「暇だな」
「暇ね」
「暇ですね」
各種点検や家具の搬入が終わり、間食を済ませた俺達は特にやる事がなく暇を持て余していた。何せ各種点検はともかくとして、家具の搬入から荷解きまで全て作業服の団体がしてくれた。だから俺達にやる事がないのは当たり前だ。
「テレビ点けても面白そうな番組やってねーし……」
現在時刻は十五時半。この時間はどこのテレビ局もニュースかバラエティー番組やドラマの再放送、テレビショッピングしかやっておらず。俺のような半オタクが楽しめる番組は深夜にしかやってない。簡単に言うと見たい番組がない
「せっかくパソコンがあるんだからそれで面白そうな動画でも漁らない?」
零の言った通りパソコンはある。ネットにだって接続可能だ。強いて言うならノートだから画面が小さいというのが欠点だ。その問題ならすぐに解決出来るけどな!
「俺のパソコンはノートだから動画を見るにしても全員が快適に見れるようにセッティングしなきゃいけなくなるぞ?」
ノートパソコンはデスクトップパソコンと違って持ち歩けるという利点がある分、画面が小さい。部屋に引きこもっていた時でさえパソコン画面の小ささに不便さを感じていたくらいだ。
「セッティングしなきゃいけなかったとしても退屈よりはマシですよ。恭君」
「そうよ! 暇してるよりはマシよ!」
快適に動画を見られるようにするまでの時間も退屈だとは思うと喉元まで出かかったが、それを言うと面倒な事になりそうなので止めた。
「分かった。すぐに準備する」
俺はテーブルの下にある箱の中からHDMIケーブルを取り出し、その後、テーブルを立ち、少し離れたところに置いてあるパソコンバッグの中からパソコンを取り出し、快適に動画を見られるようにセッティングした。ただ一つ零と闇華さんに言っておかなきゃいけない事があるが、それはパソコンを起動した時にしよう
「「ほえ~……」」
セッティングを終えた俺はいつもやっているようにパソコンを起動。パソコンと同じ画面がテレビにも映し出される。それを見た零と闇華さんは初めて見た光景に呆けていた
「こんなの別に珍しくも何ともないんだけどな……」
普段から使っている人間からしてみればパソコンの画面がテレビに映るだなんて珍しいものでも何でもない。ただ、これはあくまでも俺の勝手な予想になってしまうのだが、零のように金がなく、パソコンの存在は知っていても買えなかったり、闇華さんのように金はあってもそれを買ってもらえない立場にいたとしたらパソコンの画面がテレビに映るのは相当珍しいものだろう
零と闇華さんが呆けている間にパソコン画面がホームへと切り替わる。そこからまた一作業あり、ネットに接続出来るようにしなきゃならんのだが、パスワードとIDを入力するだけだから時間はたいして取られない。
「二人とも終わったぞ」
全ての準備が終わり、後はネットに接続するだけ。なのだが……
「「ほえ~……」」
零と闇華さんは未だに呆けていた。そんなに珍しいものなのか?
「おい! 二人とも!」
「「ひゃ、ひゃい!」」
「いつでもネットに繋げられるようになったんだけど?そんなに珍しいか?」
「「もちろん!」」
「あ、そう……」
俺はパソコンの画面をテレビに映し出す事に物珍しさを感じない。たまに学校の授業とかでも取り入れられてるって聞くし。ただ、今の零と闇華さんは新しいオモチャを発見した子供みたいで可愛らしいと思う。そんな二人を見るとイタズラをしたくなる
「恭! 早く動画見せなさいよ!」
「そうです! いつまでもホーム画面じゃ飽きます!」
イタズラをしようかと思っていたところでこの部屋のお嬢様方から苦情が入った。いいだろう! そんなに言うなら見せてやるよ! 面白いものをなァ!!
