『と、言うわけよ。分かったかしら?灰賀君』
多少の疑問が残りはするものの、千才さん達が良好な関係を取り戻したっぽいのは伝わった。むしろそれしか伝わらない
「とりあえずアンタ達が良好な関係なのは分かった。けどそれ以外が意味不明過ぎる」
千才さんの話じゃあの後、吹っ飛ばされ何かに叩きつけられて即死。まぁ、自動ドアをぶち破ってる時点でヤバいとは思ってたけど。で、その後は紗李さん達と再会。ここまではいい。問題は次だ。何で言語能力を失ったはずの紗李さん達は普通に会話出来るんだ?あの感じだったら三人が千才さんに襲い掛かってもよさそうだぞ……
『どこが意味不明なのかしら?』
「一つ、目的を果たした紗李さん達が成仏してない。一つ、俺が最初に見た紗李さん達は怨念に囚われて言語能力を失っていた。その怨念はどこいった?一つ、何で俺のトコ来たんだよ?それと、何で次の日である今日なんだ?」
話の流れ、感じ的に諸々が決まったのは昨日だ。だが、昨日俺は千才さん達の姿を見ていない。その辺はどうなっている?
『失ってた言語能力が戻った理由は分からない。今日にしたのは単に灰賀君の精神的疲労を考えて今日にしただけで深い意味はないわ』
まぁ、昨日は立てこもり事件があって肉体的にも精神的にも疲れたのは事実だから来られても困ってたのは確かだ。そう言った気遣いをしてくれたのは有難い。何で俺のトコ来たのかは知らんけど
「気遣いどうも。出来れば紗李さん達が成仏してない理由と普通に話せる理由、俺のトコに来た理由を答えてくれたら百点満点だったんだけどな」
半分嫌味のつもりで言ったが、紗李さん達が成仏してない理由と普通に話せる理由は千才さん達よりもお袋に聞いた方が手っ取り早い。
『灰賀君のところに来た理由はお姉さんが説明してあげよう!』
胸を張った紗枝さんが一歩前へ出る。何だ、この紗李さんと麻衣子さんにも言えるけど昨日見た印象とは大きく違って見える。これがギャップ萌えってやつか?
「は、はぁ、お願いします」
『うむ! 灰賀君の元に来た理由は単純明快! 君なら私達の事が見えて怖がらない上に話す事も出来るでしょ?千才はともかく、私、麻衣子、紗李は昨日確認済みだし』
「ま、まぁ、紗枝さん達はご存じかと思いますけど、自分の母親が幽霊ですし怖がりはしませんけど……」
『うんうん! だから君の元へ来たんだよ! 昨日も灰賀君のお母様に案内されて千才の元へ辿り着けたわけだしさ!』
こうなってくると紗枝さん達はそれぞれ命を落とした後、どこで何をしていたのか非常に気になる。それを聞いたところでどうしようもないから聞かないけど
「要するに、紗枝さん達は自分達を見ても怖がらず、手っ取り早く話が進みそうだからという理由で俺を選んだって事でいいんですね?」
『『『『うん!』』』』
なんつー単純な理由だ……。つか、何?この四人は俺に憑くつもりなのか?
「とりあえず理由は分かりました。で、紗枝さん達が和気あいあいになった理由は千才さんが貴女達三人に忠誠を誓ったとかそんな解釈でよろしいですか?」
千才さん達の人間関係はただでさえ面倒だ。それもこれも全ては千才さんのせいなのだが、それを言ったところで過去は戻ってこず、当事者達で結論が出ている以上外野である俺がとやかく言う事でもないので口は挟まない。出来れば千才さん達の人間関係には金輪際触れたくないまである
『うん、ちーちゃんはずっとわたし達の下僕だよ!』
紗李さんがいい笑顔で下僕とか言ってるけど気にしない。千才さん達の関係がどうなろうと俺には全く何の関係もないのだから。
「あー、紗李さん達の関係にとやかく言うつもりはないんで別にいいです」
『灰賀君と言えどちーちゃんは渡さないよ?』
いらんわ!! 今のやり取りのどこにそんな要素あったんだよ!?
