「メリットは俺と────いや、男子と疑似的ではあるけどほんの一時だけ恋人同士になれるってところだ」
今の発言を俺とは無縁の奴が聞いたら何て思うか?そんなの考えるまでもなく、痛い奴だ。自分で言っといてなんだけど、痛々しいのは事実だしな。さて、彼女達は────
「ふぅ~ん……一時的にねぇ……」
「グレー……いくら何でもそれはちょっと……」
俺から距離を取り、蔑むような目で俺を見つめていた
「何だよ……」
俺だって本当は人の気持ちを弄ぶような真似は極力したくない。しかし、こんなダメ人間のどこがいいのか理解不能ではあるけど、零、闇華、琴音、東城先生、由香は不思議な事に俺を異性として意識しているらしく、それを利用しようと思い立ったのだが、見事にドン引きされた
「恭クン、いくら何でも私達とキミが恋人同士になれる期間が短すぎるよ」
「飛鳥ちゃんの言う通りだよ。グレーと恋人同士になれる期間が短い」
二人が何を言っているのか理解出来ない。俺はてっきり人の気持ちを弄ぶような作戦を立てるなと怒られると思い、身構えていた。実際に蓋を開けてみるとどうだ?恋人になれる期間が短い?何を言っている?
「えっと、何言ってんだ?」
「聞こえなかったのならもう一度言うけど、恭クンと恋人同士になれる期間が短い! 短すぎるよ!」
「飛鳥ちゃんの言う通り! グレーと恋人同士になれる期間が短すぎる!」
「いやいや、零達を釣るだけなんだから一時的で十分だろ?」
ゾンビ擬き共を釣る為なら俺と飛鳥、茜が恋人同士になる期間は短くて十分でそれ以降は必要ない。なのに何で飛鳥達は短いと文句を言うんだ?
「恭クン! 茜さんはどうか知らないけど私はキミが好きなんだよ?もちろん、異性としてね! それが何?恋人になれるのが一時的?納得できるわけがないじゃん!」
「私だってグレーが好きだよ! heightだった頃からね!」
飛鳥の告白は今に始まった事ではなく、俺の中では恒例行事と化しているから戸惑う事なんてない。好意を寄せてくる理由も絶望の淵に立たされていた自分達家族を助けてくれたからだと聞いてるからな。だけど、茜が俺に好意を寄せる意味が全く理解出来ない
「飛鳥が好意を寄せてくれる理由は前に聞いて知ってるけど、茜が俺に好意を寄せる理由が理解出来ない。俺、茜に好きになられるような事したか?」
heightの頃から好きだったと彼女は言った。つまり、茜は声優の卵だった時から俺に好意を寄せていた事になるのだが、その頃に好かれるような事をした覚えは全くない
「したよ! 私が悩んでいる時に黙って話を聞いてくれただけじゃなく、時には励ましてくれたし慰めてくれたじゃん!」
そんな事したかなぁ?してないような気しかしないんだけどなぁ……
「そんな事したか?悪いけど全く身に覚えがない」
彼女との思い出をなかった事にする気は全くない。それでも身に覚えがないものはないからしょうがない
「そう言うと思ってちゃんと証拠も取ってあるよ! ちょっと待ってて!」
茜は自分のパソコンを操作し始めた。この流れは粗方予想はつく
「はい! これ!」
そう言って茜が見せてきたのはスペースウォーでやり取りした過去のチャットログのスクショ。この時のやり取りはheightが専門学校で上手くいかず、心が折れそうだから相談に乗ってほしいという旨のものだった
《グレー、私って声優としての才能ないのかな……?》
というheightのネガティブ発言から始まり……
《藪から棒に何だ?悩みがあるってなら俺でよければ相談に乗るぞ?》
と、俺が友人の悩みを聞く感じで返している。ここまではありふれた友人同士のやり取りで特に好かれる要素はなく、至って普通。それから順当にチャットを読み進め、最後は─────
《例え世界の全てを敵に回しても俺だけはheightの味方だ》
俺のクサい台詞で〆られていた。中坊だった頃の俺よ、お前は疑う余地なしの中二病だ
「我ながらクサい台詞だな」
こんな中二病全開の台詞を言う奴に好意を寄せる女がいたら見てみたい
「そうだよ! こんなクサい台詞で私はグレーを好きになっちゃったんだよ!」
前言撤回。中二病全開のクサい台詞で堕ちる女が目の前に一人いたわ
「こんな事言われたら私も恭クンの事好きになっちゃうよ……」
訂正。もう一人いた
「こんな中二病丸出しの台詞で好きになるとか……どんだけ単純なんだよ……」
俺が女なら絶対に好きにならないぞ……
「単純で結構! 私が単純かどうかは他のログを見てからもう一度判断しなよ!」
そう言って茜は別のスクショに切り替え、後は当時のやり取りを見るだけの作業なんだけど、やれ《heightの悩みは全部俺が受け止める!》だの《大丈夫、どんな時だって俺が側にいる》だのクサい上に一歩間違えればストーカーと勘違いされそうな発言のオンパレードだった。中学時代の俺よ、マジ死ねよ
「全部俺の黒歴史じゃねーか……」
過去の黒歴史を公開され、その場を転げ回りたい気持ちを必死に抑え、机に額を押し当てる
「恭クン、こんな事言われたら顔が見えなくたって好きになっちゃうよ……」
「そうだよ! 私は何も間違ってないよ!」
顔は見えずとも声の感じからして飛鳥は呆れ、茜は誇らしげだというのは理解した。当の俺は恥ずかしさで顔が上げられなかった
「茜が俺を好きだというのは理解したから早く黒歴史を閉じてくれ……恥ずかしくて死にそうだ」
茜からすると俺に好意を寄せるキッカケになった大切なものでも発言した当人である俺からすると黒歴史以外の何物でもなく、見せられているだけで軽く死にたくなる代物。そんなものを長らく見ていたいわけがなく、本心を言えばスクショ全てを消してほしいけど、そのデータが入っているのは茜のパソコン。俺にはどうしようもない
「グレーが降参したって言ったら閉じる!」
「降参した」
俺はアッサリ降参し、茜はスクショ─────正確にはフォトなのだが、それを閉じた。その後は……言いたくないんだけど……、とりあえず、ベッドに移動し、気の済むまで転げ回ったと言っておこう
黒歴史悶絶事件から三十分後、モニターを確認すると零達は依然としてゾンビみたくホテル内を徘徊したまま。よく疲れないものだと感心しつつ、俺達は……
「なぁ、ホテルを徘徊してる連中はもう少しこのままでもいいんじゃねーか?」
「だね、零ちゃん達にはいい運動になるだろうからもう少しこのままにしておこっか」
「グレーと飛鳥ちゃんに賛成」
テーブルから移動し、右に飛鳥、真ん中に俺、左に茜と三人仲良く川の字でベッドに寝ころんでいた。
「零達はこのままでいいとして、今回のドッキリの元ネタって結局何なんだ?」
零達を捕まえた時にドッキリの元ネタを聞こうとは思ったものの、満場一致で放置が決定した今を利用し、この現象の元となったネタを探そうと思う
「さぁ?私は特撮に詳しくないから分からない。茜さん、分かりますか?」
「にゃはは、私も分からないよ」
「二人共知らないのか……弱ったな……」
零達の現状とスマホが鳴った時の飛鳥の反応で電話に関連した何かが元となっているのは分かる。だが、キーワードがあまりにも端的で調べたくても調べようがない
「ごめん、恭クン……」
「ごめんね、グレー、役に立てなくて……」
「別にいいさ。どうしても知りたいってわけじゃないしな」
シュンとしてしまった飛鳥達の頭をそっと撫でると猫が甘えている時みたいに二人は顔を綻ばせた
「ねぇ、グレー」
「何だよ?」
「眠い」
つい一時間前くらいまで寝てたのにまだ寝るのか?
「眠いってスペースウォーやる前まで寝てただろ?まだ寝るのかよ……」
「だって眠いんだもん……」
そういう茜は欠伸を噛み殺し、瞼が下りてくるのをどうにか堪えている状態。反対側にいる飛鳥はというと……
「すぅ、すぅ……」
幸せそうな顔で爆睡していた
「俺達も寝るか」
「うん」
飛鳥が寝ているところを見て急激に眠気に襲われた俺と眠気がピークだった茜はそっと目を閉じ、そのまま夢の世界へと旅立った
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