高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

眠れない俺は入学式の日と同じ事をする

公開日時: 2021年2月5日(金) 23:26
更新日時: 2021年3月2日(火) 18:29
文字数:3,955

「寝れねぇ……」


 女性陣が無言で涙を流した夕飯を終え、寝苦しさを感じつつもどうにか眠りに就こうとしてはみたものの、苦しいやら重たいやら柔らかいやらで俺は眠れずにいた


「今何時だよ……」


 今日は朝から夜まで学校にいてスマホのバッテリーが五十を切ったから充電している。よって今の俺に時間を確認する術はない。


「スマホは充電中だから時間を確認するのは不可能。俺の眠れない原因を作っている当人達は……」


 俺の睡眠を妨害する当人達の方をチラッと見ると目を閉じてピクリともしない。呼吸音は聞こえるから死んでないのは明白だ。ただ、眠っているにしろ目を閉じているだけにしろピクリともしないの変わらない


「人の気も知らないで……」


 今の言葉は完全にブーメランだった。人の気も知らないのは俺の方だ。『叩き出す』と『シカトする』どちらに反応したのかは知らんけど


「はぁ……完全にやっちまった……よな」


 零達に泣いた原因を突きつけられてないのに勝手に自己嫌悪。直接言われなくても零達の過去を思い出した上で少し考えれば追い出すを連想させる言葉と切り捨てるを連想させる言葉は言っちゃいけないだなんて簡単に分かる


「気分転換でもするか」


 このまま考えているだけじゃ何もいい案が浮かばない。そう思った俺は布団を抜け出そうとし、キッチンへ。



 キッチンへ着いた俺は入学式の日と同じように缶コーラを二本取り出した。その後、キッチンを出てそのまま出入口へ……なんて事せず、今回は書置きをするためいったんリビングへ戻る


「寝れないから気分転換してくるっと。前回は琴音が付いて来たけど今回は寝てるみたいだから付いてくるだなんて事ねーだろ」


 寝ているであろう零達を後目にリビングを出て出入口へ。そこからは入学式の日と同様にスリッパを履き、部屋を出ようとする


「どこ行くの? 恭」


 部屋を出ようとしたところで前回同様背後から声が。前回と違うのは声を掛けてきた人物が琴音じゃないってところだ


「零か」

「アタシだけじゃないわよ」


 振り返るとこの部屋にいる女性陣が勢揃いしていた。その目には不安の色が


「恭くん」

「恭ちゃん」

「恭君」


 書置きはしたから怒られる事は多分ない。なのに何でだろう?罪悪感が拭いきれない


「眠れないから夜空を眺めに行くだけだ」


 眠れない理由は目の前にいる女性陣だとは言えない


「そう。じゃあアタシ達も一緒に行くわ」

「そうですね。ちょうど眠れなかったところですしいいですよね?」


 入学式の日は琴音に見つかって今みたいに押し切られた。今回も断り切れないのは明らかだ


「勝手にしろ」

「勝手にするわ」

「ただし、コーラは二本しかないからな」

「キッチンに行ってくるから少し待ってなさい」


 零達は飲み物を取りに行き、その間俺は出入口で一人待つ事に


「タイミング見て謝るか」


 タイミングを見て謝るのはもちろん、入学前に言った俺が引きこもった理由もついでに話そうと思う。多分、今回を逃すと俺は謝れないし話さない


「お待たせ」


 外で話す事が決まったところで零達が戻って来た。両手に缶コーラを持って


「おう。って全員缶コーラかよ」

「何? 文句あるわけ?」

「別に文句はない。ただ、全員同じものを選ぶとは思ってなかっただけだ」

「そう」


 俺達は部屋を出て一階へは行かず八階玄関へ。そしてそのまま駐車場奥へと進んだ。ちなみに移動中、誰一人として口を開く者はいなかったことを言っておく



 移動中に全員無言だった。それが外へ出た途端に口を開くかと言われれば答えは否だ。俺達は現在、気まずい沈黙の中、誰かが口を開くのを待っている。そんな状態だった


「叩き出すとかシカトするとか言って悪かった」


 零達が無言なのは俺にとって都合が良く、自分でも不思議なくらいすんなり謝罪の言葉が出てきた


「「「「……………」」」」


 謝る事が出来たのはいい。しかしノーリアクションは困るんだけど?


「あの……何か言ってもらえませんかねぇ……」


 零達からすると突然謝罪されても困ると思う。俺だってそうだ


「恭君、私や零ちゃん、琴音さんに共通するのは形や場所は違えど“捨てられた”という事です」


 女性陣が沈黙する中、口を開いたのは闇華だった


「ああ、そうだな」

「そんな捨てられて行き場のない私達に居場所をくれたのは恭君でした」


 行き場のないってのは間違ってないだろうけど、俺は居場所を与えたんじゃなくて零が勝手に転がり込んできたから成り行きで闇華達もそうせざる得なかっただけだ


「そうなの? まぁ、本人達がそう言うならそうなんだろうな」

「そうですよ。それでです。これは私個人の思いになりますが、たとえ本気じゃなくても叩き出すとかシカトすると言われたら本気で傷つきますし、不安にもなります。だから、もうあんな事は言わないでくださいね?恭君」


