曾婆さんのカフェを離れ、ホテルにある自分の部屋へ戻ってきた俺は────
「恭クン……私達の言いたい事解かってるよね?」
椅子に拘束された状態で飛鳥を始めとする女性陣に囲まれていた
「わ、解かってるよ……単独行動を取った理由だろ?ちゃんと説明するって……」
飛鳥達の冷ややかな視線に耐えながらも俺は言葉を探す。というのも単独行動は俺ではなくお袋がした事。その上曾婆さんに唆される形でお袋の目的が文句から俺との融合?に変わり、説明にもリアクションにも困り、内容を詳しくと言われたら俺は逃げ出す自信がある。現に俺は飛鳥達に見つからぬよう、外の景色を眺め、輝く太陽を恨めしく思いながら眺めてるしな
「なら早くしてくんないかなぁ~?グレーは解かってないと思うけど、私達ものすっごく心配したんだよ?いきなりいなくなったりしてさぁ~?悪いと思わないの~?」
満面の笑みを浮かべる茜。しかし、言葉にはトゲしかなく、俺は……
「そ、それは、わ、悪かったよ……事情があったんだよ……」
毎度お馴染みの言い訳でお茶を濁すしかなかった
「グレー、私は対面で知り合ってからまだ日は浅いけどさ~、肝心なところでは決まって悪かった、事情があったって言うだけだよね~?」
この一言に真央以外の連中は苦笑を浮かべる。真央は確かにと言って頷き、俺を睨むだけ。睨まれている俺は反論出来ず、目を逸らすしか出来ない。そしてお袋は──────
『きょう、必要とあらばお母さん達の事話してもいいよ?万が一外へ漏らすような事があれば……その時は責任もってコロスカラ……』
病んでいた。
「俺にだって秘密の一つや二つあるんだよ。単独行動をした件は悪いと思ってっけど、それだって人には言えない用事があって仕方なくだったんだ。なぁ、その辺解かってくんねぇか?」
零達が使い物にならずお袋が病んでいてどうしようもなくなった俺は茜の説得を試みた。秘密とは人に言えないあるいは言いたくないから秘密だ。言えたら苦労はしない
「そうだね、グレーにも言えない事の一つや二つあるのは解かる。でも、今回の単独行動でグレーは私達に心配を掛けたでしょ?飛鳥ちゃんと闇華ちゃんは電話を掛けたけど、キミはそれに出なかった。そうでしょ?」
茜が視線を飛鳥と闇華の方へ向けると彼女達は無言で俺を見つめるだけだった。怒りも悲しみもなくただ見つめるだけ。茜の怒りで自分達の怒りが冷めたのか、俺への信頼をなくしたかは分からない。
「そうだな、茜の言う通りだ。だけど、単独行動の理由は言えない」
俺はハッキリそう宣言するとカフェで曾婆さんに言われた事を思い出していた。
「もうすぐ夏が終わるな……」
俺は一人カフェから出て壁にもたれながら天井を仰ぎ、呟いた。時間が経つのは早いものでついこの前高校入学を果たしたと思ったらあっという間に夏休み。本当に時間が経つのは早いものだ
「はぁ……、闇華達に何て言い訳すりゃいんだよ……」
零は俺の中身がお袋である事を知ってて東城先生は昨日ここへ来ている。だから謝っただけで許してくれたけど、闇華達はそうはいかない。単独行動の理由をちゃんと話さなきゃならないし、着替えを手伝った時の俺は中身がお袋だった事も言わなきゃならない。話がぶっ飛び過ぎてる上に真央と茜に関しては幽霊の存在を認知させるところから始めなきゃいけないからかなり骨が折れる。だからなんだろうな……
「このまま誰もいない場所に一人で行けないもんかねぇ……」
一人でどこかへ行ってしまいたい。その思いが口に出たのは。そして……お袋達が聞いていたのに気づかなかったのは
『きょう、そんな事思ってたの?』
「恭ちゃんは私達を置いてどこかへ行っちゃいたいって思ってたの?」
「アンタにとってアタシ達は邪魔な存在なのかしら?」
声のした方を向くと悲し気な顔をしたお袋達と俺を見つめる曾婆さんの姿が
「別に本気でいなくなりたいと思って言ったわけじゃねぇし、零達を邪魔な存在だとも思ってねぇよ。たまには一人の時間も欲しいなと思っただけだ」
お袋と再会してからというもの、パッと見は一人でいるように見えても実際はお袋と二人。たまに一人になりたいと思い、黙って姿を消してみるも戻ると女性陣が大騒ぎしている。海に行った時なんかがそうだ。ほんの少し一人でいたいと思って姿を眩ませ、戻ってみると女性陣は大騒ぎ。これじゃ心休まる時間なんてないに等しい
「本当かしら?アタシには目を離したら今にもどこかへ行ってしまいそうな感じに映ってるわよ?」
俺は零達を置いてどこかへ行こうだなんて気はサラサラない。けど、零の目には彼女達を置いてどこかへ行こうとしていると映ってしまったらしい
「あのなぁ……」
不安そうに見つめてくる零達にかける言葉が見つからない。日頃からちょくちょく抜け出しては一人夜空の星を見たり、旅行中は夜の海に行ったりもした。彼女達が知っているかは分からないが、俺はなんやかんやで単独行動を取る事が多く、もしかしたら日頃の単独行動が原因なんだろうとこの時の俺はそう思った
「恭ちゃん、加賀さん達を引き取った時も私……いや、私達に何も言わず学校を抜け出したよね?」
加賀達を引き取ったあの日、俺はトイレに行くと偽って学校を抜け出し、丸谷以下数名と加賀を引きつれ学校を抜け出した挙句、人材が必要だったという事情があったとはいえ彼の嫁が勤務するパート先、娘が通う小学校に乗り込んだ。今日を除くと俺がした単独行動の中じゃ一、二を争うくらい大きな出来事だ。東城先生やセンター長には多大なる迷惑を掛けたなぁ……
「あん時は車の運転が可能な人材が必要だったから仕方なかったんだよ」
加賀達引き取ったのは自分の近くに車の運転が可能な人間を置いておきたかったからに他ならない。別の理由を挙げるなら零達を拾い、母娘達を引き取ってもなお部屋が余り、空いてる空間を埋めたかったからっていう自己中心的な理由があるんだけど、言う必要はないよな?
