「過去の話をするっつっても何から話したものか……」
意気込んで過去の話をするだなんて言っても何から話していいか分からない。
「そんなに話しづらいものなの? 恭くん」
「いや、話づらいわけじゃない。単純に何から話していいかと戸惑っていただけだ」
過去に何があったかを話すのは別に構わない。小学校、中学校の同級生など俺にとっては過去の遺物。今更どうという問題はない
「そっか。じゃあ、私達が恭くんの過去に何があったか質問するからそれに答えてくれる?」
琴音の申し出は俺にとってありがたい。過去の話を長ったらしく話すのは性に合わない
「分かった。当時好きな人いたのとか恋愛に関する質問以外は答える」
長ったらしく過去を語らずに済むのは大助かりだが、若干約二名それに乗じて恋愛関係の質問をしてくる奴がいる。その辺はしっかり釘を刺しとかなきゃならない
「じゃあ、言い出しっぺの私からの質問だけど、恭くんが引きこもった理由は?」
俺が引きこもった理由について聞いてくるとは……琴音は初っ端から突っ込んだ質問をしてくるな
「人間関係が面倒になったから。もっと言うと普段は雑に扱ってるクセに体育祭やら学校祭で仲間って言葉を盾にクラスに協力させようって魂胆が気に入らなかったからだな」
仲間って言葉はいい言葉だとは思う。だからと言って普段雑に扱っている奴を無理矢理クラスに協力させようっていう脅し文句に使っていいという理由にはならないけどな
「そうだったんだ……私達は恭くんを雑に扱って都合のいい時だけ利用する事はしないから安心してね?」
「ああ」
「私の質問はこれでお終い。次は藍ちゃんね」
いつの間に指名制になったんだ?
「私の質問はただ一つ。恭ちゃん、昔から揶揄われたりしなかった?」
東城先生は幼い頃一緒にいただけあって俺が名前で揶揄われた事を見抜いていたようだ
「あるな。小学校入学から中学校卒業まで。ま、それもあって引きこもったんだけど」
「やっぱり……恭ちゃん、後でその揶揄ってきた奴の連絡先頂戴」
「あっ、それ私にもお願いします」
俺を揶揄ってきた奴の連絡先を入手した東城先生と闇華が何をするか容易に想像が付く。目のハイライトないし。って言うか、闇華に続いて先生もヤンデレなの?
「揶揄ってきた奴の連絡先なんて持ってるわけないだろ。そもそも、連絡網だって捨てたし」
個人情報を重視してと言うわけではないが、連絡網は邪魔だから捨てた
「「チッ……せっかく虫を始末出来るチャンスだったのに」」
闇華と東城先生が怖い
「闇華も藍ちゃんも危ない事を言わないでくれ。俺は揶揄ってきたりした奴をどうこうしようとは思ってないんだからよ」
揶揄ってきた奴をどうこうしようとは思わない。興味ないしな
「分かった。今回は諦めてあげる。私からは以上だよ。次、闇華ちゃんね」
東城先生と闇華が俺を揶揄ってきた奴を闇討ちするという最悪の事態は回避出来たようで何よりだ
「そうですね、私の質問は……恭君が揶揄われた原因って何ですか?」
俺の揶揄われた原因……すなわち初見で零達の性格というか本質を見抜く事が出来た要員だ
「名前と渾名」
「「「「名前と渾名?」」」」
この連中に言ってもピンと来ないか……経験がなきゃ仕方ないか
「俺の名前って灰賀恭って言うだろ?それを弄って廃墟って呼ばれてた事があるんだよ。昔はそれでよく揶揄われた」
今にしてみれば短絡的な発想の元で生まれた渾名だよな。当時は俺を廃墟って呼ぶ奴を片っ端から泣かせてたっけ……男女問わず。それも小学校高学年で止めたけど
「そうですか……廃墟ですか……ワタシノキョウクンヲソンナフザケタアダナデ……サイコウニオモシロイジョウダンデスネ。ネェ、アイサン?」
「ソウダネ、サイコウニオモシロイジョウダンネ。ヤミカチャン」
ヤベェ……東城先生はともかく、闇華の方は何か変なスイッチ入ったみたいだ
「二人とも俺の為に怒ってくれるのは大変嬉しいが、だからって暗殺や闇討ちは考えるなよ?」
俺が直接手を下すのならまだしも東城先生と闇華が犯罪に手を染めるのだけは勘弁してほしい
「恭君が止めろと言うなら私は何もしませんよ?」
