高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

人は場合によっては掌返しが早い事もあると思う

公開日時: 2021年2月5日(金) 23:36
文字数:4,411

「その通りだよ、アイツがした事は虐めを通り越して犯罪だ」


 俺の言った事を肯定する犯人。普通に話を聞かされたのなら素直に同情した。だが、この状況で素直に同情出来るか?コイツだってやってる事は警察官になった人と何も変わらない。俺と同じように思ったのか他の人質達も皆一様に口を閉ざし、犯人を見る


「何だよ?お前も同類だろと言いたげな目は」


 沈黙に耐え兼ねた犯人は忌々し気に問いかけてきた。自分はアイツとは違う、自分のしている事は正義だ。直接言われたわけではないが、俺にはそう言ってるように聞こえた


「同類だろ」

「何だと?」


 今のでカチンときたのか怒気を孕んだ目で睨んできた


「何だとじゃねーよ。今の状況をよく見ろ。療養が必要な人間が集まるような場所に銃を持って立てこもり、関係ない多くの人に恐怖を与えている。虐めと立てこもりじゃやってる事は違う。でもな、犯罪という意味じゃアンタもその警察官も同類だよ」


 虐めも突き詰めりゃ犯罪になる。暴行、窃盗、脅迫など学校の中で起こった事だから虐めという言葉で片付けられ、大事にしたくない教師達はそれを内々に処理する。度が過ぎりゃ警察が動き、刑事事件として扱われるなんて例もなくはないものの、大抵は説教で終わりだ。対して目の前の男はとうの昔に高校を卒業し、社会人となり、現在、立てこもり事件を起こしている。どっちが悪質かなんて俺には分からないけど、やってる事は目くそ鼻くそだ


「違う! 俺はッ……俺達はアイツとは違うッ!! 自分のストレス解消の為に人を傷つけたアイツとは違うッ!!」

「同じだよ。違うのは被害者の数だけでな」


 その警察官が高校生の頃に虐めた人の数を知る術なんて俺にはない。


「違う……違うんだ……俺達は……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 犯人は違うと叫び狂う。その姿を人質達はどんな気持ちで見ているのだろうか?同情?犯人と同じような経験をした事のある人は哀れみ、あるいは共感したかもしているのかもしれない。この姿は見る人によって抱く思いは異なるだろう。俺はコイツを見て思うのは目の前にいる奴は自分の間違えた姿なんだとしか思わない


「違う違うと泣くだけ、喚くだけなら子供でも出来る」


 喚き散らす犯人に同情の言葉も慰めの言葉も浮かばなかった俺はただただ犯人を冷たく突き放すだけだった


「恭……お前には僅かながらの哀れみとかないのか?」


 人質達が黙って犯人を見つめる中、親父の声が響く。


「ないな」

「恭ッ!! お前は人の痛みが解らないのか!!」


 親父は顔を真っ赤にし、俺の胸倉を掴む。どうやら頭に血が上り切ってるらしい


「人の痛みが解らないとか解かるとか以前にだ。虐めの復讐なら一人あるいは共感した連中だけでやりゃいいだろ。関係ない人を巻き込んでいい道理はない。それに、親父。アンタが犯人の為に怒ってるのは同情したからじゃない。由香が仕出かした事のせいで実の息子である俺と半絶縁状態だという事実から目を背けたいだけだろ?」


 親父は俺に人の痛みが解らないのかと問いただしてきた。俺だって人間だ。同情する事もあれば無意識の内にこの人を慰めたいと思う事だってある。それが今か?と言われれば答えは否だ。自分の復讐の為に関係ない人を巻き込むような奴に同情出来るか?俺には無理だ


