学校から逃げ出し、女将駅へ来た俺は寄り道する事なく、家へ帰宅。平和な時間を過ごしていたはずだった……
「まぁまぁ、遠慮なく食べてくれ」
ここは多くの客で賑わうファミレス。目の前にいるのは瀧口であるのはイチゴパフェ。そして……
「「…………」」
「「あ、あはは……」」
無言で睨み合うギャルと転入生女子、苦笑を浮かべる由香と飛鳥。二学期始まって早々ツイてねぇ……俺が学校を出る時、瀧口はカバンの類を持っていなかった。だからこそ見つかる前に逃げ出し、家に籠る算段だったのに……
「どうしてこうなった?」
パフェを口に運びながらどうしてこうなったかを思い出す。俺が瀧口達と一緒にいる理由は簡単で女将駅に到着した瞬間、彼らが加賀の運転する車から出てきて拉致られ、このファミレスに連れ込まれたからだ。ギャルと転入生女子、飛鳥と由香がいる理由は分からん
「どうしてって、君が逃げ出したからだろ?」
真顔でこちらを見る瀧口はさも俺が向き合うべき問題から逃げ出したのが悪いと言わんばかりの言い草だが、元はと言えばお前の問題で俺には無関係。拉致られそうになった時も今も逃げ出そうと思えばいくらでも逃げ出せる。そこんとこ忘れてないよな?
「逃げ出すも何も俺には関係ない。お前がどこで修羅場になろうと女に刺されようと俺にとってはどうでもいい事だ。それより睨み合いしてる女子二人を何とかしろ。話を聞こうにもこのままじゃ埒が明かない」
一触即発。ギャルと転入生女子は少しでも油断するとすぐにでも喧嘩を始めそうだ。それもこれも原因は瀧口にあるってのは明らかで彼がハッキリすれば全て終わる話だと俺は思う
「僕もそうしたいのは山々なんだけど……」
瀧口がギャル達の方へ視線を移した。俺もそれに倣い視線を移すと……
「何さ?」
「何ですの?」
近寄りがたいオーラを発しながら二人はまだ睨み合いを続けていた
「はぁ……あれを止めるのは無理か」
「そういう事さ。諦めてくれ」
「そうする。んで?ギャル達はいいとして、どうしてここに由香と飛鳥がいるんだよ?」
「どうしてって、二人が灰賀君と一緒に帰るって言ったから連れて来たに決まってるじゃないか」
事もなげに答える瀧口。コイツはどこまで知ってんだ?お袋の事まで知ってるとなると面倒でしかない
「あ、そう。お前がどこまで知ってるかはどうでもいいとしてだ、この際だから転入生女子との関係だけ聞くわ」
飛鳥と由香が幽霊連中の事を話してしまったのなら後で口止めをするとして、ひとまず瀧口と転入生女子の関係だけ聞く事に。
「それについては君も知っての通り、僕と彼女は所為許嫁。と言っても僕は承諾してない。彼女が勝手に言ってるだけなんだけどね」
許嫁────言うまでもなく親同士が勝手に決めた結婚相手。物語の世界じゃありがちだけど、実際に目の当たりにすると……
「へぇ~、そうだったのか~」
別に驚きはしないな。政略結婚なんて昔は珍しくも何ともなかっただろうし
「へぇ~って……もう少しないのかい?」
「ないな。教室でも転入生が婚約者って言ってたしよ」
ギャルに瀧口との関係を聞かれた時に転入生が自分は瀧口の婚約者だと豪語していた。その時は興味すらなく、改めて聞いたところで驚きはしない
「で、でも、もう少し何かあっても……」
「何だよ?驚いてほしかったのか?だったら諦めな。俺にンなリアクションを求めても無駄だ。それより、その婚約者が何だって星野川高校みたいな通信制高校に転入してきたんだよ?見た目の判断で申し訳ないが、あんな感じだったら普通はお嬢様学校にでも通ってたんじゃねぇの?」
巨乳、金髪、縦ロール。オマケに服は黒を基調としたワンピース。嫌でも育ちの良さを突き付けられてしまう。星野川高校にも一応、制服はある。実際は制服を着てる奴なんてほとんどいないからあってないようなもので存在はする。俺を含め、みんな私服だから目立たないけどな。
「そ、そのはずだったんだけど……僕が十六歳の誕生日を迎えたから……」
「迎えたから何だよ?親同士が決めた約束を律儀にも守ろうとして転入してきたとでも言いたいのか?」
瀧口は無言で頷く。当てずっぽうな上に小説や漫画の王道展開を口にしただけの俺はどう反応していいか困り、飛鳥と由香に助けを求めるも彼女達は何も言わず苦笑を浮かべながら肩を竦めるだけだった
「はぁ……とりあえずお前と転入生の関係は分かった。転入生との関係は分かったけどよ、ギャルの方とは付き合ってるのか?」
瀧口が転入生との婚約についてどう思ってるかは分からない。彼が婚約に関し反発している可能性だってあり、親に反抗するためにギャルと付き合っていたとしたら手の施しようがない。こればかりは当人達の感情に左右されるところが大きく、第三者の俺が口を出す問題じゃない
「いや、あの子とは付き合ってないよ。というか、僕は今まで特定の異性と付き合った事がないんだ」
「は?」
待て、それは変じゃないか?由香が転入してきた日、瀧口と別れたって話をされ、中学時代に遡ると由香と瀧口がセットで俺に絡んできた。挙句、お袋の形見を盗られたんだが、その話は置いておこう。由香の話を考慮し、今の話を聞くとコイツは女を弄ぶだけ弄んで捨てる最低なクソ野郎って事になるぞ?
