黒服に連行され、俺が連れて来られたのは一昨日の夜に親父が女装して爺さんに酌をしていた大ホール。ざっと中を見渡すと親父や爺さんを始め、多くの人達……と言っても加賀達と母娘達、操原さんを始めとする株式会社CREATEの人達と知っているようで知らない人達がおり、ステージと思しきところには横断幕が吊るされていて『クイズ! 灰賀恭の同居人&周囲の人間!』と書いてあった
「何だこれ?」
会場の人達は多分、イベントやるからという名目で集められたっぽいだろうし、横断幕については突っ込んだら負け。一番気になったのはクイズ番組に出てきそうな回答席。そこに俺の名があった事と他の回答席がなかったという事だ
「何ってクイズ会場だよ。恭、あんたもしかして目が悪くなったのかい?」
背後から婆さんの声がする。振り返ろうにも俺は両腕を拘束され、首しか動かせない状態。やろうと思えば可能なんだろうけど、首だけ動かすというのは疲れる。その状態のまま返事を返す
「目が悪くなったんじゃなくて何で旅行に来てまでクイズ番組ごっこをせにゃならんのかと聞いてるんだよ」
旅行に来て何かのコンテストに参加する展開はドラマであったりラノベであったりだと祭りのイベントとしては王道な展開であり、そこで主人公がヒロインへの思いを自覚するだなんてベタ中のベタだ。これからやろうとしている事はクイズであり、そんな王道展開が待っているか?と聞かれれば俺的にはNOだ。題名が題名だしな
「そりゃ、あんたが零ちゃん達の事をどれくらい知っているか確認するために決まってるじゃないか」
どれくらい知ってるか確認するために決まっていると言われても困るんですけど……
「どれくらい知ってるかと聞かれても困る。それなりに長い付き合いになる奴も中にはいるけど、趣味とかそういった深い話はした事ないんだからよ」
彼女達と知り合い、同居してから現在に至るまで突っ込んだ話は一切なかった。この関係を表現するなら可もなく不可もなくといったところだ
「そんなの知らないね。とにかく! お前達! 連れておいき!」
「「YES、暦様」」
「YESじゃねーよ! 離せ! 俺をどこに連れて行く気だよ!」
何も聞かされず、どこかに連行される。抵抗して当然だ
「お静かに願います、恭様」
「そうですよ、恭様。我々は貴方様を回答席にお連れするだけなのですから」
「はあ!? 何で俺が?」
「お静かに!」
抵抗空しく、俺は黒服二人によって回答席へ連行された。
「さあ! 回答者の灰賀恭君が来たところで! クイズ! 灰賀恭の同居人&周囲の人間! スタート! 司会進行は私、株式会社CREATE所属下田でございます! そして! 回答者は我らが灰賀恭!」
「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」」
司会者の挨拶と共に会場が沸き立つ。何でこんなに盛り上がってるんですかねぇ……
「完全に内輪ネタなのに盛り上がるなよな……」
クイズの題名からして家にいる連中と俺の周囲にいる人間に関係する問題が出題されるのは間違いない。爺さんや親父、夏希さんや母娘、加賀達なら解からなくもない。全く関係ない声優陣まで盛り上がる意味は理解不能だ。
「さあ! 我が事務所に所属している声優の盃屋真央を救った英雄・灰賀恭は無事全問正解を成し遂げられるのか! 早速クイズの方、始めさせていただきましょう! 第一問!」
司会者が一問目を宣言するとクイズ番組で使用される効果音が流れ、スクリーンに問題が表示された
「灰賀恭君の家に三番目に同居した渡井琴音さんですが、彼女の日課は何でしょう?」
司会者よ、スクリーンに問題が表示されているのに読む意味はあるのか?
「何だ、この問題……これじゃあ、まるで理解度チェックだ……」
マジで何なんだよ、この問題……。琴音の日課なんて知るわけないだろ?と思い、会場内を探すと彼女達は婆さんと一緒に右側に設置されたクイズ番組で言うところのヒントを与える人達が座るであろう席に顔を赤く染め、俯いた状態で座っていた
「その通り! さすがは灰賀君! このクイズに出てくる問題は全て君に関係する人達に関する問題!君が周囲の人達に関してどれくらい理解があるかを確認するための問題なのです! さぁ! 回答をどうぞ! それとも、VIP席に座る暦さんや同居人の女性達へヒントを求めますか?ちなみにヒントが貰える回数は八回まで!」
婆さん達が座っているのはVIP席だってのは初めて知ったぞ……。
「い、いえ、今回は自力で答えます……」
ヒントが貰えるのは八回まで。婆さん、零、闇華、琴音、東城先生、飛鳥、盃屋さん、茜。VIP席に座っている人数はちょうど八人。つまり、この面子が一つずつヒントを出していくという事か
「わっかりました! それでは、シンキングタイムスタート!」
司会者のシンキングタイムスタートの声により、チクタクという効果音が会場に全体に響く。琴音の日課なんて聞いた事がない。ヒントもないからない頭から必死に回答を導き出すほかないのだが、琴音の日課以前に女性のありがちな趣味すら分からない。すでにお手上げだ。
「はい! シンキングタイムしゅーりょー! それでは灰賀君! 答えをどうぞ!」
いつの間にかシンキングタイムが終わっていたようで、答えを求められる俺。このクイズは幸いな事にボードに書いて回答ではなく、口頭でのものらしい。今の今まで気が付かなかった
「え、えーっと、が、ガーデニングかなぁ……?」
いきなり答えを求められ、テンパった俺は当たり障りのない事を言ってVIP席に座る琴音を見る。頼むから正解であってくれという願いを込めて
「残念! 正解は灰賀君の観察でした!」
そんなの分かるか!! この後も俺からすると理不尽極まりない問題が続いた
理不尽極まりない問題が続き、現在─────。
「本当に津野田さんの最近ハマッている事が分からないんですか?」
司会者─────下田に追及される形で零が最近ハマっている事が分からないのかと聞かれていた。ここまで来ると尋ねられているというより尋問されてる気分だ
「分からないですよ」
マイブームなんてある一定の期間が過ぎれば変化する。自分のマイブームだってそうなのに他人のマイブームなんて答えられるか
「じゃあ、ヒント使っちゃいます?ねぇ?ねぇ?」
ウザイ……。この下田という男は中学の頃に好きだったアニメのイベント動画で見た事があり、その時の印象は周囲に同業者がいてその中では弄られる方だったから大変なんだろうなと同情した記憶がある。それがこうして対面しているとだ、純粋にウザイ
「はぁ……、不正解でいいですよ」
零の事など知るかとかではなく、クイズ自体がめんどくさくなった俺は回答する事なく不正解にしろと申し立てるも……
「ダメですよ! 言い忘れていましたけど、不正解ならキツーイ罰ゲームが待ってるんですから!」
オイコラ、そういうのは最初に言う事じゃねーのか?
