高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

我が祖父を一言で言うなら狸ジジイが相応しい

公開日時: 2021年2月10日(水) 22:35
文字数:4,065

 ────────────う!

 ────────ちゃん!

 ────────くん!


 三つの声が聞こえる……一つは呼び捨てで呼ぶ声、もう一つはちゃん付けで呼ぶ声、最後のはくん付けで呼ぶ声。呼び捨ては零と由香でちゃん付けで呼ぶのは東城先生。くん付けで呼ぶ人は闇華と琴音、飛鳥。結論、三人の人間に呼ばれているのは分かんだけど、誰が呼んでるのか分からない。今更だが、俺はいつのまにか寝てたようだ。とりあえず、起きるか


「恭ッ!!」

「恭ちゃんッ!!」

「恭くんッ!!」


 え?何?起きたら涙を流しながら零と東城先生と琴音が抱き着いてきたんけど……?


「え?いきなり何?」


 起きたら三人の女性に抱き着かれるというのは反応に困る。周囲を見回すと闇華達も零達同様、涙を流しているっつーんだからビックリだ。これは……どうしたらいいんだ?


「うるさいッ! アンタがアタシ達を捨てるとか言うからでしょ!」


 はい?俺はいつ零達を捨てるって言った?爺さんと話をしていた時に零達を捨てるって一言も言った覚えはない。どうなってんだよ?


「そうですよッ! 恭君は私達を捨てるって言ったと恭二郎さんに聞きましたよ!」


 闇華は何を言ってるんだ?爺さんとの会話を聞いてたなら一度も捨てる発言をしてないのは知ってるはずだ。つか、泣いてるって事はジジイの口から出まかせをマジで信じてるっぽい。闇華の言った事に零達も同意して頷いてるし


「お前ら、爺さんの会話聞いてたんなら俺が捨てるって言ってないのは知ってんだろ?」


 爺さんとの会話を本当に聞いてたのなら内容は知ってるはず。あの狸ジジイが本当に盗聴していたのならな


「知ってるよ。恭クンが茜さんと真央さんに妙なレッテルが付かないように距離を取ってるって事もね」

「マジで聞いてたのかよ……だったら俺がお前らを捨てるって言ってないのも知ってるだろ?」


 あの狸ジジイの言っていた事が本当だと分かったところで俺は会話の中で零達に限らず捨てると発言してない事を確かめる。


「うん。でも、恭二郎さんの帰り際にいずれ零達は捨てるから喧嘩しようとどうしようと干渉してくんじゃねーよって小声で言ってたのを聞いたって……」


 不安気な東城先生の口から出たのは俺が言った覚えのない事。彼女の話じゃ爺さんの帰り際に俺が悪態をついた感じになってるが……


「そんな事は一言も言ってねぇよ。ったく……」


 爺さんは何のつもりなんだ?あの人が何をしたいのか分からない


「本当ですか?」

「本当だって。闇華は何か不安な事でもあんのか?」


 このくだりは重い話をする時はいつもやってて毎回いなくなったりしないとか捨てたりしないって言ってんのにまだ信じてないのか?


「だ、だって、恭君は……いつも私達に何の相談もしてくれないじゃないですか……」

「いつもじゃねぇよ。時々だ」


 俺だっていつも騒動に巻き込まれているわけじゃない。時々……人を拾う前とか、人を拾った後とかだけで断じて常日頃から騒動に巻き込まれてるわけじゃない。その辺りは誤解しないでほしい


「同じです! 結果的に恭君は騒動に巻き込まれてるんですから! 屁理屈を言わないでください!」

「はい……」


 凄む闇華の圧に押されるとは……思わず委縮してしまったぞ……


「今度からは騒動に巻き込まれたら必ず相談する事! いいですね?」

「わ、分かりました……」

「よろしい!」


 闇華よ、お前は俺の母親か?


「闇華ちゃんの話が終わったところで恭ちゃん」


 闇華の次は東城先生からの説教かぁ……


「な、なんでございましょうか?」

「恭二郎さんから聞いてると思うけど、真央と茜の件どうするの?」


 真央と茜の件とはアルバムを盗み見た日から違和感を感じるってアレか……どうするも何もどうなってんのか分かんねぇから何ともなぁ……


「どうするって何がどうなってんのか全く分からねぇからどうしようもないだろ。つか、何がどうなってんのかの説明から始めろよ」


 爺さんから茜と真央があの日から違和感を感じていると聞いてるし、バレるのも時間の問題だと言っていた。つまり、お袋が見えそうとかそういう事か?


「恭二郎さんから聞いてるから前置きはなしで単刀直入に言うけど、あの日から誰かに見られている感じがするらしいよ」


 誰かに見られている。普通なら気のせいとか、自意識過剰と笑い飛ばすところなんだけど……


『…………ごめん、きょう。それお母さんの仕業だ』


 犯人がアッサリ自白してくれやがったからなぁ……どうしたもんかなぁ……


「恭ちゃん……」

「ああ、そうだな……」


 俺と東城先生は顔を見合わせると深い溜息を吐き、零達は目が死んでいる。反応は違えどお袋の所業に呆れているという思いは一緒だ。どうするかも決まった


「恭殿?」

「グレー?」


 呆れている俺達とは違い、声優コンビは涙目だ。見えないというのはこうも人を不安にさせるのか……


「あー……何だ?二人に覚悟と絶対に他の連中に言わない、ラジオやイベントでも話さないって約束出来るならすぐにでも抱えてる不安を拭ってやるぞ?」


 茜と真央の不安は同業者に言わない、ラジオやイベントで話さないって二つの約束と覚悟さえあればすぐにでも払拭可能だ。本人達にその気があればの話だけどな


「他の者に言わず、ラジオやイベントでも話さなければいいのでござるな?それならお安い御用でござる! 何に対してかは分からぬが、恭殿と一緒なら怖いものなの何もござらん!」

