お前、チョロすぎね?女子の涙って……、目薬って可能性考えられなかった?ん?
「お前も爺さんや親父タイプだったか……」
瀧口はともかくだ、爺さん、親父、蒼と何で俺の周りの男性陣はこうも女の涙に弱いのだろう?と頭を痛めてた時だった
「真央た~ん!」
一人のオタクがイノシシの如くすごい勢いでこちらへ突っ込んできた。
「ひっ! こ、来ないでッ!」
そんなオタクにビビったのかござる口調も忘れて怯える真央さん
「はぁ、節操ナシかよ……」
出来ればネット民に霊圧を当てるだなんてしたくなかった。主に拡散される的な意味で。しかし、現状そうも言ってられず、俺は動けなくなる程度に霊圧をぶつけた。今まで俺の日常は何ら平凡なものだと思ってたのに高校に入ってから狂い、お袋と再会してからは狂っていたのが更に狂う……、ああ、俺の平和な日常はいつになったらやって来るのやら……
「ぶぎゃっ! か、身体がお、重い……」
イノシシの如く突っ込んできたオタクは真央さんに辿り着く数メートルのところでズッコケ、そのまま地に伏せた。ふぎゃっ!だなんて声をリアルで上げる奴いるんだな
「しばらくそうしてろ、めんどくせぇ……」
ラブコメ的主人公ならここは腕力で黙らせるところなんだろうけど、俺はそんな面倒な事はしない。オタクを差別するわけでも特別綺麗好きというわけでもなく、純粋に夏の暑い時期に他人に触れたくないからだ
「さてっと、うるせぇのは黙らせたし、話の続きをしようか。オタクどもは帰れ、零達は部屋に戻れ」
オタク達は雰囲気から、零達は共に過ごしてきた月日から。どちらとも大人しく帰るといった感じではないだろう事は承知の上。その上であえて帰るよう、部屋に戻るように言ってみた。しかし……
「恭ちゃん、私達が戻れと言われて大人しく戻ると思う?」
「そうです! 恭君一人残して戻れません!」
「うん! 恭クンだけ残して逃げ帰るだなんてあり得ないよ!」
東城先生、闇華、飛鳥を筆頭に部屋へ帰るのを拒否。予想通りの反応をありがとう。対するオタク達は……
「真央たんの手を握るまで帰らないぞ!」
「そうだそうだ! 真央たんはお前一人のものじゃない! みんなのものだ!」
「ま、真央たんはボク達の共有財産なんだぞ!」
はい、こちらも予想通り。つか、お仲間が何もないところでコケ、未だに起き上がれないこの状況でよくもまぁ、そんな事が言えたものだと感心するぞ……
「言っても無駄なのは知ってたけどよ、ここまで予想通りだと面白味がまるでないな……。ま、いいや、零達はともかく、この連中は警察に突き出すとするか」
俺はポケットからスマホを取り出し、警察へ電話を掛けた。すると思った以上に早く繋がり、自分の家の住所と集団の不法侵入者がいる旨を伝え、電話を切った。ちなみに到着まで少々お時間をという事で暇つぶしがてらオタク達と話でもしていようと思う
「オタク共、五分もしないうちに警察がここに来る。逃げるなら今のうちだぞ?」
俺も鬼じゃない。たった一人の女性声優の為に逮捕されるなどバカバカしいと思い一応、警察に通報した旨を伝える
「ひっ、け、警察……、う、うわぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ!!!!」
警察がここに来るってワードに恐怖を覚えたのか一人のオタクが声を荒げ、踵を返し走り去っていった。それが引き金となり、他のオタク達も走り去ってゆき、残ったのは……
「ぼ、ボクはそ、そんな脅しになんて屈しないぞ!!」
「俺は真央と結婚の約束をしたんだ!! 自分の嫁を迎えに来て何が悪い!!」
最初に突っ込んできたオタク……面倒だからオタクAとしよう。それと、恰好こそオタクのそれではないものの、かなり妄想の世界に入り込んでいる男だけだった
「はぁ……、んじゃ、オタクの方は立ち上がれるようにしてやっから、とっとと失せろ」
オタクAの方は口では強がってるものの、声は上ずり、心なしか汗をビッショリと掻いている。内心ビビってるのがバレバレだ。何にせよこのまま動けないのは可哀そうだから霊圧を引っ込めてやるとするか
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!! お、お助けぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ご覧いただけただろうか?霊圧を引っ込め、動けるようにした瞬間オタクAはもの凄い勢いで走り去っていった。口では強がって見せても怖いものは怖いという事が証明された瞬間である
「さて、残ったのはアンタだけだが、どうする?」
野次馬根性で家へ乗り込んできた連中は全員尻尾を巻いて逃げ出し、残るは現実と妄想の区別が付かない男のみ
「どうするも何も俺は真央を連れて帰る!! 何しろ俺達は愛し合ってるからな!!」
頑固だねぇ……
「愛し合ってるって、それはアンタの妄想の中じゃそうかもしれねーけどよ、現実を見ろ」
そう言って俺は盃屋さんを一瞥し、怯えているのを確認する
