高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

風呂に入るだけで苦労するのは俺だけなんだろうか?

公開日時: 2021年2月8日(月) 12:51
文字数:3,786

 自分の周囲にまともな女がいないと分かってから数時間が経ち、気が付けば空は夕焼けに染まり、時間帯も夕飯時に差し掛かっていた。そのタイミングで戻って来た零達にもみくちゃにされたのと夕飯に行った時の事は割愛する。今じゃ日も沈み夜。俺の部屋────。


「風呂にでも行くかな」


 今日は海に行ったという事もあり、さすがに風呂に入らなきゃ汚いと思った俺は着替えのスエットとTシャツを持ち風呂へ。手ぬぐいとバスタオルは行った先に備え付けられているから必要ない


「じゃあ、あたしも行く」


 スマホを弄ったり、ゲームをしたりと自由な時間を過ごしていた女性陣の中から手を挙げたのは由香。聞くところによると今日は由香の日らしいから彼女が真っ先に手を挙げるのは当たり前と言えば当たり前。


「「「「「「「「じゃあ、私も行く」」」」」」」」


 今日は由香の日なはずなのに自分もと立候補する零達。入居して日の浅い盃屋さんと家の事について何も知らない茜は除外するとして、零達よ、ここは家じゃないんだから一緒に来たとしても俺と同じ湯に浸かる事は不可能だし仮に家族風呂なるものがあったとしても水着着用出来ないから俺と一緒というのはどの道不可能なんだぞ?


「どうすりゃいいんだよ……」


 普段なら風呂くらい一人で行けるとか、一人でゆっくり入らせてくれと苦言を呈す俺でもクイズの罰ゲーム中な手前、何も言えず、ただ溜息を吐くしか出来ない。言い争いを始めた零達を止める術を俺は知らんし


『みんなで行けばいいって言えばいいと思うよ~』


 お袋よ、そうなったら俺は確実に零達と入浴決定だぞ?


『お母さん的には未来のお嫁さん候補を絞れていいと思う~』


 ムスコンになったり未来の嫁さん候補を探したりと忙しいお袋だな……。というか……言い争いしてる隙に部屋をコッソリ出りゃいいんじゃね?


「何か言い争いしてるみたいだし、コッソリ抜け出すか……」


 そうと決まれば即行動!という事でコッソリ部屋を抜け出そうとする。ところが────。


「どこ行くんですか?恭君」


 言い争いをしているはずの闇華に見つかってしまった


「どこってトイレだけど?」


 大浴場に行こうとしましたとは言えず、咄嗟にトイレだと嘘を吐く。


「そうですか、トイレですか。トイレに行くならスエットとTシャツは必要ないですよね?」

「着替えるためにトイレに行くんだから必要だろ」


 着替えをする際、俺がトイレに行くというのはこの場にいる全員が知っている。だから俺が着替えを持ってトイレに行くのは自然な事だ。なのに何で今は必要ないと言うんだ?


「今からお風呂に行こうって時に恭君は着替えてから行くんですか?」

「そうだけど?さすがに風呂から出た後でジーパンやジャケットを持ってくるのは面倒だしな」


 ジーパンやジャケットに限らず風呂から出た後、入る前に着ていた衣類を持つというのは非常に面倒だ。パンツとかシャツ程度なら小さく畳めばコンパクトになり、持ち運びも簡単だ。しかし、ジーパンやジャケットでそれをするのは困難でジャケットに至ってはシワになる可能性がある


「それはそうですけど、なら何で私達に一声掛けないんですか?」


 痛いとこを突いてくるな……。


「何でって話に夢中だったみたいで邪魔しちゃ悪いなと思ったからだ」


 闇華達の場合は話し合いじゃなく言い争いだけどな


「私達は恭君の事について話し合っていたんですよ?」


 それはそうでしょうね……。由香がお供を買って出た時に名乗りを上げましたもんね


「そうだったのか、知らなかった……」


 知ってたと言うと厄介な事になるのは経験則で何となく分かる。知らないフリをしていた方が無難だろう


「恭君の事について話し合っていたんです! で! 恭君は誰と一緒にお風呂に入りたいですか?」


 俺は一言も誰かと一緒に風呂に入りたいと言ってないのに何で一緒に風呂に入る前提で話が進んでるんだ?ん?


「一人で入るに決まっているだろ」


 罰ゲームがあったとしてもここだけは譲れない。俺は男で闇華達は女。加えてここにいる女性陣を年上、同じ年、年下で分類すると年上に飛鳥、琴音、東城先生、盃屋さん、茜。同じ年に零、闇華、由香。年下はこの場にいないから外そう。で、この八人の中から一緒に風呂に入る一人を選ぶとしたら……誰を選んでも絶対に後腐れする


