高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

夏休みだというのに俺は何故か学校に来ている

公開日時: 2021年2月6日(土) 09:15
文字数:4,397

 気が付けば七月も終盤。世の学校は夏休みに入り、学生連中は部活動に勤しんだり、課題に追われたりと青春をエンジョイしているだろう。今話したのはあくまでも普通高校の場合であり、俺の通う星野川高校は通信制の高校で何もかもが普通の高校とは違う。もちろん、夏休みも……


「かったりぃ……、夏休みで部活動もしてないのに登校せにゃならんのやら……」


 夏休み。文化部はともかく、運動部は練習があるから登校しなきゃならない。これは分かる。教師も生徒達は休みでも諸々の仕事があるから学校へ来なきゃならない。うん、仕事だから仕方ない。でも何でどちらでもない俺が夏休みにまで学校へ来なきゃならない?理解不能だ


「文句言わないの。この勉強会は先生方のご好意によるものなんだから」


 隣に座る飛鳥に珍しく真面目な注意をされた。飛鳥の言う通り俺は現在、星野川高校教師陣主催の勉強会に参加している。何回か言ってるけどこの学校は通信制の高校で学年は存在すれど同じ学年なのに一つ年上とかざらにいる。当然の事ながら学力だって小学生レベルで止まっている奴、中学生レベルの奴、高校レベルの奴と幅が広い。早い話が星野川高校ははみ出し者の集まりってわけだ


「先生方のご好意によるものなら参加するもしないも生徒の自由じゃないのか?」


 ぐうたらダメ人間の俺が自分から勉強会に参加すると思うか?答えは否!夏は基本的にクーラーのガンガン利いた部屋で一日中ダラダラするのが俺だ。まして、こんな日差しが強くて気温・湿度が高い日は外に出たくない。そんな俺が勉強会に参加しているのは一重に俺の隣で満面の笑みを浮かべながらシャーペンを走らせている女のせいだ


「自由だと恭クン怠けるっしょ?」

「当たり前だ。何が悲しくて暑い日に出歩かなきゃいけないんだよ」

「そう言うと思ったから連れてきたんだよ」


 いつもなら家を出る前にお袋が連れ出そうとする奴を止めに入る。今回に限って言えば飛鳥と東城先生、センター長に何かを吹き込まれたのか『きょう! 飛鳥ちゃん達はきょうの為に誘ってくれているんだよ! 女の子の誘いを無碍にしちゃいけません!』と言って飛鳥達に協力しやがった


「別にいいだろ?勉強なんて家でも出来るんだしよ」


 勉強する内容にも寄りけりだけど、基本的に勉強というのは参考書、ノート、ペンさえあればどこだって出来る。ファミレスとか図書館とかな


「ふーん、そんな事言うなら恭クンは当然、課題終わってるんだよね?」

「当たり前だ。あんな数枚のプリントなら一日もあればすぐ終わるだろ」

「恭クンってそんな優等生キャラだった?私はてっきり夏休み最終日直前で慌てて助けを求めてくると思ってたんだけど」


 普段の俺を見てたらそう思いたくもなるのはよく解かる。怠い、動きたくないが口癖みたいな奴が課題を夏休みの前半に終わらせてるだなんて信じられるわけがない。ジト目を向けられても無理はない言動をしているのは俺自身だしな


「夏休み、冬休みの宿題ってのは前半に終わらせて残りの休みで後顧こうこの憂いなく遊び倒すか怠け倒すのが俺なんだよ」

「ふーん、じゃあ、私の宿題見てよ」


 飛鳥さん?普通高校に通ってたのなら夏休みの使い方なんて熟知しているはずですよね?なのに何故なにゆえ俺が貴女の宿題を見なきゃならないんですか?やだ、怠ける時間減るじゃないですか


「あの、中身全部中学レベルの内容なんで俺が見なくても一人で出来ますよ?」


 星野川高校教師陣が何を考えているのかは知らんけど、出された課題はそのほとんどが中学生レベル。中には難しく感じる生徒もいるだろうけど、飛鳥みたいに普通高校を中退した人なら簡単に解けるレベルだというのに俺が飛鳥の課題を見る意味が理解不能だ


