高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

東城先生に隠し事をするのは不可能に近いようだ(後編)

公開日時: 2021年2月5日(金) 23:32
更新日時: 2021年4月11日(日) 01:42
文字数:4,512

『藍ちゃん、美人になったねぇ~……きょうも藍ちゃんがお嫁さんだったら嬉しいでしょ?』


 現れるなりトチ狂った事を世間話感覚で話すお袋は自分が幽霊だという自覚がないのかと頭を抱えてしまう


「嬉しいか否かは別としてだ。お袋、藍ちゃんが困惑しているぞ」

『きょうのいけず~』


 年甲斐もなく頬を膨らませるお袋。えーっと、亡くなったのは俺が中学二年の時で当時の年齢は……止めた。考えたらお袋キレそうだ


「いけずでも何でもいい! とりあえず藍ちゃんにあの時怒った現象の説明! その前に俺が藍ちゃんを呼び戻す」

『りょうか~い』


 お袋を待たせ、俺は固まっている東城先生を呼び戻す事に。今日一番の面倒事だ


「おーい、藍ちゃん?」


 声を掛けるも反応はない


「藍ちゃんやーい」


 目の前で手を振るも反応なし


「東城藍さん、起きてください」


 手を振るのを止め、看護師っぽく起こしてみるもさっきと同じ。万策尽きた……しゃーない、アレを試してみるか……本当はやりたくないけど


「藍、愛してる。これからもずっと側にいてくれ」


 なるべくならこれだけは使いたくなかった。主に俺の精神衛生上の理由で


「恭ちゃん、今の言葉本当?」


 多少の時間差はあったが、東城先生はこちらの世界に戻って来てくれた。俺の何かと引き換えに


「今の言葉って?」

「愛してるって本当?」

「えーっと……その……」

「恭ちゃん?」


 東城先生の純真無垢な瞳が俺を捉えて離さない。東城先生をこちらの世界に戻すための策で自分の首を絞める事になるとは……とんだ皮肉だ


「愛してるっつーか……同じ部屋にいる連中にはそれ以上の感情を抱いてるっつーか……感謝はしている」


 答えに困った俺は窮地を脱するためにお茶を濁す。東城先生や零達に好意はある。だがそれは人としてのものであり、恋愛感情かと聞かれれば話は別だ


「そう……今はそういう事にしといてあげる。大方、ショートした私の目を覚まさせようとして言ったんでしょ?」


 東城先生マジエスパー……


「すまない……」

「ううん。恭ちゃんに説明してって言って処理落ちした私が悪いからそれはいい。ところで、恭ちゃんのお母さん……早織さんが化けて出てきた夢を見たような気が……」


 処理落ちから戻って来てもお袋の存在は夢って事にしたんだな、東城先生……


『ざんねん! 夢じゃありませ~ん! 現実で~す!』


 俺と東城先生の間からにゅっと顔を出しおどけて見せるお袋。生きてる人間じゃ無理でも幽霊ならすり抜ける。まさに幽霊様様だな


「え……うそ……げ、現実……」

『もちろん! 現実だよ!』


 俺達の間から抜け出たお袋は東城先生の前に移動し、エッヘンと腰に手を当てて胸を張る


「きょ、恭ちゃん! あ、悪霊! 悪霊がいる!!」


 普段のクールさはどこへやら、分かりやすく動揺する東城先生。本当に普段とのギャップがすごい


「あ、悪霊って……あんな能天気でも俺の母親で今は守護霊というか、精霊なんだけど……」

「で、でもぉ……わ、私は昔から怖いものが苦手だって恭ちゃんも知ってるでしょぉ~」


 ついに東城先生のキャラが崩壊した。つか、東城先生が昔からホラー系ダメだって初耳なんだけど


「いや、知らんし。むしろ今初めて聞いた」

「じゃあ、覚えてよぉ~、私は怖い話がダメなんだよぉ~、夜中に一人でトイレに行けないよぉ~……」


 いい大人が怖い話を聞いただけで夜中に一人でトイレに行けなくなるとか子供かよ……


「はいはい、藍ちゃんは怖い話を聞くと夜中に一人でトイレに行けないのな。覚えた覚えた。それより、話が前に進まないんだが……」


 普段はクールな東城先生が実は極度の怖がりだというのは理解した。にしても……琴音もだったが、年上組のギャップのすごさ!


