高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

俺だって一人になりたい時はある

公開日時: 2021年2月11日(木) 23:54
文字数:4,179

「ここは……」


 茜の部屋の前で意識を失った俺は目が覚めると全然知らない場所のベッドにいた。オマケに着ている服も違う。これは……ガウンだ。薬品の匂いがしないから病院ではないのは確かだが、茜の部屋とも違う。ここはどこなんだ?


『きょう! 目が覚めたんだね!』


 右を見ると酷く慌てた様子のお袋。再会してからというもの、慌てた姿を見た事がなかったから新鮮ではあるものの、慌てる理由が全く分からない


「ああ。それより、ここどこだ?つか、あの後どうなったんだ?」


 引っ越し等の話になると俺に出来る事は何もないと思い部屋を出た。んで、部屋の前で溜息吐いてお袋と少し話したところまでは覚えている。というか、そこから先は意識がなかった


『ここはお爺ちゃん御用達のホテルの一室。あの後、きょうを見つけたお爺ちゃんによってここへ運ばれたんだよ』


 人が倒れていたら救急車を呼ぶのが定石だと思うんだけどなぁ……


「普通人が倒れてたら救急車呼ぶだろ」


 加えて言うとホテルに運び込まれているってのもおかしな話だ。病院で目が覚めたなら納得がいくけど、ホテルの一室だなんて……


『普通はね~。でも、きょうは寝てただけだから……ね?』


 寝てただけ?言われてみると意識を失う前、立ち眩みとかの症状はなかったような……


「ね?って言われても困る。というか、俺は何もしてないのにぶっ倒れて眠るほど寝不足だったのかよ……」


 自分じゃ気付かなかった……俺ってぶっ倒れるくらい寝不足だったのか……


『ん~……寝不足というか、きょうはここ最近疲れが溜まってたんじゃない?ちゃんと寝れてる?』


 ちゃんと睡眠取れているかと聞かれると正直分からない。俺的には寝れているとは思うが、寝れているのと疲れが取れているのは別だ


「睡眠を取れているかどうかと疲労回復は別だろ。どんなに疲れていても眠れないって事だってあるみたいだしよ」

『それはあるけど~、お母さん的にはちゃんと寝れてないのかな~って思うよ?何だかんだで騒動に巻き込まれてるし~』


 寝れてないかどうかは置いといて、何だかんだで騒動に巻き込まれているのは否定しない。事実そうで、俺が回避しようと思ったところで周りにいる奴が騒動を持ってくる。強く断ればいいだけの話って言われるとそれまでだけど、解決しないと俺にまで被害が及びそうで拒否るに拒否れない。


「そう思うなら止めるくらいしろよ……」


 断れない俺にも非はある。頭じゃ解っているのに何事もないかのように言っているお袋にイラついてしまう


『止めたいのは山々だけど、困ってる姿を見せられるとどうしても止められなくて……』


 お袋の申し訳なさそうな姿に俺はより一層苛立ちを覚える。


「そうかよ」


 俺はベッドから出て辺りを一瞥し、テーブルに置かれた服と財布、スマホを見つけると来ていたガウンを脱ぎ捨て、早々に着替えを済ませる。そして……


「さて、着替えも済んだし行くとするか」


 書置きもせず、部屋を出ようと……


『勝手な事しちゃだダメだよ~?』

『そうよ、恭様。零達が戻って来るのを待ちましょう』


 出来なかった


「喧しい。俺がどこに行こうと勝手だろ?それとも何か?俺はアンタらのペットか何かか?」


 束縛されるのには慣れてきたつもりだった。零と闇華のこれまでを聞くと強く拒否出来ず、めんどくせぇとは思った事もあるけど、あえて飲み込んできた。それが悪かったのか、琴音、東城先生、飛鳥と同居人が増えるにつれ、いつの間にか俺はどこへ行くにしても誰かに一声掛けるのが当たり前の生活になっていた。ハッキリ言おう、居心地が悪い


『そうじゃないけど~、勝手に抜け出したら零ちゃん達が怒るでしょ?それできょうは何回も心配掛けて来たよね?』


 お袋の言うように俺の単独行動で零達にはこれまで心配を掛けてきた。さっき居心地が悪いと言ったけど、居心地が悪い反面、心配される事が気持ちよくなっていた自分もいる。心配される事で自分は必要とされているって実感を得られるし、好かれているんだという自信も持てた。だが、ヤンデレやメンヘラの束縛が嬉しいのも最初だけで数を重ねると面倒になってくる。自分は何をするにも逐一報告しなきゃならないのかと鬱になりそうだ。だからなんだろうな……


「うるせぇ。俺だって一人になりたい時や何もかも忘れて思い切り遊びたい時があるんだ。何か?俺は一人の時間を満喫しちゃダメだっつーのか?」


 俺だって一人の時間が欲しいと思うのは変な事なのか?