「分かった分かった、今“MYVideo”を開くから待っとけ」
“MYVideo”とはゲーム実況から検証動画、その他の動画をチャンネルさえ持っていれば誰でも投稿できる動画サイトでチャンネルの中には制作会社公式チャンネルもあるくらい世界的に有名なサイトだ。その中から俺が厳選した特に面白味はこれといってないのだが、女子二人をビビらせるにはちょうどいい人を検索しようと思う
「恭、アタシ恋愛映画見たい!」
「私もです!」
零と闇華さんでも“MYVideo”が動画サイトだという事、そこには無断掲載だったとしても多少は映画の類がある事は知っているらしい
「はいはい、恋愛映画ね。じゃあ、検索しとくから二人は冷蔵庫から飲み物を持って来てくれ。もちろん、映画のお供をな」
映画のお供と言えば俺的にはコーラ一択なのだが、零と闇華さんはその辺ちゃんとわかってるんだろうな?と思いはしたものの、具体的な注文をしてないからオレンジジュースが出てきてもお茶が出てきても文句は言えない
「「わかった! 映画のお供一式持ってくる!!」」
俺の狙い通り二人はキッチンの方へ向かって言った。その間に俺は……
「しめしめ、零と闇華さんがいなくなったこの隙に……“フリッフのゲーム実況チャンネル”っと……」
恋愛映画ではなくゲーム実況者の名前を入力。検索するとトップに“フリッフのゲーム実況チャンネル”が出てきた。その中から特に面白味がなく、ただ恐怖心を植え付けるだけの動画を厳選。動画が始まるとすぐに一時停止を押し、画面を全画面にして準備完了
「特にこれといった面白さがなく、ただ発狂しているだけの動画で恐怖のどん底に落ちるといいさ!」
零と闇華さんがいない隙に言う意味の全くない悪役擬きの台詞を言って二人を待つ
数分後────。
「恭、飲み物はコーラでいいわよね?」
人数分のコップとコーラが乗ったお盆を持って零が戻って来た
「おう、サンキュー! やっぱ映画のお供の飲み物って言ったらコーラだよな!」
映画のお供の飲み物はコーラ。そう思っているのは俺だけかもしれない。特別なこだわりはないから別にコーラがないなら別の飲み物でも俺は構わないんけどな
「そうね。アタシも映画の時はコーラ派よ」
意外なところに同士発見! 零の家は借金があるから映画なんて観る余裕ないんじゃないか? だなんて野暮な事はこの際なしだ!
「おおっ! 同士!」
零がコーラ派だったのが嬉しすぎてテンションが上がってしまう。しかし、俺は零達に仕掛けたドッキリの事は忘れてない。これは零を油断させるための作戦だ!
「あ、アンタ、テンション高いわね……悪いものでも食べた?」
俺がハイテンションだとそんなに変か?とは思ったが、零と出会って早いもので二日目。これまで零の前ではしゃいだ事なんてなかったから変に思われても無理はない
「いや、別に? ただ、零が同じ意見で嬉しかっただけ」
「そ、そう……ま、まぁ、アタシは別に恭と同じ好みでも全然! 全く! 嬉しくはないんだけどね!」
嬉しくないという割には顔が赤いぞ? そして何故俺から目だけじゃなくて顔も逸らすんだ?ん?
