高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

零達を煽った結果、旅行二日目にして俺の平穏に危機が訪れようとしている

公開日時: 2021年2月7日(日) 14:44
文字数:3,996

「まだ徘徊してるのかよ……」


 飛鳥と茜を起こさないよう、そっとベッドから抜け出し、モニターで零達の様子を確認すると寝る前と変わらず虚ろな目でホテル内を徘徊していた。こちら側としてはいい加減にこの部屋強いてはこの西側のフロアに気づいてほしいものではある。何で気か付かないのかは知らんけど


「こんなんじゃネタ晴らし前に日が暮れるぞ……」


 モニター越しに見る零達は俺を探し回っているに違いなく、中には瞳に薄っすらではあるが、涙を滲ませている奴もいる。


「ったく、仕方ねぇなぁ……」


 零や爺さん、親父といった人前では涙を見せない者達はともかく、闇華、琴音といった人前だとしても恥や外聞がいぶん関係なしに涙を見せる者達にとって見つかるはずのない俺を探し回らせるというのは非常に酷だ。そう思った俺は当初予定していた飛鳥&茜とイチャイチャして零達を煽ろう作戦を決行せず、たった今思い付いた作戦を実行に移す事にした


「ホテル全体に通じるマイクをオンにしてっと」


 ホテル全体────正確にはホテル東側に設置されたカメラに取り付けてあるだろうマイクをオンに。そして……


「あー、テステス、只今マイクのテスト中、本日は晴天なり、本日は晴天なり」


 と放送でよく使われる常套句をマイクに向かって喋った。するとこれまで虚ろな目だった目が一斉に元に戻り、零達は皆一様に周囲を見回す。そんな彼女達に俺は更なる追い打ちをかける


「はろ~、しょうもない事を思い付いた挙句、それを実行しようとしたアホの皆様。灰賀恭でございます」


 煽りとしては上等で零達は何か言っているように見える。零達側の音声をオフにしてるから何言ってんのかサッパリ分からないけどな!これじゃ面白くないな……、どれ、音声をオンにしてみるか


『恭! アンタ! 今どこにいんのよ!!』


 音声オンにした瞬間流れてきたのは耳を裂くような零の怒鳴り声。その声に俺は思わず耳を塞ぎ、寝ていた飛鳥と茜は慌てて飛び起きた


「「な、何事!?」」


 飛び起きた二人は俺が抜け出している事など忘れ、先ほど数秒前の零達みたいにキョロキョロしていた


「悪い、零達の声欲しくてあっち側のマイクをオンにしたはいいが、音量調節してなかった」


 マイクの音量は通常ボリュームで隣近所に迷惑を掛ける程のものではない。単純に零の声がデカかったってだけだ


「いきなりビックリしたじゃん! グレー!お姉さんおこだよ!」

「そうだよ! っていうか、零ちゃん達の様子確認するなら一声掛けてよ! 恭クン!」


 一声掛けるも何もお前達は今の今まで気持ちよさそうに寝ていただろ……とは言えず俺は謝るしかなかった。そんな些細な事など放置するとしてだ、叫んだ張本人の零はというと……


『ちょっと! 恭! アンタ部屋に女二人も連れ込んでるの!?』


 彼女か妻っぽい事を叫んでいた。部屋に女二人を連れ込んでいるというのが間違ってないから反論に困る


「連れ込んでますけどそれが何か?その内片方は飛鳥ですけどそれが何か?もう片方は盃屋さんの同僚ですけど! それが何か!」


 反論に困った俺は逆転の発想で開き直る。問い詰められた時に委縮するから自分はもしかしたら悪い事をしているのではないか?と罪悪感に苛まれ、してもいない事をしたと言ってしまう。ならどうしたらいいか?答えは簡単だ。開き直ればいい。俺だって健全な男子高校生なんだから女の一人や二人連れ込んでもいいだろ


『アンタねぇ! アタシ達を差し置いて飛鳥を部屋に連れ込もうだなんていい度胸してるじゃないの!! すぐ行くから居場所を教えなさいよ!!』


 一匹確保。零は煽れば簡単に釣れるから楽だ。さて、他はどうかな?


『恭君、すぐに行きますから居場所教えてください。ウフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ』


 闇華も釣れたっちゃ釣れたけど……コイツに今いる場所を教えたらどうなるか……考えただけでも恐ろしい


『恭ちゃん、今日は寝ずの個人授業決定』


 東城先生は声のトーンこそ普段通りだったものの、目は全く笑っておらず、心なしか背後に鬼がいるかのような錯覚に陥ってしまった。結果として釣れたからそれはそれで良しとしよう。会いたくはないけど


『恭くん、私と過ごした熱い夜は嘘だったの?酷いなぁ……、私の事愛してるって言ってくれたのに……』


 零、闇華、東城先生と続き、琴音も簡単に釣れた。ただ、俺は琴音と熱い夜を過ごした覚えも彼女に愛してると言った覚えもない


『恭はお義姉ちゃんが好きなんだよね?ね?そうなんだよね?あたし、信じてるからね?』


 あー、うん、知ってた。この流れで由香がメンヘラ擬きになるって俺分かってた。だから特に何も言うまい。それよりも危険な人物達が俺のすぐ後ろにいる。そう────────


「恭クン、琴音さんの話は本当なのかな?ん?」

「にゃはは~、グレー?場合によってはタダじゃ済まないよ?」


 飛鳥と茜だ


「二人共落ち着けよ。俺は琴音と熱い夜を過ごした覚えもなければ愛してるって言った覚えもない」


 琴音と部屋で二人きりにはなったものの、熱い夜は過ごしていないからこの言葉に嘘偽りはなく、すべて真実だ


「「ふ~ん、本当かな~」」


 真実しか話してないのにジト目で見られるのは何でだ?俺ってもしかしなくても信用ない?