「違うッ! 俺はただ息子が人の痛みに鈍感なのが腹立たしいだけだ!!」


 鈍感……か。その程度ならまだいい方だろ。理解出来ないよりかはな


「そうかい。確かに俺は犯人の言い分を聞いたところで同情出来ない。だがな、だからと言って復讐するのを止めているわけじゃないぞ」


 同情は出来ないけど、復讐するのは止めない。矛盾している。復讐するのを止めないのなら同情しろと言われるのは目に見えるくらいだ


「だったらッ!! だったら同情の一つでもしてやったらどうなんだ!!」

「嫌だよ。めんどくせぇ……。つか、親父は犯人に同情したのか?」


 平然と話しているものの、親父の言っている事が俺には理解出来ない。理解しようとも思わないし、それに、マジで切れた時の親父は何を言ってるのか理解不能だなんてゴールデンウィークの一件身に染みてる。今更だ


「した! したからこうして人の痛みが理解出来ない息子に説教をしているんじゃないか!!」


 人の痛みを理解出来ないとか言うなよ。ゴールデンウィークの一件を持ち出したら完全にブーメランなんだからよ


「あ、そう。それは別にいいんだけどよ、俺は犯人の境遇に同情しはしない。けどな、復讐を手伝わないとは一言も言ってないぞ?」

「「はい?」」


 俺の言葉にさっきまで怒り狂っていた親父と叫び狂っていた犯人が目を点にした


「だーかーら、俺は同情しないとは言ったけど、復讐を手伝わないとは一言も言ってない。つか、これは最初に言ったんだけど?」

「「は?」」


 理解不能と言わんばかりの顔をする親父達。よくよく見ると他の人質も同じような顔をしているのだが、ここで一つ確認事項がある


「は?って何だよ。それより、一つ確認してーんかけどよ、親父や他の人達はどうするんだ?犯人の復讐を手伝うのか?」


 親父はさっき掴みかかって来たから確定として、他の人達がどうするのかまだ聞いてない


「あ、アタシしゃ手伝うよ」


 立ち上がったのは一人の老婆だった。こういっちゃなんだけど、年寄りは若者が過ちを犯そうとしているのならそれを止めるのが普通だろ。


「年寄りは普通若者が過ちを犯そうとしているのを止めるんじゃねーのかよ……」


 いの一番に立ち上がった老婆に俺はただ呆れるしか出来ない。年の功とはよく言ったもので、年寄りは当たり前だが、俺の倍は生きている。当然の事ながら人生経験は俺なんかよりも断然多い。その年寄りが最初に復讐を手伝うとか言い出したんだぜ?呆れる以外にどんなリアクションをしろってんだよ


「確かに人生の先輩としては若者に復讐なんて止めなと言うべきなんだろうね。でもね、坊や。世の中には例え何年経とうが許せない事があるんだよ。した方からするとほんの些細な事かもしれない。でもね、それはあくまでもした方の言い分でされた方からすると一生消えない心の傷になっているかもしれない……。若造のした事は許される事じゃないけどね」


 老婆の言ってる何年経とうと許せない事があるというのはよく理解出来る。俺だって親父や由香、夏希さんを殴らなきゃきっとお袋の形見を盗まれた事を許せずにいたかもしれない


「婆さんの言い分は解かった。けどな、全員が全員犯人の復讐を手伝う事に賛成か?と聞かれたらそうじゃない。中には復讐する事自体に反対する人だっているかもしれないだろ?」


 声を上げ、立ち上がった老婆は復讐を手伝うと言った。それはそれでいいと思う。どう思うかはその人の自由だからな。でも、全員が全員賛成するとは限らない。中には反対って人がいても不思議じゃない