「全部終わってるんでしょ?だったらいいじゃん」


 確かに全部終わらせたとは言った。実際、全部終わってる。だからってなぁ……


「よくないよ?俺の怠ける時間が減る」


 俺は怠ける為に課題を全部終わらせた。なのに他人の課題を見るなんて冗談じゃない


「ダメ……?」


 涙を滲ませこちらを見つめる飛鳥。世の男子は飛鳥のような可愛い女子にこんな顔で見つめられたら一瞬、ドキッとし、ラブコメ的展開ではコロッと堕ちる。しかーし! 俺はそんな単純じゃない! 怠ける為なら女子のお願いにNOを突きつける事もいとわない! 俺はNOと言える日本人だ!


「ああ、ダメだ。例え簡単なものだったとしても課題ってのは一人でやってこそ意味がある」


 俺は本音を隠し、それっぽい事を言ってやんわりと断る


「そっか……、恭クンの言う通りだね、課題は一人でやってこそだよね……」


 納得してくれたみたいで何より。課題は自分一人でやるからこそ意味があるのだ。決して俺の怠ける時間がなくなるからとか、めんどくさいから断ったわけじゃないぞ?飛鳥の為を思ってこその決断だからそこのところ勘違いしないでほしい


「ああ、分かっ────────」

「うえーん! 恭クンが私と恋人同士になるのイヤだって言ったぁ~! 私みたいなブスと付き合いたくないし隣を歩くのもイヤだって言ったぁ~!」


 納得してくれたようで何よりと安心していたところで飛鳥はとんでもないデマを叫びやがった……。当然、教室にいる生徒、教師全員が俺と飛鳥に注目するわけで……


「灰賀の奴、飛鳥泣かせたぞ?」

「だな。つか、飛鳥をブスってどんだけ理想高いんだよ灰賀」

「死ねよ灰賀」

「女の子泣かせるだなんて灰賀君サイテー」

「授業中に告白の返事返すとかマジありえない」

「付き合う気がないからってブスはない」


 男子からは殺意の眼差しを向けられ、女子からはゴミを見るような目で見られる。そして、教師からは……


「恭、いくらなんでも言葉を選べ。俺だってそんな断り方した事ないぞ」


 ガチトーンで注意される。つか、仮にも教師なら授業中に告白の返事を返した事咎めろよ……してないけど!!


「ご、誤解です!! 内田に課題を見てくれって言われて断っただけです!」


 誤解を解こうと試み、俺は立ち上がった


「本当か?飛鳥?」


 俺の言葉が信じられないのか教師は飛鳥に確認を取る。頼むから誤解ですと言ってくれよ……


「違うもん!! 私、今恭クンに告白したもん!! 好きです、付き合ってくださいって言ったもん!! 愛の告白したもん!」


 知ってた。うん、俺分かってた


「だそうだぞ?こりゃ飛鳥を傷つけた責任取って結婚した方がいいんじゃないのか?なぁ?恭」


 おいコラ教師!! 結婚はおかしいだろ!!


「だな。灰賀は飛鳥を傷つけた責任取って結婚だよな」

「当たり前だよなぁ?」

「自分を好いてくれている女を酷いフリ方したんだから当然だろ」

「灰賀君、飛鳥ちゃんおめでとう!」

「飛鳥ちゃん! 式には呼んでね!」

「仲人は任せて!」


 教師が教師なら生徒も生徒だったようで男子は責任取って結婚するのが当たり前みたいな風潮になってるし、女子の間じゃ俺と飛鳥の結婚が決定事項になってる。それに加えて飛鳥は────────


