神矢想子の同居を聞かされ、どうしたものかと途方に暮れていたが、俺の心配は杞憂に終わった。目が覚めた零達に爺さんから神矢想子も住まわせてくれと頼まれた話をしたら意外にも『あ、うん、いいよ』とこっちが呆気にとられそうな返事を返され、飛鳥に詳しい話を聞くと『神矢先生からあの時の件については謝ってもらった。自分と同じ孤独を抱えている人を見捨てたくない』との事。仲直りしたならよし。俺から言う事は何もない。
「お前ら……仲良くなりすぎだろ……」
彼女達が目を覚ましてベッドルームからリビングへ移動し、全員でティータイム。時間を見たら十五時を回ってた。おやつの時間と言っても差し支えはないからお茶してる事に関しては文句ない。同級生の暴走?知りません。マジで暴走してたら止めればいいし、はっちゃけてたら止めればいい。何にせよヤバいと思ったら止めればいい。でだ、男俺一人に対し、女は七人。幽霊を入れると女は合計十人。男女比で言うとどう見ても男が少なく、バランスが悪い。もっとも、肩身が狭いと感じているのは俺だけで女性陣はというと……
「お兄ちゃんって普段はダメ人間でもいざって時は本当に頼りになるわよね」
「そうですね。兄さんはいつもダメでもここぞって時にはやってくれますよね」
「恭ちゃんはやればできる子。普段はダメなくらいがちょうどいい」
「ですです! それに、恭クンのダメな姿を見てると母性本能が擽られて……」
「それ分かる! なんかこう甘やかしたくなるよね!」
「恭くんは甘やかしてよし! 甘やかされてよし! だよね!」
「琴音さんの気持ち痛いほど分かるわ。ご主人様って甘やかしたくなるし甘やかされたくなるもの」
俺談義に華を咲かせていた。内容が内容なだけに気恥ずかしいものがあり、すぐにでもここを逃げ出したい。バレたら面倒な事になるからしないけど。俺の話になったキッカケは零の『みんなは恭────いや、お兄ちゃんの事どれくらい理解してるのかしら?アタシは長い付き合いだから目と目が合うだけで意思疎通ができるけど!』って煽り。彼女の一言で他の女性陣が触発され……今に至る。誇らしげな零と闇華、手のかかる弟を見る姉のような目をする藍。頬を染め、身体を捩る飛鳥に目を輝かせる由香と琴音。堅物キャラを通そうとする神矢想子。どこから突っ込んでいいか分からん
「他に話題はねぇのかよ……」
最初こそ言い争ってたものの、俺が『喧嘩する女って醜いなぁ……』と呟いたら零達の争いはピタリと止み、藍が『きょ、恭ちゃんのいいところを順に挙げていこうか?』と露骨に話題を変え、最終的に灰賀恭がどんな奴かについて語り合うになった。女性陣の皆さん?本人いる前でそういう話は控えてもらえませんか?恥ずかしいんですけど?
「女子会っつーよりも俺の生態観察会だろ……」
俺は零達から早織達幽霊組へ視線を移し、話に耳を傾ける。すると……
『きょうは私の息子だからね~、やる時はやるんだよ~』
『文句言っても手を差し伸べるんですね。さすが恭様』
『あれで死んだ魚のような目とダメ人間発言さえなければ完璧なんですけど……』
『ちーちゃんは灰賀君の完璧な姿想像できるの?』
『紗李の疑問は尤もよ。千才、完璧な灰賀君の姿なんて想像出来るの?』
『お姉さんはちょっと想像できないかな……』
零達と似たような話題に華を咲かせていた。早織と神矢想花が俺を褒め、千才さんが俺の目と日頃の発言をディスる。紗李さんが俺のあり得ない姿を想像出来るか尋ね、、麻衣子さんと紗枝さんが灰賀恭完璧人間像を否定するような事を言う。本人としては褒め殺しじゃないだけマシだが、腑に落ちない部分もある。特に最後二人。俺だってやるときゃやるんだぞ?
「勘弁してくれよ……」
俺は溜息を吐きながら席を立つとベッドルームへ移動した。女性陣が自分の話で盛り上がってて恥ずかしさのあまり逃げ出したわけじゃないぞ?爺さんや婆さんの他に電話しとかなきゃいけない奴がいるから移動するだけだ。断じて逃げたわけじゃない!
「蒼からの電話か……聞いちゃいたが、面倒な事なんだよなぁ……」
ベッドルームへ来て最初に出たのは溜息。蒼が電話してきた理由は爺さん経由で聞いてて知ってる。だからこそめんどくさい。中身が中身なだけに高校生の俺が関わっていいのか?と躊躇すらしてしまう。あの毒舌男の娘が持って来た問題はそれだけ面倒だ。
「電話しない事には始まらねぇか……」
電話しないって選択もある。でも、家に帰れば嫌でも蒼と顔を合わせる。遅かれ早かれ問題の詳細な内容は聞かされ、巻き込まれるのは目に見えて解る。だったら女子会やってる間にサラッと聞いておくに限る。俺は意を決してスマホを取り出すと蒼に電話した
『もしもし、恭さん?』
蒼の声は少しやつれ気味だ。元からこんなだったか?