「いりませんよ。はぁ……」
麻衣子さんと紗枝さんは特に気にする事はないのだが、紗李さんの千才さん愛が半端じゃない。下僕だなんて言ってるけど本当はぬいぐるみかなんかと思ってるんじゃないのか?覗いた記憶じゃ幼稚園からの付き合いらしいし
『きょう~、溜息吐くと幸せ逃げちゃうよ~?あ、お母さんと一緒にいる時点で幸せか』
何をトチ狂った事を言ってるんですか?お母様
「はいはい、俺はお袋と一緒にいると幸せですよ。幸せだから紗李さん達の言語能力が戻った理由と成仏しない理由の解説を頼む」
毎度毎度言ってるけど、逐一お袋の言葉を否定するのは大変面倒だ。すぐに拗ねるし。これで実年齢……いや、年齢の話は止そう。それこそお袋が拗ねる
『むぅ~、扱いが雑なだね、きょう』
「そんな事はない。俺はいつもこんな感じだろ」
『それもそうだね。きょうは素っ気ない態度だけどお母さんや零ちゃん達を愛してるもんね』
俺はそんな事言った覚えはないぞ……
「今はそれでいい。それよりも解説」
『あ、ごめん。まず最初に麻衣子ちゃん達が普通に話せるようになった理由は至って簡単! 自殺したのか殺されたのかは別として、麻衣子ちゃん達は千才ちゃんに大なり小なり恨みがあった。でも、昨日千才ちゃんを殺した時点でその恨みが解消された。恨みそのものが消えたら怨念も消える。怨念によって言語能力が失われているのなら怨念が消えたら言語能力も戻ってくる。だから普通に喋れているんだよ!』
「なるほど……つまり、千才さんの命と引き換えに言語能力を取り戻したわけか」
『そういう事。で、千才ちゃん達が成仏しないのはまだこの世に未練があるから。これは細かく説明するまでもないよね?』
「ああ。その未練ってのが何なのかは分からんけど、思い残しがあるってのだけは分かった」
千才さん達の思い残しというのが何かは知らない。そもそも、お袋の思い残しすら知らない俺だ。赤の他人である千才さん達の事など知ろうはずもない
『あっ、ちなみに、お母さんはきょうが死ぬまで成仏するつもりはないからそこんとこよろしく~』
お袋がいつ成仏するのかなんて聞いてないんだけど……え?俺が死ぬまで成仏しないの?マジで?
「さいですか。んで?一応、千才さん達の心残りというのを聞いておこうか」
俺の考えでは千才さんが成仏すれば必然的に紗李さん達も成仏するだろうという短絡的なものだ。だから千才さんの心残りを聞くのが手っ取り早い
『私の心残り?そんなの灰賀君の将来に決まってるでしょ?君は初めて会った時から将来的に心配だったんだから』
「アンタは俺のどこに将来の不安を感じたんですかねぇ……」
自慢じゃないが俺は爺さんから跡を継ぐように言われている。決められたレールの上を走るのは釈然としないが、親父が跡継ぎになるつもりがない以上、そのお鉢は俺に回ってくる。早い話が将来安泰ってわけだ
『決まってるじゃない。灰賀君の目よ』
目について言われたのは初めてだからリアクションに困るのだが、俺ってどんな目してるんだ?
