「きょきょきょきょきょ恭ちゃん!?」
クールな東城先生が顔を真っ赤にしてテンパってる。キスされた程度で。アイツが如何に奥手か分かった瞬間である。こっちもこっちで大人なんだからキスされた程度でテンパるなよなとは思う
「何だよ? うるせぇな」
テンパりにテンパりまくる東城先生とは反対に超が付く程冷静な俺。キスなんて外国じゃ挨拶みたいなモンだって考えるとテンパる必要などない
「いいいいいいいい今、きききききききキス……」
「落ち着け。落ち着いてから喋れ」
テンパりまくってアタフタする東城先生。彼女の様子を見て可愛いとは思わない。むしろ大人で教師なんだから毅然とした対応をしろと思う。それは東城先生だけじゃなく……
『きょ~う~、今藍ちゃんに何したのかなぁ~? お母さん知りたいなぁ~』
『恭様? 死ぬ準備はいいかしら?』
お袋と想花もだ。二人共顔に笑顔が張り付いてる。ガキのイタズラにゴチャゴチャうるせぇよ。
「はぁ……これじゃあ手出さねぇわけだ……」
俺は女性陣の心の狭さと人生経験の少なさを嘆く。アイツがコイツらに手を出さない理由が何となく解った。前にケツや胸の一つ触っても怒らないから大丈夫。やってみろって言ったが、キスした程度でテンパり、お袋と想花はブチギレる。んで、確か千才っつったっけか? あの人は……
『灰賀君、TPOを弁えなさい』
えらく真っ当な意見を澄ました顔で言ってきた。俺に注意する前に取り憑き主の日頃の行いを注意するべきなんじゃねぇのか? あ? その辺どうなんだ?
「めんどくせぇ……」
アイツの苦労が偲ばれる……。同時に踏み出せない女性陣に同情してしまう。考えるともどかしくなる。双方の事を思うとめんどくさ過ぎる。彼女達とアイツの関係は友達以上恋人未満ですらない。そうだな……友達という枠は抜け出しているだろうが、恋人未満ではない。強いて言うなら比較的距離が近しい場所にいる異性ってところか
「恭ちゃん、人のファーストキス奪っといてめんどくさいはないんじゃないかな?」
先程まで顔を赤くしてテンパっていた東城先生が頬を膨らませ不満に満ち溢れた顔で俺を睨む。事実を言ったまでなのに怒られるとは……自分がめんどくさい女だっていう自覚がないのか?
「事実を言って何が悪い? アンタに限った事じゃねぇが、本当に好きな相手だったら多少強引に迫って意識させるくらいした方がいいんじゃねぇのか? 上から目線且つ受け身の物言いで悪いとは思うけどよ、今のアンタらは口を開けば好きだ好きだ言ってる単なるbotでしかねぇぞ」
灰賀恭の霊圧視点で見ると言い訳を重ねて逃げてる恭自身に問題があるのはもちろん、東城先生達にも問題があるようにしか見えない。好きだ好きだと言いながら自分達はアイツに意識させる行動を何かしてきたか? と聞かれると特別そんな事はない。それっぽいアクションはあったかもしれないが、決定打になったか? と聞かれると答えは否。アイツが女慣れというか、一般的な思春期男子ならドギマギする状況に慣れてしまっているって事が大いに問題ありだから仕方ないと言えば仕方ないんだが
俺はどうしようもなく面倒な事になってるなと思いながら身体を起す。今度は東城先生の妨害なくすんなり起き上がれた。
「え? 恭ちゃん?」
起き上がりそのまま立ち上がった俺は東城先生の手を掴み、そのまま食堂を後にした
食堂を後にし、そのまま二階へ上がり、東城先生の部屋を目指す。『恭ちゃん、恭ちゃんってば!』という彼女の声を無視し、俺はひたすら手を引いて歩く。零達は想子に正座させられていた。幸い俺と東城先生が食堂を出るどころか彼女にキスしたところで気付く人間は誰もいなかった。簡単に抜け出せたのはそのためだ
「ちょ、ちょっと、恭ちゃ────きゃっ!」
東城先生の部屋に到着し、俺はそのまま彼女をベッドに押し倒す。不安と期待が入り混じったような目でこちらを見る東城先生
「東城先生……」
「今は藍って呼んで……」
頬を赤く染め、熱の籠った視線を俺へ向けてくる彼女は何かを期待しているご様子。アイツが今までどれだけヘタレだったか、彼女達がどれだけ行動出来なかったかがよく解かる。こんな事ならとっとと入れ替わって強引にでもアイツか彼女達のどちらか……いや、東城先生達は行動してたか。アイツの理性が硬すぎて本能が目覚める前に終わってただけで。何なんだ? この見てる方がイライラする関係は
「藍……」
「恭ちゃん……」
俺は東城先生の唇に自身の唇を重ねた。これで少しはどちらかの意識が変わってくれるといいんだが……。変わるとしたら女性陣の方だろう。アイツの方は多分、恥ずかしさで女性陣の顔まともに見れなくなる程度だろうしな。それより問題は……
『きょ~う~!』
『恭様?』
背後で怒りを顕わにしてるお袋と想花の二人。俺は元々灰賀恭の霊圧。東城先生と彼女達に同じ事をするのは俺には無理。幽体離脱するにはメインの方を呼び戻さにゃならん。後で適当に言い包めとくか。元はと言えばヘタレなアイツと踏み込もうとしない女性陣が悪い
