高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

俺は夕食を食べる事をしなかった

公開日時: 2021年2月20日(土) 22:11
文字数:4,123

 食堂に着くと教師陣の姿はなかった。彼らは自分のスマホで時間を確認出来るのに……。そんな事を思いながらテーブルを見ると生徒一人一人の名前が書かれたプレートが。俺達はとりあえず自分の名前が書かれたプレートの席に着き、教師達を待つ事にしたのだが……


「何でだよ……」


 この席順は納得いかない。俺の席は男性の写真とミニカーがあった席。その右隣にいるのが零で正面に闇華、俺から見て闇華の右隣にいるのが飛鳥で左隣が由香。完全にいつもの面子に囲まれている。これじゃ学校同士の交流って視点で見れば悪くない席順だ。プライベート視点で見るとイツメンだから新鮮さなんて全く感じないけどな


「あら、恭はアタシ達と一緒じゃ不満なのかしら?」

「そうですよ、恭君。私達とはご飯食べられないって言うんですか?」


 頬を膨らませながら抗議の声を上げる零と闇華


「ア、アハハ……家でも一緒なのにスクーリングでも一緒じゃ新鮮さはないよね……」

「いつもは零ちゃん達側のあたしもそう思う」


 対して苦笑を浮かべる飛鳥と由香。学校じゃ飛鳥と由香、瀧口以外との交流なんてない。灰賀女学院の方は……引き取った時点で察してくれ。言えるのは引き取ったからと言って全員と交流があるとは限らないって事だけだ。交流が少ないという意味じゃこの面子で助かった。俺がいなかった間、諸注意で教師が何て言ってたかも聞いておきたいしな


「不満はねぇよ。零達と一緒の方が気を使わなくて済む。それに聞きたい事もあるしな」


 瀧口と入れる範囲で探索した結果、これと言った収穫はなかった。とは言っても管理人室や女子トイレといったプライバシーや男の俺が入っちゃいけない場所や危険な場所は除いたから全部探索しましたとは言えないがな。探索は一先ず置いといて、俺がいなかった時、諸注意で教師が何て言ってたかを聞きたい


「聞きたい事?恋バナでもしようって言うのかな?恭クン」

「ちげーよ。俺と瀧口がいない間に諸注意で先生が言っていた事を聞きたいんだ」


 ゲームの舞台を再現するのはいい。マニアやコアなファンは主人公を始めとした登場人物の気分が味わえる。そのマニアやファンが星野川高校・灰賀女学院に何人いる?片手で数えられるか最悪ゼロだ。で、そのファンでも何でもない連中にゲームと同じ展開を突き付けたらどうなるか?簡単だ、パニックになって大騒ぎ。両校の教師だってバカじゃない。その程度の事くらい簡単に分かるはず


「先生が言ってた事?」


 由香がキョトンとした顔で首を傾げる


「ああ。例えば、これから何かが起こるとか言ってなかったか?」


 こういう泊りがけ行事の場合、どこかでレクレーションがあってもおかしくない。だが、ここに来てから今まで旅行的行事の王道イベントはなかった。このままだと俺達はただ薄暗い館に泊まっただけとなってしまう。当然、普段話をしないような生徒と協力して何かしたり、灰賀女学院の生徒との交流なんてない。どこかで生徒同士が交流する機会を設けているはずだ。どんな形であれな


「これから何かが起こるとかは言ってなかったけど、星野川高校の先生がこのスクーリングは何があっても全力で楽しんでとは言ってたわよ?」


 零は興味なさそうに言った。教師の発言にしては無責任すぎる。保護者からクレーム来るぞ?


「その星野川高校の先生って……」

「名前までは憶えてないわよ。旅行とか学校の合宿とかには興味あるけど、教師になんて興味ないから」


 零さん、冷たすぎ!


「さいですか……。他に何か言ってなかったか?」

「他には何も言ってなかったわよ。言ってたとしたら具合が悪くなったらすぐ先生に知らせろとかくらいかしら?ね?闇華?」

「ええ……先生方は一貫してこのスクーリングで何が起きても楽しめとしか言ってませんでした」


 零と闇華が言うなら間違いないと思う。気になるのはこの館からの出入りだ。通信制の星野川高校、俺が引き取った連中が集まっている灰賀女学院。クセのある生徒が集まる二校だが、生徒の中には外で遊びたいと言い出す奴が出てきてもおかしくない。なのに外に出る際の注意がないのはいくら何でも変だ


「外へ出る時の諸注意とかなかったか?例えば、出る時は一声掛けろとか」


 この島は海も山も近い。絶対に海へ行きたい、山へ行きたいと言い出す奴が出るはずだ


「そう言えば……」


 そう言って闇華が手を挙げた


「そう言えばどうした?」

「海や山へ行く場合は必ず星野川高校、灰賀女学院どちらの先生でも構わないから必ず教師と一緒に行けって言ってました」


 闇華は最後に『大した事じゃないと思うんですけど……』と付け足した。


「俺達生徒にスマホがない以上、帰り道で迷った時に連絡する手段がない。緊急の連絡を要する事態に備えて教師と行動を共にしろっつーのは何も変じゃないんだが……そのスマホを預かる意味がなぁ……」


 生徒達の中に教師の電話番号を知ってる奴がどれだけいるのかは分からない。だが、教師の連絡先を知らずとも館内に残っている生徒へ連絡し、その生徒から教師に知らせてもらえば済む話。連絡ツールを取り上げられたんじゃ元も子もない