「目について言われたのは初めてなんでよく分かりませんが、どんな目してます?」
『死んだ魚のような目よ』
死んだ魚のような目をしているだなんて言われた事ない。むしろ初めて言われた
「死んだ魚のような目って、俺、そんな目してます?」
『ええ。初めて会った時に私は君の将来が不安になったわ。この子はきっと藍のヒモになって一生遊んで暮らすんじゃないかってね』
俺にそんなつもりは毛頭ない。第一、彼女すらいない俺が誰かのヒモ?バカも休み休み言ってほしいものだ
「東城先生のヒモ以前に俺にはまだ彼女すらいないんですけど……」
『そんなの関係ないわ。そもそも────────』
この後、千才さんの説教(?)は小一時間ほど続き、親父が入ってくる事で終わりを告げた。んで、現在────────
「…………なぁ、恭」
「…………何だよ、親父」
俺と親父は気まずい空気の中にいる。つっても俺はベッドに、親父は丸椅子に腰かけてるから完全に向かい合ってるわけじゃない。それでも親父と話すのなんて昨日を除けばゴールデンウィークが最後だ。それも喧嘩別れみたいな感じだ。当然、話題に困るのは当たり前だ
「えーっと、とりあえず人数が増えてるのは置いといて、早織の事だけ説明してくれないか?」
気まずい沈黙の中、親父の口から出てきたのはお袋の説明を求める言葉だった。しかし、説明しろと言われても何から説明したらいいのか分からない
「説明しろって言われても何から説明すればいい?俺とお袋が再会した日か?」
「その辺の話は追々聞く。その前にその血みどろの女は本当に早織なのか?」
最初こそビビってた親父だが、慣れてきたのか血みどろであろうお袋の姿を見てもビビる事はなくなっていた。俺の順応性は親父似か
「血みどろって言われても俺から見たら普通にお袋の姿だ。若干若い気もしなくはないが、とにかくだ。見え方についてはお袋に聞いてくれ」
お袋の家系の血を濃く受け継いだらしい俺なのだが、その辺の話は全く持って分からん。ぶっちゃけ紗李さん達の言語能力が戻った理由でさえ千才さんへの恨みが消えたから戻った程度の認識だ。
「だ、そうなのだが、どうなんだ?早織」
俺に聞いても無駄と判断した親父は相手を俺からお袋へと移す
『はぁ~、私の見え方ね。そんなの違って当然でしょ。きょうにはいつまでも若々しく見られたいからそう見えるようにしている。対して恭弥には別に若々しく見せる必要なんてない。むしろ恐怖の対象として見られたいから血みどろに見えるようにしているだけ。見え方なんて私の意志一つでいくらでもどうとでもなる。ただそれだけよ』
普段とは違う口調で淡々と説明するお袋に違和感しか感じない。色々と初耳な部分が多すぎて頭が追い付いていかないという事実はありはする。
「つ、つまり……その……アレか?早織は俺の事嫌いなのか?」
見え方一つで何でそんなぶっ飛んだ結論になったんだよ、親父
『そうね、きょうが生まれるまでは好きだったし愛してたけど、きょうが生まれてからは恭弥<きょうって感じね』
息子として母親に愛されているのは大いに嬉しい。だけどな、お袋。俺は夫婦のドロドロした話なんて聞きたくなかったぞ
「俺への好感度は恭以下かよ……」
お袋の正直な気持ちを聞きガックリと項垂れる親父。哀れだ……哀れ過ぎて言葉も出ない
『当たり前でしょ?いびきはうるさいし足は臭い。オマケに酔ったらダル絡み。本気で嫌われないとでも思ってたの?もしかしなくてもバカ?』
辛辣ぅぅぅぅぅ! お袋! 辛辣過ぎるよ!
「あ、いや、はい。そうですね、確かに私めは迷惑しか掛けてなかったですね……」
弱い……、親父、アンタ、弱すぎるよ……。夏希さんの前でもこんな調子なのかと思うとマジで泣けてくる
『でしょ?恭弥と結婚して何が一番大変だったって酔っぱらって帰ってきてゲロかけられた時が一番大変だったわよ。それもお気に入りのお洋服にね! それからよ。私が恭弥に強く当たり、きょうを愛し、結婚まで考えたのは』
「その節は大変申し訳ございません!!」
冷たい目をしているお袋に椅子から飛びのいて土下座までする親父。息子としてはどんなにダメ親父だったとしてもそんな姿見たくなかった……父親としての威厳台無しだ。あ! 威厳なんて元からなかったか
『まぁいいわ。終わった話をいつまでも蒸し返すほど私は愚かな女じゃないから。それで話を見え方に戻すけど、これからもきょうと会う以上、いつまでも血みどろに見えるのは問題だから普通に見えるようにはするけど、あくまでもこれはきょうの為。勘違いしないでよね』
お袋の親父を見る目は冷たいままだったが、見え方は変えるという結論で落ち着いたらしい。だた、俺をダシにしないでくれない?それと、何気なく息子と結婚宣言しないでくれない?一応、血の繋がった親子だろ?日本の法律上母親とは結婚出来ないんですよ?その辺解ってます?
「はい、肝に銘じておきます」
『うむ。それで私が幽霊としてきょうに憑いてる理由は分かってるわよね?』
「はい、今の話を聞いて恭の為……いや、恭と一緒にいるためと理解致しました」
『その通りよ。だから恭弥は私に遠慮なく夏希ちゃんとイチャついてて頂戴。彼女まできょうの虜になったら面倒だから』
「りょ、了解しました……」
親父、マジで弱すぎるよ……
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