「きょ、恭君、お菓子なんですけど……」
人数分のコップとコーラを持ってきた零とは違い、闇華さんはキッチンに入る前と同じで手ぶらだった。違うのは何やら困ったような顔をしているという部分
「お菓子がどうかしたのか? もしかしてなかったとか?」
お菓子は絶対に必要だとは言わない。実際の映画館でも飲み物だけ買って入るという人はいるくらいだ。それでもお菓子がないと若干物足りなさは感じる。俺的には絶対に必要だとは言わないが……
「い、いえ、あるにはあったんですけど……」
あるなら何ら問題はない。だというのに闇華さんの歯切れは妙に悪い
「あったんだけど? もしかして苦手なものしかなかった?」
実際のところ俺は届いた食材や飲み物に何があるのか知らない。爺さんの事だから酒はないとは思う。ただ、その酒以外の飲み物の中で何があるのかってのは全く把握してない
「い、いえ、苦手な物はないんですけど……乾き物しかなかったんです……」
「あー、なるほど……歯切れが悪かった理由が何となく理解出来たわ。ちなみに零は知ってたのか?乾き物がしかないって」
「知ってたわよ。さすがに食器棚開けて乾き物しか出てこなかったからどうしたものかと思ってたとこなのよねー」
零、知ってたならコーラを持ってきた時点で教えてほしかったぞ……
「とりあえずお菓子類はみんなで選ぶ事にするか」
「そうね、さすがにお酒のおつまみしか出てこなかったら闇華だって選びづらいでしょうし」
「は、はい、選ぼうとしてすっごく苦労しました……」
乾き物がしかない理由は後で説明するとして、酒のつまみになりそうな乾き物類しかない理由に俺は心当たりがある。それよりも今はお菓子の捜索という事で俺達はキッチンに向かった
キッチンにやって来た俺達は冷蔵庫の隣にある戸棚の前へ
「マジか……」
「マジよ」
「はい」
闇華さんは俺達に相談する為に一旦戻って来た為か戸棚は開けっ放しだった。そこから若干はみ出ていたのはあたりめ、チータラ、剥きたら等の所為酒のつまみ。
「本当に乾き物しかないな……」
「でしょ? アタシも嫌いじゃないけど、乾き物類だけだと選びづらいのよ」
「私も嫌いではありませんが、量が多いとさすがにちょっと……」
「とりあえず、乾き物を掻き出すか……」
俺は戸棚の中から溢れんばかりの乾き物を掻き出し奥の方からポテチを発見し、零達に見せた
「何よ! スナック菓子あるじゃない!」
「乾き物を掻き出さないと見つからないほど奥にあったんですね……」
唇を尖らせている零と乾き物の量が多い事に若干引いてる闇華さん。この二人を見ていると乾き物の多い理由を説明していいのかどうかを迷ってしまう
「そ、そうだな、お菓子も見つかった事だし、各々が食いたいものを持って戻るとするか」
「飲み物はいいとしても食べ物は好みが別れるもんね」
「ですね。さすがにこればっかりは仕方ないですね」
という事で俺達は各自お菓子の選別を開始。その結果はこうなった
零→ポテチ(うすしお味)、スナック菓子多数
闇華さん→ポテチ(コンソメ味)、スナック菓子多数
俺→剥きたら、あたりめ、チータラ
他の二人に比べて俺だけ完全にチョイスがおっさんのそれだし今から一人で飲むのかと聞かれてもおかしくないレパートリーだった
「恭、アンタのチョイス完全におっさんそのものよ」
「そうですね……何て言うか、全体的に生臭いです」
「うっせ! とりあえず戻るぞ」
自分でもおっさん臭いとは思うが、改めて他人から言われると凹む。
お菓子を持って戻って来た俺達は各自持ってきたものを広げ、映画を観る体制に入る。
「んじゃ、俺が選んだオススメを流すぞ」
「「はーい!」」
映画の前なのか零も闇華さんもテンションが高い。しかし、俺が流すのは恋愛映画じゃなくゲーム実況動画だ
『いっやっはぁ~! 当たんねぇんだけど!! なんでこんなに当たんねぇんだよ!! バカじゃねーの!?』
再生を押し、一番最初に流れてきたのはモンスターに攻撃を躱されプレイヤーキャラが吹っ飛ばされる映像と実況者が発狂している音声だった
「「「…………………………………………」」」
恐怖どころか一気に白けた
「恭、世の中にはいろんな人がいるのね」
白けた中、零の冷たい声だけがリビングに響く。しかも、元映画館だけあってそれが余計に
「ああ、いろんな実況者がいるんだよ」
居た堪れなくなった俺はすぐにその動画を消し、恋愛映画で検索をかけ、あったやつを適当に流した
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました
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