「…………」
双子が入居してから一年以上経ったように思える。実際は昨日入居したばかりなんだけど。それはいいとしてだ。起床した俺の目に飛び込んできたのはガウンがはだけた零達の姿。誤解のないように言っとくぞ?俺はやってない!!
「どうすっかなぁ……」
目の前に服がはだけた女が五人。俺が彼女達を襲った。状況だけ見れば誰もがそう思う。
「人に見られたら誤解されんな」
今までは零、闇華、琴音、東城先生だけで特に問題はなかった。が、双子と飛鳥が入居してからはそうもいかない。というか、はだけた零達は放置するとして、俺が彼女らの側にいると誤解される! 早めに何とかしなければ!!
「おはようございます! 恭さん! 昨夜はお楽しみでしたね!」
この一瞬女と見紛う笑みを浮かべているのは空野蒼。昨日新しく入居した双子の弟だ
「楽しんでないっつーの! つか! お前のせいで昨日は大変だったんだからな!」
「そうですか? ボクには恭さんがとても嬉しそうに見えましたけど?」
「嬉しくねーから! 大変だったから!」
昨日は蒼のせいでマジ大変だった……
昨日俺が蒼に騙された後─────
「恭!! 飛鳥と一緒にお風呂入ったってどういう事よ!!」
「そうです!! 恭君!! ちゃんと説明してください!!」
「恭ちゃん、場合によっては教師としても一人の女としても許さないから」
「そうだよ!! 私だってまだ一緒にお風呂入った事ないのに!!」
蒼が余計な事を言ってくれたおかげで俺は零達から攻め立てられる事になった
「あ、いや、あ、飛鳥と一緒に風呂に入ったのはアレだ! 成り行きというか何というか……その……な?」
自分の行いが原因で飛鳥と風呂に入る事になってしまった手前『俺が飛鳥を揶揄った結果、一緒に風呂に入る事になりました』とは言えず言葉に詰まった
「恭ちゃん、それじゃ分からないからちゃんと説明して」
「藍さんの言う通りです!! ちゃんと説明してください!! 恭君!!」
ちゃんと説明しろと言われても本当の事を言うとブチ切れるのは考えなくても分かる。俺はライオンの檻に自分から飛び込むような真似はしない男だ。しかし、本当の事を言わなければ話が前に進む気がしなかった
「ちゃんと説明しろって言われても成り行きでとしか言いようがない」
本当は成り行きじゃなかったけどな!
「恭くん! 成り行きじゃ私達は納得しないし出来ないよ!」
琴音の言う通り女の子と風呂に入って事情を説明された時に成り行きでしただなんて納得するはずも出来るはずもない
「とは言われてもなぁ……成り行きでそうなったとしか俺には言いようがない」
この時の俺に本当の事を言うという選択肢はなく、ひたすら誤魔化す事しか頭になかった。そんな時─────
「恭に聞いてダメなら飛鳥に聞けばいいじゃない」
零が俺の最も恐れてる事を口にした
「「「それだ!!」」」
零の一言により追及の矛先が俺から飛鳥に変わり、突然矛を向けられた飛鳥はというと……
「わ、私!?」
顔を赤くして驚いていた
「そう。アンタよ! 飛鳥! さぁ、吐いてもらいましょうか! 恭と一緒にお風呂入った理由をね!!」
「そうです! キリキリ吐いてください! 飛鳥さん!!」
「そ、それは……な、何と言うか……そ、その……」
零と闇華に追及され真っ赤になって俯く飛鳥は俺が知っている人物とはかけ離れていた。何て言うか年相応の女の子だった
