高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

もう一人の俺は零達にとっては珍しいものらしい

公開日時: 2021年6月17日(木) 23:05
文字数:3,268

「どうしてこうなった」


 いつもの何もない部屋。端的に言えば俺と霊圧の密会場所。いつもは俺達以外誰もいないから静かで平和な空間なのだが……


「きょう、お母さんに甘えていいんだよ~?」

「お義兄ちゃん! アタシの頭を撫でなさい!」

「零ちゃんズルいです! 私が先です!」

「もう一人の恭クン! キミは男装女子ってどう思う?」

「恭ちゃん、私のところに来ない?」

「灰賀君~、先生と二人きりで秘密の個別授業とかどうかな~?」

「恭様、私とデートしましょう」

「グレー! 明日は私のアフレコに付いてきてよね!」

「拙者と茜の演技を見てほしいでござる! 恭殿!」

「ご主人様! 想子とイイコトしましょう!」

「恭くん! 今度デートしよ!」


 もう一人の俺が碧を除く女性陣にもみくちゃにされている。珍しい光景だから新鮮ではあるが、姿形が俺なため、見ていてあまり気分のいいものではない。精神疲労的な意味で


『…………』


 もみくちゃにされてる当人は死んだ魚のような目で虚空を見つめ、無言を貫き通していた。この辺は俺の霊圧。諦めが早い


「いつもはメインヘタレの修羅場を見るのが楽しみだけどよ……さすがにアレは……」

「あ、あはは……か、揶揄う気すら起きないね……」

「お兄ちゃんって双子だったんだね! 凛音初めて知ったよ!」


 引きつった顔で女性陣ともう一人の俺を眺める碧とその傍らで苦笑を浮かべる蒼、俺の隣で見当違いな事を口にする凛音さん。そして────


「食いつき過ぎだろ……」


 溜息交じりに女性陣の愚行を非難する俺。もう一度言おう。どうしてこうなった?


「仕方ないですよ。霊圧とはいえ、恭さんがもう一人いるんですから」

「ライオンの檻にエサを放り込んだも同義。諦めろ」

「はぁ……」


 蒼と碧の正論に俺は溜息しか出ない。やっぱ全員まとめて連れて来たのがマズかったか……。ちなみに千才さん達も誘ったのだが、やんわりと断られてしまった。彼女達はきっとこの事態を想定していたのだろう


「溜息吐くのもいいけどさ、アレ放っておいていいの?」


 碧が指さした方向には相変わらずもみくちゃにされてるもう一人の俺。完全に諦めた顔をしている


「いいんじゃねぇの? アイツは俺自身だ。零達を傷つけるような事しないだろ」


 心なしか死んだ魚のような目から遠い目に変わっているような気もしなくはないが、気にしたら負けだ。いつもアレコレ指図してきてるんだ。たまには俺の苦労も味わえ。さて、今に至る経緯を話してなかったな。経緯と言っても簡単だ。俺が早織達幽霊も含め、同居人全員で手を繋いで寝たいと提案し、二つ返事で零達が了承。蒼と碧は気味悪がってたが、普段の俺じゃ絶対にしない提案で面白そうだと了承。千才さん達は……夜の街へ遊びに行きたいと言って逃げるように去って行った。で、同居人達を騙す形でここへ連れて来て霊圧の俺を見た瞬間、零達は話も聞かず、飛びついて……今に至る


「だといいんですけどね……」

「そろそろサブヘタレがキレそうだと思うのはアタイだけか?」

「知るか。つか、メインヘタレも大概だが、サブヘタレって言うの止めろ」

「言われたくないなら零達に手を出せ。ヘタレ」

「うっせわ!」


 フンと鼻を鳴らして零達を見る碧。手を出したら俺が社会的に死ぬんだが? 学生じゃいられなくなりそうなところまで行きそうなんだが? 