「私も恭ちゃんが止めろって言うならしない」
「ならいいけどよ」
信用してないわけじゃない。闇華と東城先生ならやりかねないとは思ったけど
「ええ。恭くんが嫌がる事するわけないじゃないですか。という事で私からは以上です。最後に零ちゃんお願いしますね」
琴音から始まった俺の過去に対する質問。琴音→東城先生→闇華の順だと最後は零になるのが必然だ
「ええ。って言ってもアタシの聞きたい事は闇華達が聞いてくれたからほとんど聞きたい事はないのよ。強いて上げるなら恭が引きこもりになった時、アンタのお母さんはどうしたのかしら?」
今まで母親の話は一度も出なかった。誰も聞かないからそのままにしておこうと思ったが、このタイミングで聞かれるとは思わなかった
「母さんは俺の好きにしろって言ってそれっきりだった」
「そう。アンタのお母さんって優しいのね」
「まぁな」
母親の話に関しては本当の事なんて言えない。今はな
零達の質問大会が終わり、俺達は星空の下でコーラを飲んでから部屋に戻った。さすがに前回とは違い、缶とはいえ二本も飲めるわけなく、一本は部屋に持ち帰り枕元に置いておいた。寝てる時に喉が渇いてもいいように
東城先生が加わって一夜が過ぎ、今日は珍しい事に早起きをした俺。零達の誰かが俺の布団に潜り込んできている状態で目が覚めるという男子高校生にとって精神的疲労が溜まるような展開に見舞われる事なく普通に起きた
「おはよう、恭ちゃん」
「おはようございます。恭君」
「アンタが一番最後よ」
東城先生、闇華、零は俺よりも先に起きていたらしい。で、零は俺が一番最後って言ってたから琴音はとっくの昔に起きている
「悪かったな。これでも俺の中では早く起きた方なんだ」
零に悪態をつきながら自分の席に着く
「別に悪いとは言ってないでしょ」
「はいはい」
「それより、アンタ寝癖付いてるわよ?」
「マジか」
「ええマジよ。洗面所行って直してきなさい」
零に言われた通り俺は寝癖を直すため洗面所へ。鏡を見ると確かに寝癖が付いていた。アニメキャラよろしくアホ毛のような寝癖が。
「ギャグかよ」
手に水を付け、手櫛で髪を整えてリビングへ戻る事に。
「おはよう。恭くん。朝ご飯出来てるよ」
リビングに戻るとタイミングよく琴音が朝食を並べていた。珍しい事もあるもんで今日はテレビのニュース番組を見るとは思わなかった。
『次のニュースはこちら!』
ニュースキャスターがボードに張られているシールを剥がすとデカデカと『謎過ぎる爆破予告!?』という見出しが
『最近企業宛てにこういう爆破予告が届いているようです』
キャスターが取り出したボードには『俺を 企業を絶対に許さない。明後日の昼に爆破してやる』という怪文書と火の玉を彷彿とさせる『モンスターファイター』というカードゲームのカード。コストが2でパワーが500しかないカード。言語が韓国語というところ以外は何の変哲もない
「そういえば最近このニュースでどこも持ち切りだった」
東城先生は知ってたみたいだけど、このニュースってそんなに有名だったのか。
「爆破予告もいいけど、早く食べないとみんな遅刻するよ?」
「琴音さんの言う通りですね」
「そうね。恭! アンタも突っ立ってないで早くこっちに来なさい」
「ああ」
全員が揃ったところで朝食に。それにしても爆破予告を出した奴は何であんな捻くれた爆破予告状を出したかねぇ……
「爆破予告って言えば恭。アンタのお爺さんやそのお友達の会社は何ともないの?」
朝食の最中零が唐突に爺さんとその友達の話を振ってきて思い出した。爺さんやその友達って大企業の会長や社長だったわ
「特に爆破予告が来たって話は聞いてねーな。それに、『俺を捨てた企業を許さない。明後日爆破してやる』って言われてもなぁ……爆破予告をした奴がどこの企業に捨てられたか分からない以上警備を強化する以外に対策のしようがないだろ」
単なる悪戯かもしれないのに大げさだと思いつつ俺はみそ汁を啜った。うん、美味い
「「「「…………」」」」
みそ汁を啜っているところに零達から視線を感じ、チラッと零達を見ると何だろう?悲しそうな顔で俺を見ているんだけど……俺何かマズい事言った?
