高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

零達の特訓は空き缶を潰すところから始まるようだ

公開日時: 2021年2月5日(金) 23:34
文字数:4,239

「何で俺まで……」


 零達に霊圧を分け与え、琴音と飛鳥が狂ったように甘えてきた日から四日が経ち、今日は土曜日。俺にとっては黄金の土曜日。そのはずが……


「何でって、アタシ達だけ霊圧をコントロールする練習するのにアンタだけ能天気に寝てられると思ったら大間違いよ!」

「理不尽すぎるだろ……」


 現在、一階駐車場に来ている俺、灰賀恭はドヤ顔で語る津野田零に未だかつてない理不尽さを感じている。出来ないのは零・闇華・琴音・飛鳥・東城先生の五人だけ。俺はお袋と再会した次の日、神矢想子を相手に霊圧を当て、成功している。ぶっちゃけた話、俺はいなくてもいいくらいだ


「まぁまぁ、恭さん。零さん達は少しでも長く恭さんと一緒にいたいんですよ。彼女達の気持ちを汲んであげましょうよ」

「女の子の気持ちを汲み取れないからアンタはヘタレなんだよ」


 女子と見紛うほど可愛らしい笑顔で俺の肩にポンと手を置くのはルームメイトで唯一の男・空野蒼。その横で腕を組み、不機嫌な顔なのがその双子の姉の空野碧だ。


「お前らだって力を得たその日に出来たんだから気持ちは俺と同じだろうに……」


 零達に霊圧を分け、蒼と碧には渡さないのはどうかと思い、琴音と飛鳥が狂ったように甘えてきた日の夕飯終わりに俺は二人を呼び出し、お袋の紹介と共に霊圧を渡した。で、面白がった蒼が簡単なコツを聞いてきてザックリそれを説明したら出来た。姉の碧も同じだ


「ボクは零さん達の修行しているところも見てみたいと思ってますよ?姉ちゃんもですけどアッサリ出来たので苦労する人はどれくらい時間が掛かるのか興味ありますし」

「ア、アタイは蒼と一緒にいられるならどこでもいい……」


 笑顔でサラッと酷い事を言う蒼とほんのり頬を染め、さり気なくブラコン発言をする碧。ホント、この二人はいい性格してるよ


「そうかい。俺はお前ら双子の琴線が分からん」

「人の琴線なんてそれぞれですよ。それよりいいんですか?」

「何がだ?」

「零さんですよ。さっきから涙目でこちらを睨んでるように見えますけど」


 蒼に言われ俺は零の方を見る。


「恭に放置された……」


 何という事でしょう! 零が瞳に涙を滲ませ俯いて人が聞いたら誤解されそうな事を言ってるではありませんか!


「放置したつもりはないぞ?ただ、出来る組の蒼と碧がいても退屈じゃないか?って話をしていただけで」


 零を放置したつもりなど微塵もなく、俺は簡単にやってのけた蒼と碧がいても暇じゃないのか?って雑談をしていただけで


「恭が私達の修行しているところ見ててもつまらないって言った……」


 うん、そんな事一言も言ってないよ?


「誤解だ。んな事一言も言ってねぇ」

「恭がアタシ達には才能がないって言った」


 それも言ってないね


「才能の話、今までの会話で出てきましたっけ?」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!! 恭がアタシ達に付き合うなんて時間の無駄って言ったぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 零はその場で顔を覆い泣き崩れる。


