高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

友達を名乗るなら踏み込む事が大切だと思う

公開日時: 2021年4月7日(水) 23:04
文字数:4,179

琴音の唇を奪ったところで零達が戻り、何事もなくリビングでくつろいでいた。で、現在────


「恭さん! 今日も凛空のところに行きますよ!」


 蒼に腕を掴まれ、強引に連れ出されようとしていた。アイツも面倒な事引き受けたモンだ……。はぁ……


「行かねーよ。めんどくせぇ」


 俺は掴まれている腕を強引に引きはがす。凛空も凛空パパも悩みがあるって聞いてたのに蓋開けると沈んだ様子など微塵もなく、逆に元気で悩んでる様子など皆無。というところまでは公開情報。問題はここからで、灰賀恭アイツの性格上、困っている人間の頼みは断れない。かつてされた事を考えると突き放しはするが、見捨てはしない。だからこそ厄介で飛鳥の一件みたいに怒りの沸点が低くていけねぇ。俺が代わりに断ってやるしかないのだ。っつっても俺も他人を見捨てられねぇのが傷なんだがな


「恭さん、約束しましたよね? 凛空を助けるって」

「ああ、約束はした。それを破るつもりもねぇよ? ただ、俺を頼る前にお前は凛空に周りを頼れって言ったのか?」

「そ、それは……言ってません……けど……」

「って事はだ、お前は自分で何もしてねぇクセに俺を頼り、自分の友人の問題なのに押し付けたんだな?」

「そ、それは……」

「それは? それはどうなんだよ?」


 何も言わずに見守る零達を一瞥し、俺に睨みを利かせていた蒼は次第に俯き、次第に声が小さくなっていく。ゴールデンウィークの時にアイツと殴り合いした勢いはどこ行ったよ、オイ


「それは……そうですけど……」

「だったら、強引な手を使ってでも凛空の本音を聞き出すべきなんじゃないのか? お前もあの家にいた連中も」


 ついでに言うと灰賀恭アイツもだ。本音と本音で語り合う────踏み出す事が必要だ。いつになるかは分からんけど


「そうですけど……でも……」

「怖いか?」

「はい……」


 俯く蒼にアイツなら何て言うんだろうな……俺は灰賀恭であって灰賀恭じゃない。だから……


「怖いなら凛空の友人止めろ。本音と本音でぶつかれないのを友人とは呼ばねぇ。その他大勢だ。まぁ、どうするかは蒼────いや、凛空の周りにいる連中次第だ」

「そんな────」

「そんなもこんなもあるかバーカ。自分の友達くらい自分で救え。友達の悩み一つ受け止めて見せろ。それでダメだったら無関係な第三者を頼れ。以上だ」


 俺は俯く蒼を後目に部屋を出た。アイツとの約束通りお膳立てはした。俺の任務は……終わってないんだよなぁ……蒼の方はどうにかしたが、凛空パパの方は手つかず


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……めんどくせぇ」


 部屋を出たところで深い溜息が出た。めんどくさ過ぎる。蒼も、一条の家にいた連中全員も、手をこまねいてるアイツも。人間はどうしてここまで面倒なのか甚だ疑問だ


『きょうが蒼君を見捨てるとは思わなかった』

『恭様にはガッカリよ』


 お袋と想花の事忘れてた。振り返ると二人が軽蔑の眼差しでこちらを見ていた


「…………そうか」


 俺は二人を一瞥し、ゲームコーナーに向かおうとした。しかし────


『きょうが蒼君苦しませてどうするの!?』

『恭様はどんな人でも見捨てないんじゃなかったの!?』


 声を荒げた幽霊二人組によって行く手を阻まれてしまった。見捨てたんじゃなくて突き放しただけなんだが……この二人は大人だというのに何でもかんでも負んぶに抱っこの精神かよ……


「見捨てねぇよ。見捨てはしねぇけど、何でもかんでも周りが世話してたら大人になった時、何も出来ない腑抜けか甘ったれになるだろ。小二の時の担任みたいにな。っつってもアンタら二人にゃ分かんねぇか」


 小二の時に担任だったヤツは父兄と同僚教師の前じゃいい顔してた。だが、児童の前じゃ単なる甘ったれ。課外授業じゃ自分がちょっと指切った程度で大騒ぎし、児童が先生それ間違ってると言ったら癇癪を起す。身体は大人なのに精神は子供とか笑えないヤツだった。あの教師が辞めたのは……今話すのは止めとこう。凛空の抱える問題とは無関係だしな


『きょうが蒼君を見捨てたのには変わりないでしょ!!』

『恭様、貴方はどんな人でも見捨てないと思ってたのに……』


 お袋の怒声と想花の落胆にも似た声が響く。彼女達も親父と同じ。俺が自分達の期待してた行動と別の行動を取ったから癇癪を起しているのだ。いい歳をした大人が情けない……


「さっきも言っただろ? 見捨てたんじゃなくて突き放したんだって。助けてほしいのに助けての一言も言えないヤツ、助けたいのに踏み出す勇気のないヤツなんて突き放して自分で行動させるしかねぇだえろ。俺達にはどうにかしないといけないヤツがまだいるんだ、凛空ばかりに構ってるわけにもいかねぇだろ」


 お袋と想花の話じゃ凛空パパも悩んでいるとの事。だとしたらだ、凛空パパの悩みも聞かなきゃならないという事になる。問題の早期解決を図るのなら優先順位を付けなきゃならない。生者である凛空を蒼達に任せ、幽霊の凛久也を優先させたまで。俺は何も悪くない


