うるさい零達から逃れるため、目を閉じた結果、ガチ寝。俺らしいと言えば俺らしい。だが……
「「「「むぅ~……」」」」
零達はすっかりご機嫌斜め。悩みがあるんだかないんだか分からん一条親子と機嫌を損ねた零達。どちらが面倒かと聞かれれば甲乙つけがたい。怠け者の俺にとって人の為に何かをするって行為がものすっごくめんどい。はぁ……
「面倒事が増えた……」
自業自得だとはいえ、面倒事が増えるのは避けたいが、女という生き物は非常に扱いが難しい。機嫌を損ねた女は特にな。仕事と私、どっちが大事なの!? って質問されるのと同じくらいめんどくさい
「デート中に寝てるお義兄ちゃんが悪いんでしょ!」
「そうです! デート中に寝るだなんてありえません!」
「恭クン、デートの最中に断りなしに寝るのはあり得ないよ」
「恭、お義姉ちゃん的には一緒にいられるだけで幸せだけど、女の子としてはデート中に寝るのは論外だよ」
声を荒げる零と闇華。声は荒げてないが、怒っている様子の飛鳥と由香。俺はデートしてくれと頼んだ覚えはないんだが……口に出すと今より状況が悪化するだけだから黙っておくか
「悪かったよ。頼まれた事が予想以上に面倒な事だったから疲れてたんだよ」
凛空君も凛空パパも悩みがあるって聞いたから出向いて見れば悩みなど欠片もなさそうな感じだった。頼まれ事じゃなかったら見捨てるぞ……
「面倒? 何が面倒なのかな? 恭クン」
「悩んでますって言われて出向いて行ってみたら話に聞いてた奴は元気そのもの。悩んでる様子など皆無だったとか?」
「あー……それは……うん、ゆっくり寝ようか。恭クン」
「分かってくれて何よりだ」
多分、飛鳥は俺が直面した場面を想像したのだろう。顔が露骨に引きつった。よく見ると零達の顔も引きつっている。自分がその場にいるところを想像したのか、俺の性格を考慮した上でその場面を想像したのかは分からないが、理解してもらえたようで何よりだ
「恭、お義姉ちゃんが好きなだけ甘やかしてあげるから寝よ? ね?」
「お義兄ちゃん、アタシが悪かったわ」
「義兄さん、デートはまた今度でいいですからゆっくり休んでください」
先程の怒りはどこへやら……手のひら返し早すぎるだろ……。俺は彼女達のお言葉に甘え────二度寝を決め込んだ
『…………何で来んの?』
目を開けると嫌悪感を隠しきれてないもう一人の俺がいた
「何でと言われても……気が付けばここにいるんだから仕方ない」
『あのなぁ……』
呆れるもう一人の俺。だが、どうしてここへ来るのか聞かれたところで俺にも理由は分からない。来たいと望めば来れるのか、それとも、寝ると自動的にここへ来るシステムなのか。どうなってんだか全く分からん
「俺だって会いたいと思って来たわけじゃねぇよ。気が付いたらここにいたんだ」
『気が付いたらって……ここはお前が俺に会いたいと思わなきゃ来れない場所なんだがなぁ……』
「そうは言われても俺は会いたいと思って寝てねぇぞ?」
『寝てる寝てない関係なしにこの空間には俺かお前のどちらかが会いたいと思わなきゃ来られないんだよ。俺はお前に会いたいと思ってねぇ。つまり、お前が俺に会いたいと思ったって事だ。例えば俺が言った自己満足のお節介が時として必要だってのが気がかりだったとかな』
「それは……まぁ、気になってた。自己満足のお節介が必要な場面なんて聞いた事ねぇし」
俺はコイツに時として自己満足のお節介も必要だと思うって言われ、困惑していたところで目を覚ました。その後は不機嫌な零達を目の当たりにしたっつーわけだ
『俺だって聞いた事ねぇよ。だがな、一条親子を見てそう思った。凛空は家族……と言っていいか分かんねぇけど、蒼よりも一緒にいる時間が多いはずのあの女性陣にすら悩みを打ち明けた様子はなかった。凛空パパもお袋と物騒な話で盛り上がってはいたが、自分が抱えてる悩みを話そうとすらしなかった。しかし、蒼やお袋、想花のヤツは悩んでいる様子だから話を聞いてあげてと言ってきた。これって矛盾してるだろ』
コイツの言う通り蒼やお袋は凛空君や凛空パパが悩んでいるから話を聞いてやれと言っていた。だが、本人と対面するとどうだ? 悩んでる様子など微塵も感じなかった。これはどういう事かと聞かれると答えは簡単だ。二人共俺を信用してない。一介の高校生を信じろと言う方に無理があるからヘソを曲げたりはしない。むしろ戸惑いしか感じない
「矛盾はしてるが、カウンセラーですらない高校生のガキを信じろって方に無理があるだろ。俺としては凛空君と凛空パパの悩みが自然消滅してくれるのが望ましい」
『ぐうたらなこって……俺も同意見だから強くは言えねぇけどよ』
「だったら何で自己満のお節介推奨したんだよ……」
『いつまでも受け身じゃ話が前に進まねぇと思ったからだ。このままだといつまで経っても問題は解決しねぇ。まぁ、蒼が凛空と殴り合いでもしてくれりゃ一番楽なんだがな』
「それってゴールデンウィークん時の俺達じゃねぇかよ……」
『そうだ。あん時みたいに蒼が凛空君と殴り合いの喧嘩して互いの本音を曝け出せば全て丸く収まる。それが嫌なら誰かが凛空に回りを頼れと説得する他あるまい。だが、凛空も凛空パパも大人しく聞くと思うか?』
凛空君と凛空パパが大人しく説得に応じるタイプではないと思う。やってねぇから分かんねぇけど、多分話せと言って大人しく話す方じゃない
「思わねぇよ」
『だろ? だったら自己満のお節介焼くか殴り合いの二択しかねぇ。でだ、凛空君の周りにいる連中は彼と全力でぶつかる事に対してどこか恐怖心を持ってるように見える。だから殴り合い案はナシ。そうなると必然的に取れる方法は一つしかねぇだろ?』
「自己満のお節介を焼く……か」
『そうだ。凛空には適当に授業の一環で中学生の悩みを十人聞いて来いって課題が出たとでも言えばいいし、凛空パパにはそうだな……最近無料の幽霊カウンセリングを始めたとでも言っておけばいい』
「なんつー無茶な……」
我が霊圧ながら無茶苦茶な事を言う。高校の先生が人の悩みを聞いて来いだなんて無理難題な課題を出すわけがない。無料の幽霊カウンセリング? そんなの霊媒師でいいだろって思うのは俺だけか?
『一条親子の悩みさえ解決すれば方法は何でもいいんだよ。つか、凛空の問題はアイツが周囲を頼らないのが原因だ。凛空パパはしゃーなしとしても、息子の方は多少強引なくらいがちょうどいいんだよ』
「強引すぎるだろ……いつから俺はこんな強引になったんだか……」
もう一人の俺の暴論に頭を抱えざる得ない。同じ姿形してんのにここまで考え方が違うのは何でなんだろうか? 本当はコイツ霊圧なんかじゃなくて多重人格の一人なんじゃないか?
『強引じゃねぇよ。面倒事は早期解決に限る。吐かなきゃ吐かせるのが俺のやり方なんだよ』
それを強引って言うんだよ
「世間一般じゃそういうのを強引って言うんだよ。まぁ、いい。そこまで言うなら……解るよな?」
『入れかわりゃいいんだろ? ったく、めんどくせぇ……』
「めんどくさくてもやれ。口を出すだけ出して逃げるとかあり得ねぇから」
『人に強引だっつっときながらお前も強引じゃねぇか……』
「うっせ。面倒事から逃れられるなら強引にもなるわ」
俺は基本、人が絡んでくる時は傍観を決め込む。最終的に決めるのは当人で俺じゃない。口出しするだけ無駄だからな。自分が当事者────というか、問題に巻き込まれてるってなると話は別だ。是が非でも誰かに押し付けたくなる。他人の為に一生懸命になるだなんてバカバカしいからな
『その強引さを別のところに活かせないものかねぇ……』
「無理ですね」
『ですよね……ったく、面倒になったら無理にでも入れ替わるからな?』
「分かってる。元は俺が引き受けた事だ。凛空君と凛空パパをその気にしてくれれば後は俺がどうにかする」
『はぁ……しゃーねーな……』
「しゃーねーなじゃねぇよ。お前が自己満のお節介必要だって言うなら実証してみせろや」
『へいへい、分かったよ』
後頭部を掻き、めんどくさそうにするもう一人の俺。多分、立場が逆なら俺も同じ事をしただろう。同じ事は言わないと思うがな。俺達はスクーリングの時と同じように手を合わせた
「あ、おはよう、恭くん」
目覚めると騒がしかった零達の姿はなく、代わりにいたのは琴音。俺はなぜか彼女に膝枕されていた。彼女の顔見て思い出したが、アイツは碧を除く女性陣とキスの約束してたんだっけな……ついでだ、そっちの約束も果たしといてやるか
「はよ。今何時だ?」
「十三時だよ」
「そうか。んで? 零達はどうした?」
「ゲームコーナー。何でも運動がてらダンスゲームするんだって」
「運動は置いといて、アイツらが音ゲーだなんて珍しい事もあるんだな」
「時間が時間だからね。さすがにこの時間から外に出てショッピングってわけにはいかないみたいだよ?」
「それもそうか」
俺はゆっくり身体を起す。頼んじゃいねぇけど、いつまでも膝枕させたままじゃ琴音が疲れちまうからな
「恭くんご飯どうする?」
「飯? ああ、そういや飯食ってなかったな……そうだな……」
俺は一瞬考える素振りを見せた後、琴音をジッと見つめる
「え? どうしたの?」
「いや、別に。琴音はいつも綺麗だなと思ってな」
「そ、そんな事ないよ……私なんかよりも綺麗な人なんてたくさんいるでしょ? 例えば藍ちゃんとか」
「東城先生は綺麗って言うより美人系だろ。俺的には琴音の方が綺麗だと思うぞ?」
「で、でも……」
琴音は自己肯定感が低かったか……意外だった。よし、黙らせよう
「ったく、自己肯定感が低い女はこれだから……」
「ご、ごめんなさい……」
「謝れって言ってねぇから」
俺は琴音の頭を掴み、そして……
「────!?」
強引に唇を奪った
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました
読み終わったら、ポイントを付けましょう!