「恭クン、幸せな家庭を築こうね?何なら今からでも早退して子作りする?」


 いつの間にか泣き止み、頬を真っ赤に染め、熱い視線をこちらへ向けてきていた


「しねーよ!! 課題を見てくれって話から何で結婚の話にシフトチェンジしてんだよ!」

「恭クンが課題終わらせたって言ったのが悪いんでしょ?私だってまだ終わってないのに!」


 何で終わったモンを正直に終わったって言って怒られてんだ?俺


「知るか! 終わった課題は東城先生に提出済みだから確認してくればいいだろ!」


 俺は課題を早々に終わらせた後、東城先生にそれを提出した。というのも俺の性格上、夏休み明けの一発目の登校は絶対にサボる。オマケに夏休み明け二回目の登校は課題を忘れるだろう事を予測し、終わったその日に課題を東城先生に預けた。俺が課題を終わらせてるか否かは東城先生がよく知っている


「いいよ! それでもし終わってなかったらどうする?」

「結婚でもなんでもしてやるよ!!」

「その言葉忘れないでね!」

「ああ!」


 と、ここでチャイムが鳴り、授業終了。俺と飛鳥の賭けを聞いていた生徒達は授業中なのに大はしゃぎし、教師は教師で面白い事になったと言わんばかりの視線を俺に向けてきた。それはゴミ箱の片隅にでも置いといて、俺には一つ問題がある。それは……


「零達にバレたらどうしよう……」


 零達の事だ。バレたらマジで大変な事になる


「はぁ……」


 俺は零達にバレた時の対策が思いつかず、そっと溜息を吐いた



 あれから授業は東城先生に睨まれるというハプニングがありはしたものの、特にこれと言った問題なく進み、放課後。


「とりあえず飛鳥との結婚が現実のものにならなくてよかった……」


 飛鳥はあの誤解を招いた授業が終わった後、速攻で職員室にダッシュし、俺の課題が終わってるかを東城先生に確認しに行った。結果は飛鳥との結婚を回避した事から察してくれ


「本当に終わらせてあったんだね」


 帰宅の準備を進めるところにくだんの飛鳥が来た


「当たり前だ。くだらない事で嘘吐いたって仕方ないだろ」

「ご、ごめん……」


 俺の日頃の言動が招いた事とはいえ今回ばかりは悪いと思ったのか、シュンとする飛鳥


「別にいいさ、日頃の行いが悪い俺にも非はある」

「で、でも……」

「でももストもない。それに俺は本当に信じてほしい時に信じてくれればそれでいいんだよ」


 宿題ごときで目くじらを立てるほど俺は子供じゃない。本当に信じてほしい時に信じてくれればな


「それなら大丈夫。私……いや、私達は恭クンがやる時はやるって信じてるから」

「そうかい。ところで俺は帰るけど飛鳥はどうするんだ?この後友達とどっか遊びに行くのか?」

「ううん、私も帰るよ」

「んじゃ、帰るか」

「うん。支度するからちょっと待ってて」

「了解」


 飛鳥の帰り支度が終わるのを確認し、揃って教室を出た




 学校を出て本当なら加賀に迎えを頼む予定だったのだが、飛鳥が『いつも迎えに来てもらっちゃ悪いから今日は歩こう?』と言われ、このクソ暑い中、女将駅を目指す


「暑い……」


 学校は冷房が効いていたから特に暑いとは感じなかったけど、外に出ると暑い。夏だから暑いのが当たり前だろと言われれば返す言葉もないと自覚しているも暑いものは暑い


「夏なんだから当たり前でしょ。この暑さがいいんだよ」

「とかなんとか言いながら飛鳥も暑いと思ってるんだろ?いつもウザいくらいテンション高いのに今日は妙に低いしよ」


 いつもなら男を装っていたという事もあり、ウザいくらいテンションが高い。それが今日はどうだ?唐突に誤解を招く発言をし、態度だってしおらしい


「そんな事ないよ。ウザくらいテンションが高いのは認めるけど」


 ウザイという自覚はあったらしい


「じゃあ、何で今日に限ってテンション低いんだよ」

「私だって思うところがあるの!」


 飛鳥は頬を膨らませ、そっぽを向いた。彼女の思うところが何なのかは分からない。言えるのはテンションが低い事と何か関係があるという事だけだ

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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