「恭クン……無事に帰れるよね?この館がゲームを元に造られただけで殺人事件とか起きないよね?」

「分かんねぇ……何かは起こるかも知れねぇが、警察沙汰になるような事にはならねぇと思う」

「うん……」

「「恭……」」

「恭君……」


 俺は不安で押し潰されそうになっている飛鳥達を励ましながら教師達の到着を待った。



 飛鳥達を励まし始めてから少し。教師陣が食堂へ到着。管理人と思われる腰の曲がった老婆も一緒だ。


「みんな揃ってるよね?確認のために点呼取るから名前呼ばれたら返事して」


 教師陣の中で最初に口を開いたのは藍。彼女は星野川高校A組から順に点呼を取り始め、その間、俺はこの館をスクーリング会場にした人間が誰か、誰が何の目的で建てたのかを考えていた。



 点呼が終わり、教師達と管理人の老婆の手で俺達全員に夕食が配られた。今夜のメニューはカレーだそうで心が……


「やっぱり……」


 踊らなかった。調理工程を知っている俺は目の前に置かれたカレーを見て眉間に手をやった


「「「「やっぱり?」」」」


 何も知らない零達は首を傾げ、キョトンとした顔で俺を見つめてきた


「何でもない。気にしないでくれ」


 俺は頭に疑問符を浮かべる零達から目を逸らした。このカレーはどんな料理下手でも作れるとは言えないよな……。


「全員に行き渡ったね?それじゃあ、星野川高校A組委員長、あいさつをお願い」


 藍の指示で立ち上がったのはA組委員長の男子生徒。これからの事を考えると俺はこのカレーを食べるわけにはいかない。頂きますを済ませたら適当な理由付けて部屋に戻ろう


「皆さん、いただきます」


 委員長の後に続き、食堂にいる全員がいただきますを言い、カレーに手を付けた。のだが……


「このカレーどこかで……」


 カレーを一口食べた零が首を捻った。どうやら違和感を覚えたらしい。違和感を感じたのは零だけじゃなく、闇華、飛鳥、由香もらしい。零と同じ反応を見せてる


「気のせいだろ。自分でルーを調合でもしない限り誰が作っても似通った味になるさ」


 そう言って俺は席を立つ


「どこ行くの?恭クン?」

「具合悪いから部屋に戻る。悪いが、先生達に伝えといてくれないか?立ってるのもやっとなんだ」

「う、うん、そ、それは構わないけど……本当に大丈夫?恭クン倒れたりしないよね?」


 不安気な表情の飛鳥を見て俺は心が痛くなる。仮病ってバレた後が怖い


「倒れたりはしない。ただ、少し疲れただけだ」

「そう……ならいいんだけど……夕食終わったらお見舞いに行くね?」

「あ、ああ……」


 零達から無理するなと釘を刺された俺は一人部屋に戻った




 部屋に戻ると俺は自分のベッドに寝ころび、瀧口が戻って来るのを待つ


『きょう~、お夕飯食べなくてよかったの~?』

『恭様は食べ盛りなんだからちゃんと食べないと身が持たないわよ?』


 ぼんやりと天井を眺めていると早織&神矢想花の幽霊コンビが顔を覗かせた


「うっせ。今日限定で言えば今後の展開知ってたらとても食えたもんじゃねぇんだよ。何が入ってるか分かんねぇ料理なんてな」


 今日はスクーリング初日。これから何かが起こる夜が始まろうとしてるのに館側から出された料理なんて食えない。いや、食べちゃいけない。


『何がって……恭様はあのカレーに何か入れられてるって言いたいのかしら?』

「ああ。何かっつーか、睡眠薬が入れられてる」


 ゲームの通りならカレーか水のどちらかに睡眠薬が混入されている。ゲームじゃ飲み物の方に睡眠薬が混入されてたしな


『す、睡眠薬って……学校の行事なんだからそれはあり得ないと思うわよ?ですよね?早織さん?』


 神矢想花は早織に目を向けた。


『あ、あはは……普通ならそうかもだけど、さすがにあれを見た後じゃ否定しきれない……』


 そう言って早織は苦笑を浮かべた。早織の言うアレとは俺達がスクーリング前に書かされたアレルギー調査書。食べ物、植物、薬でアレルギー反応があるものや成分はないか?という中身で書いた時は気にも留めてなかった。飯の献立を考える時の参考に使うんだろう程度にしか考えてなかったからな。


「だろ?ゲームじゃ主人公達は眠らされたわけだしよ」

『だね~。確かお夕飯が終わってお部屋に戻って来てからすぐだったよね~?』

「ああ。そこから何時間か経って微睡んでたら悲鳴が聞こえて部屋を飛び出したんだ」

『そうだねぇ~、そのシーンを見てお母さん、きょうに飛びついたもんねぇ~』


 早織さん?貴女が俺に飛びついたのは悲鳴のシーンじゃないですよ?その後ですよ?後! 飛びついたのは変わりないからいいんですけどね


「正確には少し違うが……まぁ、そうだな。中学生の俺に飛びついて来たな」


 早織が飛びついて来たシーンは今後の事に関わるから今は語るまい。


『いきなり飛びついたお母さんをきょうは優しく抱きしめてくれたもんね~』


 少し違うけど……幸せそうな顔で笑う早織を見るとそれを言うのは野暮ってもんだ。黙っておこう。それよりも……


『早織さん……ズルい……』


 膨れっ面の神矢想花を何とかする方が先のようだ


「はぁ……」


 俺は溜息を吐くとそのまま目を閉じ、幽体離脱した。

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