高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

絶対に一対一では会いたくないアイツに会ってしまった

公開日時: 2021年3月9日(火) 22:58
文字数:4,358

「…………何してんだ?お前?」


 頭に感じた柔らかな感触で目を覚まし、目を開けるといたのは一対一では絶対に会いたくなかったアイツ。そう────


「おはようございます! ご主人様!」


 Tシャツ、スエットとラフな格好をした神矢想子その人。彼女に俺は膝枕されていた。つか、ご主人様って何?


「あ、ああ、おはよう……」


 俺は起き上がり、もう一度神矢想子を見る。この女は俺をご主人様と呼ぶような人間じゃない。飛鳥騒動の時は俺を灰賀君と呼んでいた。オマケに俺が教師に楯突くのは母親がいないからだとよく解からない事を言っていた。決して俺に膝枕をし、ご主人様と呼びはしない。しないはずなのだが……


「はい! おはようございます! ご主人様!」


 何がどうなっている?俺の脳内で疑問がグルグルと回る。人間簡単には変わらない。性格や考え方なんて特にそうだ。長年培ってきたものや、価値観がある。幼少期ならいざ知らず、神矢想子は多分、藍やセンター長よりも年上。長年のものが簡単に変わるわけがない! どうしてこうなった?


「あ、ああ、おはよう……。で?何してたんだ?」


 俺は神矢想子へ訝し気な視線を向ける。何があれって、俺が知ってる神矢想子と目の前にいる神矢想子じゃあまりにも違いすぎる。


「何ってご主人様に膝枕です! ご主人様は想子の膝枕お嫌いですか?」


 瞳に涙を溜めながら俺を見つめる姿にちょっとトキメキかけ……るわけないですよね。ビフォーアフターが違いすぎるんだもん


「膝枕自体は嫌いじゃねぇけど、この状況が理解出来ない。何でお前に膝枕されてんだよ?どうして俺をご主人様って呼ぶんだよ?」


 慣れって恐ろしい。目の前にいる神矢想子は完全に変わり果てている。変わり果てているだなんて生易しいモンじゃない。大元の人格を完全に破壊し、別の人格を埋め込まれたみたいだ


「そんなのご主人様だからに決まってるじゃないですか!」


 私怒ってます! ってオーラ出されてプリプリされても困る。俺はお前のご主人様になった覚えはない


「意味分からんねぇから。俺はお前のご主人様になった覚えねぇから」


 ハイテンションの爺さんを相手にした後で変わり果てた神矢想子の相手はキツイ。朝じゃなくてもハイテンションジジイと神矢想子の相手はしたかねぇ。疲れるし


「そんな! ご主人様は想子を捨てるんですか!? あんなに優しかったのに!」


 うん、さっきも聞いたフレーズだ。我が祖父から。そのフレーズ流行ってるの?俺の日常を小説にしてWEB小説サイトに投稿すればいいの?マジめんどくせぇ……


「はいはい、かつては優しかったかもしれねぇけど、今はちげぇから。そういうわけでじゃあな」


 俺は立ち上がり、神矢想子から離れ、足早に談話室を出ようとした。しかし────────


「何のつもりだ?」


 出ようとしたところで俯く彼女に腕を掴まれた。


「待ってください……」

「んだよ?」

「お願いです……私を捨てないで……お願い……だから……」


 神矢想子の声は涙声で俺の腕を掴んでる手は微かに震えていた


「捨てないでって……俺とお前は捨てる捨てないの関係じゃないだろ」


 俺は彼女を家に住まわせてなく、彼氏・彼女の関係でもない。捨てないでと言われても困るだけだ


「捨てないでください……お願いします……」


 捨てないでって言われてもなぁ……俺らは捨てる捨てないの関係じゃないんだが……。


「捨てないでって言われても俺はお前を引き取った覚えもなければ恋人になった覚えもないぞ?」

「捨てないでください……」

「いや、だから────はぁ、もういい、どうしたんだよ?前はこんなんじゃなかっただろ?」


 中身はともかくとしてだ、こうやって話を聞こうとしない人間に何を言っても無駄だと諦めた俺は彼女の話を聞く事にした。俺をご主人様と呼んだり捨てないでと言ったりと情緒不安定過ぎる。スクーリング初日でいるっつーのは知ってたが、ここまで変わってたとは思わなかった。婆さんの学校に行ったのは言わずもがな。この変わりようはちょっと……異常だ。元を知っていれば尚更な


