高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

一人になるとやる事って意外とない

公開日時: 2021年2月11日(木) 23:54
文字数:5,294

「一人になったはいいが……いざなってみるとやる事がねぇ……」


 非常階段を使い七階から一階へ降り、着いた場所は駐車場でこれ幸いとそのままホテルから抜け出す事に成功した俺は零達に発見されるのを防ぐべく、風の行くまま気の行くまま歩き、繁華街へやって来た。んで、周囲が観光客で賑わっている中、ふと自分は一人になって何がしたかったのかと考えた結果がこれである


「こんな事ならお袋達と一緒に抜け出せばよかった……」


 離れてみて初めて気づくお袋が側にいてくれる事の有難み。いるといるで時々疎ましく思うけどいないといないで少し寂しい。主にこれからの行動を相談する相手がいない的な意味で。それよりもこれから何をするかだ。やっと一人の時間を手に入れたんだ、この時間を有効に活用したい。まずは……


「機内モードにしとくか」


 ポケットからスマホを取り出し、機内モードに変更。これで零達から電話があっても鳴る心配はなく、ジジイに居場所を特定される不安もない。茜の件があって大変なのは分かってっけど、俺だって一人で羽を伸ばしたい時くらいある。


「さて、どこへ行くかな……」


 繁華街だから近くにある店のほとんどが飲食店。適当な店に入って腹ごしらえも悪くない。しかし、零達の行動パターンを考えると飲食店に入るという選択肢は消える。連れ戻されたくないのはもちろん、長い目で見ると飯が終わった後も居座る事は店側にとって迷惑でしかなく、強制的に追い出される可能性が高い。そうなると俺は過ごす場所がなくなるわけで、かと言って観光名所をうろつくのは人目に付く事を考えるとリスクがデカすぎる。って考えた結果……


「ネカフェ行くか」


 ネカフェへ行く事にした。漫喫やネカフェ、カラオケのような長居が前提の店ならばある程度時間を潰せて一人の時間を満喫出来る。カラオケは歌う一択だが、ネカフェや漫喫だったらパソコンもあるから娯楽には事欠かない


「って、こんな繁華街にネカフェなんてあるのか?」


 ネカフェに行く事にしたのはいい。ただ、ここは繁華街で見回す限りあるのは飲食店とお土産店、ビジネスホテルといった観光客を受け入れる施設のみ。ネカフェの『ね』の字すらない。


「ひとまず歩くか……」


 繁華街のど真ん中でボケっと突っ立ってても道行く人の邪魔になり、さらに言うと零達か爺さんの使いに見つかる可能性が高くなる。ここは繁華街だが、俺の現在いる場所にネカフェがないってだけで少し歩けば見つかるかもしれないという希望を秘め、俺は歩き出す。大きな通りを目指して



 大きな通りを目指して歩き出してから少し。初めての場所だから迷うと思っていたが意外にも早く目的の場所へ辿り着いた。それもそのはず、俺のいた場所から目と鼻の先だったからだ


「やっぱり……」


 大きな通りに来てみると家の近くにある中古ゲームショップやジャンクフード店、雑居ビルが立ち並び、ネカフェの看板も見える


「ネカフェ入る前に財布と相談か……」


 一人暮らしを始めてからというもの、金を使う機会が減り、使ったとしても初日に零と二人で飯を食いに行った時の支払いとコンビニで飲み物や菓子類を買う程度。後は旅行の時のラーメン代くらいでトータルすると2000円程度。内訳としてはコンビニや自販機で使った分を除いて初日に支払った飯代が二人分の合計が1000円台で旅行の時に食ったラーメンが650円。四捨五入すると2000円ってわけだ。んで、今俺は自分の財布にいくら入ってるかを確認しているのだが……


「2万円9千円……マジで?」


 開けてビックリ!万札が二枚と五千円札が一枚、千円札が九枚という金欠じゃないけど金持ちでもないリアクションに困る額があった


「こんだけありゃ足りるだろ」


 中身を確認したところでネカフェの入っている雑居ビルへ入った。



 中へ入ると思っていたよりも明るい。それもそのはずでこの雑居ビルは八階立てで一階から五階が総合スーパーになっていて六階にトレーディングカードショップや雑貨店が入っていて七階はゲーセン。八階にネカフェがある。なんて説明したけど、俺もビル案内板を見て知ったから自慢にはならない。にしても……


「うるせぇ……」


 パチンコ店程じゃねぇけどうるせぇ。ビル案内板にあったのは一階が食品売り場、二階が化粧品や家電といった日用品売り場、三階は車用品、四階にはコスプレ用品、五階がオモチャ関係と大音量で音楽を流す必要性を感じない。自社宣伝のためなのかは分からんけど、とにかくうるさいのは確かだ


「さっさとネカフェ行くか」


 エレベーターは入ってすぐ右側にあり、その前まで行くと俺は迷う事なく上に向かうボタンを押す。だが……


「お、おせぇ……」


 上を見るとランプが四階のところで点いたままになってて消える気配がない。客が多いからその分エレベーターを利用する人も多く、なかなか動かないのは言われなくとも分かる。しかし、俺にはある意味で時間がない。


「エスカレーターで行くか」


 エレベーターを諦め、俺は店内に入ると人混みを掻き分けながら進み、すぐのところにあった上に行くエスカレーターに乗ると駆け足でネカフェのある八階へと向かった




 きょうが出て行ってから五分が経ち、今の時間は14時半。お医者さんのお見送りから戻って来た零ちゃん達に事情を説明し、私達は────


「ダメ、恭ちゃん、スマホの電源切ってるのか電話に出ない」


 どうにかしてきょうと連絡を取ろうとしていた。一早く立ち直った藍ちゃんがきょうに電話を掛けたんだけど、結果はご覧の通り。次に立候補したのは零ちゃんなんだけど……私にはやらなくても結果は見えている


「藍がダメならアタシがやってみるわ!」


 戻ってきたら寝てるはずのきょうがいなくなっていて最初は慌てていた零ちゃん達も今じゃ平静を取り戻し、きょうに連絡を取ろうとしているけど、加賀さんと恭二郎さん以外はみんな目が赤く腫れている。そりゃそうだよね……いて当たり前の人が突然いなくなったんだもん……。


『あの娘達は人の話を聞いてなかったのかしら?全く……』


 隣で呆れた様子を見せる想花ちゃん。零ちゃん達は私達の話を聞いていたと思う。それでも信じられないからきょうに電話を掛け続け、出てくれるのを待っているように見える


『聞いてなかったわけじゃないよ……ただ、きょうが拒絶したのが信じられないだけで』


 ゴールデンウィークに零ちゃん、闇華ちゃん、琴音ちゃん、藍ちゃん、飛鳥ちゃんはきょうから家を追い出されそうになり、由香ちゃんは恭弥のバカの夏希ちゃん共々殴られ、危うく一家崩壊しそうになった事がある。それも恭二郎さんの口添えと零ちゃん達が頑張った結果、どうにか今の関係に収まった。でも、きょうを束縛しすぎたかなって思うと心が痛い


『信じられないという気持ちは解からなくもないですが、一人目が電話して出なかった時点で気付くべきだとは思います』

『想花ちゃんの言う通りだけど、今まできょうに拒絶された事のない娘達にとっては信じられないんだよ。私も含めてね』

『はあ……、そういうものなんですか?』

『そういうものなんだよ。最初にきょうが出て行った話と拒絶された話をした時の事覚えてないの?』

『覚えてますよ……』



 遡る事五分前────。


『きょう……』

『恭様……』


 私達はきょうが出て行った事に加え、本気で拒絶されたという現実に打ちのめされていた。そこへ……


「ただいまー」

「恭君、大人しくしてましたか?」

「飲み物と食べ物買って来たよ。恭ちゃん」


 ドアが開く音と共に何も知らずに帰って来た零ちゃん達の声が


「恭クン、ちゃんと寝て────って早織さん達、どうしたんですか?」


 自分達が戻るときょうが待っていると思っていた飛鳥ちゃんがキョトンとした顔で尋ねてきた


『あ、あはは、きょうは出て行っちゃったよ……』

「「「「「「「「は……?」」」」」」」」

「クソガキ……マジか……」

「やはりこうなったか……」


 意味が分からないって顔をする零ちゃん達、予想外の行動に頭を抱える加賀さん、何となく予想していたのか何かを察した様子の恭二郎さんと反応は様々だった。でも、きょうが出て行ったのは代えがたい事実


『信じられないのなら私からも言うわ。恭様は貴女達────いえ、私達に嫌気がさして出て行ったのよ』


 せっかく私が大事にならないようやんわり伝えたのに何で想花ちゃんは包み隠さず言っちゃうかな!


「う、嘘でしょ……?私達を脅かそうったってそうはいかないわよ!」

「そうです! ドッキリだったら早く言ってください!」

「恭クン! イタズラにしては悪質だよ! 今なら許してあげるから早く出てきて!」

「恭! お義姉ちゃんを脅かそうだなんてイタズラが過ぎるよ!」


 零ちゃん達未成年組はきょうがどこかへ隠れていると思っているみたい。藍ちゃん達成人組は……


「私、恭ちゃんに嫌われるような事したかな……」

「恭くんに嫌われた……」

「恭殿……拙者に悪いところがあったというのか?」

「グレー、私何か嫌われる事した……?」


 自己嫌悪に陥っていた。


『イタズラでもドッキリでもないわ。恭様は私達に嫌気がさしたから出て行ったのよ』

「「「「「「「「う、嘘……」」」」」」」」

『嘘じゃないわ。私は恭様と出会ってから日が浅いから嫌気がさす理由は分からない。でも、事実よ』


 想花ちゃんはきょうが出て言った事を認められない零ちゃん達と自己嫌悪に陥る藍ちゃん達に容赦なく事実を突きつけた


「きょ、恭君が私達に嫌気がさした?嘘ですよね?」

『嘘じゃないわ。恭様が言ってたわよ?早織さんにも闇華ちゃん達にもウンザリだ、頼むから一人にしてくれってね』

「私達にウンザリ?うそ……それは嘘ッ! 恭君がそんな事言うわけない! 恭君は私をッ! 私達を拒絶するわけないッ! 適当な事を言わないでくださいッ!!」

『さっきも言ったわよね?嘘じゃないって。恭様は私達に嫌気がさしたのよ』

「嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘……恭君がそんな事言うはずない……恭君が私を拒絶するわけない!! 嘘……嘘を吐くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 拒絶されたのが信じられない闇華ちゃんは叫び狂う。想花ちゃんの言う事を必死に否定しながら……。でも、嘘じゃない。想花ちゃんが言った事は全て本当の事できょうが私達にウンザリだって事も一人にしてくれと言ったのも事実。だからこそ叫び狂う闇華ちゃんの姿が痛々しく見えてしまった


「恭……恭……う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」


 闇華ちゃんが叫び狂う中、耐え切れなくなった零ちゃんも泣き始めた。そして、残った琴音ちゃん達も……


「恭クン……」

「グレー……嘘だよね?」

「恭ちゃん……」

「恭……」


 次々に泣き出してしまった。人一人いなくなっただけでこの有様。依存していた人がいなくなるとこうも簡単に泣き出しちゃうんだから人の精神って意外と脆い。例にもれず私の目頭も熱くなり、温かいものが流れているから同じ穴の狢なんだけどね。容赦なく事実を突きつけた想花ちゃん泣いちゃってるし……。


「落ち着けぃ!!」


 私達が泣いてる中、恭二郎さんの怒鳴り声が響いた


「「「「「「「「────!?」」」」」」」」

「じ、爺さん……?」

『『きょ、恭二郎さん……?』』


 いつもはきょうにセクハラ紛いの事をして怒られている恭二郎さんが怒鳴り声を上げる。私にとっては信じられない事だった。生前から知った仲だと尚更


「全く、揃いも揃って取り乱し過ぎじゃ! 恭だって阿保じゃない! 財布と電話を持って行ったんじゃから連絡くらい簡単に取れるじゃろ!!」

「「「「「「「「────!?」」」」」」」」

『『────!?』』


 恭二郎さんの一言で私達はきょうが持っているスマホという文明の利器の存在を思い出した。きょうが絡むと当たり前の事を忘れてしまうのが恥ずかしい……。そこからは早かったよ


「私、恭ちゃんに掛けてみる」


 藍ちゃんは涙を拭くとスマホを取り出し、きょうに電話を掛け始めたんだから



 で、現在────


「もう! 恭の奴出ないじゃない!!」


 零ちゃんはきょうが電話に出ない事に対し、憤慨していた。


「零ちゃん、諦めたらダメだよ! 恭クンが出るまで掛け続けなきゃ!」

「分かってるわよ!」


 飛鳥ちゃんの激励で零ちゃんは再度きょうのスマホに掛ける。でも、結果は同じ。きょうは電話に出ない。そんな時────


『あの、早織さん?』

『ん~?どうしたの~?千才ちゃん』

『早織さんなら灰賀君の居場所くらい霊圧を探れば簡単に見つけられるんじゃないんですか?』

『あっ……そうだった……』


 私なら霊圧を探れば簡単に居場所を特定できる事をきょうに拒絶されてすっかり忘れてた……もしかしなくても私ってきょうが絡むとポンコツ?


今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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