高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

どうやら俺は蒼と決闘する事になったらしい(前編)

公開日時: 2021年2月5日(金) 23:28
更新日時: 2021年3月10日(水) 19:12
文字数:4,369

「恭がああなった原因は……そこにあるペンダントを盗られてからだ」


 恭さんのお父さんが指さした先にあるのは女物のペンダント。ボクからすれば単なる女物のペンダントだけど恭さんからすると特別なものなのかな? 零さん達は頭に疑問符を浮かべてるけど、由香さんと夏希さんだけは違うようだ


「あのペンダントが? ボクには単なる女物のペンダントにしか見えませんけど?」

「開けてみろ」


 ボクは言われた通りチャームの左側を押す。零さん達も気になったのか左右から覗き込んでいた


 言われた通りペンダントを開けると中から出てきたのは女性の写真。この人は誰なんだろう?


「この人は?」

「恭の本当の母親だ。恭が中学二年の時に亡くなったがな」


 恭さんの母親が亡くなったと言われ、恭さんのお父さんと夏希さん、由香さん以外はみんな息を飲む。ボクは恭さんからそんな話一度も聞いたなんてなかった。それは零さん達も同じだったみたいで『うそ……』と言って手で口を押えている


「ペンダントに入っている写真の人物が恭さんの亡くなった母親だっていう事は分かりました。ですが、それと恭さんがああなったのと何の因果関係が?」


 価値観は人によって違うからボクがこうって断定は出来ないけど、少なくとも母親が亡くなっただけで人を代用品呼ばわりはしないと思う


「それは……」

「それは?それは何です?言いづらい事ですか?」

「いや、そんな事はない。ただ……な」


 恭さんのお父さんが視線をある人物に向ける。その視線の先にいたのは由香さん


「もしかしてペンダントを由香さんが恭さんから奪ったんですか?」


 僕の質問に恭さんのお父さんはコクリと頷き、由香さんは由香さんでバツの悪そうな顔をしていた


「由香さんは何で恭さんからこのペンダントを奪ったんですか?」


 僕は矛先を恭さんのお父さんから由香さんへ変えた。恭さんのお父さんにこれ以上何かを聞いても詳しい事は分からない


「だ、だって……ぺ、ペンダントが綺麗だったし……ほ、欲しかったから……」


 ボクは呆れて物も言えなくなった。いくら欲しくても人から物を奪っちゃダメでしょ……


「アンタ、最低ね」

「ですね。いくら欲しいからって人の物を奪うだなんて……」

「全く、呆れて物も言えないよ」


 ボクが口を開くよりも前に零さん達が由香さんを叱責する。誰も由香さんを庇わないところを見ると他の人も同じ考えみたい


「由香ちゃんには俺と夏希からキツク叱っておいた! だから、責めないでやってくれ!!」


 誰一人として由香さんを庇わない中、恭さんのお父さんが勢いよく頭を下げた。だけど……


「おじさん、子供が悪い事をしたら大人が叱るのは当たり前の事です。大切なのは由香ちゃんが恭ちゃんに謝ったかどうかです」


 藍さんが厳しい口調でそれを良しとはしなかった


「わ、分かっている……」

「分かっている? 分かっているなら何で由香ちゃんを叱った時点でここに来て謝らせなかったんですか? もしかして恭ちゃんならいつ謝っても許してくれると、心のどこかでそう思ってたんじゃないんですか?」


 藍さんの厳しい追及に黙った恭さんのお父さん。ボクも恭さんが何も言わないからって調子に乗ってた部分があるから人の事を言えた立場じゃない。そんなボクでもそう思う


「そ、それは今日やるところだったんだ……」


 今日やるところだった? さっきのキツク叱っておいたというのは一体いつの話になるんだろう?