「姉ちゃん、恭さんのヘタレは今に始まった事じゃないんだからそれ以上言わないであげてよ。ね?」

「蒼、お前は甘すぎんだよ」

「仕方ないでしょ。ヘタレでも恭さんはボク達を拾ってくれた恩人なんだから」

「けどよぉ……女としてはヘタレのヘタレを見過ごすわけには……」

「恭さんはヘタレじゃなくて零さん達全員と結婚を前提にお付き合いするつもりなんだよ」


 碧の頭を撫でる蒼は差し詰め彼女を慰める彼氏といったところなんだろうが、一つ言わせてくれ。日本は一夫一妻制だ


「あのなぁ、勝手に────」

『いい加減にしろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』


「決めるな」そう言おうとした瞬間、もう一人の俺がブチギレたのか、辺り一帯に怒声が響く。零達はその声に驚いたのか身体を跳ねさせた


「キレたね」

「キレたな」

「キレましたね」


 俺達は揃って顔を見合わせる。俺と同じく二人もそろそろキレる頃合いだと思っていたらしい


『そうかそうか、お前らはそんなに俺に手を出されたいか。そうかそうか』


 先程の怒声とは打って変わり今度は聞いてる方がビックリするくらい低い声が響く。怒鳴ったりドス利かせたり忙しい奴だ


「ドス利かせたな」

「そうだね」

「茶でも入れるか」


 アイツは俺だ。次にどんな行動に出るかなんて手に取るように分かる。碧と蒼は……分かってないと思うが、大方ヘタレの俺には零達に手出しする度胸がないと油断しているか面白い事になりそうだと思っているのだろう。動じてないのが立派な証拠だ。茶を用意しようとしている俺も大概だけど


「あっ、アタイはメロンソーダ」

「ボクはカルピスソーダでお願いします」

「あのなぁ……ここは喫茶店じゃねぇよ」

「チッ、つまんね」

「紛らわしい事言わないでくださいよ」


 ふてぶてしく吐き捨てる双子の俺を見る目がゴミを見る目だ。何ですか? 俺が茶を入れるって言ったのが悪いんですかそうですか


「へいへい、悪かったよ」


 反論すると面倒が増えるので俺は大人しく謝罪。この場をどうにか取り成したのだが……


『さぁ~て、テメェら覚悟しろよ……』


 もう一人の俺はまだ怒り心頭なようで先程よりもさらに声にドスが利いていた。霊圧も上がってる。こりゃマジでキレてるな……


「全く……」


 俺はどうする事もできず、ただただ溜息を吐いた





 あれから一時間後……じゃねぇよな……。この空間に時間の概念はない夢ん中だからなくて当然か。それはさておき、もう一人の俺の怒りが収まったようなのだが……


『お前ら、俺は灰賀恭の霊圧だ。いつも一緒にいる灰賀恭自身だ。いいな?』


 正座させた零達を仁王立ちで見下ろしていた。なんつーか……いつもの俺も零達に説教している時はあんな感じなのか? 客観的に見る事がないからよく分からん。女性陣が無言で壊れたロボットのように首を縦に振っているのを見て今度から説教する時は少し優しめにしてやろうとは思った。うん、恐怖による支配はよくないと思う


「恭さん、零さん達も悪い部分はあると思いますけど、悪気があるわけじゃないんで多めに見てあげるって事も必要だと思いますよ?」

「アタイも普段ヘタレとか言ってるけどよ、別にバカにしてるわけじゃないんだ。親しみを込めて言ってるだけで……その……傷つけてたら謝る」


 もう一人の俺がキレた場面を見て思うところがあったのだろう。双子が突然しおらしくなってしまった。はぁ……夢の中でまで面倒な事が起こるのかよ……。こんな事なら個別に誘い込むんだった


「別に傷ついてねぇし、零達に悪気がないのも解かってる。加減してほしいとは思うけどな」


 碧がバカにして俺をヘタレと呼んでるわけじゃないのは解かってる。零達の行動も悪気からじゃなく、好意からだというのは十分に理解している。俺の周りはヤンデレが感染するらしいしな。それはもう一人の俺だって解かってるだろ。アイツは俺だからな。大丈夫だろうと思い、もう一人の俺の説教に耳を傾けた


『いいか? 男はオオカミなんだ。俺だって例外じゃない。本当だったらお前ら全員に手を出したいところをグッと堪えてるんだぞ?』


 もう一人の俺は何の話をしてるんだ? 話が卑猥な方向に向かってないか? 大丈夫か? 果てしなく不安なんだが……


「アイツは何を言っているんだ……」


 いつもは周囲の人間の愚行に頭を抱える事が多い俺だが、自分自身のアホな説教に頭を抱える事になろうとは……


「恭さん、本当は零さん達を襲いたかったんですね」

「そうしたいなら素直にそうすりゃよかったのに……」

「何言ってんだ……」


 アホはもう一人の俺だけじゃなかったらしい。この双子もアホなのかよ……アホしかいない事に若干頭を痛める。だが、彼らをここに連れて来てよかったと思う俺もいる。これが人を信頼するという事なのか? よく分かんねぇや

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