 軽い気持ちで言った言葉は時として人を傷つける。そんなの俺がよく知ってたはずだ。自分がされて嫌な事を人にしてしまうとは……バカだな


「悪かった。闇華達にあんな事言わない」

「約束ですよ? 恭君」

「ああ、約束だ」


 もう闇華達を放り出すような事やぞんざいに扱うような事は言わない。闇華とそう約束し、夕飯の騒動は一件落着……


「待って恭くん」


 とはならなかった


「何だよ琴音」

「闇華ちゃんとの約束はここにいる全員との約束。そう捉えていいんだよね?」

「ああ。ここにいる全員との約束だ」

「分かった。本当に私達を見捨てないでね?」

「見捨てないって。闇華が同居した時にも言ったけど、ここにいたいなら好きなだけいろ」

「うん」


『ここにいたいなら好きなだけいろ』そのうちこれが口癖になりそうな将来が見えた。これからも俺の本意じゃないところで人を拾う。俺は一体どこを目指してるんだろうな。何はともあれ万事解決し─────


「待ちなさい」


 万事解決してよかったと思った矢先、今度は零からの横やり


「何だよ? 今めでたしめでたしで閉まるところだったろ?それとも何か? 闇華や琴音みたいにまだ何か約束させようってのか?」

「違うわよ。アタシの言いたい事は闇華達が言ってくれたわ」

「じゃあ、何だよ?」

「ロリコンの濡れ衣を着せた事は悪いと思っているわ」


 闇華対東城先生の戦いが勃発した時、事態の収拾を図るため零が俺をロリコン扱いした事か


「ああ。俺はロリコンじゃない」

「じゃあ、いい機会だから聞かせて貰えないかしら?」

「何をだ?」

「恭の好きな女性のタイプと上下何歳差までOKなのか」


 仲直りしてハッピーエンドを迎えるはずだった俺の失言騒動。しかし、それは零によってぶち壊された


「恭ちゃんの好きな女性のタイプ……」

「恭君の守備範囲……」


 零の撒いたエサに闇華と東城先生が食いついた


「恭くんの理想の女の子……」


 闇華と東城先生だけじゃなく琴音まで……マジか


「ほら、闇華達も知りたがってるでしょ。早く答えなさいよ」


 零さん? 俺が答えだすの遅いからこんな事になったんだみたいな空気出すの止めて頂けませんか?


「好きな女のタイプと上下何歳差までOKとかいきなり聞かれても困るんだけど?」


 好きな女性のタイプを聞かれたら困る理由は一つ。俺は恋バナをした事がない。これに尽きる


「アンタねぇ……アタシや闇華、琴音や藍さんだけじゃなく、母娘を大量に拾っておいてそれはないでしょ?」


 零の言う通りだ。不本意ながら俺は今まで女性を拾ってきている。その中に好みの女がいたとしても不思議じゃないと思われても仕方ない


「好みのタイプを聞かれても困る。歳の差ならそうだな。下は二歳、上は十歳までならいいかなとは思う」


 好みのタイプを聞かれてパッと思い浮かばなかった。好みのタイプは答えられなかったが、歳の差について俺は嘘を吐いてはいない。二歳差なら何とか話せるだろうし、十歳差なら話が合わなくても俺が合わせればいいだけの話だ。さすがに下が十歳差とか答えると現状の俺だとただのヤバい奴だ


「そう。じゃあ、アタシ達全員恭の恋愛対象ってわけね」


 零が何を言ってるのか解からない。好みのタイプというか、歳の差は言った。でも恋愛対象については言ってない


「何言ってんだ? 歳の差は言ったが、それ=恋愛対象とは一言も言ってないぞ」


 歳の差=恋愛対象って考えが当てはまるなら俺は女に見境ない節操ナシって事になる


「それもそうね。でも、闇華と藍さんはそう思ってないみたいよ?」


 零の言ってる事の意味が本格的に理解出来なくなってきた


「恭ちゃん。絶対に幼い頃した約束守ってもらうから」

「恭君! 絶対に私をお嫁に貰ってくださいね!」


 東城先生。幼い頃の約束云々の前に立場を考えましょうね?闇華は段階を踏むってところを覚えてから出直してこい


「話があらぬ方向に進んでいて怖いんだけど……これじゃ入学前に俺の過去を話すって約束どころじゃねーな」

「過去?」

「ああ。高校入学したら話すって約束してたんだ。俺の過去……藍ちゃんからすると星野川高校に入学するキッカケって言った方がいいか。それを話すってな」


 通信制高校に入学するという事は何等かの事情があるという事だ。芸能人だったりすると仕事。同学年なのに自分より年上だって人は高校中退したか中学卒業してからいろいろあって今に至る等。俺はその事情を詮索する気は全くないし、別に興味もない


「そういえばそうだったね。恭くんが引きこもりになった理由を高校入学した時に話すって約束だったね」

「ああ。別に聞きたくないなら俺としても助かる」


 自分で言った事とはいえ過去を話すというのは非常に恥ずかしい。


「「「「聞きたい!!」」」」


 聞きたくないと言ってくれたらどんなによかった事か……


「はいはい。でもいい話じゃないぞ?」


 俺の過去にあった事はいい話じゃない。最悪名前を付けた親まで侮辱する事になりかねない


「それでも聞かせて。恭ちゃん」


 俺を見つめる東城先生の目は真剣そのもの。それは零達も同じだった


今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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