『だ、ダメとは言ってないけど……で、でも……』

『茜さんの一件はどうするのかしら?まだ何も解決してないわよ?』


 お袋は俯き、神矢想花は俺を真っ直ぐに見つめてきた


「そんなのは俺の出る幕じゃない。事務所と警察がちゃんと対処してりゃ俺みたいな高校生のクソガキがしゃしゃり出る事なんてなかった。解決したけりゃ事務所と話し合って警察にでも行けばいいだけの話だろ」

『それが出来なかったから恭様にお鉢が回って来たのよ?』


 お鉢を回すところが間違ってるんだよなぁ……


「知った事か。とにかく、俺は出て行くが、二人とも付いて来るな」

『で、でも、想花ちゃんはともかく、お、お母さんは魂が繋がってるから離れようにも離れられないよ……』


 マジかよ……俺には一人になるって簡単な事すら出来ないのか……


「頼むから一人にしてくれよ……」


 俺には一人になる事すら許されないのかよ……


『きょう……』

「もうウンザリなんだよ……お袋にも零達にも……」

『恭様……』

「頼むから一人にしてくれよ……」


 いつも誰かと一緒にいる事がこんなに疲れるとは思わなかった。何をするにも常に第三者が側にいるってのは自分が独りぼっちじゃないという実感を得られるが、いつも監視されているような気がしてならず、気が休まらない。やりたい事も出来ないんだから疲れるのは当然だ


『きょう……』

『恭様……』

「たまには俺だって思い切り一人の時間を満喫してぇよ……」


 そう、俺にだって一人の時間を満喫する権利くらいある。誰かと一緒じゃなきゃダメだって法律もない。なのに何で俺は常にお袋と一緒にいなきゃならねぇんだ?


『ごめん……』

「お袋、謝るくらいなら離れてくれ。一人の時間をくれよ」


 それだけ言って俺は部屋を出た。絶対に離れられないだなんて分かりきっているのに何を言ってるんだか……と、思っていたのだが……


「あれ?お袋が付いて来ない?」


 海に行った時はまだ魂が繋がってなかったから取り憑かれているとはいえ、離れられた。でも、今は状況が違う。魂が繋がっていて俺とお袋は離れようと思っても離れられないはずだ。なのに部屋から出てもお袋は付いて来ない。まぁいいか。一人の時間を得られるならそれに越した事はない


「さてっと、一人の時間を満喫すっか」


 ポケットに財布とスマホがあるのを確認した俺は零達に遭遇しないよう心掛け、部屋の前から離れた


「勢いだけで飛び出してきたはいいけど、これからどうすっかなぁ……」


 部屋の前から離れたはいい。そこまではよかったんだが、具体的な目的がない。部屋を出る時、扉に非常用階段までの案内図があり、階数も書いてあったからここが七階だってのは分かっている。そこを目指すにしても変装してない今零達に見つかったら連れ戻されるのは目に見えており、一人の時間を満喫するどころの話じゃなくなる


「とりあえず非常用階段を目指すか」


 俺は回れ右をすると非常用階段へと向かった。



 零達に見つからず非常用階段に到着した俺は迷わず扉を開け、素早く入り……


「やった……ついに……ついに一人の時間を手に入れた!!」


 一人の時間が手に入った喜びを噛み締めていた。叫びたい気持ちをグッとこらえ、ガッツポーズ。叫ぶと声が反響し、誰かに見つかってしまう。零達に見つかるのは一番マズいが、人に見つかるのもマズい。証言から足取りを掴まれそうだし


「見つからないうちにここを出るか」


 俺は足早に階段を降り、一階へ向かう。この階段が一階のどこへ繋がっているのかは分からないけど、一人になれるのならそれでいい



 きょうが出て行ってから、私と想花ちゃんの間を重苦しい空気が流れる


『私達、きょうの負担になってたのかな……?』

『分かりません……私は恭様と知り合ってから日が浅いので』

『だよね……はぁ……』


 出会って日が浅い想花ちゃんにこんな事聞いてもちゃんとした答えが返ってくるわけがないって分かってる。分かっていても聞かずにはいられなかった、誰かに負担になんてなってないって言ってほしかった。


『早織さんは恭様が嫌いなのですか?』


 きょうの事が嫌い?そんな事ない! 私はきょうが大好き! でも……肝心な時に何もしてあげられない……それが堪らなく悔しい


『そんな事ない! 私はきょうが大好き! でも……口では大好きって言っといて実際は何もしてあげられてない……』


 きょうはまだ高校生で親の立場から見るとまだまだ子供。でも、今回の事も零ちゃんや闇華ちゃん、飛鳥ちゃん、真央ちゃんの一件は本来なら大人が対処する事だったのに実際何とかしたのはきょう。本人は自分に火の粉が降り掛かるのを未然に防いだって言いそうだけど、子供が関わるような事じゃないだなんて誰が見ても明らか。それを子供であるきょうに押し付けてしまった……


『早織さんがそう言うのならそうなんでしょうね』

『も~! 冷たい! 想花ちゃんはいいの!? このままきょうに嫌われても!』


 私は嫌だ。きょうに嫌われるって考えるだけで涙が出そうになる


『嫌ですよ。ですが、恭様にだって人間です。一人になりたい時だってあるでしょ。というか……』

『というか?』

『早織さんは恭様と魂がくっついてるのにどうしてここにいるんですか?私ならともかく』


 そっか、想花ちゃんは知らなかったんだっけ?


『私かきょうが本気で拒絶したら魂がくっついていても離れられるんだよ』

『そ、そうだったんですか!? し、知らなかった……』

『あ、あはは、想花ちゃんが知らないのも無理ないよ~、幽霊に関する仕事をしてないと知る機会なんてないし~』


 きょうは口に出しはしなかったけど、私達が邪魔だと本気で思っている。私がここにいるのが立派な証拠


『恭様……ずっと私の側にいてくれるって言ったのに……』


 本気で拒絶された事がショックだったのか想花ちゃんは泣きそうな顔をしている。励ましてあげたいけど私も泣きそう……きょう、お願いだから帰ってきてよ……

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