琴音の番が終わり、次は東城先生。さすがに琴音みたいに猫化とか意外な一面は見せないとは思いたい……え?琴音はどうしたかって?時間になったら猫からアッサリ元に戻って出て行った
「やっとこの時が来た。恭ちゃんに甘えられる……」
東城先生、同僚や生徒が聞いたら大変な事になりますよ?
「今は藍ちゃんの時間だからそうなるな」
拾ってきた順で零、闇華、琴音だった。東城先生は拾ってきたというよりも転がり込んできた。よく言えば保護した。言い方はどうであれ拾ってきたのとは少々違う
「普段甘えられない分たっぷり甘えるから」
東城先生? その決意表明みたいなのは要らんのですよ?
『藍ちゃんは昔からきょうが大好きだよねぇ~』
お袋、そのカミングアウトも要らない
「普段甘えられない……間違っちゃいねぇな。俺と藍ちゃんじゃ学校に行く時間も帰ってくる時間もちげぇし」
俺は東城先生よりも後に家を出る。理由は簡単で一緒に学校へ行くと面倒な事になるからだ。そりゃ一度や二度くらいなら偶然で済ませられる。それが毎日、毎回となれば怪しむ奴が出てくる。万が一家に住んでるだなんて知られてみろ、考えただけでもめんどくさい
「うん。だから今は全力で甘える。普段一緒にいられない分まで」
「俺の国・数・英を担当し、その上クラス担任までして一緒にいる時間が長いクセに何を持って普段一緒にいられないとか言ってんだか……」
俺の頭のできが悪いせいなのか、国語・数学・英語と担当は東城先生。で、担任も東城先生。俺からすりゃ登下校の時以外はほとんど東城先生と一緒だ
「恭ちゃん、確かに家でも学校でも登下校を除けば常に一緒にいる。だけど、学校じゃ他の子や先生だっているでしょ? 私の言う一緒っていうのは恭ちゃんと二人だけでって事だよ?」
「あ、そういう事」
言われて初めて納得。東城先生の言う通り家でも学校でも一緒にいる。家はともかく、学校じゃ他の生徒や先生もいるから完全な二人きりとは言えない
「うん。そういう事。それでね、恭ちゃん」
「何だ? してほしい事でも言うのか?」
「うん。私と二人だけでお風呂に入ってほしい」
零からは頭を撫でてハグ。闇華からは添い寝。琴音からはバックハグ。今のところハグ二回に添い寝一回。東城先生からの要求は一緒に入浴。こうして考えるとなんだな……飛鳥の番になったら何を要求されるかマジで予測不可能だ
「藍ちゃんは俺が零を甘やかしている間に風呂入ったんじゃ……」
闇華と琴音の時は何してたか知らない。俺が把握してるのは零の時に闇華、琴音、東城先生、飛鳥の四人は風呂に入っていたという事だけだ。それが本当ならな
「うん。入ってたよ。だけど私は恭ちゃんと一緒に入りたい。ダメ?」
年上女性……それも自分の担任女性教師から一緒に入浴したいと言われて断れるわけがない。加えて今は東城先生を甘やかす番だ。ただなぁ……バレないとは思うが、万が一バレたらどうしようという杞憂がある
『お母さんはいいと思うよ~? 昔はよく一緒に入ってたんだしさ~』
お袋、昔と今は違うんですよ? 昔は同じ公宅に住んでた近所のお姉ちゃんだったかもしれないが、今は生徒と教師だ。何かの拍子でバレたら東城先生は学校をクビになるかもしれないんだぞ?
「恭ちゃん……イヤだったら断ってくれていいから……」
止めて! 泣きそうな顔で俺を見ないで! つか、悩みはしたけど断る気ないから!