「盃屋さんは怯えているようにしか見えないぞ?大体よ、アンタは何で盃屋さんを付け狙う?彼女が数年前にアップしたブログの記事がキッカケか?」
盃屋さんが数年前にアップした記事の内容を俺は知らない。調べたら多分、どこかのまとめサイトか誰かの考察ブログには載ってるとは思うが、ぶっちゃけ有名人とはいえ人のプライベートな部分などに興味がない俺からするとどうでもいい
「確かにあの記事を読んだ時はふざけるな!って思ったさ、でも、その記事が上がった数年後のライブに行った時だ。俺は真ん中の最前列にいた」
「おう、それで?」
「それで、彼女と偶然目が合った」
「ああ」
「その瞬間、俺は運命を感じたよ。彼女は俺に恋をしたんだとね!」
何だろう?聞いてる俺がアホのように思えるのは……。ああ、そうか、俺は呆れてるんだ……
「あ、アホくせぇ……」
俺は崩れ落ちはしないまでも眉間に手をやり、一言呟くだけだった
「あ、アホ臭いとは何だ!! 俺と真央は運命の赤い糸で結ばれてるんだぞ!!」
ここで今回の件とは全く関係ない話をしようと思う。アイドルのライブ然り、声優のライブ然り、PVを見た時に客席に向かって手を振っている場面が映像で流れるだろ?アレって単なるファンサービスであってその先にいる人間に好意を抱いたからとかじゃない、アイドルや声優は客に媚を売って好感を上げるために手を振っている。いわばパフォーマンスなのだ
「ライブで目が合ったなんて単なる思い込み! あるいは勘違いだ! そもそも! それだけで結ばれる運命だったら世の中の一般人は何人有名人と結婚できると思ってんだ! 本当、妄想と現実の区別くらいつけろ!」
付け加えるのならそんなに声優と恋愛がしたいのならアニメ関係の会社に入るか夢小説でも書いてろという事を言っておこう
「う、うるさい!! お前に何が解る!! ずっと孤独だった俺の何が解るって言うんだよ!!」
ずっと孤独だった……か。アホくさ
「知るか! アンタが孤独だったとしても俺には関係ねーから!」
男は自分は孤独だったと言った。何に対しても感じ方というのは人それぞれだから俺からこうだと断言は出来ないしするつもりもない。どう思うかはその人の勝手だ。だからと言って他人に迷惑を掛けていいという話にはならない
「だろうな!! お前は心配してくれる人がいるからそんな事が言えるんだ!! でも俺は違う! 俺はずっと独りだった!! 学校でも家でも会社でも!!」
学校と会社に関しては何も言えない。悪意を持って独りにさせられたのか、自分から独りになったのかで違ってくるからだ。対して家に関しては自分から家族を遠ざけただけじゃないのか?と思ってしまうのは間違っているか?俺には分からない
「あ、そう。何?お前、学校でも会社でも友達とか仲間が欲しかったの?どうせその場だけの関係、数年も経てば平然と切り捨てられるような替えの利く関係が欲しかったのか?」
小学校、中学校の同級生がそうだ。ずっと友達だよ! だなんて宣言されたところで高校に上がれば離れる。これが高校ならどうだろう?大学や専門学校に進学、あるいは高校卒業後すぐに就職したら高校時代の同級生なんてゴミみたいなものに成り果てる。結局のところ、ずっととか、永遠とかは存在しない
「そうだよ!!」
本当にアホ臭い……。この男は自分の心に空いた穴を埋めるためにアニメに興味を持ち、それが声優へとシフトしてゆき、自分の自由にできる金が入り盃屋真央のライブに足を運んで偶然目が合った、手を振られたから運命を感じ、自分達は結ばれる運命だと勘違いをした。
「ホント、アホくせぇ……」
「何だと!?」
「アホくせぇモンにアホくせぇっつって何が悪いんだよ?アンタがどこで誰を好きになろうとどうでもいいけどよ、声優やアイドルなんて絶対に自分のモンにならないって事くらい気づけ」
絶対にだなんて決めつけはよくないと思う。この手の輩を諦めさせるには絶対という言葉を使って完膚なきまでに心をへし折る必要があり、俺はあえて絶対という言葉を使った。実際問題、本当にただの一般人かどうかは知らんけど、声優や芸能人が一般人と結婚したって話は聞くしな
「う、うるさい!! もういい!! 真央は俺のものにならない、お前は俺の邪魔をするのなら俺はお前達全員を殺す!!」
男が懐から取り出したのはサバイバルナイフだった
『きょう~、あれヤバいんじゃない?』
ヤバいのは見りゃ分かる。ヤバいのはヤバいけど、明らかにビビってる素振りを見せたら相手が調子に乗るのは火を見るよりも明らかだから努めて冷静でいるだけだ。俺はそうあろうとしたが、零達はナイフを見て短く悲鳴を上げた
「殺してどうする?俺達を殺した後はお前も死ぬってか?」
「ああ! そうだよ! お前達を殺して俺も死ぬ!」
男は完全に病んでいた。家に闇華っていうヤンデレがいるが、それとは別次元の病み方でコイツは言うまでもなく人に迷惑しか掛けないタイプのヤンデレだ。結論、とりあえず黙らせよう
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました
読み終わったら、ポイントを付けましょう!