「由香ともそうだけど、何て言うのかな……一人の女子と仲良すぎて周りが勝手に騒ぎ立てるって事あるだろ?僕は今までそんな感じでいつの間にか付き合ってる事にされてたんだ」
彼の話が分からんでもない。特定の男女がカップルっぽい雰囲気を醸し出してたらもしかして付き合ってるのでは?と邪推してしまう事なんていくらでもある。邪推されたところで本人達が一言否定すればいいだけの話で今の瀧口みたいに修羅場に発展するほど拗れはしないのが定石だ
「それって一言当事者達が否定すれば済むだけの話じゃね?」
女の方はどう思ってたか分かんねぇけど、一言自分達は付き合ってないと言えば終わる話だ
「そ、それは……」
「それは?否定できなかった理由でもあんのか?」
否定できなかった理由があったとしたらなんだ?虫除けになってくれとか、しつこく付き纏われてるから彼氏のフリでもしてくれってところか?
「そ、それは────」
「ここから先はあたしから話すよ」
瀧口の言葉を遮り、乱入してきた由香。このまま彼と問答を続けているよりも由香に聞いた方が早いと判断した俺は由香の方へ目をやる
「それがいい。瀧口に聞いたところで話が前に進まん」
瀧口はリア充グループのリーダーだ。彼自身リーダーだという自覚なんて皆無で単に友達を作っただけだったとしても教室や学年の雰囲気がそう仕立て上げる。その実態はここぞって時にハッキリせず、助けろと言う割に肝心な事を話さない優柔不断野郎。俺も決断力があるってわけじゃねぇけど、コイツよりかはマシだと自負している。現に今も女に重要な事を説明させようとしてるしな
「うん。って言っても話自体は簡単。あたしと祐介がどれだけ否定しても周りがそれを認めようとせずに盛り上がったってだけ。いわばなんちゃってカップル」
由香が言ってる事の意味が分からない……。当事者達が否定し、周囲が認めようとせず盛り上がってたとしても否定を続けていればいずれは解かってくれる奴も出てくる。それじゃダメだったのか?
「言ってる事の意味は理解不能だが、由香と瀧口は周りに流されて付き合っていたように見せかけてたって事でいいのか?」
「うん、そうだよ。だからあたしと祐介は手を繋ぐどころかキスすらしてない」
「さいですか……」
俺にとって由香と瀧口がどこまで行ったかなんて道端に転がってる石ころ並みに興味がなく、キスのくだりをスルーし、再びギャルと転入生に目を向ける。すると……
「アンタみたいな根暗が祐介と釣り合うと思ってんの?」
「貴女みたいなお猿さんよりはマシだと思っておりますわ!貴女こそ私と祐介の邪魔をしないでくださいな」
睨み合いから言い合いにヒートアップしていた。
「はぁ……こりゃ瀧口がどっちかを振らなきゃ終わんねぇな」
転入生の言う事が本当なら彼女には双方の両親という心強い後ろ盾があり、瀧口に逃げ場はない。一方でギャルの方は友達以上恋人未満。瀧口が一言コイツとは付き合ってない、彼女でもないのに人の異性関係に口を挟むなと言えば終わる。巻き込まれた俺からするとこの三人ほど迷惑なものはなく、早く解放してくれとすら思う
「そこを何とかできないかい?」
「出来ねぇな。これもお前がハッキリしないのがワリィんだろ?この際、ギャルを振るか転入生の方を振るか一人でじっくり悩め」
俺は間髪入れずに瀧口を突き放す。どんな教育を受けて来れば自分で何も決められないヘナチョコになるかは分かんねぇが、今のコイツを見ていると助けてやろうとは思わない。というか、口を出さなくても良いのではとすら思える
「それが出来ないから悩んでるんじゃないか……」
違う。出来ないんじゃない。やらないんだ
「やらないの間違いじゃないのか?大体、転入生と結婚するのが嫌ならそっちをスパッと切ればいい。逆にギャルの方を迷惑だと思うならそっちを切ればいい。こんな簡単な事すら出来ないだなんてどうかしてるぞ?」
断られる方の気持ちを考える前提で話をするとだ、結婚するのが嫌なら断ればいい、付き合えないのなら断ればいいってのは当たり前の事だ。結婚する気も付き合う気もないなら両方断ってもいいとすら思える。しかし、瀧口はそれをしない。何でだ?