「ご、ごめん……ねぇ、恭ちゃん……」

「何だよ」

「怖いからギュってしてていい?」


 上目遣いで俺を見る東城先生の姿に不覚にもドキっとしてしまった。


「ああ。いくらでも抱き着いてるといい。正直、自分の母親とはいえ今起こっている現象は普通じゃないしな」

「うん……」


 抱き着く力を強め、俺に密着する東城先生なのだが、俺の腕には東城先生の夢と希望の塊の感触が生々しく伝わってくる。ここは役得と思って堪能しよう


『うおっほん! きょう! そろそろお母さん話していいかな!! って言うか! 二人共イチャイチャし過ぎ!』

「「────────!?」」


 痺れを切らしたのかお袋が盛大な咳払いをした。俺と東城先生は揃って驚いて飛び上がる。その咳払いのせいで東城先生はさらに怯えてしまい、俺はというと……


「ごめん、忘れてた」


 純粋にお袋の存在を忘れていた


『も~! きょう酷い!』

「わ、悪かったよ。それより、藍ちゃんにあの時に起きた現象の原因を話してやってくれないか?」


 プンスカと怒るお袋を宥めつつも神矢と対峙した日の後に起きた現象の説明を促す。


『全く、でもまぁあ、きょうの言う通りだね。いつまでも怒っていても埒が明かないからサクッと説明するけど……その前に藍ちゃんに確認しておきたい事があるんだけど、いいかな?』


 先ほどまで怒っていたお袋の声色と口調が真剣なものに代わる。もちろん、東城先生を見る目も


「はい」


 お袋に感化され、東城先生の声色や口調も変わる


『藍ちゃんはこれから聞く話を聞いても恭ちゃんの側に居続けられる? もし無理なら聞かない方がいいよ。知らない方が幸せって事も世の中にはたくさんあるからさ』


 ここでお袋を咎めるのは簡単だ。しかし、お袋はお袋なりの考えがあっての事。それを止めようとは思わない


「どんな話を聞いても私は恭ちゃんの側に居ます。教師として、一人の女として」


 真っ直ぐな瞳でお袋を見つめる東城先生からは並々ならぬ覚悟が伝わってくる。彼女の答えを聞いたお袋は……


『うん! 合格かな!』


 笑みを浮かべ、触れはしないが、東城先生の頭に手を伸ばし、撫でた


「ご、合格?」

『うん! 合格! いやぁ~、ハッキリ言って今からする話は理解のない人にとってきょうが化け物と思われても無理はない話だからさ~、話す前に藍ちゃんの覚悟がどれほどのものか試しておかないとって思ったんだよ~。でも、今の答えは合格!あの日の事を踏まえて全て話すね』


 それからお袋はゆっくりと口を開き、お袋の家系が霊力を扱う家系である事、俺の霊力が人よりも強い事、生前は自分がそれを押さえ、死んでなおその役割を担っていた事も。話は神矢と対峙した後の話になり、聞き終えた東城先生は……


「あの日の現象は仕掛けの誤作動じゃなかったんだ……」


 あの日の現象が誤作動ではないと知った東城先生の表情は複雑なものだった。自分の勤める学校に欠陥がなかったという安心感と俺に人知を超えた力があったという真実を知っての恐怖心。その二つがごちゃ混ぜになっているという感じだ


『そうだよ。あの日の現象は星野川高校の教師達。その人達の無責任な発言がきょうの怒りに火を付けた結果。藍ちゃん、もう一度聞くけど、真実を知った藍ちゃんにとってきょうはいつ爆発するか分からない爆弾。そんな爆弾を側に置いておく覚悟、あるかな?』


 自分の息子を爆弾呼ばわりするとは末恐ろしい母親だ。事実なだけに俺は言い返す事が出来ず、東城先生の方は言い返そうとしても上手く言葉が出て来ずに言い返せない。


「恭ちゃんは爆弾なんかじゃ……」


 それでも言い返そうと言葉を探し、やっと出てきた言葉がそれだった


『爆弾だよ~、だって、きょうが本気で怒ったら星野川高校の校舎くらい簡単に吹き飛ぶよ? それどころか熊外が簡単に吹き飛ぶ。そんなきょうを爆弾じゃないなんて言いきれる?』