「本当だ。もしかして二人共信じてないのか?」

「「当たり前じゃん!」」


 酷くね?


「二人共ひでぇ……」


 俺の心が少し傷ついた瞬間である


「酷くないよ! 女の子とあらば見境なく誑し込む恭クンの方が酷いよ!」

「そうだよ! しばらくスペースウォーに顔見せないと思ったら私以外の女の子を毒牙にかけて! グレーは女の子ってなると見境なしなの!?」


 酷い濡れ衣だ。つか、中坊の時から今に至るまで俺が出会った女など片手で数えられる程度しかいない。零だろ?闇華だろ?琴音だろ?東城先生だろ?飛鳥だろ?碧だろ?由香だろ?盃屋さんだろ?んで、茜だろ?片手じゃなかった。二桁はいかずともギリ一桁に言い直すわ


「それじゃ俺が女にだらしないみたいだろ……言っとくけど、俺は女好きなんじゃなくて拾ったり、出会った奴がたまたま女だったってだけだ! 俺が望んだわけじゃない」


 人の出会いとは不思議なもので一度家なき女子を拾うと連鎖的に家なき女子を拾ってしまうらしい。その後は家なき女子は拾わずともそれに準ずる人だったり、家族と家なき子関連でしか出合いがない。あれ?俺の出合う人って一部例外を除くと頭に家に関するワード付いてね?


「「ふんだ! 嘘つき! 知らない!」」


 二人同時にヘソ曲げるなよな……。一人でさえめんどくさいのにそれが二人揃ってとなるとよりめんどくさくなる。ったく……


「はぁ……」


 二人揃ってヘソを曲げ、めんどくさいなと思う。だけど、二人の機嫌を直さなければならないのもまた事実。どうしたものか……ん?


「モニターか……」


 飛鳥と茜がヘソを曲げ、めんどくさいな、どうしようかなと思案している俺の目に飛び込んできたのは零達を監視しているモニター。そこに映っているのは鬼の形相で俺を探している零達。ここで注目すべくはこのモニターに映っているのは零達だけではなく、親父や爺さんも映っており、反応はなかったものの、彼らにもこちらの音声は聞こえていたはずだ。反応しなかった理由は不明だけど


「ちょうどいい。後が怖いが、今は飛鳥と茜の機嫌を直すのが優先だ」


 俺はすぅっと息を吸い────────


「あー! 飛鳥とイチャつきてぇ!! 茜を抱きしめて毎日寝たいなぁ!!」


 とマイクに向かって全力で叫んだ


「「ふぇ!?」」

『『『『『────!?』』』』』


 背後にいる飛鳥と茜からはボンという音がし、零達は驚いたような顔をし、固まった。俺の顔は特に熱を帯びる事なく至って普通


「きょきょきょきょきょきょきょきょきょきょきょきょきょきょきょきょ恭クン!?」

「ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐグレー!?」


 壊れたラジカセ。この例えがピッタリなくらい飛鳥と茜は動揺している。んでもって零達は……


『アタシを差し置いて飛鳥とイチャついた挙句、どこの馬の骨とも分からない女を抱き枕にして寝たいとは……いい度胸してるじゃない!!』

『恭君、すぐに行きますからニゲナイデオトナシク̪シテイテクダサイネ?』

『恭ちゃん、課題百倍』

『恭くん、責任取ってよね?』

『お義姉ちゃんじゃダメなの?』


 恐ろしかった零達の顔がより一層恐ろしくなった。対して親父達は……


『恭! 結婚式には呼んでくれよな!!』

『ひ孫の顔が楽しみじゃわい』


 俺に差し迫る危機など露知らず、呑気にも結婚式の計画とひ孫を要求してきやがった


「やっべ、完全にやっちまった……」


 不機嫌女子二人の機嫌を治す為とはいえ今更ながらやってしまった感が尋常じゃない。親父と爺さんは放置するとしてだ、零達の方は完全にお怒りモード。見つかったらお仕置きは避けられないだろう。それはそうと盃屋さんは先程から反応がないようだが、大丈夫かと思い、彼女の方に集中すると……


『茜……きる……』


 零達とは別の意味でヤバい事になっていた。目からは完全に光が消え去り、どこから調達したか分からない木刀を腰に差しており、その姿はまるで武士のだった


「マジかよ……」


 盃屋さんが何でそんな事になっているのかは全く理解出来ない。言えるのはこのままだと茜の身が危うい。それだけだった


「部屋に来られたらヤベェ……」


 自分で煽っといてなんだけど、このまま俺の部屋へ突撃されたら全てがバレ、最悪の場合、この部屋に移るという輩が続出しかねない。そうなると広さ的な意味でこの部屋は定員オーバーになり、俺の平穏は一気に崩れ去る事になるのは目に見えている


「旅行に来てまで平穏は脅かされたくねぇ……」


 俺は自分が手に入れた僅かながらの平穏を守るべく、脳みそをフル回転させた

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