エレベーターを降りた俺達は……
「「……………」」
お互いに顔を見れず、手は繋いだままなものの、無言だった。こういうのには慣れている俺だけど、それとこれとは話は別で慣れてはいても実際にそうなってしまうと話題に困る。唯一ある話題と言えば────
「と、とりあえず、へ、部屋に戻るか」
「う、うん……」
事務的な事だけ。部屋に戻るか否かの確認など話題ですらなく、どちらかと言うと確認事項。会話にはなっていてもそこから話が膨らむかと言われればホストでもない限り膨らまない。まぁ、エレベーターを降りてから情けない事に俺達は一歩も動いていない。本格的に付き合い立ての初々しいカップルみたいになってきている
「い、行くとするか……」
「だ、だね……、ここにこうしていても仕方ないし……」
という事で部屋へ戻るべく歩き出したのだが、気まずい……。ものすっごく気まずい……。喧嘩なんてしてないのに何だ?この気まずさは?アレか?闇華がタメ口で話したから気まずいのか?それとも、普段とのギャップで彼女を妙に意識してるから気まずいのか?
「はぁ……」
西側へ向かう道中、自分のトーク下手に嫌気が差し、溜息が漏れる
「ど、どうしたの?恭君、溜息なんか吐いて」
「あ、いや、自分のトーク下手に嫌気が差しただけだ」
日頃あまり他人と喋らないのも相まってか俺は会話が得意な方ではない。このままだと会話下手になりそうでマズイとは思っているものの、実際に話しかけられるか?と聞かれればそうではなく、話す必要がないのなら無理に話し掛けたり事などない。
「恭君がトーク下手?そんな事ないと思うけど?」
それは学校での俺を知らないからそんな事が言えるんだよ。学校じゃほとんど喋らず、ただボケっとしているだけか、瀧口のリア充っぷりを遠目で眺めているだけ。話掛けられたとしても東城先生、飛鳥、由香といった身内のみと閉鎖的な学校生活を送っている。そんな俺がトーク下手じゃないわけがない
「闇華からするとそうかもしれないけど、実際の俺はトーク下手だ。まぁ、学校じゃほとんど喋らないし、喋ったとしても藍ちゃんと飛鳥、由香といった身内だけでそれ以外の奴との会話なんてないに等しいから仕方ねーけど」
「そうなの?」
「ああ」
クラス……いや、学年か。とにかく、同級生連中は飛鳥と由香以外は男女共に瀧口にご執心。別に羨ましいとは思わないし今のままで十分気楽だからいいんだけどな
「でも、初対面の真央さんと普通に話してなかった?」
「それって闇華達が盃屋さんを拾って来た日の話か?」
「うん」
確かに闇華が盃屋さんを拾って来た日にストーカー被害に遭う事になった経緯とかは聞いた。しかし、あの時は彼女と二人きりではなく、闇華はもちろん、零達や爺さんもいた。あの時と今じゃ状況が違う
「あの時とは状況が全く違うだろ。同じ空間に闇華を始め、零達や爺さんもいたんだから」
零達で思い出したけど、アイツらと二人きりなら話題に困る事なく普通に話せる。なのに何で闇華と二人きりになるとこうも話題に詰まる?謎だ……
「それもそっか」
何でだ?ハニカム闇華の横顔を見ると胸が高鳴るのは……
「あ、ああ……」
顔が熱い……別に闇華を異性として意識しているというわけじゃないのに何で顔が熱いんだ?
「どうしたの?顔赤いよ?」
覗き込む闇華。変に意識しているせいか彼女の柔らかそうな唇に目が行ってしまう
「な、何でもない……」
意識するな! まだ闇華が好きだと決まったわけじゃないだろ!
「そう?でも、体調悪いならすぐに言ってね?」
こ、これ以上意識すると変な感じになってしまう! なんとか話題を作らねば!
「そ、そうする……。ところで、ホテルの人達どこ行ったんだろうな?」
「さ、さぁ?きゅ、休憩してるんじゃない?」
話題を作るのには成功した。しかし、従業員がごっそり消えた理由は分からないままだ
「休憩か……まぁ、一理ありそうだな」
ホテルの従業員が同じタイミングで休憩を挟む……。そんな事あり得るのか?