「言い切れます! 恭ちゃんは爆弾なんかじゃありません! 私の大切な人です! 例え世界の全てを敵に回しても私だけは味方であり続けます!」


 滅多な事じゃ声を荒げない東城先生がこの時ばかりは声を荒げお袋に反論する。


『そっか……そっか、そっかぁ~』


 東城先生の決意にも似た宣言を聞き、お袋は顔を綻ばせた。何故か嫌な予感がする


「さ、早織さん?」


 顔を綻ばせるお袋を見て微かに動揺する東城先生と何となくこの後、何を言うかを理解してしまいつつある俺。


『きょう! お母さん、藍ちゃん娘にほしい!』


 嫌な予感的中。言うと思った


「お、お嫁さん!?」


 東城先生の顔は先程とは打って変わって真っ赤だ。かく言う俺は……


「なに言ってんの? マジで」


 白けた視線をお袋に向けていた


『何ってお母さんの願望だよ! きょう! 藍ちゃんお嫁さんにしない?』


 マジで何言ってんだ!?


「お嫁さんも何も付き合ってすらいない。それに、俺は結婚できる年齢に達していないんだ、そういう話は俺が結婚できる年齢になるか成人してからにしてくれ」


 彼女にしない? とかならまぁ……うん。ただ、恋人同士になったら関係を隠すのはもちろん、デートだって遠出になる。東城先生と俺の年齢差を考えると仕方のない事だ


『え!? 結婚できる歳か成人したら藍ちゃんとの結婚を考えてくれるの!?』


 目を輝かせ俺にずいっと近寄るお袋。幽霊だから体臭とかはしないものの、どこか怖い


「まぁ、それなりの年齢になったら考える」

『約束だよ?』

「ああ、約束だ」

『うん! じゃあ、お母さんはしばらく寝るから後は若いお二人でごゆっくり~』


 それだけ言うとお袋は目を閉じ、寝息を立て始めた。幽霊でも寝るんだな。で、お袋が寝た後、俺達は────


「「……………」」


 体勢は変えなかったが、互いに無言だった。オマケに顔は二人とも真っ赤だ


「あ、あの、きょ、恭ちゃん……」

「な、何だよ……」


 お袋の言葉を妙に意識してるせいか俺達は互いに吃ってしまう。


「さ、早織さんってすごい人だね。死んでなお恭ちゃんの事を思ってるなんて」

「そ、そうだな。息子としては嬉しい限りだ」

「「……………」」


 少し会話した後、再び訪れる気まずさからくる沈黙。


「な、なぁ、藍ちゃん」

「な、何……」

「重たい話のせいで藍ちゃんを甘やかす事あんま出来なかった。今更だが、俺にしてほしい事ってあるか?」


 神矢と対峙した日の話はあまりにも重すぎた。本当なら東城先生を精一杯甘やかすつもりがそれどころじゃなくなってしまった


「してほしい事?」

「ああ、例えば、抱きしめてほしいとか、頭を撫でてほしいとかあるだろ?」

「うーん……これって言うのは特にないけど、一つお願いがある」

「お願い?」

「うん、お願い」


 お願い……零や闇華、琴音のお願いは毎日俺とメッセージのやり取りをしたいというものだった。東城先生だけは違っていてくれよ。そんな淡い願望を抱きつつ願いの内容を聞いた


「それってなんだ?俺に出来る範囲でなら聞くぞ」

「私とメッセージで毎日やり取りをしてほしい」


 先生、貴女もですか……零や闇華、琴音に引き続き三人目なんですけど……


「そんな事でいいなら構わないぞ」

「じゃあ、毎日登下校と学校にいる時にメッセージ送るからちゃんと返してね? 約束だよ?」

「分かった」


 零、闇華、琴音に引き続き東城先生もかよ、学校でも顔付き合わせてんだろ……とは思った。だが、今は甘やかす時間なので無碍に断る事も出来ず、約束してしまった俺。まぁ、零と闇華は自分の学校で授業が、琴音は家事が、東城先生は仕事があるから俺が授業を受けている最中にメッセージが来る事なんてないだろうからいいか

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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