「ああ。爺さんからお前が問題を持ってくるから覚悟しとけって言われたのと、昨日確認したら不在着信入ってたから電話したんだが、今大丈夫か?」
『ええ、学校終わってますから平気ですよ』
中学校の授業って終わるのもっと遅くなかったか?不登校で中学なんて数えるくらいしか行ってなかった俺が思うのもなんだが。
「ならよかった。単刀直入に言うが、お前が持って来た問題は俺じゃ何の力にもなれねぇぞ」
彼の持って来た問題が真央や茜と同じくストーカー関係や飛鳥の父親みたいに職に関係するのだったら俺でも話だけは聞いてやれた。聞くだけだけどな。だが……
『ボクじゃダメだったんです……姉ちゃんでもダメでした……もう恭さんしか頼れる人がいないんです……お願いです力に……力になってください……』
俺の思いなどお構いなし。蒼は力ない声で懇願してきた。蒼でも碧でもダメなら俺なんてもっとダメだろ。何しろ彼の持って来た問題というのは……
「お前ら双子がダメだったら俺なんてもっとダメだろ。義理とはいえ家族の問題に会った事すらない俺が口挟めるわけがない」
家族の仲を取り持ってほしいというものだ。彼のではなく、親友の。ちなみに俺は蒼の親友に会った事すらない。もちろん家族にも。
『そ、そこを何とかお願いできませんか?恭さんしかいないんです……』
俺しかいないと言われましても……家族の問題ってすっごくデリケートじゃないですか?見ず知らずの高校生がいきなり出しゃばってあっという間に解決! って都合のいい展開になるわけないじゃないですか
「俺しかいないと言われてもなぁ……大体、家族の問題なんだから当の家族同士で話し合うか時間が経つのを待つしかねぇんじゃないのか?詳しい話を聞いてないから何とも言えんが、内容によっちゃ第三者が口を挟むべきじゃないと俺は思うぞ?」
家族間の問題は非常にデリケートで第三者が口を挟んでいいものではない。離婚問題とか不倫問題みたいに悪者が明確になってるのならいざ知らず、もし仮に心の病が関係してたらどうだ?巻き込むべきは医者やカウンセラーで俺じゃない
『話し合いは出来ません……。時間が解決してくれるのも待ちました。でも……ダメだったんです……』
話し合いは出来ない、時間が経っても解決しない。八方塞がりかよ……。はぁ……面倒だが、詳しい話を今聞かせてもらうとするか
「話し合いが出来ず、時間が経っても解決しなかった理由を話してみろ」
『親友は所謂養子で本当の両親が幼い頃に他界、義母も四年前に亡くなってます。ここまでは不幸が続いたと言われてしまえばそこまでなんですけど、問題は次です。義母が亡くなった時、一緒にいたのがボクの親友でして……』
「でして?」
『塞ぎ込んでしまったんです。見た感じは普通なんですけど、何て言うんですかね?いつも怯えてるような気がして……』
何も言えねぇ……実の両親と義母が亡くなった原因が分からない、怯えているような気がする。これだけじゃ俺は何をしたらいいか全く分からない。消え入りそうな声の蒼にハッキリ言ってもいいのだが、精神的に疲労困憊してる彼をこれ以上追い詰めても意味がない
「そうかい。話は何となく分かった。けどな、情報量が少なすぎる。詳しい話は帰ってから聞くが、あんま根詰めない方がいいんじゃねぇの?問題解決より蒼の方が先にぶっ倒れちまうぞ?」
問題を抱えている当人が今どんな状態かは知らねぇ。俺的には蒼の方が倒れるんじゃないかと心配だ
『そう……ですよね……。情報少なすぎますよね……』
「ああ。さっきも言ったが、詳しい話は帰ってから聞く。とりあえず待ってろ。明日には帰るんだからよ」
『はい……』
頼る相手間違えてるだろ……。とは言えず、俺は一言『あんま思い詰めんなよ?』と言って電話を切った。
電話が終わり、零達のいるリビングに戻る気がしなかった。軽く話を聞いただけで何とも言えない。けど、問題の中身が重すぎるとだけは言える。家族の問題だろ?なんだって俺に相談しようと思った?俺は他人の家庭事情に踏み込めるほど人生経験はない。さっきは言わなかったけどよ、義父はどうした?義理だとはいえ自分の子供が苦しんでるってのに何もしなかったのか?
「マジめんどくせぇ……」
俺はベッドの方へ歩き、そのまま倒れ込むと目を閉じた。
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