「だとしても一言言ってくれてもよかったでしょ?」
一言言うという選択はあの時の俺には全くなかったんだよなぁ……
「あん時は他の生徒もいたから言いづらかったんだよ」
俺は適当な理由を付け、誤魔化す。真央と茜にしてるように
「納得出来ないけど、終わった話だからそれで誤魔化されてあげる。でも、次からはちゃんと言って」
「分かってるよ。次からはちゃんと言う」
「うん」
俺は多分、次に何かあっても彼女達に何一つ伝えずに一人で決断し、一人で行動すると思う。信用してないとか効率がいいからとかじゃなく、そっちの方が早く済むからとか時間短縮を重視して。なんて考えてるとは微塵も思ってないだろう東城先生は笑みを浮かべ、頷いた後、小声で約束と呟いた
『きょう、言いたい事は零ちゃんと藍ちゃんが言ってくれたからお母さんは何も言わない。でも、一つ聞いていいかな?』
「何だよ?」
『きょうはさ、お母さん達が煩わしいと思った事ある?』
この母親はいきなり何を言い出すんだ?
「いきなり何だよ?」
『いきなりじゃないよ。クイズの罰ゲームでどこかへ行く時はトイレとお風呂以外零ちゃん達と一緒にいなきゃいけないしお母さんは常に一緒できょう一人の時間なんてないでしょ~?それで思ったんだ、きょうはもしかしたらお母さん達と一緒にいるの嫌になっちゃったのかな?って。だから……』
お袋はそれだけ言うと下を向く。言われるまでもない。罰ゲームがあるから期間限定で零達の誰かを連れて行動しなきゃならず、日常生活ならお袋が常に一緒で一人の時間などないに等しい。って考えると……
「一緒にいるのが嫌になったとは思わねぇけど、一人で過ごす時間は欲しいってのは思うぞ。当たり前だろ?俺だって一人になりたい時だってあるんだからよ」
一人の時間が欲しいと思うのは俺に限った話じゃなく、周りの人間が煩わしいと思う時があるのは当たり前だ。でも、いつも一人でいたいわけじゃない。誰だって少し一人になりたいなって思う事ってあるだろ?
『嫌じゃないんだ……よかった……』
ホッと胸を撫で下ろすお袋、零、東城先生を見て俺は言葉の恐ろしさというのを改めて実感する。同時に不安に思うのなら少しは俺に一人の時間をくれとも思う。
「嫌いじゃねぇし、一人でどこかへ行こうとも思ってねぇから安心しろ。俺は基本家から出たくない人間だぞ?どこかへ行こうとか本気で思うわけねぇだろ」
家にいれば自分の趣味に没頭出来るし自由に飲み食いも出来る。最初は広すぎて頭を悩ませた家だが、住めば都とはよく言ったもので今じゃあの家は快適過ぎて外に出る気すら起きず、願わくばずっといたい天国のような場所を俺が易々と手放すわけがない
「そうよね! 恭なら当然よね!」
「うん、恭ちゃんが家から出て行ったり私達を置いてどこかへ行こうだなんて思うわけないよ」
『当たり前でしょ~?きょうは一生お母さんの側にいるんだから~』
何が当然なのか理解不能だけどとりあえず納得してくれたみたいでよかった
『うんうん、早織ちゃん達の悩みが解決して私も嬉しいよ! でも、闇華ちゃん達はいいとして、真央ちゃんと茜ちゃんにはこの事なんて説明するの?』
今の今まで無言だった曾婆さんの口から飛び出したのは俺が最も答えに困る質問。仕事柄人前に出たり、知る人は知る職業に就いてる真央と茜にどう説明したものかというのは俺にとって一番難しい課題だ
「何てって、言えないって言う他ないだろ?真央と茜だけじゃない。闇華達にも今回の事は言えねぇだろ。そもそも、お袋が俺の身体に入れるって話も魂がくっついて離れないだなんて話もぶっ飛び過ぎてる。とてもじゃねぇけど、何も知らない連中に話ても理解出来るわけがない」
闇華達の前じゃお袋はいつもの俺になりきっていた。今更実は中身が別の人間でしたと言ったところで信じてもらえるわけがない
『恭がそう決めたなら私は止めないけど、隠し事はいつかバレるって事と話してもらえない方は傷つくって事だけは覚えておいて』
「分かったよ」
曾婆さんに言われた事を胸に刻み、俺達はその場を後にし、ホテルへ戻った。その道中、零達のと会話はなく、ドン引きするくらい絡んでくるお袋もこの時だけは大人しかった
話は現在に戻り、茜に単独行動の理由は言えないと宣言し、茜の顔を見ると────
「もういいッ!!」
大粒の涙を流しながら茜は部屋を飛び出した
「あ、茜さん! 待って!」
飛び出した茜を追いかけ、飛鳥も部屋を出る。そして……
「恭殿、何も話してくれないというのは悲しいものでござるよ」
涙を流しながらどうにか笑みを作っていた真央も出て行き、残されたのは俺、闇華、琴音、零、由香、東城先生だけとなってしまった
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました
読み終わったら、ポイントを付けましょう!