琴音&母ーズと共に廊下用の掃除用具を探し求め、その過程で俺が琴音を姉ちゃん、母ーズを母さん呼びするという黒歴史を量産した日から早いもので二週間が経ち、四月も終わりに近づいて来た今日。待ちに待った俺の入学式なのだが……
「恭くん! 入学式が終わったら一緒に写真撮ろうね!」
「「「「当然! 私達ともね!」」」」
現在、入学式会場であるホテルヤルマハのロビーで俺は琴音達に入学式後に写真を撮ろうとせがまれていた。
「一緒に写真撮ろうって言われてもなぁ……これだけの人数と撮るとかなり時間を要するんですけど……」
これまで現実から目を背けたい一心で新しい入居者の具体的な人数に関して明言を避けてきたが、ここまで来たらそれも困難になるので具体的な人数を言うと全部で七十八の母娘。ちょうどクラス二つ分だ。で、俺の入学式に来ているのは琴音と七十八人の母親達。椅子足りっかな……
「恭くんはお姉ちゃんと一緒に写真撮るの嫌……かな……?」
「「「「…………………」」」」
琴音と母ーズによる上目遣い攻撃が炸裂。俺の心には一ミリたりとも響かないのだが、周囲からの視線が痛い。そこ、ヒソヒソ声で『あの子、お姉ちゃん泣かせようとしている』とか言わないの! この人達はあくまでもルームメイトとかそういうものであって姉や母じゃないから!
「嫌ではないが、ほら、アレだ! 一人一人とツーショットだと時間掛かるだろ?」
琴音を入れて七十九人。全員とツーショットだと撮影に時間が掛かる。俺としては集合写真の方がありがたい
「あ、その辺は大丈夫。ここでは撮らないから」
「え? ここで撮らないのか?」
「当たり前でしょ。校舎前とかならともかく、ホテルの大ホールで入学祝いのツーショットを撮っても味気ないしね」
琴音の顔は『当たり前だ』と言わんばかりのものだった。普通の高校なら入学式は体育館でやるのが普通だ。しかし、零と闇華の通う高校も俺の通う高校も少々特殊だ。零と闇華の通う高校は何等かの事情で学校に通う事が困難な子ばかり集まってるし、俺の通う高校は俺と似たり寄ったりの人間ばかりを扱っている
「俺としてはホテルで姉を自称する人や母を自称する集団とツーショットを撮らされるという苦行をさせられないのは大助かりだけどよ」
普通の家は一家全員勢ぞろいしても多くて五人とか六人だろう。俺の場合は……これは別の機会にしよう。
「恭くんが私達と一緒に写真を撮るのが苦行とか言っていた事については後で話し合うとして、いくら私でもここで写真を撮るだなんて目立つ行動はしないよ」
さすがに成人しているだけあってここで一人一人とツーショットを撮るだなんて事をしたら目立つ事くらいは理解しているようだ。それにしても、全員で付いてくる事なかろうて……。こうなった原因はの晩飯で俺が口を滑らせた事が原因だ
昨日の夕飯──────。
「零、闇華、高校はどんな感じなんだ?」
普段の俺ならば学校の話題なんて出さない。しかし、通信制の高校で俺とほぼ同類が集まるとはいえ不安と期待が入り混じっていたせいかついこんな事を聞いてしまった
「珍しいわね。恭から学校の話が出るだなんて……明日は雪でも降るのかしら?」
零の言う通り俺から学校の話が出るとのは珍しい。それこそ明日雪でも降るんじゃないかと思う程度には。反論すると入学式の日取りがバレてしまい、面倒な事になりそうだから反論しなかったけどな
「降らねぇよ。ちょっと思うところがあって聞いただけだ」
学校に対して思うところがあるのは嘘ではない。具体的に思うところが何なのか言わないだけで
「そう。で、高校がどんな感じかって話よね?」
「ああ、クラスメイトとは仲良くできそうだとかそんな感じの話をしてくれると助かる」
自分で言っといてなんだが、零と闇華の場合はクラスメイトと仲良くするも何もない。だって一緒に住んでるからな
「そうは言われても私と零ちゃんの場合はそのクラスメイトと一緒に住んでるので仲良くできそうもなにもありませんね」
「そうな。闇華の言う通りね。一緒に住んでるんだから仲良く出来そうとか出来なさそうとかはあまり関係ないわね。強いて言うなら自分の不幸話で盛り上がる程度かしら?」
一緒に住んでいるから仲良く出来そうも何もないのは同意する。でも、何で自分の不幸話で盛り上がれるんだ?零達の盛り上がりの基準というのはよく解からん
「零と闇華に聞いた俺がバカだった……」
聞いといて何だが、俺は聞く相手を間違えたらしい
「そうね。アタシと闇華に聞いたのが間違いね。何しろアタシ達もクラスメイトもその母親も恭が纏めて拾っちゃったんだから」
「ですね。他の娘やそのお母様もですが、ちゃんと私達の面倒を最後まで見てくださいね? 恭君?」
闇華の言葉に零も琴音も頷く。何だろう? コイツ等は俺のペットか何かか? やだ、俺に女性をペットにして飼う趣味なんてないのに闇華の言動と零と琴音が同意とばかりに頷いてるのを見ると勘違いしちゃう……。主に、コイツ等の頭的な意味で
「面倒を見る話は置いといてだ。俺は何があっても零達だろうと母娘達だろうと見捨てたりしないって。その話はいいとしてだ、琴音はどうだ?高校に入って不安な事とかなかったか?」