「ご主人様────灰賀君は私から離れて行かない?」

「何言ってんだ?」


 顔を上げた神矢想子は泣いていた。マジ何があったんだよ……


「答えて……灰賀君は私から離れて行かない?」


 離れて行かない?と聞かれても俺は他人に興味などない。零達女学院にいる連中、加賀達を拾ったのがいい例だ。俺の現在暮らしている場所はデパートの空き店舗だ。十分すぎるほど広い。だが、俺には零達を拾わないという選択、婆さんから言われた事だから断り切れなかったとしても女学院にいる連中を引き取らないという選択、加賀は警察に突き出し、その他の連中はそのまま放置するって選択と俺には選択肢があった。部屋というか、家全体がデカすぎるからっていう理由で拾ったなんて今思うとどうかしてる。俺の思いは置いといて、この女はこんなに情緒が不安定だったか?


「俺は他人に興味なんてねぇ。だから離れるも何もねぇよ」


 他人に興味がないって事はだ、アイツ嫌いだから離れよう、アイツ好きだから一緒にいようとか思わないって事だ。特に一緒にいたい人間がいないから


「本当……?」


 コイツはいくつの大人なんだ?俺より年上なんだろうけど、年齢関係なく上目遣いが可愛いと思ってしまう俺は病気か?誰か教えてくれ


「本当だ。俺は他人に興味ねぇよ」


 興味がないはずなんだがなぁ……。女の涙には勝てねぇって事なのかなぁ……


「そ、それは……私にもって事かしら?」


 神矢想子の不安そうな瞳が俺を捕らえる。彼女はどんな回答を求めているんだ?お前は特別だとでも言ってほしいのだろうか?


「例外はない。アンタが俺に何を求めてんのか知らねぇけど、何かを求めてるなら止めろ。求めるだけ無駄だ」

「私は……灰賀君の特別ではないの?」


 絶望に染まりきったような顔で尋ねてくる神矢想子。俺の特別?コイツは何を言っているんだ?俺は未だかつて特定の人間を特別だと思った事はない。零を始めとした拾ってきた連中も実母の早織も特別だと感じた事はない。ほんの数日関わっただけの彼女を……それも、敵対してたような関係だった彼女を特別だと思われていただなんてどうして言えるんだ?


「俺は今まで特定の誰かを特別だと思った事はない。つかよ、アンタと俺は初めて会った時が最悪で学校で関わった時なんて敵対してたようなモンだったろ?そんな人間を特別だと思うか?」


 コイツに声掛けられた原因は俺にあった。コンビニで店員が注意しないからと言って立ち読みはダメだ。注意されて当然の事してたからここは素直に自分の非を認める。だが、二度目は違う。揉めた直接の原因は俺じゃなく、飛鳥だが、理由が飛鳥の服装が女らしからぬものだからっつー価値観の押し付けに近いものだった。価値観を押し付けてくる教師だったらシカトで済むが、あろう事かこの女は俺の家庭環境にまで踏み込んできた。母親がいない事をネチネチ言ってきたのだ。ガキ以下の彼女を特別だと思うのはあり得ない


