高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

闇華は普通の男からしてみると面倒な女だと思う

公開日時: 2021年10月19日(火) 23:08
文字数:3,947

 バカ夫婦の茶番劇────もとい零の日が終わり、残すところ後二人となった俺当番。今日は誰の日かというと、あいうえお順という事で闇華の日。幽霊達は例によって余計な気を利かせて席を外している


「みんなが学校に行ってる時にサボれるのは素晴らしい」

「そうですね~」


 俺達は学校を無断欠席してちゃぶ台を挟み、二人で茶を啜っていた。平日の昼間、他のヤツは仕事や勉学に追われているのに自分達はサボり。褒められた行為ではないが、何となく勝った気になるのはどうしてだろうか? 学校を無断欠席してるといつもなら琴音から有難い説教の一つでも食らっているが、今回は説教なんてされない。そもそもが、今いる場所が八階ではなく、その下の七階。営業当時は飲食店があっただろう場所。今じゃ部屋の広さ的な意味で八階には及ばないが、この階も立派な居住スペースとして改築されている。俺と闇華はその一部屋に来ている


「ここなら雨風凌げるし、誰にも見つからないから最高のサボりスポットだよな」

「そうですね。オマケに恭君との新婚生活も楽しめますし、言う事なしです」


 俺とお前はまだ結婚してないだろ? っていうツッコミはなしにして、雨風凌げて誰にも見つからないサボりスポットだなんて常にサボる事を考えてる俺にとって最高としか言いようがない


「そうだな。っつってもこの場所だっていずれは誰かにくれてやるんだろうけど」

「ですね。ところで恭君」

「何だ?」

「茜さんの日に引き取って来た声優さん達は結局どうしたんでしたっけ?」

「あー、あの人達なら五階に住んでいる」


 茜の日に俺は大量の声優を拾った。所属事務所は関係なく、何かしらの理由で生活に困ってる声優達全員を引き取ったのだが、新人・中堅・ベテラン問わず声優というのは所属無所属関係なしに百人を超える。元はスクリーンで百人以上入る広さを誇る俺の部屋とはいえ、今じゃキッチンや風呂、トイレがあり、家具の類が置いてある以上、百人を入れるのは無理なのと、プライベートな空間は欲しいだろうという俺の判断により、拾ってきた声優達は全員五階に住まわせた


「そうでしたね。ちなみにどうして五階なんですか? 六階でもこの階でもいいと思うんですけど……」

「別に深い理由はねぇよ。ここには泥棒なんて入らねぇからな。強いて言うなら仕事行く時に一階へ近い方がいいかなと思ったからだな」


 不思議そうな顔をする闇華にハッキリ告げる。彼女に言った通り深い理由はない。生活に困っている声優と言ってもその理由は人それぞれ。仕事が貰えず、日々の生活費に困っている人、仕事はあれど茜と真央みたいに過激なファンにストーカーされている人と理由は多岐に渡る。他人の生活に全く興味ない。生活苦の理由を知ったところで高校生の俺には住む場所を提供する事しかできない


「そうですか……ところで恭君」

「何だよ」

「ゲームセンターもいいですけど、そろそろ図書館的なものも欲しいです」

「奇遇だな、俺もそう思っていたところだ」


 今の会話を聞いて理解できたかと思うが、この建物には図書館的な場所がない。これまでは特別必要性を感じなかったから気にも留めてなかったが、長い目で見ればあって不便はない。問題は何階に作るかだ


「きょ、恭君と両想い……」

「言い方!」


 図書館的な何かが欲しいっていう思いが重なったって意味だと両想いと言っても差し支えないと思う。だが、恋愛的な意味では微妙なところだ。顔を真っ赤にして俯いてる彼女の夢を壊したくないから口には出さんけど、絶対にこれは両想いは両想いでも意味合いが違うと思うのは俺だけだろうか?


「恭君と結婚……えへへぇ……」

「結婚どころか義妹だろうに……」


 とても人には見せられないような顔をし、妄想に浸る闇華だが、零と同じく彼女は俺の義妹。拾った当初は八雲闇華だったが今じゃ灰賀闇華。俺達はある意味じゃ夫婦以上の関係になっているのに今更結婚に憧れるとは……女子ってのはよく分らん


「恭君の妻……灰賀闇華……え、えへへ……」

「とっくの昔に灰賀闇華だろうに……」


 結婚に囚われて自分の苗字が灰賀だって気が付いてない……だと? 女の妄想力は恐ろしい


 その後五分間、闇華は妄想の世界から戻って来なかった




「もういいか?」

「は、はい……」


 妄想の世界から戻ってきた闇華はこれでもかというくらい顔を真っ赤にし、俯いていた。俺にとっては彼女が妄想の世界に旅立ち、戻って来るのに時間を要するのはいつもの事。待つのは日常茶飯事。結構長い付き合いだから驚く事もないのだが……今になって恥ずかしがる意味が解からない


「何を想像したかは聞かないでおく」

「は、はいぃ……」


 彼女が妄想中、しきりに『アナタ』とか『もう、甘えん坊なんですから』なんて言葉が飛び出したら聞かずとも何を想像してるか分かってしまう。だから聞かないのではなく、聞く必要がないと言った方が正しい