零と闇華からは参考になりそうな話を聞けないと思った俺は対象を二人から琴音に移した
「ん~、私は特に高校に入って不安な事とかはなかったかな~? 何しろ私の行ってた高校って田舎だったから外部から来た人でも割とすんなり受け入れてて三十分もすれば打ち解けてたし」
琴音の話も参考になりそうになかった。高校がどこにあろうと別にいい。ただ、高校に入って不安だった事を聞いたつもりなのに聞かされたのは順応性が高かったよってプチ自慢話だったし。
「琴音達は順応性や社交性が高かったのか……」
琴音の高校時代の話も参考にはならなかった。まぁ、俺みたいに通信制高校に通う人間なんて芸能人や不登校、高校中退したとかそんな事情を抱えた奴じゃないと候補にすら入れないか。
と、ここまでは普通の家族とかがする話だった。問題なのはその次だ
「高校で思い出したけど、恭、アンタの高校って入学式いつなの?」
「あっ、それ私も気になります!」
零が出す話題に闇華が乗っかってくるのは毎度の事だったから何の疑問も抱かなかった。そんな零が出す話題(主に俺への質問やら文句)に俺が対応し、琴音がにこやかに見守るというのが俺達の日常だ。だからだったのかな……
「俺の入学式は明日だよ」
ウッカリ口を滑らせてしまったのは
「ふ~ん、明日ね。じゃあ明日は盛大にお祝いしなきゃね」
「ですね、私達の恩人である恭君の入学式ですものね、盛大にお祝いしなきゃですね」
零と闇華は俺の高校入学を盛大にお祝いしようという事でそれぞれ計画を立てているようだ。そんな中、琴音はというと……
「恭くんの入学式は明日か……よしっ!」
何やら思案顔をした後、何かを思いついたようだった。これが入学式のお祝いパーティーをする計画的な何かだったらどれだけよかった事か……
「何だ? 琴音も入学祝いパーティーに向けて何か用意してくれるのか?」
「違うよ! 私は明日行われる恭くんの入学式に出る! って決めたんだよ! もちろん、お母さん達と一緒にね!」
琴音の入学式出席宣言。琴音だけが出るのならいい。お母さん達……つまり、母ーズ全員で出るって事なんだが、来客用の椅子ってそんなになかったような気がする
「入学式に出るのはいいが、さすがに母親達全員は無理じゃねーか? せめて琴音を入れて二人とか、三人にしてくれよ。なぁ? 零と闇華もそう思うだろ?」
七十八人に琴音を入れた合計七十九人とかマジで勘弁してくれと心の底から思った。別に来てほしくないと言ってるわけじゃない。ただ、椅子とか部屋のスペース的な問題があり、全員は入らないと思うだけで
「別にいいんじゃない? 家族なんだから」
「零ちゃんの言う通り恭君と私達、他の部屋にいる娘達とお母様達は家族も同然ですし、いいと思いますよ?」
は、薄情者どもめ……俺達がいつ家族になったかとか突っ込みたかったが、それはいいとして、どこの世界に保護者を八十人近く連れてくる奴がいるんだよ?
「零ちゃんと闇華ちゃんも賛成してくれるみたいだから決定ね! お母さん達には連絡しておくから!」
と、いう事で琴音&母ーズが俺の入学式に出席する事があれよあれよと決定してしまい今に至る。ちなみに家はまだ工事中で家の戸締り等は作業員達に任せてある。移動の時の話は……正直したくない。大移動だったとだけ言っておく
「さて、そろそろ時間だし、俺はもう行く。琴音達も早く保護者席に行けよ?」
「分かった! 保護者席で見てるね!」
「「「「私達もね!」」」」
俺は自分のクラスが集まっている大ホール入口に、琴音達は保護者席を確保する為に一足先に大ホール内へと入って行った。
クラスが集まっている場所に到着した俺は早速通信制高校の格差的なものを垣間見ていた
「でさ~」
「え?それマジ?ウケるんだけど~」
入学式がもうすぐ始まり、各クラスで集まっているというのに未だに喋ってる連中がいる。容姿についてとやかく言うのは俺の主義に反するからあまり言いたくないから簡単に言うと髪は金髪で今時の若者代表と言った男子と私遊びまくってますと言った感じの女子
「…………」
「…………」
それとは対照的に無言で入学式の始まりを待つ者達。こちらは知り合いがいないというのもあると思う。もしかしたら純粋に人とのコミュニケーションが苦手なだけなのかもしれない。特徴としては男子も女子も黒髪で派手な格好はしていないという部分が共通している事くらいだ
「通信制高校偏り過ぎだろ……」
通信制高校に対しての偏見なのかもしれない。一つ言えるのが入学式前だというのに喋り続ける者とただ無言でいる者がいて極端だという事だ
「俺はどっちに分類されるんだろうか……」
俺、灰賀恭はこれからの高校生活に期待と不安を抱く前に自分が所為リア充集団に分類されるのか、それとも、あまりいい表現とは言えないが、根暗集団に分類されるのかだけを考えながら入学式開始をじっと待った
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