『それは……そうだけど! 見捨てたみたいな言い方しなくてもよかったんじゃないかな!』

『恭様はもっと人の気持ち考えた方がいいわよ! あれじゃどう見たって見捨ててるようにしか見えないわ!』


 ガタガタとうるさい幽霊達だ。黙らせるか


「うるせぇな……素直に言えない奴と踏み出そうとしねぇ奴が悪いんだよ。俺を責めるのはお門違いだ」

『『────!?』』


 睨みつけるとお袋と想花は目を見開き、その場に片膝をついた。俺は灰賀恭の霊圧そのもの。睨みつけるだけでお袋達を黙らせるのなど朝飯前


「俺を責める暇あったら凛久也の悩んでる事の一つでも聞き出してこいよ」

『『わ、分かりました……』』

「だったら早く行け。俺が気まぐれを起して二人を消し飛ばす前にな」

『『は、はい……』』


 一条家に向かって飛んで行ったであろうお袋達の背中はリストラされたサラリーマンのようだった


「ようやくうるさいのがいなくなったか……」


 蒼やお袋達といったうるさい連中がいなくなり、ようやくゲームコーナーへ……


「恭くん」

「お義兄ちゃん」

「義兄ちゃん」

「恭クン」

「恭」


 行こうとしたところで引き留められたよ。うるさいのまだいたよ……


「何だよ?」


 俺は振り返らず答える。振り返ると面倒な事になるのは幽霊二人で経験済み。どうせあれだろ? 零達も俺を咎めに来たんだろ?


「」

「お義兄ちゃんは悪くないわよ」

「その通りです。私にもお義兄ちゃんと同じく友達と呼べる人はいませんでした。ですが、今回の事は蒼君が悪いというのは解ります」

「恭クン、私達が咎めに来たと思っているみたいだけど、私はキミが言った事、した事は間違ってないと思う」

「飛鳥に同じく。中学時代に恭に酷い事したあたしが言えた立場じゃないけど、友達だったら喧嘩する事も必要だよ。蒼君がそうせずに恭を頼ったとしたらそれは間違ってる。恭は何も悪くないよ」


 零達は俺を咎めに来たものだとばかり思ってたんだが……実は違ったみたいだ


「そうかい」


 俺は短く返すとゲームコーナーへ向かった




「恭さん……」


 ボクは恭さんに言われたあの言葉が頭から離れない


 “友達の悩み一つ受け止めて見せろ”


 友達……ボクと凛空は友達────だと思っている。少なくともボクは。でも、実際はどうだ? ボクは彼の為に何ができた? 彼に自分を頼ってほしいと伝えたか? 答えは否。ボクは……


「恭さんの言う通りじゃないか……」


 凛空に何も伝えてない。悩んでるなら相談してほしい、無理しないでほしいとハッキリ伝えていない。常日頃友達がいないと言っている恭さんに大切な事を気付かされるだなんて……


「皮肉なものだなぁ……」


 いつも友達なんていないみたいな事言ってるからてっきりボクと一緒に……いや、ボクの代わりに凛空を助けてくれると思ってた。だけど実際は違った。見捨てられた……わけじゃないと思うけど、あの人は手を貸してくれなくなってしまった。彼に言われた事も衝撃的だったけど、零さん達に無言で出て行かれたのが一番精神的に堪えた


「蒼……」


 女性陣が出て行く中、唯一ここへ残ったのが碧姉ちゃん。家族だけあって彼女はボクを見捨てなかったらしい


「姉ちゃん……ボクはどうしたらいいんだろう?」

「アタイにも分かんない……」


 ボクも姉ちゃんも今まで喧嘩らしい喧嘩はしてこなかった。ボク達は今まで突っかかってくる奴は全力で排除してきたし、周りとの接し方だって可もなく不可もなくと当たり障りないようにしてきた。だから悩んでる友達にどう接したらいいか、何をしてあげたらいいかが分からない。だからこそ恭さんを頼った


「だよね……ボク達、今までこんな風に友達の為に悩んだ事なんてなかったもんね」

「うん……可もなく不可もなく。これがアタイ達のやり方だったからね」


 ボク達は揃って深い溜息を吐く。ゴールデンウィークの時は殴り合いでしか恭さんの本音を聞けないと思ったからそうした。あの時に言った事は全部本心。けど……凛空を相手に殴り合いをするって考えると、凛空の心の闇に触れるって考えるだけで怖い


「ボクは……ボク達はどうするべきなんだろう……」

「分かんない……」


 ボク達がどれだけ考えても答えは出ない。恭さんみたいにスパッと答えが出せたらどれだけ楽か……





「また負けた……」


 初めての格ゲー。俺は現在十連敗中だった。ゲームコーナーここへ来たのは霊圧が純粋に来てみたかったからだ。今まではアイツがゲームしている様子を見ている────というか、感じてるしかできなかった。だからこそ俺だって生身で一度はゲームなるものをしてみたかったし、ゲーセンという場所にも来てみたかった。しかし、ゲーセンが喧しいところでゲームが難しいものだとは思わなかった


「この様子見てるだろうアイツから笑われちまうよな……」


 俺達は夢の中みたいな場所で会うから邂逅する分には問題ない。だが、行動を監視するというってなると話は別だ。俺が灰賀恭の霊圧で今こうして表に出ている。じゃあ、元の灰賀恭はどうしたかって? 霊圧となって今もなお俺の側にいる。お袋達が入れ替わりに気付いてない理由は……全てがバレた時にでも話そうと思う。霊圧にも核となるものがあるとだけ言っておこう


「見てるのとやるのじゃ違うもんだな」


 時々恭にああしろ、こうしろと言ってきたが、今度からやり方を改めよう。言うのとやるのはかなり違う。俺は皮肉にもゲームから行動する事の大切さを学んだ


今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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