「今日やるところだった? じゃあ、おじさんが由香ちゃんをキツク叱ったのはいつ頃ですか?」


 同じ事を思ったのか藍さんが鋭く切り出した。さっきから黙ってるけど零さん達も考えは同じだと思う


「きょ、恭をここに連れてきた日だ……」


 苦虫を噛み潰したような顔で答える恭さんのお父さんを見てボクは……


「由香さんをキツク叱ったのが恭さんをここへ連れてきた日。それで由香さんがどう思ったかは知りませんが、恭さんと対面をしたのが今日。遅すぎやしませんか?何でもっと早くに話し合いをさせるとかしなかったんですか?」


 恭さんがここに来た日がいつなのかは知らない。ボクがここに来た時にはすでに家具があったから少なくともボクがここに来るずっと前から恭さんはここにいた事になる


「恭がここに来た日って……お世話になってる人の父親だから言いたかないけど、アンタ、行動遅過ぎよ!! 何でその次の日とかに来なかったわけ!? バカじゃないの!? 時間は腐るほどあったのよ!?」


 ボク達の中で零さんは最初にここへ来た。零さんがここへ来た具体的な日にちは知らないけど、恭さんのお父さんが行動を起こさなかったという事は容易に理解出来た


「す、済まない……」


 零さんの叱咤に項垂れ、謝罪する恭さんのお父さん。それを見てボクはこれ以上の話し合いは何の意味も持たない。そう思った。結局詳しい事は何一つ分からず終いか……


「もういいです。貴方から話を聞こうと思ったボクがバカでした」


 項垂れる恭さんのお父さんを一言告げ、ボクは部屋を出た。こんな事になるなら最初からあの方法を実行しておけばよかった……




「アイツ等……荷物纏めたかな?」


 勝手な連中に嫌気が差し、部屋を出てゲームコーナーここへ来た俺はずっと『ストリートサバイバル』という格ゲーをやり続けていて今でちょうど十戦目。そろそろ他のゲームにも目を向けたいところだ


 突然だが、兄弟の一番上に生まれた奴は災難だと思う。だってそうだろ?今まで一身に受けてきた親の愛情が下の兄弟が生まれた途端に全部そっちに移行し、忘れられがちになる。結果、一番上に生まれた奴は放置となり心が荒んでゆく。全く、一番上というのは損な役割だ


