年甲斐もなく泣き真似をしたお袋をどうにか慰めた俺は零達に宣言した通りトイレ……には向かわず、ゲームコーナーへ来て虚ろな目で格ゲーをしていた
『きょう~?トイレに行くって言って部屋を出たのにゲームなんてしてていいの~?』
隣にいるお袋が心配そうに声を掛けてくる。俺はそれを無視し、CPUがコントロールするキャラを倒す作業に専念。下らない茶番に突き合わされた後で反応できる余裕も気力も残ってないなく、零達の元へ戻る気などない
「…………」
『きょ~う~?』
俺の態度が気に入らないのか隣にいたお袋が今度は目の前に現れた
「…………」
それでも俺は気にしない。今やってるのはゲームではなく作業。画面なんて見てても見てなくても大差はなく、妨害されたところで金を使って遊んでるわけじゃない。勝っても負けてもどっちでもいい
『きょう! 無視しないで!』
俺の思いとは裏腹に無視された事にご立腹なお袋は頬を膨らませながら叫ぶ。無視されたくなかったら話を脱線させて茶番に突入するのを止めてくれ
「無視はしてねぇよ。反応する気が起きなかっただけだ」
『いいや! 無視した! きょうはお母さんの事嫌いなの!?』
またかよ……
「嫌いじゃねぇよ。茶番に突き合わされて会話する気力がなかっただけだ」
嘘は吐いてねぇ。爺さんと親父は重要な話の最中にどういうわけか茶番を入れ込んでくる。真面目な話をしている最中に茶番を入れるのは彼ら自身、自分のしている話が高校生のクソガキにしていいような話じゃないって理解していて少しでも場を和ませようとしているんだろうが、俺からすると真面目な話をしている時くらいちゃんとしろって思う。お袋もな
『あ、あれは……少しでも場を和ませようと……』
「重い話ならともかく、俺の元に寄ってくる人間が揃いも揃って依存心強い奴だって話をするのに茶番は必要ねぇだろ?つか、早いとこ結論を言ってくれ」
茶番が始まる前、お袋は小学校の時に俺を揶揄ってきた奴が自宅でどんな扱いを受けてきたと思う?って聞いてきた。その質問に対し、俺は中学時代の由香を含め、揶揄ってきた奴や絡んできた奴が家でどんな扱いを受けてようと興味はないと返し、そこからお袋に冷たいと言われ、茶番スタート。俺は結論を聞かないままここへ来て今に至る
『きょう冷たい……』
泣き真似をした時と同じくハンカチを取り出し目元に当てるお袋。それ流行ってんのか?
「冷たくて結構。自分に害成す人間に優しくしてやるほど俺は心の広い人間じゃねぇから」
自分に害成す奴に優しくできる奴がいたとしたらソイツはドMか菩薩に違いない。俺はドMでも菩薩でもない。由香と普通に接してるのだって親父達が再婚したからってだけで
『むぅ~……でも、冷たいきょうも嫌いになれない……』
「そりゃどうも。で?結局俺の周りに依存心強い奴が集まってくる理由って何だよ?まさかとは思うが、魂が~とか、体質~とか言わねぇよな?」
これで魂がとか、体質と言われたら俺にはどうしようなくなる。前にも言った通り俺はメンヘラ、ヤンデレの女は嫌いじゃない。むしろだらしのない俺は返って愛が重いくらいの女が合っているとすら思う。それとこれとは話が別だけどな
『言わないよ~。魂も体質も関係ないしね~。周りに依存心が強い人が集まるのは単にきょうの雰囲気がそうさせてるだけだから』
俺の雰囲気がそうさせるって一言で思わず操作してた手が止まる
「俺ってそんなに依存したくなる感じなのか?」
『依存したくなるって言うか、この人なら自分と向き合ってくれそうみたいなそんな感じがするんだよ』
よく分かんねぇ……。俺は人と向き合えるかって聞かれると自分的にはいでもいいえでもない。向き合ってるような気もするし向き合ってないような気もする
「そうなのか?自分じゃよく分かんねぇ」
『そうなんだよ! 恭弥のバカが浮気した時がそうだったんだから!』
親父の浮気っつー事は俺が小三の頃か……あん時の事は忘れようがない。俺がお袋に初めて嘘を吐いた日だからな。一緒に寝た時に聞かれたっけ?ずっと側にいてくれる?って。小学生ながらにこれ以上お袋を悲しませたくない一心でずっと側にいるって答えたけどよ……思えばあの騒動があった次の日からだよな……それまで激しかったスキンシップが更に激しくなったのって
「なるほどなぁ……。って事はだ、お袋のスキンシップが激しくなった理由って……」
『きょうを他の女に渡したくなかったからだよ!』
他の女って……当時の俺は小学生。周囲にいるお袋と似通った年代の人間って教師くらいしかいなかったぞ?当然の事ながら教師が生徒に手を出すのはご法度。小学生に手を出したとなればもれなくロリコン、ショタコンのレッテルまで付いてくる。自分で自分の首を絞めるバカはいないだろう。それに、小学生の恋愛と言っても所詮は友達の延長だ。いい大人が目くじらを立てるほどじゃないと思うのは……俺だけなんだろうなぁ……
「他の女と言われたところで当時の俺は小学生でお袋と同年代の人間って言ってもいるのは教師くらい。俺とタメっつーなら当時で八歳とか九歳くらいだぞ?いい大人が子供にヤキモチ妬いてたのかよ……」
人を好きになるのに年齢なんて関係ないとはよく言ったもので、歳を重ね、大人になるとそう思う。例えば、歳の差婚。大人同士だから歳の差十歳での結婚もアリだ。しかし、考えてほしい。ダメだとは言わないし、咎めもしねぇけど、子供で言うところの十歳の子がゼロ歳児に恋をする光景を。大人だからこそ許されても子供に置き換えると異様だよなぁ……。それを考慮してだ、成人女性が小学生にヤキモチ……妬かれた当人からすると複雑だ
『悪い!? 例え相手が小学生でも自分の知らないところできょうが女の子と仲良くしてるのは気に入らないの!』
あ、なるほど! だから零達がベタベタしてもお袋は不機嫌にならないのか! 自分が見える範囲だから! 納得納得! って! 納得してる場合じゃねぇ! お袋の俺依存はどうでもいいんだよ! 零達がベタベタしてくる理由を聞かねば!その前にお袋を丸め込もう!