「自分でも分かってるさ……でも、僕は自分を好きでいてくれる人を傷つけたくないんだ……。灰賀君、君ならこの気持ち解るだろ?由香と内田さんに好かれている君なら」
そう言って瀧口は飛鳥達の方へ視線をやり、俺も釣られて視線を二人へ移す。てっきり顔を真っ赤にしてるのだとばかり思っていたが、意外にも彼女達は俺を顔色一つ変えずに見つめるだけで何も言わなかった
「傷つけたくねぇのは分からんでもない。だが、俺とお前じゃ住んでる環境や置かれている立場が違う。お前の場合片方が婚約者で片方はただの女友達だろ?二人共お前に直接好意を伝えてきたわけじゃないなら両方振るのもアリなんじゃねぇのか?」
日本という国の法律は時として残酷だ。一夫多妻制が現代まで存在していたら瀧口に拉致られる事なんてなく、彼が二人の女性の間で悩む事もなかっただろう……。それよりも俺はまだ肝心な事を聞いてない
「で、でも! それじゃあ二人を傷つけてしまう事に……」
は、話が終わらねぇ……こっちの提案を悉く却下しやがって……。どうすりゃいいんだよ……俺関係ないのに……
『この際だから瀧口君もきょうと同じにしたら~?』
お袋、俺と同じって事はだ、コイツにも幽霊が見えるようにしたら?って事でいいんだよな?
『お袋じゃなくて早織でしょ!』
プクゥと頬を膨らませるお袋。呼び方なんて今はどうでもいいだろ?帰ったら好きなだけ呼んでやるから今は質問に答えろ
『むぅ~……そうだよ、きょうの言う通りだよ……』
膨れながら答えるお袋を可愛いと思いながら俺は考える。瀧口を俺と同じにする意味がどこにあるのか、した後で何かが変わるのかをない頭を振り絞り必死に考える。考えたところで答えは浮かんでこない。お袋の案で解決するとも思えない。一応、聞くだけ聞くか。その前に……
「ここからは別行動にしないか?」
「「「「「え……?」」」」」
瀧口達が目を丸くしこちらを見る。瀧口達の目には驚嘆の色が浮かぶが俺はそれを無視して続けた
「これからする話は飛鳥にとって思い出したくない奴の名前を出す。飛鳥は飛鳥で嫌な思いさせられた奴の名前なんて聞きたくないだろ?だから、俺と瀧口の二人で話し合おうと思う。どうだ?別行動しないか?」
更に言うと瀧口が幽霊のお袋を見て驚きのあまり大声を上げないとも限らない。店にとってお客様は神様だが、悲鳴や奇声を上げる客は神様ではなく、疫病神。ここを出るという意味でも別行動を取るメリットは十分にある。俺は全員を一瞥し、異を唱える者がいない事を確認して席を立とうとした時……
「恭クン、それって神矢想花の事だよね?」
飛鳥が口を開いた
「ああ、そうだ。飛鳥にとって思い出したくない奴だろ?」
「確かにあんまりいい思い出はないけど、別に思い出したくないって程じゃない。別行動する必要なんてないよ」
「そうか、ならいい。だが、場所は移させてもらっていいか?ここじゃやりづらい」
「何するつもりなの?」
「場所を移せば解る。瀧口の悩みもあっという間に解決すると思うぞ?」
本音を言うと俺はお袋の提案に乗っかっただけで瀧口の悩みがどう解決するのかは分からない。俺と同じにしただけで彼が転入生とギャルのどちらか一方をスパッと決められるとは到底思えず、果てしなく不安だ
「それは本当かい?」
今度は悩みが解決するってところに食いついて来た瀧口が口を開いた
「ああ。本当だ。ただ、ここじゃ少しばかり人が多くて狭いから移動する必要がある」
「この際僕の悩みが解決するならどこでもいい! そこへ連れて行ってくれ!」
飛鳥からは神矢想子の話をする許可を、瀧口からは移動の許可を得た。残るは由香、ギャル、転入生の三人
「了解。んで?由香達はどうする?このままここに残って三人仲良く女子会をするか、俺に付いて来るか。好きな方を選べ」
正直なところ女性陣は必要ない。悩んでるのは瀧口一人。飛鳥は話の流れで何となく付いて来る感じになってしまったけど、由香達は別に付いて来ても来なくてもって感じだ
「あたしは恭に付いてく。今にも喧嘩しそうな二人を押し付けられても困るし」
「アタシは祐介の行くところだったらどこでも行くし!」
「私は祐介の妻となる女! 離れ離れになるだなんてあり得ませんわ!」
という事で由香達の同行が決定。俺は電話をしてくると言って一端店から出た
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