高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

人生の過酷さは高校一年生で知る事じゃないと思う

公開日時: 2021年3月18日(木) 23:00
更新日時: 2021年3月19日(金) 02:03
文字数:3,912

 少し目を閉じ、現実逃避を済ませた俺がリビングに戻ると────


「はぁぁぁぁ~、お兄ちゃ~ん」

「兄さん……」

「恭ちゃん……。はぁ……」

「恭クン……、切ないよぉ……」

「ご主人様……」

「恭……」

「恭くん、お願い……戻って来て」


 零と闇華が恍惚の表情を浮かべ、藍が恋する乙女のような顔をしていた。飛鳥が切なげな顔をし、神矢想子が熱を帯びた目で天井を眺め、由香と琴音が不安に満ちた表情で何やら祈りを捧げていた。何があったか聞く気も起きない。というか、何があったか知りたくない。


「うわぁ……」


 当の俺はこの温度差にドン引きだ。何をどうやったら楽し気だった女子会で七人の女が浮かべる表情に違いが出てくるんだ?早織達幽霊組は……


『うわぁ……』

『さすがにこれは……』

『警察にいた私でもこれは対処できないわ。紗李何とかしなさい』

『警察官だったちーちゃんが対処できないのに私に無茶振りしないでよ。紗枝ぽん、よろしく』

『お姉さんも無理。麻衣子、よろしく~』

『私にも無理よ。関わったらいけない気がするの』


 早織と神矢想子がドン引き、千才さんが完全に諦めモードに陥り、事態の収拾を紗李さんに丸投げ。投げられた紗李さんは紗枝さんに押し付けようとして、紗枝さんは紗李さんのキラーパスをそのまま麻衣子さんに投げる。んで、パスを受けた麻衣子さんは我関せず。幽霊組全員が俺と似通った反応を示した


「これは……うん。放置だな」


 こうも狂ってると親父や爺さんの真似して自分の世界に入りきってしまった零達を現実世界に戻そうとすら思わない。朝っぱらからハイテンションの爺さんと百八十度キャラが変わってしまった神矢想子を相手取り、同姓の同居人に電話をしたら親友の家族仲をどうにかしてくれと無茶振りされ、俺の精神は摩耗していた。混沌としたこの場連中を元に戻す気力などあろうはずもない


「来年のスクーリングは何事もありませんように」


 俺は来年に思いを馳せ、椅子に座るとぼんやり天井を眺めながら零達トリップ組が元に戻るのを待った





 トリップ組が戻るのを待ち始めてしばらく。壁に掛かってる時計に視線をやると四時を指していた。時が流れるのは早いなぁと思いながらふと同級生達は昼食をちゃんと摂ったのかが不安になった。よくよく思い返すと琴音がここにいる理由もちゃんと聞いてなかったなぁ……どうせ爺さんか婆さんに頼まれたからなんだろうけど


「こんなんで学校やクラスの垣根を超えた交流なんて出来んのかねぇ……」


 同居人限定で言えば常に学校やクラスを超えた交流を日常的にしてるから今更だ。灰賀女学院限定で言えば飛鳥や由香と時々話をしてるみたいだから交流がゼロではない。だが、星野川高校一学年全体と灰賀女学院一学年全体で考えると交流などゼロに等しいと思う。こればかりはなるようにしかならず、無理に交流させたところで意味はない。教師を喜ばせようとその場だけ取り繕えばいいだけだからな


「瀧口に任せとけばどうにかなるだろ」


 ラノベだとリア充は陰キャの天敵みたいな感じで描かれてるが、それは間違ってると俺は思う。リア充やトップカーストの人間は潰すものじゃない。利用するものだ。例えば、めんどくさい文化祭準備。陰キャはコミュニケーションに慣れてない。クラスじゃ一人でいるのが当たり前で基本、他者との会話ゼロ。接客をさせたらどうなるかは分かりきってる。というか、接客じたいめんどくさい。ここで登場するのがリア充や陽キャ。彼らにめんどくさい仕事を押し付け、陰キャの皆さんはサボる。よく言うだろ? バカとハサミは使いようってな


「瀧口頼むぞ……」


 面倒事をリア充に押し付け、俺はトリップしてる零達を一瞥すると再び壁に視線を向けた。願わくば、明日こそは平穏なスクーリングでありますように。と心の中で願いながら




 零達が妄想の世界から帰るのを待つ事一時間。普通なら五分かそこらで現実の世界に帰って来てもよさそうなものなのだが、放置しとくと人って永遠に妄想から返って来ないんだなと実感し、時計を見ると時刻は十七時。その間、トイレに行ったり、飲み物を取りに行ったり、幽霊達が雑談してるのを眺めたりと工夫して暇つぶししていた俺だが、同じ部屋にいるのはさすがに飽きた。


「一度部屋に戻るか」


 このままジッとしていても退屈なだけなので一旦部屋に戻る事にした。早織達の方を見ると楽しそうに話してたので声は掛けず、無言で管理人室を出た


「瀧口の奴無事かな?」


 脳裏を過るのは拘束されていた瀧口の姿。見捨ててきた手前、彼に薄情者と罵倒され、助けなかった理由を問い詰められても文句は言えない。俺はそれだけの事をしてきたんだから


「無事……とは言わねぇが、一線を越えてない事を祈るか」


 北郷と求道の良識ある行動を期待しつつ俺は部屋に向かって歩き続けた




 部屋の前に着き、艶やかな声が聞こえてこない事に胸を撫で下ろす。TPOを弁えてる連中だったらこんな心配する必要などなく、普通に部屋へ入る。だが、零達を含め、俺の周囲に集まる女に常識は通用せず、スイッチが入ると本能の赴くままに行動するアホばかり。性行為に発展しないだけ猿よりはマシだが、首輪を付けてなかったら俺は今頃社会的に死んでいただろう


「考えるだけ無駄だよな……」


 意を決してドアを開ける。そこには……


「やぁ、おかえり。灰賀君」


 満面の笑みを浮かべる瀧口と……


「「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」」


 懺悔するかのように謝辞を繰り返す北郷と求道がいた


「あ、ああ、た、ただいま……」

「うん、おかえり。灰賀君薄情者

「うっ……! お、怒ってる……よな……?」

「当たり前じゃないか。助けを求める僕を見捨てて逃げたんだから。怒らない方がおかしいだろ? それより、どうして戻ってきたんだい? 別に戻って来なくてもよかったのに」

「あー、零達がトリップして暇になったから戻ってきたんだ。その……なんだ……。見捨てて逃げた事に関しては悪かったと思ってる。済まない」

「別にいいさ。灰賀君クソ野郎が悪いわけじゃない。羽目を外し過ぎた麗奈と弓香にはキッチリお仕置きした。君が気に病む事なんて何もないさ」


 そう言う瀧口の顔は満面の笑み。声色も穏やかで怒ってる様子は見られない。俺を罵倒するところを除けばな。それにしても……


「「嫌いにならないで嫌いにならないで嫌いにならないで嫌いにならないで嫌いにならないで嫌いにならないで嫌いにならないで嫌いにならないで嫌いにならないで嫌いにならないで嫌いにならないで嫌いにならないで嫌いにならないで嫌いにならないで嫌いにならないで嫌いにならないで」」


 さっきは謝辞の言葉だったのに今度は別の言葉を繰り返し始めたぞ? この二人、大丈夫か?


「えーっと、北郷と求道に何したんだ?」

「簡単な事だよ。君に見捨てられた後、僕は彼女達にこう言ったんだ。“人を手錠で拘束する女は大嫌いだ。別れてくれ”ってね。そしたらどうしたと思う?」

「さぁな。俺が知るか」

「鈍いなぁ灰賀君。ヤンデレ達の相手をいつもしてる君が分からないわけないだろ? よーく考えるんだ」


 バトル系あるいはミステリー系の小説やマンガなら笑みを絶やさず騙される奴が悪いんだみたいな事を平気で言ってのける悪党みたいなノリの瀧口に戦慄を覚えるところだが、内容が内容なだけに戦慄はおろか、意外性の欠片も感じない。


「考えろって言われてもなぁ……。お前の恋人達と零達じゃ同じヤンデレなのかもしれないが、間柄と度合いが違う。拘束されてねぇところ見ると大慌てで手錠を外したくらいしか思い浮かばん」

「だーいせいかーい! 分かってるじゃないか! 灰賀君!! 君は最ッ高だね!! そうさ! 僕が二人に別れ話をした途端、彼女達は大慌てで僕の手錠を外してくれたさ!! もうその時の泣きそうな顔の可愛い事!! いやぁ、君にも見せてあげたかったよ!!」


 そう言って瀧口は狂気に満ちた顔で笑い声を上げた。ここは何だ……。怒るところなのか? 同情するところなのか? つか、何されたらこんな感じになるんだよ……


「勘弁してくれよ……」


 狂ったように笑いこける瀧口を見て俺は頭を抱えた。管理人室は自分の世界に入ったまま帰って来ない女性陣によってカオスと化し、自室は狂気の瀧口と懺悔の北郷&求道によってカオスと化した。俺の安息は一体どこにあるんだろう?溜息すら出ないとはまさにこの事。戻って来るんじゃなかったと後悔しても時すでに遅し。はぁ……


「普通って大事だなぁ」


 カオスと化した自室で俺は現実逃避を始めた。どうにでもなれだ。全てを天に任せ、零達の元へ戻った。背後からは瀧口の『オイ! 灰賀! どこ行くんだよ!! 俺と遊ぼうぜぇ!! ヒャーハッハハハハ!!』という悪役染みた声が聞こえたが、無視。男の狂気は俺の専門外なんだ。悪いな




 安息を求め、管理人室に戻ってきた俺を待っていたのは妄想の世界から戻ってきた零達。早織達に話を聞くと俺がいないと教えた途端正気に戻ったとの事。


「もう疲れたよ……」


 声を掛けてきた零達を無視し、足早にベッドルームへ来た俺はそのままベッドへダイブ。顔を埋めて人生の過酷さを痛感していた


「人生やり直してぇなぁ……」

『そんな事言ったらダメだよ~?』

「疲労の原因の一端が何か言ってる……」

『そ、それってお母さんの事?』

「他に誰がいるんだよ?」

『ご、ごめん……』

「全くだ」


 灰賀恭。高校一年生にして人生は過酷だと知った今日この頃。また一歩大人になった

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