「昔はそうだったとしても今は違うだろ。ずっと一緒なんだからヤキモチなんて妬くな」
そもそもの話、息子の同級生にヤキモチを妬くなって話なんだが、言うと拗れるから言わないでおいた
『う、うん……』
ほんのり頬を染め、恋する乙女の表情をするお袋。息子が言った一言にキュンとしないでもらえません?貴女には親父がいるでしょ?
「息子の言葉でキュンとすんなよな……」
『だ、だって……』
「はぁ……」
義姉と義妹の扱いをこれからどうしようかと考えただけで頭が痛い
『溜息吐いても零ちゃんと闇華ちゃんが義妹だって事も由香ちゃんが義姉だって事も変えられないよ~?』
「………分かってるよ」
お袋が言うように零と闇華が義妹になった事実も由香が義姉だって事実も溜息一つ吐いたところで変えようがない。義妹組とはこれといった因縁はなく、どう接していいかすぐに答えは出る。義姉の由香は違う。今まで住む家が違ってて顔を合わせたとしても学校だけ。関わりが少なかったからこそ今の関係に落ち着いた。書類上の義姉と義弟っていう世間から見たら曖昧な関係に。書類の上では俺と由香は義理の姉と弟だって頭で解っていても心が追い付かない。由香が苛めっ子で俺が苛められっ子だったから?それとも、俺が由香に嫌悪感を抱いていたから?分からない……
『分かってるって言ってもまだ心は追い付いてないんだね?』
「当たり前だ。同居人だった女の子がいきなり義妹になった事もそうだけど、中学卒業して関わる事がないと思ってた苛めっ子が高校入学して一か月経たないうちに義姉になってましたって言われて納得出来るほど俺は大人じゃねぇんだよ」
俺はまだ子供だ。大人なら割り切れそうな事も割り切れない子供……。現に義姉・義妹との接し方で悩んでるってんだから大人とは言えないだろ
『頭じゃ義姉ができた、義妹ができたって解ってても今までが今までだから悩んじゃうよね』
「ああ。義妹達の方はともかく、義姉の方は……な?」
『うん……』
“YOU LOSE”
お袋との話に集中しすぎてたせいか気が付くとゲーム画面に『YOU LOSE』の文字が。別に単なる作業だったから負けても悔しさや再挑戦しようと気は起きず、俺はそのままゲームコーナーを後にし、部屋へ戻った
義姉・義妹とこれからどう接したらいいか。その答えが出ないまま部屋に戻ると零達は……
「お、お兄ちゃん?何か疲れてない?」
「に、兄さん?」
「だ、大丈夫?」
俺の顔を見た途端、心配そうな顔で詰め寄って来た
「大丈夫だ。ちょっと考え事してただけだから」
悩みの原因である零達にこれからお前らとどう接すればいい?なんて聞けず、お茶を濁す。言っとくが、これは真面目な悩みじゃねぇぞ?今まで一人っ子だったのにいきなり異性の兄妹が出来たんだ、悩んで当たり前だろ?
「その割には疲れた顔してるわよ?」
俺の顔を覗き込んで様子を窺ってくる零
「昨日の疲れがまだ抜けきってねぇんだ」
いきなり異性の兄妹が出来て戸惑ってます。とは言えず、昨日の疲れが抜けきってないって事にしたが……無理があるよな……
「それなら私達が添い寝してあげますから寝ましょう!」
「そうだよ! 寝てる間に襲ってもいいから寝ようよ!」
由香は何で襲う前提?おかしくね?
「襲う前提で話をしないでくれない?別に襲う気ないからな?」
「「「えぇ~! 襲わないの~?」」」
不満そうな顔をするな。しかしなんだ?こうバカなやり取りをしてると接し方で悩んでいた自分がバカみてぇだ
「襲わねぇよ! お前らは俺を変態に仕立て上げてぇのか!?」
「「「「「『私達限定だったら……』」」」」」」
前言撤回。悩むだけ時間の無駄だった。この部屋に住む女はどっかのネジが飛んでるって事を忘れてた。悩んでた時間を返せ。琴音と飛鳥はサラッと混ざるな
「お前ら襲うくらいなら別の女襲うわ!!」
零達に魅力がないと言ってるんじゃない。彼女達を襲ったら最後、俺の人生が終わるからあえて襲わないって言ったんだ。そこんとこ誤解すんなよ?
「「「「「『は……?』」」」」」」
「やっべ……」
他の女を襲う。この発言がヤバかった。零達の光を失った瞳に捕らえられ、俺は……
「サラバだっ!」
その場から逃げ出した
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