蒼と碧、センター長を除く同居人達から監禁されてから早三日。ダメ人間の俺は逃げ出す事なく、甘んじて監禁生活をエンジョイしている。っつっても逃げ出す理由ないだけなんだけどな。文化祭の準備に関しては藍曰くウチのクラスはとっくの昔に全て終わったとの事。食品を取り扱ってるわけじゃないから使用する場所の装飾をし、テーブルを並べるだけで商品は職員室の生徒が立ち入らない場所に保管しとけば問題ないらしい。でだ、監禁されても問題ない俺はというと……
「暇だ……」
暇を持て余していた。確かに監禁生活は外に出たくない俺にとって理想の生活。だが、実際は退屈なものだ。やる事がないからな
「暇なら私に甘えてよ。グレー」
「甘えろって言われてもなぁ……」
「いいでしょ? 今はみんないないんだからさ」
向井に座り楽しそうな顔で俺を見る茜の言う通り今はみんないない。学生組は当然だが学校に行ってる。琴音は珍しく爺さんに呼ばれてて不在。藍達成人組は仕事。早織と神矢想花の幽霊組もなぜか不在。千才さん達は各々が憑いてる奴にくっついてるからいないのが当たり前。偶然オフだった茜と二人きりというわけだ
「そうだけどよ……いきなり甘えろと言われてすぐにはできねぇだろ」
何もナシに甘えろと言われても無理だ。そもそもが俺は他人に甘える術を知らないんだからな。どうしたものか……自分の日常生活を振り返ると甘えまくってるような気がするから今更なんだが
「そうかもだけどさ、グレーにだって私にしてほしい事くらいあるでしょ? 例えば、一緒にお風呂入りたいとかさ」
どうして俺の願望で風呂が最初に出てくるんですかねぇ……いつも一緒に入ってるだろ。零達もだけど
「風呂ならいつも一緒に入ってんだろ。つか、何で一番最初に風呂が出てくるんだよ」
「グレーだから?」
「意味が分かんねぇから。にしても俺がしたい事か……」
「うん、何かない?」
「何かねぇ……」
何かと言われても膝枕なら昨日してもらったし、風呂にはいつも一緒に入ってる。二人きりでいるからお家デートしてるも同然だからデートは間に合ってるし……うーん、何がしたいと聞かれたら出ねぇモンだな……したい事か……あるにはあるが……これって監禁されてる事になるのか?
「浮かばないかな?」
「浮かばねぇ事はないんだが……監禁されてる事になるのかと思ってな」
そもそも監禁って部屋の一室や自動車といった比較的狭い場所に閉じ込めた事を言う。この部屋は元々映画館だから狭い場所とは言えない。俺の現状を例えるとだ、軟禁とも幽閉とも言えねぇ。例えようがないのだ。出る自由を奪われているという意味合いじゃ監禁なんだろうが……世間一般がイメージするのって両手両足の自由を奪った上で閉じ込めておく事だと思うのだが……
「監禁だよ。実際グレーを閉じ込めているわけだしさ」
「閉じ込めてるねぇ……出る自由を奪われているという意味じゃそうかもな」
狭い場所じゃねぇけど、外へ出る自由を奪われているから監禁なのかもしれない。監禁されてる側に逃げる意志がないから何か違う気がしてならないが……議論しだしたら永久に終わらねぇからいいか。それよりだ、俺のしたい事をどう伝えたものか……
「それより、何がしたいの? 外へ出る以外だったら何でもしてあげる」
「この建物の外へ出る気はサラサラねぇけど、この家を見て回りてぇな」
「そんな事でいいの?」
「ああ。ここに住み始めてから今日までちゃんとこの建物を回った事がない。いい機会だから他の階がどうなっているのか見ておきたい」
普通の家なら住み始めて一か月程度でどこに何があるか把握できる。しかし、ここは元々デパート。営業していた時に各階のフロアに行った事はあるが、ちゃんと見たのかと聞かれたら答えは否。自分の興味がある店しか行ってなかった上に女性物を取り扱っている店になど入った事がない。結論を言うとちゃんと見た事がないのだ。住み始めてからはというと、居住スペースはこの映画館。他の階には行った事がない
「グレーがそうしたいのならいいけど、右か左、どちらかの手は私と手錠で繋げさせてもらうよ」
「構わねぇよ。っつっても逃げる気はないんだけどな」
俺は意味のない事はしない主義だ。手錠で繋がれたところで無意味。普段の行いが行いだから信用性は薄いだろうけどな
「どこにも行かないとか言っといて単独行動が多いグレーが言っても説得力ないよ」
「だろうな」
もしも俺が茜と同じ立場だったらちょくちょく姿消す奴のずっと側にいる発言は絶対に信じない。監禁関係なしに常日頃から首輪を付ける。余計な事言って実行されても困るから言わねぇけど
「当たり前。グレーはすぐにフラっと姿消しちゃうから疑われても仕方ないよ」
「自覚はある。ま、好きにしろ。歩いて回る分には特別不便は感じねぇ。手錠を使う事で茜の不安が少しでも解消されるのなら俺は構わない」
全て自分で蒔いた種。手錠掛けられても文句は言えないし、茜の不安が少しでも解消されるのなら構わないのは紛れもなく本心だ。だが、もう一つ俺は彼女に伝えてない事がある。片手を手錠で繋がれたとしてもトイレや風呂、食事や着替えを除くと不便がないという事だ。あるとしたら同じクラスの由香以外は行き先が違うってくらいだな
「本当?」
「本当だ。トイレや風呂、食事や着替えを除くとこれと言った不便はない。今言ったもの以外で不便があるとしたら同じクラスの由香以外は行き先が違うってからどっちを優先させるか考えるくらいだ」
俺はインドアタイプだ。外へ出ようだなんて考えはない。右か左、どちらかの手を手錠で封じられたところで不便はない。逆に茜達の方が不便だとすら思う。茜と真央は声優、藍は高校教師、琴音は声優でも教師でもないが、家事をしなきゃならない。零と闇華、由香と飛鳥は俺と同じく高校生だが、由香以外は行く場所が違う。結論を言おう。行き先を除外して考えると特に不便は感じない
「そっか……」
「ああ。だから遠慮なく手錠を掛けろ。日頃の行いが行いだけに文句言わねぇよ」
俺は潔い男だ。自分の行いで他人を不安にさせたのならそれ相応の責任は取る
「本当?」
茜が不安気な顔でこちらを見る。俺はそこまで信用ねぇのか?
「本当だ。俺は自分の行動で誰かを不安にさせたのならそれ相応の責任は取る男だ。茜が手錠を掛けたいのは不安だからなんだろ? だったらそうしろ」
「分かった……」
ゆっくり立ち上がった茜は俺の隣まで来て手錠を掛けた。何だろう? 誰かに依存してるわけじゃねぇし、拘束されて喜ぶ趣味もねぇけど……不思議と安心感を感じてしまう自分がいる。きっと心の奥底ではヤンデレな女を望んでるからか?
片手を手錠で拘束された俺は茜と共に部屋を出た。行ってないフロアを見て回ったが、住居がある八階の元・売店やチケット売り場はいつの間にか新しい部屋へと変化を遂げていたし、七階、六階、五階はまだ工事している最中だった。四階、三階、二階は変化なし。従業員のロッカールームや飲食スペースも物がない以外は全て当時のまま。残るは一階のみなのだが、俺が分かってる範囲じゃ手つかずのままだったはず……
「やっぱ手つかずだったか……」
「そうだね。七階や六階、五階は工事してたけど、四階や三階、二階とこの一階は物がない以外は営業していた時のままみたいだね」
「だな……まぁ、現状住人は八階にしかいねぇから別に下の階がどうなっていようと関係ねぇから別に手つかずでも構わねぇんだけどな」
八階は住人がいるから電気が点いてて当たり前。七階、六階、五階も住人ではないが、作業員がいるから電気が点いてる。四階や三階、二階やこの一階は人がいないから電気は点いてない。人がいない場所の電気を点けといても金と電力の無駄だから仕方ないといえば仕方ないんだがな
「だね。人がいない場所の電気を点けといても仕方ないし」
「そうだな」
一通り見て回った俺達は自分達の部屋がある八階に戻ろうとした。その時────
『お兄ちゃん! 遊んで!』
目の前に突然幼女が現れた。身体が宙に浮いてるところから彼女は幽霊だ。しかし、どうしていきなり……この子は俺が怖くないのか?
「遊んでって……君は俺が怖くないのか?」
「そうだよ? このお兄ちゃんは言わば歩くダイナマイトみたいなものなんだよ?」
早織曰く俺が今まで幽霊に遭遇しなかったのは高すぎる霊圧故らしい。だが、この幼女に警戒している様子はない。何がどうなっているんだ? それと茜。誰が歩くダイナマイトだ
『待ってぇ~』
『待ちなさい』
戸惑っているところに早織と神矢想花登場。彼女達に話を聞く事にしよう。この幼女の事を含めてじっくりな
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