「そ、それは……そうだけど……」


 彼女は下を向きポツリと言った。ぐうの音も出ないようだ。


「だろ?敵対してた奴を特別だと思うなんて余程の事がない限りあり得ねぇから」

「で、でも……少しくらい特別視してたでしょ?」


 神矢想子の言ってる事は自意識過剰の勘違い女の典型だ。大した魅力もねぇのに自分は異性からモテる、人気があると思い上がってる。そのクセ性格は最悪で容姿も特別美人でも可愛くもない。何をどう考えたら自分に過剰な自信が持てるのかは知らんけど


「してねーよ。何をどう勘違いしたかは知らねぇが、星野川高校にいた時のアンタは単なるウザい非常勤教師。言い方を変えると視野の狭い女だ。特別視なんてした事ないっつーの」


 日常の学校生活ですら教師はおろか、クラスメイトと接する機会がない。俺が積極的に交流しないってのがデカいんだけどな。常に勤務している教師や週二日で登校してくるクラスメイト、他クラスの同級生とすら交流してない俺が気が付いたらそこにいた程度の人間を特別視以前に記憶してるかどうかすら危うい


「じゃ、じゃあ……私の居場所は……」


 神矢想子はその場で泣き崩れた。出会った当初の彼女に比べると脆くなってるような気がしてならない。一体何があったらこうなる?これまでの会話にヒントはたくさんあったとは思う。しかし、あまりの変わりようにヒントを探すのすら億劫だ。スクーリングでは人が抱える闇や悩みに触れずに済んだと思ったのになぁ……しゃーねぇなぁ……目の前で泣いてる奴を放置するわけにもいかねぇよなぁ……。神様恨むぞ……


「はぁ……あの後何があってどうなったかだけ聞いてやっから泣くなよ」


 俺は神矢想子を立たせると彼女の手を取り、有無を言わさずソファーまで戻った



 ソファーまで来ると俺は乱暴に腰を下ろし、隣の空いたスペースを叩き、座るように促す。だが……


「灰賀君の抱っこじゃなきゃ嫌……」


 と、神矢想子はとても大人とは思えない事を言った。アンタいくつの子供だ?本当に何があったらこうなるんだ?爺さんとの電話で感じた頭痛がぶり返してきたぞ……


「抱っこってなぁ……」


 俺だって健全な男子高校生だ。年上の女性に甘えられて悪い気はしない。ただ、彼女を抱っこすると……


『きょう~?お母さんも後で抱っこしてくれるよね~?想子ちゃんがよくてお母さんがダメだなんて言わないよね~?』

『恭様、妹の想子を抱っこするって事は姉である私を抱っこしてくれると捉えていいのよね?ね?』


 鬼の形相で睨む幽霊二人にも同じ事をしないといけなくなりそうなわけで……後々面倒だ


「いや……?」

「あー……えっと……その……」


 涙目で見つめられ、俺は顔を逸らした。後頭部を掻きながら必死にこの窮地をやり過ごす案を探す。上手い事断れないものか……


「抱っこしてくれたら私の初めて全部あげる……なんだったら私を好きにしていい……だから、抱っこ……」


 待て待て! なんか話がヤバい方向に進んでねぇか?抱っこごときで大事なモン差し出そうとしてねぇか?他の他の教師や琴音、零達に見つかったら俺が確実に殺されそうな未来しか見えねぇぞ?


「何で抱っこごときに大事なモン差し出そうとしてんだよ……」

「だって……灰賀君にお願いを叶えてもらうには身体を差し出せって言われたんだもん……」

「俺は外道か何かか?誰だよ?ンなデタラメ吹き込んだバカは」

「暦さん」


 何をアホな事言ってくれてんだよあの婆さん……ババアの戯言を信じた神矢想子もアホだが……。どこから突っ込んでいいか分からなくなり、俺は頭を抱えた。もう溜息すら出ない。さっさと飛鳥騒動後に何があったか聞いて二度寝しよう。珍しく早起きしてみたらこれだ。このスクーリングが終わったら一度お祓いにでも行くか。俺は固く心に誓った


今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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