「別に嫌じゃない。ただ、男湯と女湯、どっちにしたものかと迷っていただけだ」
「ほんと? 私と一緒にお風呂入ってくれるの?」
瞳に涙を貯め俺を見つめる東城先生。こうして見るとグッとくる。特に普段とのギャップの差に
「甘やかすって言った上に零・闇華・琴音の要求を聞いといて藍ちゃんや飛鳥の要求を聞かないってわけにもいかないからな」
大前提として俺が甘やかすと言ったから一人だけ拒否するのはなしだってのが根底にあるだけで決して東城先生の普段とは違うギャップにやられたとか、年上女性で自分の担任と一緒に入浴やっほーい! とか考えてないからな?
「本当は藍ちゃんのお願いだからって言って欲しかったけど、今はその言い方で許してあげる」
「そりゃどうも。んじゃ、男湯でいいか?」
「うん」
「もちろん、水着着用だよな?」
「うん。一人の女としては恭ちゃんと裸の付き合いをしたいけど、教師としては付き合っていない男女が裸の付き合いをするのはダメだから水着着用だよ」
こういう時だけは藍ちゃんが教師でよかったと思う。零達なら水着着用を全力で反対し、俺がそれを説得して時間を食うっていうビジョンがありありと浮かぶ
男湯に男湯に移動した俺達は脱衣所にて互いが見えない位置で水着に着替え、浴室へ入り、最初に身体を軽く流してから湯舟に浸かる
「いい気持ちだね」
「って言われても藍ちゃんは二度風呂だけどな」
湯舟に浸かった俺と東城先生はどちらともなく寄り添う形となった。不思議なもので男同士なら指定されてなくても隣に座るし、男女なら自然と寄り添う形になる。大浴場の神秘だな
「二度目でも気持ちいいものは気持ちいいの。恭ちゃん、もしかしてお風呂嫌いなの?」
「風呂は嫌いじゃないぞ。ただ、二度風呂でも気持ちいいと感じるのかなって思っただけだ」
「そう。ところで恭ちゃん」
「何だよ?」
「肩、抱いてもらっていい?」
「ああ」
俺は左腕を回し、東城先生の肩を抱く。と、ここまでが東城先生からの要求。ここからが俺のサービスだ
「きょ、恭ちゃん?」
「何だよ?」
「わ、私、抱き寄せてってお願いはしてないよ?」
俺が抱き寄せたことで東城先生の頬はほんのり赤くなっている。この人は滅多な事じゃ驚かない。現に今だって動揺はしてるだろうけど驚いた様子は特にない
「そりゃ俺からのサービスだ。まぁ、日頃の感謝の印だと思ってくれて構わない」
「う、うん……」
これっきり東城先生は何も言わなくなった。もちろん、俺も……
二人共無言になってからどれくらいの時が経った? 五分か? 十分か? と思い始めた時────────
「ねぇ、恭ちゃん」
唐突に東城先生が口を開いた
「何だ?」
「神矢先生と対決した日に職員室が揺れて飛鳥を退学させろとか精神科に連れて行った方がいいって言った先生方に対して怒ったよね?」
「ああ、神矢が婆さんの使いの人達に連れて行かれた後にガラにもなく怒鳴ったな。それがどうかしたのか?」
あの日の俺はガラじゃない事をした。今でもそう思う
「それはいいの。恭ちゃんが怒るのも無理はないと思う。私が聞きたいのはその後。職員室がいきなり揺れたり、物が浮かび上がったりってアレ、校舎の仕掛けが誤作動が原因じゃないよね?」
東城先生の質問は答えに困る。結論から言えばあの時の現象の原因は校舎の誤作動じゃない。だが、それを説明終えた後、本当の原因を言えと言われたらなんと言えばいいんだ? 俺の能力ですってか? それじゃただの痛い人だ
「ありゃ校舎の仕掛けが誤作動を招いた結果だ。それ以外の何物でもない」
科学が発展した現代で幽霊だなんだって話をしたところで信じはしないと思った俺は東城先生に嘘を吐いた
「本当? 本当にそう? 恭ちゃん何か隠してない?」