「そのじゃ分からないよ! 飛鳥ちゃん! 理由があるなら話して!」
「そうだよ。飛鳥。私達は別に飛鳥を取って食おうって言ってるんじゃない。何で恭ちゃんと一緒にお風呂に入ったの? って聞いてるだけ」
琴音の方は珍しく語気を強めていたが、東城先生はパッと見はいつも通りに見えた。目は笑ってなかったけど
「きょ、恭クンが……もしかして俺と裸の付き合いでもしたかったか? とか言うから……だ、だから……その……えっと……」
飛鳥はモジモジしながらとんでもない爆弾を投下した。確かに俺は『もしかして俺と裸の付き合いでもしたかったか?』って言った。それは間違いない。が、それを言わないでほしかった
「へぇ~、恭がそんな事言ったんだ?」
「う、うん……きょ、恭クンの話を信じなかった仕返しか何かだとは思うけど、一緒にお風呂入りたいのか? って揶揄われたのは確かだよ」
「そういうわけだったの……ねぇ? 恭?」
零の矛先が飛鳥から再び俺に
「あ、ああ、そんな事もあったな……」
正直、覚えていてほしくなかった
「そうでしたか……事情は察しました。ですが、恭君」
「な、何でしょう?闇華さん」
「妻の私を差し置いて飛鳥さんと一緒にお風呂とはいただけませんね」
「そ、そうっすね……」
「ねぇ、恭君。飛鳥さんと一緒にお風呂に入れたって事は私達とも一緒にお風呂に入れますよね?」
闇華が何を言ってるのか理解したくない。俺は心の底からそう思った
「ま、まぁ、そうなりますね」
理解はしたくなかったものの、ここで闇華の言ってる事を肯定しておかなきゃ後々俺が危ないだなんて事は目に見えていた
「ですよね!! じゃあ! 私達とも一緒にお風呂入りましょう!!」
この時、俺に拒否権なんてものは存在しない事を察した俺は……
「分かったよ。だが、ちゃんとタオル巻いてくれ。それが約束出来ないのなら一緒に風呂はナシだ」
飛鳥の時同様に条件を突きつけた。ちなみに、碧と蒼はチラッと確認しただけだが、終始笑いを堪えていた。俺の見間違いじゃなければ
「風呂に入る前は普通だったな。どこも服が乱れる要素なんてなかった」
風呂に入る前は服が乱れる要素など皆無だった。それもそうか。今はガウン着てるけど、風呂に入る前までは普通の洋服だったし
「恭さん、お風呂に入ってる途中かその後から思い出しません?その前なんてボクと姉ちゃんは悶絶してただけなんで」
蒼、笑顔で俺を見捨てた宣言いらない
「蒼の俺を見捨てた宣言はいいとして、そうだな。風呂に入ってる最中か……何かあったかな……」
風呂に入ってる最中、何か特別な事があったか?うーん……とりあえず入浴中の事を思い出してみるか
入浴中─────
「恭君、どうですか?私の身体」
一般家庭の風呂や家族風呂とは違い、俺達が入ってるのは大浴場。密着する必要などなかった。だが、闇華達にその常識は通用しなかった
「どうですか?って言われても俺には大変魅力的ですとかありきたりな言葉しか言えないぞ?」
これでもかと密着してくる闇華に俺はありきたりな返答を返した。というか、風呂で女の子に密着された場合、どんな返事が最適なのか俺は知らない
「むぅ~! そんなありきたりな言葉なんて要らないです! 私は恭君が襲いたくなるかどうかを聞いてるんです! もちろん、性的な意味で」
この女は俺に何を求めていたんだ?
「俺がその質問に答えたら社会的に死ぬわ! もう少し自分を大事にしろ!」
贔屓目なしに闇華は女として魅力的だと思う。俺が性欲魔人だったら今すぐにでも襲い掛かっていたところだ
「恭君! 私は貴方の妻なんです! だから襲って頂いて全然構わないんです!!」
ありもしない設定をさも当たり前だと言わんばかりの顔で語る闇華。何回も言うようだが俺も闇華もまだ結婚できる歳じゃないだろ。俺はその言葉が喉元まで出かかった
「あのなぁ……」
喉元まで出かかりはしたものの、反論すると闇華のペースに巻き込まれかねないと思った俺は出かかった言葉を飲み込んだ
「闇華ちゃん、恭ちゃんの理性を破壊しようとしないで」
さすがは東城先生! 不順異性交遊を止めてくれるところはさすが教師と感心してしまう。この時の俺は東城先生が女神に見えた
「藍さん……」
闇華も教師である東城先生に止められたとあれば強行するのを諦めざる得なかったようだ
「恭ちゃんの妻は私。結婚するのも子作りするのも私。人の夫をたぶらかさないで」
俺の期待は一瞬にして完膚なきまでに砕かれた。東城先生は不順異性交遊を止めたんじゃなくて闇華が俺を襲うのを阻止したかっただけのようだった
「東城先生も何を言ってるんですか?恭クンは私の夫です!」
飛鳥も飛鳥で闇華や東城先生と似たり寄ったりだったからコイツ等の事は放置し、俺は零と琴音の元へ避難した
「はぁ……闇華達は風呂も静かに入れないのかねぇ……」
「アンタがハッキリしないのが悪いんでしょ?」
「そうだよ恭くん。恭くんが誰と付き合って誰と結婚するかってハッキリ言えば闇華ちゃん達も少しは大人しくなると思うよ?」
零と琴音の方に避難したはいいが俺は二人にもボロクソ言われたよ
「んな事言われても闇華達や零、琴音が何で俺の嫁になりたいかってのを知らないのに安易に付き合うとか結婚するとか言えるかよ」
現在進行形でそうだが、何で零と琴音を含め闇華達が結婚したいとか言い出すかが分からない。そんな中で俺は安易な答えは出せなかった
「ふ~ん、アタシ達が恭と結婚したいって理由が分かればアンタはアタシ達を異性として意識するってわけね」
「まぁ、そうだな。真剣な思いをぶつけられたら俺も少しは認識を変えると思う」
認識を変えるという言葉に嘘はない。恋愛対象としてみるとは一言も言ってないけどな
「じゃあ、言わせてもらうけど、アタシと恭の初対面はいいものとは言えなかったわ。声掛けたと思ったら腕掴んじゃったし」
「ああ。そうだな。その後は胸倉を掴まれたな」
「わ、悪かったわよ! 話を続けるけどデパートの空き店舗に住んでるって言われても信じられなかったわ。当たり前よね? 外観だけ見るととても人が住むような場所には見えないんだもの」
零の言う事は俺がここに来た時に思った事と全く同じだった
「俺も確認するまでは零と同じ事を思ったよ」
「出会いはいいものではなかったし、拾われただけだったら恩しか感じなかった。けど、恭はアタシに居場所をくれた……闇華を拾った日にアタシに……いや、アタシ達に何て言ったか覚えてる?」
闇華を拾った日に言った事……“ここにいたきゃ好きだけいろ! 俺は追い出す気なんてない”口癖になりそうで怖い言葉だ。忘れるわけがない
「ここにいたきゃ好きなだけいろって言ったな」
「そうよ。その言葉でアタシは─────」
って! 違う! 入浴中は闇華の密着から始まり、零と琴音がどんな思いだったかを話ただけだで今のような状態になる事は何もしてない!!
「恭さん、零さん達の身体が魅力的でつい見とれていたとか、零さん達の身体を貪りたいっていう煩悩を抱いたのは知ってますけど、今思い出すべきは姉ちゃんを含めて何で女性陣は服がはだけてるかですよ?大丈夫ですか?脳みそ入ってます?」
マジで女みたいな顔してんのに毒しか吐かないな……
「大丈夫だよ。ちゃんと脳みそは入ってるから。って言うかよ、何で碧のガウンもはだけてるんだよ? 零達は俺の近くで寝てっから分かるけど、碧は蒼の近くで寝てたんだから俺関係ないだろ」
そもそもが何で碧まではだけてるんだ?
「姉ちゃんがはだけてるのに関しては恭さん何の関係もありませんね。姉ちゃん本人が自分でそうしたんですから」
「マジで俺関係なかったよ!! おかしいと思ったよ! 何で近くで寝てないはずの碧がはだけてんだ? って思ったよ!!」
「それならそうと言ってくださいよ。ついでにですが、零さん達の服は恭さん達が寝た後で姉ちゃんが『恭が起きた時に零達の服はだけてたらビックリすんぜ! ププッー!』って言いながらイタズラしたからはだけてるんですけどね♪」
「それを先に言えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
俺の叫び声で起きた零達は自分達の服がはだけているのを見て何を想像したのか顔を真っ赤にして気絶してしまった。それにより俺の朝飯が遅れたのは言うまでもない。
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