「そうかい?アタシの目にはここにいる全員が満場一致で賛成しているように見えるよ?それに、坊やはもう少し周りの声を聞きいれた方がいいんじゃないかい?」

「周りの声?」

「そうだよ。よく聞いてみるといい」


 老婆に言われた通り俺は耳を澄ませ、周囲の声を聞いてみることに。すると……


「無能な上に人を犯罪者になるまで追い詰めるとか……警察ってつくづく無能集団だよな……」

「人間なんだし過ちは犯すけどさ、さすがに他人にトラウマ植え付けるのはナシでしょ……」


 警察を無能と罵倒する声、間違える事自体を咎めはしないまでも他人が人生という大きな道を踏み外すまで追い詰めるのはナシだろと警察全体ではなく、犯人にトラウマを植え付けた警察官を非難する声が所々から聞こえ、銃を持った犯人に怯えていたはずの人質達はいつの間にか犯人側になっていた


「ね?警察官なんてのは国家権力という後ろ盾があるからある程度は一般人の前で好き放題出来てる部分がある。アタシから言わせれば国家権力というオモチャを手に入れただけの子供集団だね。他の連中もどうやらそう思ってたらしいね」


 特別警察官に深い思い入れはないんだけど、一つ言いたい。この婆さん、警察官に対して辛辣じゃね?擁護するつもりはないんだけどよ


「はぁ……」


 言葉が出なかった俺は溜息を吐くしか出来ない。


「溜息吐いてると将来禿げるよ。坊や」

「誰のせいだと思ってるんですかねぇ……」


 ニッコリ笑顔の老婆を見て俺の精神的疲労が増す。入院生活ってこんな疲れるものだったか?




 満場一致で犯人にトラウマを植え付けた警察官に復讐する方向に話が纏まり、復讐開始!とはならなかった。いや、俺がさせなかった


「復讐する方向で話が纏まったのはいい。だが、アンタにはその前にやる事があるだろ?」


 犯人と人質が一丸となってやる気になっている中、俺は静かに犯人へ告げた


「は?盛り上がってるところに水差すんじゃねーよ。それに、やる事って何だよ?」


 理解不能と言わんばかりの表情で俺を見る犯人


「アンタには仲間がいるって言ってただろ?ソイツらとの顔合わせがまだだ。とっとと連れて来いって言ってんだよ」


 コイツはこんな事をしている理由を話せと言った時に言っていた。自分一人の一存では決められないと。それを俺は忘れてねーぞ


「今から連絡する」


 犯人は懐からトランシーバーを取り出し、話し始めた。その姿を見て本当に仲間がいたんだと思う半面、親父が怒鳴り散らし、目の前にいる男が叫び狂ったというのに誰一人として駆けつけて来なかった事に違和感を感じていた


「よく言えば仲間を信用している。悪く言えば薄情。コイツらは復讐さえ果たせればいいのか?」


 長い付き合いがある友達同士でも結局同じ趣味だから何となく一緒にいる。なんて事はあるだろう。当然、長い付き合いで心の底から信用しているから多少雑に扱ったとしても信頼関係はそう簡単に切れるものではない。そんな安心感もあるんだろうけど。


『きょう、ちょっといい?』


 犯人が仲間を呼ぶ姿を見ていると真剣な表情のお袋から声が掛かった。今は非常事態っちゃ非常事態なのだが、大慌てするほどの事態ではない為、俺は親父にトイレへ行くと声を掛け、その場から離れ、男子トイレへの個室へ


「何だよ?」


 個室に入った俺は人が入って来れないようにすぐさま鍵を掛けた


『犯人の復讐を手伝うって話なんだけど……』


 満場一致で決まった事だから今更俺一人の意見ではどうにもならない。お袋に限って反対するなんて事はないだろうけど、それでも止められる可能性はどうしても考えなければならない


「ああ」

『警察官の人に復讐するって事はその人を呼び出すって事になるよね?』

「だろうな。じゃなかったら復讐にならないだろ。それがどうかしたのか?」


 犯人達にトラウマを植え付けた警察官は院内に呼び出される。それは考えるまでもなく決定事項だ


『よかったらお母さん、その警察官の記憶覗こうか?』

「はい?」


 お袋は真剣な表情でとんでもない提案をしてきた。人間には絶対に無理な提案を

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