「初耳なんですけど……」
「ええ、今言いましたもん」
こ、このドヤ顔殴りてぇ……。何?下田って四十……いや、年齢は言わないでおこう。とりあえず、マジウゼェ……
「もう罰ゲームでいいですから俺を解放してくれませんか?」
零達を雑に扱うわけじゃない。これから先、俺があの家にどれくらいいるか、彼女達が今後どうしていくかなんて分からない。もしかしたらあの家自体が取り壊され、俺達はバラバラに生活しなきゃならないかもしれない。先の未来なんて分からないけど、時間はたくさんある。その中でゆっくりと彼女達を知っていっても悪くない。と、詩人っぽい事を言ったが、結局はめんどくさくなっただけだ
「いいんですか?キツーイ罰ゲームが待っているというのに?」
「構いません。今は分からなくてもこれからゆっくりと零達を知っていけばいいんですから」
今まで散々騒動に巻き込まれ続けた。それに比べれば罰ゲームなど取るに足らない
「分かりました! 灰賀君! この問題は不正解という事で! 罰ゲームはこの旅行中、津野田さん達と可能な限り一緒にいる! です!」
「はい?」
キツイ罰ゲームが待っていると言われ、身構えていたが、その内容が零達と可能な限り一緒にいる。想像していたのとはかなり違うぞ……
「ですから! 灰賀君への罰ゲームは津野田さん達と可能な限り一緒にいる事です!」
「いや、それは聞こえてました。そうじゃなくて、現在進行形で同じ部屋にいるんですけど……」
この家でも茜以外の連中とは同じ部屋で生活し、この旅行中では同じ部屋に宿泊している俺にとって零達と一緒にいる事は罰ゲームでも何でもなく、普段の生活がこの旅行にも反映されたに過ぎない
「それは灰賀君のお爺様から聞いて知ってますよ。罰ゲームの内容をご説明させていただきますと、灰賀君にはこの旅行中、津野田さん達と常に行動を共にしていただきます! 食事はもちろん、お風呂、トイレとどこに行くにも必ず津野田さん達の誰かと一緒に行っていただきます!」
なるほど、普段だったら風呂は除外するとしてトイレは一人で行く。この罰ゲームはそんなのお構いなしに何か行動を起こす時、あるいはどこかに行く時は必ず零達の中の誰かを連れて行かなきゃならない。例えば、夜中にトイレへ行きたくなったとして、その時は寝ている零達を叩き起こしてでも一緒にトイレへ行けという事だ
「はぁぁぁぁぁ!? アホか! さすがにトイレには一人で行かせろよ!」
どこかに行く時に零達の誰かが付いてくるのは構わない。別に嫌じゃねーからな。風呂だって家にいる時は水着着用とはいえ一緒に入っているから何の問題もない。しかし、トイレとなると話は別だ。女子が用を足している時の音を聞かれたくないように俺だって用を足している時の音は聞かれたくない
「ダメです! これは罰ゲームなんですから! ちゃんとやり遂げてもらわないと!」
なぜか誇らしげに語る下田。この罰ゲームは誰が考えたんだよ……
「ダメですじゃねーだろ! 大体な! 俺はそれでいいとして! 零達は嫌がるだろ!」
問題に正解出来なかった俺はまだいい。巻き添えを食らった零達は嫌がるに決まっている! そう思い、零達の方を見ると─────
「きょ、恭といつでもどこでも一緒……」
「恭君、ずっと一緒ですよ……」
「恭ちゃん、私がずっと側にいるから……」
「恭くん、私に身を委ねて……」
「グレーと結婚……」
「恭クンとの初夜……」
零達はヤンデレのポーズで何やら妄想に更けていた。そんな中、この連中、唯一の常識人である盃屋さんは……
「灰賀殿、頑張るでござる……」
苦笑いを浮かべ、エールを送るだけだった。落差の酷い彼女達を見て俺はクイズの問題など頭から一瞬で吹き飛び、考える事を放棄した。どうにでもなれだ
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