「恭は義姉であるあたしと一緒にお風呂に入りたいんだよね?」

「違うよね?恭クン、キミは学校でも家でも一緒にいる私と入りたいんだよね?」

「恭ちゃんは担任である私と一緒がいいよね?」

「グレーはゲーム仲間兼婚約者の私しか選ばないよね?」

「恭君は妻の私と一緒に入りたいんですよね?」

「灰賀殿! 拙者と入って頂けるのならお背中お流し致しますぞ!」

「恭は最初に拾ったアタシを選ぶわよね?ね?」


 全員ここがどこだか理解してないって事と一緒に入らないっていう俺の意見はガン無視なのはこの際いい。言っても通じないだろうし。問題はいつの間に婚約したんだって事といつの間に結婚したんだ?って突っ込みを入れるか否かだ。女の妄想には付いて行けないよ……


「ごめん、ちょっと買い物してくる」


 疲労困憊していた俺の脳は限界を超え、斜め上の回答を導き出した。それがコレである。会話が噛み合ってないの承知してる。指摘されても仕方のない事だからいいとして、何で俺がこの答えを導き出したかというとだ、このまま誰を選ぶ?一人で入ると繰り返していても同じ事の繰り返しになり、話が終わらない。ならばいっその事話を強引にすり替えて風呂から零達の注意を逸らした方が賢明だと判断した結果に他ならない。という事で、俺はスエットとTシャツを持ったままダッシュで部屋を……


「恭君、逃がしませんよ?」


 出られなかった。走る寸前に闇華に腕を掴まれ、俺の脱出はあえなく失敗


「…………」


 目のハイライトを失った闇華に正座させられた俺は同じくハイライトを失った零達に囲まれ、現在無言で地面を見つめているだけの状態にある


「恭、あたし達の中から一人を選ぶまで逃がさないよ?」


 頭上から感情の籠ってない由香の声がした。一人を選ぶのはいいとして、選ばれなかった他の連中はどうなる?最近じゃ新参者二人を除いて同居人達がヤンデレに目覚めつつあるから一人を選んだとしても俺は無事じゃないような気がしてならない


「風呂に入るだけで何でこんなに苦労しなきゃならねーんだよ……」


 普通は風呂に入るだけならこんなに苦労はしない。『風呂行ってくる』『行ってらー』で済み、特に争いが起こる事も選択を迫られる事もなくスムーズに事は進む


『それはお母さん同様、きょうと一緒にお風呂に入りたいとみんなが思ってるからだよ~』


 俺は風呂くらい一人でゆっくり入りたいんだがなぁ……


「恭君、誰と一緒に入るか決まりましたか?」

「決まってません……」

「早く決めてください」

「はい……」


 すっと決められたら苦労はしない。誰を選んでも後腐れしそうだから困ってるんだよ!


『何なら全員選んじゃえば~?』


 お袋の案なら後腐れする事はない。ただ、零達がそれを実行しそうで怖い。とはいえ、選択を迫られている今、なりふり構ってられないのも事実!ここは一つ試してみよう


「恭クン、私って答えは出たかな?」

「何で答えが飛鳥限定なのかは分からんけど答えは出た」

「「「「「「「本当!?」」」」」」」

「ああ」

「「「「「「「聞かせて!!」」」」」」」

「俺は全員と一緒に風呂に入る」


 この答えが正解だとは言わない。お袋から知恵を借りて出した答えだから一人で決めたと威張るつもりもなければ女性側からすると不誠実この上ないっていう事も自覚している。だが! 俺は一刻も早く風呂に入りたいんだ!!



 答えを出した後の話を少ししよう。あの後、怒られると思って顔を上げると全員が恍惚とした表情で俺を見つめていた。俺は重い足取りで、女性陣は軽快な足取りで風呂に向かったのだが、ここで零達からすると重要な、俺からすると大した事ない現実を突きつけられた。そう……


「混浴とか家族風呂なんて都合よくあるわけがないんだよなぁ……」


 混浴と家族風呂がないという事だ。リゾートホテル=家族風呂や混浴がないとは言い切れないので当たり前とは言わないが、現実は非情に厳しいもので混浴あるいは家族風呂なんて都合よくあるわけがなく、大浴場の入り口で零達は絶望のあまりその場に崩れ落ちた。励ましの言葉が見つからなかった俺はそそくさと男湯に入り、現在、これまた何の偶然か一人のんびりと風呂を満喫している


『そんなの来た時に確認するのが当たり前だよねぇ~』

「その口ぶりからするとお袋は知ってたのか?」

『まぁね~。お母さんは初日に混浴と家族風呂があるかどうか確認したから~』

「いつの間に……」

『きょうが零ちゃんを揶揄ってる時~』


 あの時か……


「ちゃっかりしてんな」

『きょうのお母さんだからね~』

「その言葉だけで納得できてしまう自分が嫌になる……」


 俺しかいないせいもあってか浴場内に俺の声とお湯が流れる音だけが響く。お袋は幽霊だから喋っても声が反響するなんて事はなく、第三者から見ると風呂場で独り言を言ってる痛い奴に映るんだろう


『お母さんに似て嬉しいでしょ~?』

「まぁ……親父に似るよりはマシだと思っている」

『何か嬉しくないなぁ~』

「うっせ、母親に似て喜ぶ時期はとっくの昔に終わってんだよ」


 今日一日の事を思い出しながら俺は天井を見上げた

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート