高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

蒼に叱られると思ったら琴音に叱られた

公開日時: 2021年4月1日(木) 23:50
文字数:3,976

 一条家に戻り、俺は無言の琴音に手を引かれ、来た時同様居間へ連れて────いや、連行された。こういう場合、連行するのは蒼だろ? どうして琴音なんだよ……。そう思い、蒼の方を見ると凛空君と共に苦笑を浮かべていた


「さぁ、キリキリ吐いてね。恭くん」


 対面に座る琴音が怖い……。その隣で苦笑を浮かべている蒼と凛空君、それと女性四人。俺はあれか? 犯罪者か何かか?


「吐くも何もちょっとコンビニまでコーラを買いに出ただけなんだが……」


 ここへ連行され、強引に座らされ、琴音や蒼、一条家の皆様は俺の対面へ座る。んで、開口一番琴音の言葉が『恭くん、トイレって嘘吐いたんだ。ふーん、私に嘘吐いたんだぁ~、へぇ~、嘘吐かないって約束したはずなんだけどなぁ~』という何度目かの浮気を問い詰める彼女あるいは恋人のような台詞だった。俺は琴音と嘘を吐かないって約束をした覚えはないし、浮気男みたいに問い詰められるような事は……したから反論はしねぇが、抜け出しただけでどうして問い詰められにゃならんのだ。スマホ持ってんなら連絡の一つ寄越せたはずだろうに


「私は黙ってコンビニに行った事を怒ってるんじゃなくて、嘘を吐いた事を怒ってるんだよ」


 あの妙なノリについてけませんでしたとか、とても困っているようには見えませんでした。とは口が裂けても言えない。どうしたものか……


『きょうは仏間にいる人に手土産を買いに行っただけだから目くじら立てないの~』

『その通りよ。凛空君と仏間にいる人二人同時に助けようと動いた結果なの。私達に免じて許してくれないかしら?』


 悩んでいると思わぬところから助け船が出た。まぁ、助け船が出たところで凛空君達には見えないし、声も聞こえないんだけどな


「…………はぁ」

「あー……何だ。嘘吐いて抜け出したのは悪かったと思ってる。悪かった」

「もういいよ。怒る気失せちゃったから。でも、次からは一声掛けてからにしてね?」

「あ、ああ……」


 どうやら琴音は怒りを収めたようだ。蒼と一条一家は終始苦笑いだったが、勝手に抜け出した俺が悪い。ここは目を瞑ろう。さて、ここからが本題だ


「お話が終わったところで恭くん」

「はい……」

「今日はもう帰ろっか」

「はい?」


 琴音の言葉に俺だけじゃなく、蒼も目を点にする。説教が終わり、ここから本題と意気込んでたら突然の帰宅提案。俺の思考は停止寸前。今日はよく思考が止まるなぁ……


「琴音さん? 今ここで恭さんに帰宅されたら困るんですけど……」

「何で?」

「何でって、恭さんにはボクとの約束があってですね……」


 蒼が口にした約束というワードに一条家の人達は首を傾げる。俺が蒼に頼まれてここへ来たのなんて凛空君は寝耳に水だろうしな


「それは知ってるよ。私もそういう名目で連れて来られたんだしさ。でも見て」


 そう言って琴音が指さしたのは壁に掛かっている時計。時刻は当の昔に六時を回っており、夕食のピーク。彼女が帰ろうと言うわけだ


「あ……」

「でしょ? 今日のところは顔合わせだけにしておいてさ、帰ろう? また後日来ればいいだけなんだし。それに、嘘吐いて抜け出した恭くんはともかく、私達は必要なものを手に入れられたんだから収穫はあったでしょ?」

「そう……ですね……今日のところは帰りましょうか」


 琴音の言う収穫が何か分からない。俺が抜け出した後で何かを手に入れたのは確かなようだが、手に入れたものについて聞いていいのかは分からない。嘘吐いて抜け出した事を蒸し返さなきゃならないからな。琴音達が手に入れたものについては機会があれば聞くとしよう。蒼も渋々ながらだが、納得してるみたいだ。俺も早く家に帰りたい




 一条家を出て空を見ると真っ暗で月が出ていた。六時回ってるんだから当たり前か。バス停までの道すがら俺は前方を歩く琴音と蒼の後ろ姿を見ながら早織が亡くなった時の事を思い出していた


「早織が亡くなったのは俺が中三に上がる少し前だったよな……」


 見ていた感じ凛空君には何かを思い悩んでいる様子はなく、元気そのもの。対して仏間にいる人には残念ながら会っていない。蒼は凛空君の気持ちを誰よりも理解できる人という紹介をしていた。ここまでは何度考えても答えは決まりきっているから考えるまでもなく、凛空君の空元気も考えたところで時間の無駄。だが、仏間にいる人は気になる。しかし、今日は時間も時間という事でお開き。琴音は後日と言っていたが、何度も何度もお邪魔するのは相手側にも迷惑が掛かる。そうなると俺達特有の幽体離脱でコッソリと一条家に忍び込むしかない。琴音達が寝た後で


『そうだよ~。正確にはきょうが中二の三月だけどね~』

「そうか……そんくらいだったか……」

『うん。それがどうかしたの?』

「んにゃ、別に。早織が亡くなった時期がいつだったかなと思っただけだ」

『それならいいんだけど……きょう、お母さん達に何か隠してない? 例えば、今夜あたりコッソリ一条家に行こうか~とか考えてない?』

『恭様、もしそうするなら私達も同行するわね』

「ああ、そうしてくれ。幽体離脱して一条家に忍び込むから」

『い、意外だわ……恭様が隠す事なく自分がこれから何をしようとしているか言ってくるだなんて……』

『きょう? どこか具合でも悪いの? お母さん看病しようか?』


 見破られてるならと思って正直に言ったのにこの言い草は何なんでしょうねぇ……


「どこも悪くねぇから。ただ、二人にも一緒に来てほしいと思っただけだ」

『きょう……』

『恭様……』


 目元にハンカチをやり、そっと涙を拭う早織と神矢想花。何ですか? 俺が素直に同行を頼むのがそんなに珍しいですか。そうですか


「やっぱこの二人も置いて行こうかな……スッゲー失礼だし」


 琴音に怒られたから早織達だけはと思ったが、置いて行った方がよさそうな気がしてきた


『きょう、お母さんを置いて行ったらどうなるか解かるよね?』

『恭様? もしも私を置いて行ったら……覚悟しなさい』

「この地獄耳どもめ……」


 俺は幽霊二人組の失礼極まりない態度と地獄耳に頭を痛めながら夜の道をバス停目指して進んだ




 帰宅後、俺のする事はいつもと変わらず。飯食って風呂に入る。飯ん時に少しだけ凛空君の話題が出たけど、蒼の友達を紹介するという程度。悩んでるとかっていう深い話はなかった。零達には関係ないから詳しく話す必要ないからいいんだけどよ。そんなこんなで就寝時間。俺は────


「全員寝たよな?」


 全員の就寝を確認していた。疚しい事は一つもないのに何をしているのやら……


『寝たと思うよ?』

『悪い事しているわけじゃないのだし、就寝の確認なんて必要ないんじゃないのかしら?』

「うっせ。俺だってしたくてしてるわけじゃねぇよ。今回……というか、こればかりは蒼と琴音は連れてけねぇんだよ。早織、アンタなら解かるだろ? 近くにいるのに伝えられないもどかしさってのがよ」

『それは痛いほど解るけど……』

「そうだろうそうだろう。で、俺は大切な人を失った奴の気持ちが痛いほど解かる。蒼と琴音を信じてないわけじゃねぇけどよ、こればかりは……な?」


 琴音も蒼も人の話を聞かない節がある。琴音は病むと闇華達と同様人の話を聞かなくなる。蒼は俺を弄ってる時割と人の話を聞いてない事が多い。今回は御縁がなかったという事で


『今回は御縁がなかったという事ね』

『あ、あはは……そ、そうだね。それに、大勢で押しかけても迷惑だし、お母さん達だけで行こうか?』

「ああ。全員寝たようだ。チャチャッと話聞きに行くぞ」


 俺は自分の布団に入るとそのまま幽体離脱し、一条家を目指した



 五分も立たずして一条家の前に到着。蒼達と来た時とは違い、辺りはすっかり静まり返っている。閑静な住宅街で夜中に騒ぐ頭のおかしいヤツなんていないだろう。いたら出て来い。指さして笑ってやるから


『早いとこ済ませるか』

『そうだね~、琴音ちゃん達が異変に気付く前に済ませて帰ろう~』

『そうね。バレたら後々面倒な事になるわ。早く済ませましょう』


 早織と神矢想花の思考が徐々に俺寄りになってきているのではないか? という不安を覚えながら汚一条家の中へ



『静かだな……』

『もう深夜だから寝てるんだよ』


 時間は分かんねぇけど、今は深夜。二十四時間営業じゃない限り大抵の店はとっくに閉まっている。営業しているのはコンビニくらいだ


『恭様』

『ああ、分かっている。仏間だろ? 案内してくれ』

『分かったわ』


 俺は早織と神矢想花に案内され、仏間へ向かった



 仏間に来ると当たり前だが、大きな仏壇があり、髭を生やしたダンディな男性の写真が置かれていた。凛空君の父親か? それよりも仏間にいるって聞かされていた人の姿が見えないのが気になる。とりあえずこの人が誰で凛空君との関係を聞くとしよう


『この人は?』

『亡くなった凛空君のお父さんだよ~』

『凛空君は母親似らしいわ』


 なるほど、分からん。分かったのは写真の人が凛空君の父親だっつー事だけだ


『そうかい。でだ、その凛空君の親父はどこ行ったんだよ? 姿が見えないようだが?』


 この仏間の主────凛空君の父親に会えなきゃ俺が琴音に怒られる覚悟でここへ来た意味がなくなる


『それならきっと凛空君のお部屋じゃないかな~? 毎晩凛空君の事を見守るのが日課だって言ってたし~』

『孫の顔を見るまでは成仏しないらしいわ』

『さいですか……それで? 凛空君の部屋は……親父さんの霊圧を探知すれば簡単か』

『さっすがきょう! その通りだよ! お母さんが惚れた男は頭の回転早いね!』

『頭の回転だけと私を見る目だけはあるわね』


 褒められてる気がしない……頭の回転早いね! だけでいいだろ……どうして余計な一言を付け足すんですかねぇ……


『褒められてる気がしねぇ……』


 俺は不満を漏らしながらも凛空パパの霊圧を探知。どうやら二階の方にいるようだ


『よし、行くか』

『うん!』

『ええ!』


 俺達は一同二階へ向かった


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