東城先生の俺を見つめる目は真剣そのもの。この人は俺の言う事を信じていない。いつから疑っていたか?なんて分からない。
「隠すって何を隠すんだ?」
「分からない……でも、神矢先生が地面に崩れ落ちた時から何となく変だと思っていた。そして、突然起きた職員室の揺れと物の浮遊。センター長はあの時、恭ちゃんを守るために物の浮遊を仕掛けが誤作動したって事にしたけど、私にはそう思えない」
何でこの人は無駄に鋭いんですかねぇ……
「そう思えないって言われてもなぁ……」
「お願い、本当の事を言って……」
本当の事を言えと言われても原因は霊圧ですなんて信じてもらえるわけがない。答えに困る俺の気持ちなんて露知らず、東城先生は俺を真っ直ぐ見つめる
『きょう、どうするの?』
今回ばかりはお袋も真剣な表情だ。お袋との取り決めは二人きりの時以外は反応しない。それだけだ。再会した日にお袋の姿を俺以外の第三者に見せられるか否かは聞いておらず答えに迷う
「恭ちゃん、私も神矢先生に屈した一人だから仕方ないけど、信じてくれないかな?」
信じるとか信じないとかの問題じゃない。見えるか見えないかの問題なんだ
「信じてくれないかと言われても……」
信じて話したところで見えなければ意味がない。あの時の現象を説明するには精霊と化したお袋の姿が見えるのが一番手っ取り早いからだ
『きょう、藍ちゃんは真剣だし、お母さんは別に姿を見せてもいいと思う。だから、藍ちゃんには真実を話そう?ね?』
ちょっと待て。幽霊とかって普通は霊感強くなきゃ見えないもんじゃないのか?
「恭ちゃん、私が信じられ……ないよね……当たり前だよね……私も飛鳥を見捨てた教師の一人だもん……」
東城先生は静かに大粒の涙を流し始めた。彼女の涙を流している原因は間違いなく俺が答えられなかったからだ。
「藍ちゃんを信じられないってより、説明しても多分、理解が追い付かないと思って答えに迷ったって方が大きい。悪い……」
涙を流す東城先生を前に謝る事しか出来ない俺。説明しようと思えば簡単だ。彼女の理解が追い付くかは別として
「ううん、いいの……恭ちゃんはそういうけど心のどこかで教師を信じてないんだろうなって何となく思っていたから」
教師を信じてない。そういう部分が無きにしも非ずなのは否定しない。それと東城先生を泣かせるのは別だ
「分かったよ、藍ちゃんにはあの時の原因を包み隠さずに話す。ただ、これから見るもの、起こる事はバラさないでほしい。約束出来るか?」
別にバレたところでどうという事はない。だが、なるべくなら面倒事は少ない方がいい。
「うん、恭ちゃんがそう言うなら人には言わない」
「分かった。お袋、出てきてくれ」
いきなりお袋を呼ぶ俺に目を白黒させる東城先生。気持ちは理解出来なくもない。仮に俺が東城先生の立場だったとしたら驚く
「きょ、恭ちゃん、お袋って死んだお母さんの事だよね?」
「ああ」
再会した時同様、青白い光が俺の前に現れる。
「きょ、恭ちゃん……」
いきなり現れた青白い光が怖いのか東城先生は俺にピッタリとくっ付いてきた
「大丈夫だ」
俺は怖がる東城先生を安心させるために抱く力を強めた。
『ちょっと、きょう~! ちゃんとこの光はお母さんだって藍ちゃんに説明しなきゃだめでしょ~』
青白い光は急速に人の形……生前のお袋の姿へと変化。両手を腰に当て、プリプリと怒っていた
「え? え?」
『あっ、藍ちゃん、おひさ~。って言っても最後に会った時には藍ちゃんまだ小学生くらいだったから覚えてないか』
戸惑いの表情を浮かべる東城先生に対して笑顔で接するお袋。なんだ? この状況?
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