「親父が再婚したら俺は弟になるんだよなぁ……でも、アイツ等の優先順位は義姉……男より女、息子より娘ってか?」


 娘がいなかった親父は義理とはいえ初の娘が出来て舞い上がってる。で、女性の方の経緯はともかく、再婚出来た事に舞い上がってる。


「これだから替えの利く代用品共は嫌なんだ」


 零達も親父達も代わりなんていくらでもいる。零達は別に拾わなくても拾ってもどっちでもよかったし、親父に関しては再婚している時点で言うまでもない。


「あの代用品共じゃなくて俺が出てけばよかったな……」


 元々拾ってきた連中はないものだらけの連中だった。当然の事ながら行く宛てもない。親父達は勝手にしろって感じだ。いざとなったら俺が出て行くか


「出て行くって言っても俺に行く宛てなんてあったか?」


 今更ながら自分の直面している現実を突きつけられる。中学の友達は碌におらず、高校でも友達と呼べる人間なんてほとんどいない。詰み状態の現状を嘆いてたそんな時


「やっぱり、ここにいたんですね。恭さん」


 背後から聞き覚えのある声が聞こえ振り返る


「何の用だ? 代用品」


 振り返った先にいたのは毒舌双子の弟・蒼


「用? そんなの恭さんと話をしに来たに決まってるじゃないですか」

「替えの利く代用品に話す事なんて何もない。とっとと荷物纏めて出てけ」


 一度振り返った俺は再びゲームの方を向くも画面には『YOU LOSE』と表示されていた


「あらら、負けちゃいましたね♪」

「見りゃ解かる。それより、俺の言った事が聞こえなかったのか?荷物を纏めて出てけって言ったはずだぞ? 代用品」

「やれやれ、もう名前では呼んでくれないのですか? 恭さん」


 俺はゲームから視線を外し蒼の姿を確認したわけではないが、きっと肩を竦めてるに違いない。俺が同じ事を言われたらそうする


「呼ぶ意味がないからな。そんな事よりもう一回だけ言う。とっとと出てけ」

「出て行くのは構いません。ですが、その前にボクと勝負しませんか?」

「勝負?」

「ええ。出て行く前に恭さんとは一度勝負してみたかったんです」


 俺が蒼と勝負するメリットなんてない。メリットなんて何一つないが面白そうではある


「俺がそれに乗っかってやる意味は全くないが、面白い。何で勝負するんだ? 音ゲーか? レーシングか? それとも格ゲーか?」

「そうですね……格ゲーは格ゲーですけど、リアルファイトでどうでしょう?」


 リアルファイト……つまり、喧嘩だ。そんなのに俺が乗るわけがないだろ


「論外だ。そんなのに乗るわけないだろ。内容を厳選し直してこい」


 蒼の見た目が女みたいだからという理由で断ったわけじゃない。純粋に俺はそういう熱血少年マンガみたいなノリが好かないってだけだ


「そうですか……」

「ああ。殴り合いの喧嘩なんて今時流行らないだろ。他の勝負なら考えてやるから出直してこい」


 目を合わせる事なく蒼の提案を蹴った俺は内心勝ったと思い、ほくそ笑んだ。しかし……


「恭さん」

「なん─────」


 蒼はここから出て行くどころか俺を強引に振り向かせ、顔を殴ってきて、その衝撃で情けない事に椅子から落ちた


「申し訳ないんですけど、この勝負は絶対に受けてもらうって決めて来てるんですよね……」

「申し訳ないって言ってる割に顔は楽しそうだぞ?」

「楽しいですよ? 初めて対等に話せる友達との喧嘩ですから」


 コイツ……


「友達ねぇ……まぁいい。そんなにリアルファイトがしたいなら望み通りにしてやる。が、場所を移すぞ?ここじゃ物が多すぎる」

「構いませんよ♪ ボクもここじゃやりづらいですから♪」


 口元を拭い立ち上がった俺と満面の笑みを浮かべていた蒼はとある場所へと移動した。その場所とは……



「ここなら邪魔は入らない。望み通りリアルファイトしてやるよ」


 八階の駐車場。入学式の日、初登校の日に俺が星を見に来た場所である


「邪魔が入らないかどうかは別として、ここなら広さ的には十分ですね♪ では、始めましょうか? と言いたいところですが……」

「何だ?」

「ギャラリーがいないのは寂しいと思いませんか?」


 リアルファイトにギャラリーなんていてもいなくても関係ないと思う


「そうか? 別にギャラリーなんていなくてもいいだろ」

「恭さん的にはそうかもしれないんですけど、僕的にはそうもいかないんですよね……なので────」


 蒼が目を向けた先にいたのは零達や親父達だった


「ギャラリー呼んじゃいました♪」


 特に悪びれる様子ではなく、楽しそうに零達や親父達を呼んだ事実を告げる蒼。それを見て俺は……


「ギャラリーが増えたっつーより物が増えたって感じだな」


 特に何かを感じたというわけではなかった


「恭さんからしてみればボク達は替えの利く代用品でしょうけど、ボク達からしてみれば恭さんは居場所をくれた恩人ですから。その恩人が何を思い、新しい家族に対してどう思っているかを吐き出させてあげたいと思ってるんです。さて、無駄話はこれくらいにして始めましょうか?ボク達の初喧嘩を」

「くだらねぇ……お前が何をしようと俺が自分の心の中を曝け出す事なんてあり得ないって教えてやるよ」


 蒼は初喧嘩と言っていた。だがな、俺にとってはそんなんじゃない。単に要らなくなった物を捨てる前に壊す作業でしかない


今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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