高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

レクを投げ出したいと思った

公開日時: 2021年3月4日(木) 23:31
文字数:4,350

 食堂に零達を残し、瀧口に案内されて男子トイレ前に来た俺は目の前の光景に言葉を失くしていた


「あー……今度は東城先生かぁ……マジかぁ……」


 男子トイレ前に横たえられているマネキンの額には『東城藍』と書かれた紙が。張り付けられているのか乗っかってるだけなのかは分からない。分かっているのは藍がいなくなったという事実のみ。面倒な事になった。これに尽きる


「灰賀君……」


 塚尼がいなくなった時も琴音がいなくなった時も瀧口には焦りの表情があった。俺もだけど探そうとは言いださなかったがな。ただ、自分の担任がいなくなったとなれば話は別だ。嫌でも捜索を開始せざる……別に探す必要なくね?霊圧ブチ当てていぶり出せばよくね?


「あー……そうだなぁ……探すしかないのかなぁ……」


 零達から受けた猛攻のせいで俺の思考は強力していなくなった連中を探そう!から無理やりにでもいぶり出そう!に切り替わりつつある。かくれんぼっつーのは面倒だ。隠れる側になった時は絶対に見つからないように隠れる。だが、探す側はどうだ?絶対に全員見つけてやると息巻くのは最初だけ。何人か見つけ、最後の一人、二人になると探すのが面倒になる。回数を重ねると最初の一人を探すのすら面倒になる。どっち道面倒なのには変わりない。俺は気のない返事を返した


「灰賀君! 自分の担任が姿を消したんだぞ! 真面目に探そうとは思わないのか!!」


 瀧口は俺の胸倉を掴み怒鳴ってくる。その表情には鬼気迫るものが感じられ、本格的に探さないとマズいのではと思うも如何せんやる気が起きない。探すにしてもどこをどう探せばいいか分かんねぇってのが本音だ。


「落ち着けよ。これはあくまでもかくれんぼだ。とりあえずみんなで東城先生の部屋に行ってみようぜ?気になる事もあるしよ」

「気になる事?」

「ああ。昨日は灰賀女学院と合同だって部分に目が行っていろいろ見逃してたが、よく考えるとこのスクーリング自体おかしな点が多すぎる。それを確かめたいんだ」


 俺の目的は東城先生の部屋を調べる事に非ず。彼女の部屋にある俺のスマホを回収する事にある


「分かったよ」


 瀧口は俺の胸倉から手を離すと食堂へ歩き出す。俺も後に続くのだが、一つ気になる事がある。気になるには気になるけど、今すぐに調べたいって程じゃない。マネキンの額にあった紙が張り付けられてるか乗っかっているだけなのかなんて些細な事。後で調べたところで何の問題もないだろう




 食堂へ戻り、瀧口の口から藍がいなくなった事と男子トイレ前に塚尼の時と同じくマネキンが置いてあった事が伝えられた。最初はみんな動揺を隠せずにいた。中には塚尼の時は辛うじて耐えられたが、藍がいなくなった事がトドメとなったのだろう。泣き出す生徒が出てきた。


「これは色々とヤバいんじゃねぇのか?」

「そうだね。僕は前々からどんな理由で星野川高校に来たかを聞いてた子がいるから分かるけど、これはいい状況とは言えない」

「泣き出す奴が出てきたもんな」

「ああ。まぁ、その子達の場合、塚尼先生や東城先生がいなくなった事じゃなくてこの環境でそれが起きた事が原因なんだけどね」


 瀧口の言っている意味が分からない。塚尼や藍────教師二人がいなくなって不安だから泣いてると言われたらまだ分かる。だが、この環境でそれが起きた事が原因だと言われてもいまいちピンとこない


「どういう事だよ?言ってる意味がよく分からん」

「今泣いてる子達は全員僕と同じでホラー系統のものや暗所恐怖症な子達なんだよ」

「なるほど、理解した。暗所恐怖症か……つまり、今泣いてる連中は暗闇に対して恐怖を抱いてるって事になるが、この館は泣くほど怖いか?薄暗くはあるが、真っ暗ではないだろ」


 昨日瀧口はホラーがダメだと言ってたから怖い系がダメなのは知ってる。暗所恐怖症は暗闇を病的に怖がる事だ。症状としては発汗や吐き気等らしいけど……今までそれらしい症状は見られなかった。俺の知らないところであったのかもしれないが、ここにきて症状が出る理由が分からない。この館は真っ暗ではなく、薄暗いから特にだ


「確かにこの館全体真っ暗ではない。でも、スクーリングのレクだとはいえ、立て続けに先生や管理人────人が三人も忽然と姿を消したんだ。前もって話を聞かされていたとしても怖いものは怖いさ。僕や灰賀君、零さん達や弓香、麗奈といった幽霊が見える側の人間ならいざ知らず、そういうのとは無縁の子達はかくれんぼだって聞かされてても怖いと思うよ?」


 瀧口の言ってる事は解からんでもない。確かにこのレクは単純に言えば単なるかくれんぼ。だが、薄暗い場所で突如人が消えるというのは一種の恐怖だ。俺はめんどくささがまさって分からなかったが、よく考えると怖い


「言われてみれば確かに……。けど、教員連中と管理人は多分、生徒が泣き出したくらいじゃこのレクを中止しねぇぞ?」


 教師というのはデリカシーや配慮に欠ける部分がある。人が気にしている事を平然と口にするし、普通の人間なら言わない事を平気で言い、え?そんな事しちゃうの?って事を涼しい顔でやってのける。生徒が抱えるトラウマを抉る事など朝飯前。じゃなかったら薄暗く窓が一、二か所しかない建物をスクーリングの会場に選び、そこでかくれんぼをしようとは考えないだろう