「今更妄想中に口走った事を聞かれても問題ないだろうに……」

「うぅぅ……」

「別にいつもの事だから引いたりしてないんだが……」

「き、聞こえてないと思ってたのに……は、恥ずかしいですぅ……」

「はぁ……何? 今まで聞かれてないと思ってたのか?」

「は、はぃ……」

「聞こえてたんだなぁ……これが。闇華だけじゃなく、零達のも」

「こ、殺してください……」


 そこまで言うなら人前というか、本人の前で妄想しなきゃいいのに……なんて恥ずかしさで耳まで真っ赤な闇華に言えるわけもなく、俺はさっきよりも更に深い溜息を吐いた。ヤンデレなら妄想の一つや二つで恥ずかしがらず堂々としてればいいのに


「あのなぁ……」


 好きな人との将来を妄想するのは悪い事じゃない。自分がこうなりたいって願望は度が過ぎれば問題だが、ある程度は必要だと思う。完全に心が折れた時、自分を振るい立たせるためにも。闇華の妄想は俺的には許容範囲内。どうという事はないのだ


「は、恥ずかし過ぎます……」

「俺は別にBLの妄想以外だったら材料にされても平気なんだがなぁ」


 同性愛者を差別はしない。恋の形は人それぞれ違うから男が男と付き合っても気にしない。それが妄想だとしても。ただ、自分がBLのカップリングで妄想されるのはリアクションに困るから勘弁してほしい


「そんな事しません!! 恭君で妄想するとしたら私との新婚生活か夫婦の営みしかありえません!!」

「落ち着け」

「むぐっ!?」


 身を乗り出して熱弁する闇華を押し返す。言ってる事はぶっちゃけドン引きだが、妄想は自由だから止めはしない。だが、熱弁されんのはちょっと……今まで結婚したいほど好きだと言わてた事のない俺にとって色々な意味で刺激が強すぎる


「誰も妄想の詳細を話せとは言ってないだろ」

「ご、ごめんなさい……」

「謝れって言ってないんだが……」

「は、はい……」


 ほんのり頬を赤くし、涙を滲ませる闇華を見て俺はふと彼女の願いを叶えてやろうと思った。正直なところ闇華が何を望んでるのかは知らん。何を望んでるかは分からんが、このままじゃ同じ事の繰り返し。現状を打開するのと無性に彼女を抱きしめたくなった。自分の欲求を満たしつつ、若干ネガティブになっている闇華を元に戻すにはこれしかない


「闇華が俺を妄想の材料にするなら俺は自分の願望を現実のものとしよう」

「ふぇ?」

「とりあえずこっち来い」

「は、はい……」


 闇華は言われた通り俺の元へと来るとチョコンと正座したのだが……


「ふへへへ……恭君と初夜……ふへ……ふへへへへへ……」


 何を想像してるのだろうか? 女子がしちゃいけない顔をしている。こっちへ来いという指示語だけでこうも人に見せちゃいけない顔をする女は闇華しかいないだろう


「はぁ……マジ女子の妄想力恐ろし過ぎるだろ……」


 俺は深い溜息を吐くと天を仰いだ





「妄想の世界から戻って来れたか?」

「……はい」

「いつもの事ながら元の世界に戻す方の身にもなってくれ」

「…………申し訳ないです」

「妄想されて悪い気はしないが、少しは控えるように」

「…………気を付けます」


 見下ろす俺と正座したまま下を向く闇華。俺達の様子は誰がどう見ても説教している人と受けてる人。なんでこうなったかは言うまでもなく、彼女が妄想の世界に入り浸ったからだ。どうやって戻したかは聞かないでくれ。現在進行形で片思いしている女子にとって少々辛いものがある。下手したらデートDVまである


「ったく……」


 こんな妄想の世界にすぐ入り込むような女は普通の感性を持つ人間なら面倒だからって簡単に切り捨てるだろう。俺は闇華みたいな面倒な女が大好きだ! 家から出なくていいって言ってくれるしな!


「ごめんなさい……」

「謝れとは言ってないだろ」

「で、ですが……恭君今呆れてました……」

「呆れ……てはいたな。面倒事が嫌いなクセに面倒な女は見捨てられない自分に対してだが」

「私は面倒な女ですか?」


 そう言って顔を上げた闇華の目には薄っすら涙が滲んでいた


「俺は嫌いじゃないが、普通の男からすると面倒な女だとは思う」

「恭君は嫌いじゃないんですか?」

「ああ。嫌いじゃない。自慢じゃないが、俺はダメ人間なんでな。闇華くらい面倒な女じゃないと付き合える気がしない」

「恭君……イッショウメンドウミマスネ?」


 そこは照れるところなんだが……どうして目のハイライトさんを消すのだろうか? ヤンデレの考える事はよう分からん


「さいですか」


 一生ヤンデレ女の管理下に置かれる生活も悪くないと思ってしまう俺も俺で末期だ……


「さいですよ。私は────いえ、私達は恭君から離れませんから」

「物好きなこって……」

「いけませんか?」

「いけなくはない。俺みたいなダメ人間の側にいたいなら好きにしろ」

「はい、好きにします」


 笑みを浮かべる闇華の目はハイライトが消えたままだが、どこか温かさを感じさせるものだった

今回も最後までお読みいただきありがとうございました

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