「恭さん、何回目ですか?女の子を泣かせるのは」

「ヘタレも懲りないね」


 蔑むような目で俺を見る双子。そして……


「恭クン、私達の特訓に付き合うのイヤ……だったの?」

「恭ちゃん、嫌だったら早く言ってほしかった……」

「恭君……」

「恭くん……」


 騒ぎを聞きつけた飛鳥達が登場。揃いも揃って零同様、瞳に涙を滲ませている。


「誤解だ! 俺は特訓に付き合うのが嫌だなんて一言も言ってない!」

「「「「「ほんと……?」」」」」

「もちろんだ! 俺がお前らの特訓に参加するのを嫌がる人間に見えるか?」


 親父や爺さんのしょうもない頼みなら迷わずNOを突きつける俺だが、飛鳥達の特訓なら別だ。体調不良や用事がない時以外はなるべく付き合おうと思っている


「「「「「見え────────」」」」」

「ますよ☆」

「見えるね」

「「「「「「…………………」」」」」」


 零達の言葉を遮り、蒼と碧が答えた途端、空気が凍った。何でこのタイミングでキミらは口を開くの?




 蒼と碧の余計な発言のせいで気まずい雰囲気だったが、お袋の『やるよ~』という気の抜けた鶴の一声により特訓開始。俺も何か出来る事はないかと思い、手伝いを申し出たが、『きょうはとりあえず零ちゃん達から目の前で好きな事してていいよ~』と言われ、零達から少し離れた場所にいる俺は現在────────


「暇だ」


 暇を持て余していた。最初こそゲームしたり、ゲームしたり、ゲームしたり……アレ?ゲームしかしてなくね?まぁ、とりあえず好きな事をしていた。だが、どんなに好きな事でも飽きというのは来るもので、さすがに特訓開始早々に飽きてしまった


『きょう~、零ちゃん達が特訓してるのに飽きたはないでしょ~?ちゃんと応援しなきゃ~』


 応援といわれましても?零達が今現在行っているのは霊圧だけで空き缶を潰す特訓だ。それをただ見てるというのは飽きる


「開始早々にやってたゲームに飽きて何をするでもなく、ただじーっと空き缶を潰す特訓を見ているだけというのは飽きるんだよ。つか、俺の時はやんなかったのに何で零達の時は空き缶から始めるんだよ?かれこれ潰した空き缶もうそろ百本到達するだろ」


 スマホで時間を確認すると現在の時刻、午前十時。特訓開始が九時だったからちょうど一時間だ


『きょうの時は霊圧が強すぎて空き缶なんてあっという間に潰せると思ってやらなかったんだよ~。それに、きょうは小さい頃同級生に霊圧ぶつけても相手を殺さなかったから空き缶の特訓は省かせていただきました! えっへん!』


 ドヤ顔で胸を張るお袋。それでいいのか?今から俺も空き缶潰しの特訓した方がいいんじゃないのか?ん?どうなんだ?


「幼い頃の話を持ち出すな! 人間にいきなり霊圧を当てる方がヤバいだろ!」


 神矢の一件で身に染みて解かっている。自分の力は一歩間違えれば人一人殺しかねないと。そう思った俺は零達の元へ向かう


『どうしたの?零ちゃん達が心配?』

「ちげーよ。俺も零達と同じ特訓するんだよ」

『今更必要ないのに?』


 お袋の観点からすると俺に空き缶潰しの特訓は今更必要ないのかもしれない。当事者たる俺からすると必要不可欠だけどな


「お袋からするとそうかもしれないが、当事者の俺からすると必要なんだよ」


 俺はチート主人公じゃない。何でもかんでもできると思ったら大間違い。何もできないし何も知らない人とはほんの少し違う一般人だ。


『きょうがそう言うならお母さん止めないけど~……でも、すぐ出来るとお母さん思うな~』


 お袋、アンタは自分の息子を過信し過ぎだ。俺は出来のいい方じゃないぞ?