「でしょ?とりあえずあれこれ考えるのは部屋に戻ってからでもいいんじゃない?もしかしたら零ちゃんが誰かしら見てるかもだしさ」
「だな。考えるのは部屋に戻ってからでもいいか」
ホテルの従業員が何で消えたのかは分からない。だが、それは部屋に戻って零達を交えて考えても遅くはなく、俺達はその話を保留にし、しょうもない世間話をしながら西側のエレベーターを目指した
西側のエレベーター前に着くと案の定、一階で停止しており、俺達はそれに乗り込み九階のボタンを押す。エレベーターは他の泊り客がいないお陰かあっという間に目的の階へ着き、そのまま部屋へと向かったのだが、この静けさが妙に不気味だ。このホテル内には俺と闇華の二人だけしかいないのではないかという錯覚に陥りそうになる
「零ちゃん達、部屋にいるといいね」
隣を歩いている闇華がふとこんな事を言い出した
「いるだろ。一旦出た零はともかく、他の連中は部屋で各々が思うように過ごしてたんだから」
加えて言うなら飛鳥達は俺と闇華、零が部屋を出ようとした時点では動く気配すら見せなかった。飛鳥と茜以外の奴に関してはあの後出てなければ部屋にいるはずだ
「だといいんだけどね」
闇華の言い方はどこか含みがあるように聞こえる。これから何かが起こる。そう言われているような気がしてならないのは何でだろう?
部屋の前に着き、ポケットからカードキーを取り出し、鍵を開けた
「静か過ぎる……」
部屋の中へ入る人の気配というものが全く感じられず、室内へ進むと零達の姿はなかった。その事を気にしつつも荷物を置く
「みんな出かけちゃったのかな?」
本当にそうなんだろうか?と思い、俺はテーブルに目を向ける。そこには飛鳥と茜のパソコンがあり、電源は点いたままになっていた。その傍らには財布が。そのままベッドに目を向けるとスマホが無造作に置かれており、案の定、その傍らには財布があった。出かけるのに財布とスマホを置いて行くのか?
「財布とスマホを持たないで出かけるか?普通」
「うーん、どうなんだろ?私の場合は携帯電話なんて今まで持ってなかったから分からない」
今はスマホを持っている闇華だが、それまではスマホどころかガラケーすら持ってなかった。何で持ってなかったかは親戚のせいなんだろう。とにかく、普通の生活とはかなりかけ離れた生活を送っていた彼女に普通を求めるだけ無駄なんだ
「だよなぁ……」
「ご、ごめん、役に立てなくて……」
申し訳なさそうに眉根を伏せる闇華。役に立たない事を悔いてなのか、俯いた
「役に立ってないとは言ってないだろ。今のは闇華の過去を考慮しなかった俺が悪い」
「そ、そんな事ないよ……。それより、みんなどこ行っちゃったんだろうね?」
「さぁな。まぁ、その内帰って来るだろ」
財布とスマホが置いたままなのは気になるが、多分、零達はすぐに帰ってくる。俺は何となくそんな気がした
「そ、そうだね、すぐに帰って来るよね……」
「確証はないけどな」
絶対に零達はすぐに帰ってくるとは言い切れない。何かしらの事件に巻き込まれている可能性だってある。なのに何で心配してないか?答えは簡単で零達は俺と同じ力を持っているからだ
「なら、待ってる間私も飛鳥ちゃん達がやっていたゲームやりたいな」
「それってスペースウォーの事か?」
「んー、タイトルは分からないけど多分、それ」
闇華の言う飛鳥と茜がやっていたゲームというのは多分ではなく、絶対にスペースウォーだ
「待ってる間暇だし、俺はそれで構わないけど、闇華の場合はアカウント作るところから始めないとな」
「うん」
待っている間の暇つぶしにスペースウォーをプレイする事が決まり、俺達はベッドに座りそれぞれ自分のパソコンを起動し、ブラウザを立ち上げ、スペースウォーと検索をかける。そこまでの工程は同じなのだが、その後は違う。俺はログインを済ませると自分のパソコンを左側に起き、闇華のパソコンを覗き込んだ
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