「そ、それじゃあ! 怖がって泣いてる子達はどうするんだい!? このまま泣かせておくのかい!?」


 瀧口の怒鳴り声が食堂全体に響き渡り、彼の声に怯えて泣いてた生徒はさらに泣き出し、泣いてない生徒は身体をビクッと跳ねさせる。


「俺は事実を言ったまでだ。瀧口、お前は小・中・高と九年ちょっと教師という職に就く人間を見てきてどう感じてるか知らねぇが、俺の見てきた教師は皆デリカシーに欠け、理解出来ない言動を取るような奴ばかりだった。星野川高校、灰賀女学院の教師も今までの連中と同じだとは思いたくねぇがな」

「じゃ、じゃあ、どうするんだい!?」


 そう言って彼は俺の胸倉を掴む。感情が高ぶってるのか顔が赤い。その様子を見てる他の生徒達は直接止めに入ってはこずとも男女関係なしに怯えの色を見せている。横目でチラッと零達の様子を窺うと他の生徒と同じく不安に満ちた視線をこちらへ向けてきていた


「どうするって……不安で泣いてる連中を励ましながら残り二日を過ごすかいなくなった連中を探し出してゲームセットにする他ないだろ。いや、いっその事教師陣の望むように学校の垣根を超えた交流でもしながら過ごすか?」


 俺は瀧口に挑発的な視線を向けた。一つ目は教師を探すという手間が省ける代わりに泣いてる生徒をどうにかして励ますって手間が掛かり、二つ目は泣いてる生徒を励ます手間が省ける代わりに教師を探すという作業が待っている。俺としては三つ目の学校の垣根を超えた交流が望ましい。泣いてる生徒を泣き止ませる手間はあれど、教師を探す手間はなく、残り二日間をのんべんだらりと過ごせるからんだからな


「そ、それは……その……」


 顔の赤みが引き、一気に苦虫を噛み潰したような顔になる。胸倉は依然として掴まれたままだが、心なしか震えていた。案は三つだが、選択肢としては二つ。レクをサボるかサボる事なく続けるか。中学の頃はどうだったか知らんが、今の瀧口は友達思いの真面目な奴だ。レクを優先させるか、泣いてる友達を優先させるかの二択で揺れてるように見える。


「どれを選択しても教師の願いは叶えられる。一つ目と三つ目はレクの趣旨とは違うと思うが、全部交流するって目的は果たしてるんだ。教師陣も文句は言うまい。万が一文句を言われても最初にレクの説明をしなかったアンタらが悪いんだろ?って言い返せばいいだけだ」

「で、でも……、そんな事したらレク自体に意味がなくなるんじゃ……」

「そうか?別にいいだろ。レクをサボったとしても教師の願いは叶えられる。ただ、交流はあれど生徒同士で協力して物事に取り組みはしねぇけどな」


 今回のかくれんぼは隠れるのが教師や管理人。言われなくても俺達生徒が鬼であり、協力していなくなった連中を探し、見つけ出すってのは解かりきっている。見つけ出す過程で避けられそうにないのが学校やクラスを超えた交流。生徒間で情報を共有しなければ話にならないからな。問題は瀧口を含む生徒全員がどうするかだ。このままレクを続行するのか、中断するのか。瀧口一人に決断させるのは酷だが、二校の中心人物になりつつある彼の選択だ。内心じゃやりたくないと思っていても瀧口がやるといったら従わざる得ない


「そ、そうかもしれないけど……まずはみんなの意見も聞かないと……俺一人では決められないよ」

「だろうな」

「話し合う時間をくれないか?」

「好きにしろ」


 胸倉から手を離した瀧口は同級生達の方を向くと今後の事について話し合うと言って他の連中を集め、俺はそれを見届けた後、何も告げずに食堂を出ると自分の部屋へ戻った。早織と神矢想花に一声掛けるべきだろ?って言われたが、気にしない。俺には確認したい事があるのだ



 部屋に戻ってきた俺はベッドのわきにあるしおりを手にすると再び部屋を出た。最初に向かうのは塚尼の部屋だ


 塚尼の部屋に着いた俺はノックもせずにドアを開けると閉められたままのカーテン越しに夕日が差し込む。明確な時間は分からずとも後数時間か数分もすれば夕飯時なのは分かる


「マジかよ……」


 部屋に入った俺は頭を抱えた。発見当初あったマネキンが消えてるんだ、頭を抱えずとも反応しない方がおかしい


『ま、また騒ぎになっちゃうね……』

『こんなの他の子に見せたらさっきの比じゃなくなるわね……』


 苦笑を浮かべる早織と俺と同じく頭を抱える神矢想花。彼女達の言う通りマネキンが消えたとなれば別の意味で騒ぎになる。特にホラーがダメな連中と暗所恐怖症の連中が。ゲームじゃ遺体は毛布をかぶせてはあっても残ったままだったのに……


「ゲームをモデルにしてんなら何でマネキンを隠したんだよ……」


 教師連中が何をしたいのか分からない。ゲームのストーリーをなぞるならマネキンを隠す意味はないのだが……


『調べられたら困るものか事があるんじゃないの~?』


 早織の言ってる事には一理ある。塚尼にしても藍にしても最初にマネキンは発見したものの、ちゃんと調べてはいない。マネキンを見つけ、塚尼と藍がいなくなったという事実を知っただけだ


「調べられたら困るものか困るものねぇ……何なんだ……」


 一理あるとは思ってもしっくりはこない。パッと見はどの店頭にでもありそうな普通のマネキン。調べられても何ら不都合はないはず


『お母さんに聞かれても分からない。でも、マネキンを調べたら不都合な何かが出てくるっていうのは多分だけど確かだと思うよ~』


 不都合な何かか……一体何なんだ?


今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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