「そりゃお袋からするとだろ?生憎俺は出来がいい方じゃないんだ勉強にしても運動にしてもな。だからこそ基礎から特訓する必要があるんだよ」

『そっかぁ~、頑張れ~』

「おう、頑張る」


 頑張るとは言ったものの、今ある空き缶は零達が特訓に使うもので俺の分は用意されてない。さて、どうしたものか……


「自分で取りに行くしかねぇよな」


 零達の分を分けてもらうのは気が引けた俺は一度家に戻る事にした。




 家に戻り、エレベーターで自分の部屋がある八階に戻って来た俺は真っ直ぐ自分の部屋へ戻る。その道中である疑問が浮かんだ


「零達の潰している空き缶……軽く数えて百本はあったが、アレはどこから持ってきたんだ?」


 零達が特訓で使っている空き缶。ビールの空き缶からジュースの空き缶まで様々だった。成人している東城先生や琴音はともかく、零・闇華・飛鳥・双子と俺はまだ未成年。当然酒なんて飲めるはずがない。なのにビールの空き缶もあった。東城先生や琴音が飲んだと言われればそれまでではあるものの、何か引っかかる


「俺に内緒で加賀達と母ーズが宴会でもしてたのか?」


 たこ部屋という形ではあるが、この家には零や闇華と同じ学校に通う女子生徒。その母親達も一緒に住んでいる。さらに別の部屋には加賀を始めとした貧乏生活を送っていた家族がいる。その数ざっと数えて百人以上。ビール缶の数とほぼ一致する


「まぁ、成人してる奴が飲む分にはいいか。法律違反じゃねーし」


 疑問が浮かびはしたものの、未成年が飲んでるわけじゃないからいいかと自己完結をし、俺は部屋に急ぐ。



 部屋の近くまで来た俺はふと違和感を覚えた


「酒臭い……」


 部屋の前(正確には部屋周辺)が異様に酒臭い。外にまで臭ってくるのは相当だ


「誰だよ?真昼間から酒盛りしてんのは」


 この家には学生寮じゃないから具体的な決まりはない。未成年が飲酒しちゃダメなのは日本の法律でそう決まっているからだ。それと必要最低限を守ってくれれば基本的に自由なのだが、この酒臭さは注意をするまではいかなくても臭いの元を突き止めなきゃならない


「そもそも、今日は特別な日だったか?」


 今日は国民の休日でもなんでもない。ただの休日だ。人によっては昼間から酒盛りをするという人はいるから過ごし方は自由。それをどうこう言うつもりは毛頭ない。それでも普段が普段なだけに想像がつかないってだけだ


「臭いの元を探るか……」


 今日が特別な日か否かを考えるのは止めにして俺は臭いの元、言い換えるとどこで酒盛りをしてるのかを探る事にした。したのだが……


「ここからかよ……」


 探るまでもなく、臭いは十二番スクリーン。拾ってきた母娘達の一部が住んでいる部屋から臭ってきた。騒ぐ声と共に


「アイツ等……何で昼間から飲んでるんだよ」


 男だから昼間から飲んでいいとか、女だから昼間から飲んだらダメだ等とダサい事は言わない。何で昼間から飲んでるのかは気になるけどな!


「とりあえず行くしかないのか……」


 内心行きたくないとは思いつつ、俺は十二番スクリーンのドアを勢いよく開け、リビングへ向かうと……


「おさけたんなーい!」

「あんた飲み過ぎー!」

「天下!獲ったどー!!」


 母ーズは騒ぐ者がいたり、泣く者いたり、酔い潰れて寝る者がいたりと地獄絵図が広がり、娘達はと思い、そちらを窺うと……


「でさー、毎度毎度ウッサイオッサンがー……」

「えー?マジで?」

「つか、そんなん放置でよくない?よくなくない?」


 こちらもこちらでガールズトークに花を咲かせ、母親達の事などこれっぽっちも見ていなかった。こんな酒臭い部屋によく平気でいられるものだ


「え~、先生、それはよくないと思うな~」


 しかも、ちゃっかり武田センター長もガールズトークに混ざっている。オイ、いつの間に来ていつの間に家に入ったんだ?そして、いつの間に仲良くなった?


「うわぁ……め、めんどくせぇ……」


 目の前に広がる地獄絵図を見て俺はドン引きするしか出来なかった

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