高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

零達の気遣いを不審に感じた

公開日時: 2021年2月5日(金) 23:28
更新日時: 2021年3月8日(月) 00:01
文字数:4,278

 零達の様子がおかしくなった日。その日に琴音とスマホを購入しに行き、その帰り道で自分達はどんな存在かを聞かれ、変だなとは思った。それ以上に変だったのは家に帰り、部屋に戻ってからからだった


「恭! 疲れてない? 肩揉んであげよっか?」


 部屋に戻るなり出入口で待ち構えていた零。普段のお前は肩を揉もうか?とか言う奴じゃなかっただろ?


「疲れてないし肩も凝ってないから大丈夫だ」


 俺はいきなり気を利かせてきた零を不審に思いつつもやんわり断った。別に何か裏があるのではないかと邪推したわけではない。普段気を利かせるという事とは無縁の奴が急に気を利かせる。怪しむなと言う方が無理だ。隣の琴音なんて苦笑いを浮かべているぞ


「そう? 何かしてほしい事があったらいつでも言ってね!」

「あ、ああ、そうさせてもらう」


 零はキッチンの方へ走って行った。いきなり気を利かせてきた事を不審に思いつつ、靴を脱いで部屋の中へ入った。すると……


「おかえりなさい、恭君」


 水着姿の闇華が出迎えてくれた。水着姿なのはスルーした。いきなり気を利かせてきた零。水着姿で出迎えてくれた闇華。最初が零だった段階で闇華が水着姿である事にも何か裏があるんじゃないか? そう思ったからだ


「た、ただいま……」

「荷物は……ないようですが、お疲れでしょう。私とお風呂にしますか? 私とご飯にしますか? それとも……私と私にしますか?」


 男として好きな人から一回は『お風呂にしますか? ご飯にしますか? そ・れ・と・も……私?』って聞かれたいと夢見た。そんな夢のシチュエーションが実現されたというのにちっともドキドキしない。お風呂とご飯の前に付く『私と』のせいで


「疲れてない。後、闇華がメインで風呂と飯がオマケみたいな言い方止めろ。俺の性的趣向が疑われるから。ついでに今は風呂も飯もいい」


 爺さんや親父だったら喜んで闇華に食いつくだろう。俺?俺はあの二人ほど女好きってわけじゃないから何とも思わない


「そうですか……してほしい事があったらいつでも言ってくださいね?」


 悲しそうに目を伏せる闇華を見ると俺が悪い事をしている錯覚に陥りそうだ。


「はいはい、してほしい事があった時に言う」

「はい! 私に出来る事があれば何でもします! 私にあげられるものがあれば何でもあげます!」


 闇華さん?してほしい事があったら言うとは言いましたけど、闇華の持っているものが欲しい時に関しては何も言ってませんよ?勘違いした様子の闇華はキッチンの方へと歩いて行った



 闇華を上手くやり過ごし、次に誰が何を言ってくるのか全く予想もつかない。飛鳥か? 東城先生か? それとも碧と蒼か? いや、ここは変化球で琴音か?


 次に来る奴がどんな事を言ってくるのかと頭を悩ませていると隣にいた琴音が急にモジモジし始めた


「きょ、恭くん……」

「何だよ?」

「い、一緒にお風呂入らない?せ、背中流してあげるからさ……」

「は?」


 飛鳥や東城先生、碧と蒼だと思っていたらまさかの変化球だった


「だ、だから……一緒にお風呂に入らない? って言ってるの!」

「それはさっきも聞いた! じゃなくて! いきなり何だ?何か変だぞ?」


 俺が違和感を感じたのは東城家で親父との電話を終えた後、居間に戻った時。電話の為に居間を出る時は普通だったのに電話を終え、居間に戻ると闇華達の元気がなかった。で、家に戻った後は零から強引に叩き出され、琴音と一緒にスマホを買いに行かされた。


「へ、変じゃないよ! きょ、恭くんと一緒にお風呂入りたくなっただけ!」


 幼い頃ならいざ知らず。男子高校生と一緒に風呂入りたいって言うのは俺からすると十分変なんだけど?家族とか親戚とか恋人同士とかならともかく


「十分変だ! って言うか、零も闇華もだがいきなり何だよ? 急に気を使ったり自分達がどんな存在かなんて聞いて来たりして」


 俺が変だと確信したのは琴音の質問。琴音達が俺にとってどんな存在かを聞かれた時。あれがトドメとなった


「恭ちゃん、みんな不安なんだよ」

「そうだよ恭クン」


 キッチンから出てきた東城先生と飛鳥。その後ろには零と闇華、碧と蒼がいた。東城先生と飛鳥は珍しくエプロンを着用していた。料理でもしてたのか? それとも、キッチンの掃除か? どちらにせよキッチンで何かをしていた事は確かだ


「不安って……俺は藍ちゃん達を不安にさせるような事をした覚えがないぞ?」


 ここ数日俺は東城先生達を不安にさせる事は何もしていないはずだ。夜中にコッソリ抜け出す事もしてなければ失言をした覚えもない


「恭ちゃんは確かに何もしてないよ。それと同じくらい何も言わないよね? 私達はそれが不安なんだよ」


 言っている意味が分からない……何もしてないのなら、何も言ってないのなら不安になる要素がない


「何もしてない、何も言ってないなら不安になる要素なんてないだろ?」


 行動を起こさず失言もしてないなら不安になる必要はない


「そうじゃないよ……恭ちゃんはどうして私達を住まわせてくれたの? 何で私達に対して何も求めて来ないの? 私達はそれが堪らなく不安なんだよ」


 東城先生達を住まわせた理由なんて部屋が余っているから。それ以上でも以下でもない。彼女達に何かを求めないのは単に見返りを求めてないからだ。ボランティア活動に見返りを求めるか? そうじゃないだろ? それと同じだ