ゆっくりと唇を離し、普通はここで見つめ合うのだが、東城先生の視線は俺ではなく、嫉妬で狂いそうになっているであろうお袋達に向いていた。当然だよな、マウストゥマウスでキスする場面をお袋と想花が見たら怒るに決まってる。千才さんは手のかかる子供の成長を見守る親の目になってるしよ……
「きょ、きょうちゃん……」
「分かってるって」
深い溜息を吐き、一旦東城先生から離れ、お袋達の方へ向き直った。そして────
「アンタら二人にも後で同じ事してやっから待っとけ。まず生者が先だ」
と言い放った。それに対して二人の反応は……
『本当? 本当にお母さん達にも同じ事してくれる?』
『う、嘘吐いたら許さないわよ?』
はい、予想通り。お袋は上目遣いで俺を見て想花は若干頬を赤く染めながらジト目でこちらを見る。チョロいな
「嘘なんか吐かねぇよ」
嘘は吐いてない。だが、二人にキスするのが霊圧の俺だとは一言も言ってない。導き出される答え? 決まってるだろ? メインの方にキスさせるんだよ。零、闇華、琴音、飛鳥、由香、後は……想子までだったら俺が何とかしとくか。声優二人はメインに押し付けよう。これも関係を少しでも前に進めるためだ悪く思うな
『『ならよし!』』
マジチョロ……。まぁいいか。困るのは俺じゃない
「さて、説得も終わった。続きといきますか」
「つ、続きって……?」
「言葉の通りだ。食堂の一回と今の一回じゃ足りねぇだろ?」
「そ、それは……」
「それは?」
「た、足りない……です……」
顔を真っ赤にし、俯きながら言う今の東城先生は大人の女性というよりは一人の女の子。初心なのか? 少しだけ俺のイタズラ心が擽られた瞬間だった
「ほう、それで?」
「そ、それで……その……」
「何だよ? 言ってくれなきゃ分かんねぇよ」
「え? で、でも、さ、さっき……」
「さっきが何だよ? ありゃ迷惑料を払ってもらっただけだ。ちゃんと言われなきゃ分かんねぇよ。俺は見つめられて全てを察してやれるほど鋭くねぇから」
「うぅぅ……」
俺のイタズラに赤くなりながら視線を泳がせていた東城先生がとうとう手で顔を覆って唸り始めた。ちとやり過ぎたか? ここまで恥ずかしがるだなんてさすがに予想外だ。だからといって止めるわけないんだけどな
「唸ったところで何も解決しねぇぞ? したい事は声に出して言わねぇとな。言うの恥ずかしいなら行動で示してくれても構わねぇぞ?」
何だかんだで俺は優しい。自らの願望を口に出して言うのが恥ずかしいのであれば行動で表現しても可という逃げ道を提示してやってるんだから。移すかどうかは東城先生次第
「うぅぅぅ……」
逃げ道を提示してやってなお唸り続ける東城先生。零達に同じ事して同じ事して大丈夫かと一抹の不安を覚える。ここらが限界か……
「しょうもねぇっつーか、人に下着姿平気で披露するのにキスで恥ずかしがるとか俺は藍達の羞恥心の基準がどこにあるのか分かんねぇよ」
「だ、だって……恭ちゃんが意地悪するから……」
そう言いながら東城先生は涙目で俺を睨む。クールな普段とは違い、今だけは年相応────いや、それ以下に見える
「悪かった。ちょっと魔が差したんだよ。スクーリングに来てまで騒動に巻き込まれるとは思ってなかったからな、その要因の一端を担ってた藍を虐めたくなったんだ」
自分は灰賀恭の霊圧そのもので入れ替わってる事は口が裂けても言えなかったから適当に魔が差したという事にしておいた。そもそもが俺とアイツじゃ────
「ばか……」
涙目で睨まれても全く怖くない
「バカで結構」
俺は我が担任に今日三度目になるキスをした。
おかしい……。私は藍ちゃんにキスするきょうを見て違和感しかない。何がどうおかしいか聞かれたらこう答える。全てだって。だって、それくらいおかしいもん……
『いつもは簡単にキスするどころか唇すら許さないのにどうして……』
食堂で藍ちゃんにキスした時────いや、食堂でテーブルの下に潜り、目を閉じたところから違和感はあった。昨日までは安定してなかったきょうの霊圧がいきなり安定し始めた。暴走の心配が消えたのは嬉しいけど、いきなりの霊圧安定、食堂や現在進行形で行われたキス。何もかもがおかしすぎる。まるで……
『完全に別人格』
『え?』
『今の恭様はいつもとかなり感じが違う事に早織さんも違和感を持ち、疑問を抱いた。そして、私と同じ結論に至ったんじゃありませんか?』
『う、うん……』
想花ちゃんも違和感を持っていたんだ……。当たり前だよね……。いつもだったら誰が迫ろうと頑なに唇を許そうとしないきょうがいきなり藍ちゃん────女性の唇を奪った。それも自分から。何かあったとしか思えない。けど、私にはきょうを変えたキッカケに心当たりがない。想花ちゃんも同じだったみたいで肩を竦めていた。
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