「真央っちに同じ! グレーとの約束なら何だって守るよ! グレーと一緒なら何も怖くない!」


 真央と茜の本気は彼女達の真剣な眼差しからお察し。覚悟は出来ているようだ


「何が出てきても驚かないか?」

「「驚かない!」」


 二人の覚悟は本物だと確認出来たところで今度はお袋の方へ視線をやる。こればかりは俺一人の独断では決められない


『覚悟は出来てるみたいだし、言わない、話さないって約束してくれたんだからいいんじゃない?それに、言ったところで誰も信じはしないだろうしね~』


 意見を言ってくれるのはいいんだが、こういう真剣な場でもテンションが変わらないのはどうかと思うぞ?お袋のいいところだから否定はせんけど


「後悔するなよ?」

「「しない!!」」


 俺は起き上がり、ベッドから出て茜と真央の前に行き────


「どうなっても知らねぇぞ」


 零達にしたのと同じ要領で霊圧を流した。さて、どうなる?どうなる?


「「────────!?」」


 霊圧を流し、俺と同じになった茜と真央は────目を丸くし、固まった。それもそのはず……


『はろ~、きょうのお母さんだよ☆』

『早織さん、さすがにそれはちょっと……』


 ぶりっ子全開で茜と真央へ手を振るお袋とそれを止めようとする神矢想花。そして────


『灰賀君……貴方ねぇ……』

『まぁまぁ、ちーちゃん。恭っちが必要な事以外言わないのはいつもの事なんだから呆れない呆れない』


 眉間を抑え、呆れる千才さんと俺をどうにかフォローしようとしている紗李さん。で、紗枝さんと麻衣子さんは……


『紗枝、暇』

『だね。あっ! そうだ、暇ならしりとりでもしようよ!』

『暇つぶしにはちょうどいい。やろう』

『じゃあ、最初は紗枝からね! しりとりのり!』

『りんご』

『ゴリラ!』


 我関せず、しりとりを始める始末。ちょっと?幽霊の皆さん?茜と真央は貴女達を見て固まってんですよ?悲鳴上げられなかっただけまだマシですけどね?


「はぁ……自由過ぎるだろ……」


 自由過ぎる幽霊達を余所に茜と真央の様子を窺う。すると────


「きょ、恭殿!? ゆ、幽霊が! ゆ、幽霊でござる~!」

「怖いよぉ~! ぐ、ぐれぇぇぇぇ~!」


 泣きながら俺にしがみ付いていた。怖いを表現する方法は一つじゃないよね。リアクションなんて十人十色だよね


「落ち着くのを待つとするか」


 自由過ぎる幽霊達と怖がる声優コンビ。そして、光のない目で俺を無言で見つめる零達。こんなの俺一人で収集つけられるわけがなく、俺は天を仰ぎ、女性陣が大人しくなるのを待った。



 女性陣が騒ぎ出してからどれくらいの時が経過しただろう?外を見ると綺麗な夕日があり、一日が終わるのだと思うとほんの少し寂しい気持ちになる。曜日によっては夕日を見ると胸が締め付けられるくらい苦しくなり、時よ進むな、時よ戻れと思ってしまう。マジ、日曜が終わるのは何歳になっても苦痛でしかない。と俺の心境はともかくだ、女性陣が落ち着くまでに掛かった時間は面倒だから数えないとして、よくもまぁ、日が暮れるまであのカオスな空気を維持出来たものだと感心するぞ……。当の女性陣は……


「早織殿! 恭殿のオネショについて詳しく!!」

「わ、私も興味あります! 早織さん! グレーのオネショについて詳しく話してください!!」

「「「「「「私も是非!!」」」」」」


 俺のオネショに興味津々のご様子。どうしてこうなった?最初の頃は茜と真央の声優コンビはおびえて俺にしがみ付き、幽霊ズは自由に自分の好き勝手していた。しがみ付いてる声優コンビを見て同居人と愉快な仲間は光のない目で俺を見つめていた。声優コンビVS同居人と愉快な仲間の喧嘩があるんだろうなぁと思ってたけど、一気に仲良くなったなぁ……何でだろうなぁ……


「やっべぇ……俺の周囲にいる女共は変態しかいなかったか……」


 仲良くなったり話し始めたキッカケなんてのは些細なもので、彼女達の場合はお袋が何気なく言った『きょう、今夜は昔みたいに一緒に寝ようね~』って一言だった。そこからお袋以外の幽霊ズは目を輝かせ、声優コンビ、同居人と愉快な仲間は俺と一緒に寝る一人に立候補をするという本人から見ると止めてくれの一言で済ませるような議論なのだが、女性陣の距離が縮まるのならそれに越した事はない


「まぁ、茜と真央はお袋達への恐怖心が薄れ、零達の目も元へ戻ったみたいだから俺もう寝ていいよな?」


 女子会をしているお袋達の輪を乱してはいけないと思った俺は寝た後の事をお袋に任せる趣旨の書置きをするとベッドへダイブ!そのまま目を閉じた。ごめん、目を閉じたのは本当だけど、お袋達の輪を乱してはいけないと思ったのは嘘だ。本当は幼い頃の話を聞きたくなかっただけです。

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