「何だよ? 俺何かマズい事言ったか?」
昨日に引き続き今日も失言とか笑えねーぞ……
「い、いえ、恭君は何もマズい事は言ってません……。ただ……」
悲しそうな顔をし俺から目を逸らす闇華。何だ?俺はそんなにマズい事言ったか?
「ただ何だ?」
「た、ただ、わ、私は……私は恭君が苦しんでるのに気づいてあげられなかった自分が情けなくて……」
それだけ言って闇華は泣き崩れてしまった。何なんだよ? マジで
「はい? 何の話?」
闇華が泣き崩れた意味が解からない。マジで何なんだよ……
「とぼけないで恭!!」
バン!! と机を叩いた零の目からは怒りの色が浮かんでいた。俺は本格的にわけが分からなくなってきた
「とぼけるって何を?」
とぼけるなと言われましても俺は何も悪い事をしてないからとぼけようがない
「恭!! アンタが爆破予告を送り付けた犯人なんでしょ!?」
「はい?」
零の言葉で闇華が泣いた理由は何となく察しが付いた。しかしだ。爆破予告を送り付けた犯人呼ばわりされる謂れはない
「恭ちゃん。私の友達に警察官いるからすぐに自首しよう? 付き添ってあげるから」
「そうだよ。恭くん。私も藍ちゃんと一緒に付いていくから。だから……ね? 自首した方がいいと思う」
東城先生と琴音。この二人も零と闇華に感化されたのか俺が犯人だという思い込んでいるみたいだ。マジでめんどくさい事になった……こんな事なら爆破予告の空欄を埋めて読むんじゃなかった……
「何で爆破予告の空欄埋めて読んだだけで犯人呼ばわりされなきゃいけないんですかねぇ……」
「恭ちゃん。あの爆破予告の空欄は警察が現在その意味を調査中だってニュースで言ってたんだよ。それを簡単に解読出来るのは犯人以外ありえないでしょ」
「俺は犯人じゃない。そもそも、俺は就職どころかバイトすらしてないのに企業を恨む意味がないだろ」
バイトも就職もしてない俺が企業に爆破予告を送り付ける意味!!
「だってさっきニュースでやってた爆破予告の空欄を埋めて読んでたじゃないの! それでアンタが犯人じゃないってなら誰が犯人なのよ!」
零の隣でコクコクと頷く闇華。大人二人も同じだ。でもなぁ……あんな露骨に言われたら『モンスターファイター』をやってる人間なら大半の奴がそう思うんだけどなぁ……
「知らねぇよ。って言うか、あの爆破予告の空欄って警察が調査中だったの?」
「うん。恭ちゃん知らなかったんだね」
「ああ。ニュースなんて普段はあんま観ないからな」
あの爆破予告の空欄は警察の方でとっくの昔に調べが付いてるとばかり思ってたんだが……まさか調査中だったとは……
「恭ちゃん……」
東城先生の飽きれた声だけがリビングに響いた
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