「住まわせてる理由は単に部屋が余ってるからだ。藍ちゃん達に何も求めないのは見返りを求めて住まわせてないからってだけだ。見返りを求めるとキリがないし、人を助ける度に見返りを求める事になるからな」


 見返りを求めて人助けをする奴なんて碌な奴じゃない。傲慢で恩着せがましい。悪質な奴になると親切にしてもらったら最後、それをネタに一生寄生してくるかもしれない。そんな奴に俺はなりたくないだけだ


「恭ちゃんの考えは分かったよ。じゃあ、恭ちゃんは私達をどんな風に思ってるの?」


 不安そうに見る東城先生。琴音以外は皆一様に東城先生と同じ視線を俺に向けてきた


「どんな風にって同居人だ」


 本心で東城先生達をどう思っているか答えた方が彼女達の不安は解消されるだろう。しかし、それを彼女達に言う必要はない。本当はどう思っているのか、どんな存在なのかなんて彼女達が知る必要はないのだ


「同居人か……」


 俺の答えを聞いた東城先生は納得してない感じだ。琴音も同じような感じだった。が、今の俺には同居人と答えるしかない


「ああ。ここにいる連中は家族とは違う。大家と住人って言っても家賃を取っているわけでもない。同居人って言うのが一番しっくりくるだろ」


 この答えで納得しろとは言わない。違うか……これじゃ質問の答えにはなっていない。東城先生単体だったら『クールな先生』と答える。飛鳥単体なら『友達』が無難だ。じゃあ、零や闇華、琴音や碧と蒼をがそこに入ってきたら? そこに答えはない。


「恭クン」

「何だ? 飛鳥」

「今のって本心だって信じていいんだよね?」


 同居人と答えた後にその理由もちゃんと説明した。それでも不安そうに見つめてくるという事は飛鳥の中でまだ不安な要素があるのか?


「ああ。質問にちゃんと答えてないとは思うが、俺の本心である事には変わりない」

「そっか。でもさ、恭クン」

「何だよ?」

「それ、質問の答えになってないよ?」


 飛鳥の言う通りだ。質問の答えになってない


「どんな風に思ってるって聞かれてパッと答えを出せる人間なんていないだろ?答えになってないのは承知の上で俺なりに出したものを答えたつもりなんだが……」


 恋バナでもそうだ。異性に自分の事をどう思っている?どんな風に思っている?と聞かれて即座に答えられる奴なんていない。どんな風に思っている?と聞かれて容姿に触れつつ答えられる人間はいると思う。でもそれだと納得しないだろう


「そっか! 今はそれでいいよ!」


 先ほどとは一変し、満面の笑みを浮かべた飛鳥。彼女はきっと自分に言い聞かせたんだ。『今はこれで満足するしかない』と。零達も飛鳥に倣って笑みを浮かべている。飛鳥と同じく強引に自分を納得させたようだ



 それから数日が過ぎ、五月二日の午前十時。親父から実家に帰って来いと言われた日だ


「んじゃ、俺は実家に帰る。多分、今日のうちに戻って来るから」

「「「「「「「いってらっしゃい!」」」」」」」


 休みの日に一人で出かけるのはここに住み始めた初日以来だ。零達を拾ってからというもの、学校と零達の用事以外では全く外に出ないか外に出たとしても必ず誰かと一緒だった俺は少しだけ新鮮さを感じている。そんな中で不満があるとしたら出入口に全員揃っての見送りくらいだ


「ああ。つか、何で全員で見送り?」

「家に引きこもりがちな恭が初めて一人で出かけるのよ!? 全員で見送るのは当たり前じゃない!」


 零さん? 俺は初めてお使いに行く子供じゃないんですよ? 後引きこもりは余計だ!


「さいですか。とりあえず行ってくる」

「「「「「「「いってらっしゃい!」」」」」」」


 俺は同居人達に見送られながら部屋を出た。実家に帰ると言った時は家の外まで見送りに行くと言われたが、さすがにそれは恥ずかしいから断った。母娘達には今日の事は言ってない



 部屋を出てエレベーターに乗り、一階まで降りてきた俺は玄関に辿り着く前に実家へ思いを馳せていた


「実家なんて一か月ぶりくらいか……」


 親父がここに放り込んだのが四月。正確には四月の初めあたりで今は五月二日。実に一か月ぶりくらいに実家へ帰る


「とりあえず東玄関へ行くか……」


 八階は人が住んでいて工事もしている。八階と同じく五階、六階、七階も工事をしている。八階以外は賑やかというよりも機械音が鳴り響くだけと言った方が正しい。それに比べて一階は微かな陽の光が差し込み、聞こえる音は上の階から聞こえる僅かな機械音だけと不気味だ。西側に行けば車のエンジン音が聞こえると思うが、俺が今いるのは東側だ


 薄暗い店内を進み玄関へ歩を進める。最初は怖いと感じた店内。慣れとは恐ろしいもので今は普通に歩ける。


「親父からの話か……」


 今まで親父から話をされる機会はいくらでもあり、その中には真面目な話もあった。星野川高校を受験する前もそうだ。どんな学校でもいいから高校には行っとけと言った親父の表情は真面目そのもの。そんな親父が今日はどんな話があるのやら……


「癌でも見つかったか?」


 一人暮らしをする家族を実家に呼び戻すって事は自分の死期が迫っているか倒れたかくらいだ。後は……再婚する時とか離婚する時?


「面倒な事にならなければどんな話でもいいか」


 親父が俺を呼び戻す理由など検討も付かない。今の俺は面倒事に巻き込まれなければそれでいい

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート